2018年5月 4日 (金)

序奏とアレグロ (酒井 格)

Photo_3Introduction and Allegro
酒井 格 (Itaru Sakai 1970- )


当時高校生であった作曲者・酒井 格が、何とあの「たなばた」以前に作曲した金管五重奏曲(編成:Trp.×2, Horn, Trombone, Tuba)である。1986年の作曲後、初演までに永く時間を要し2000年夏に漸く実演されたという経緯を持つ。
極めて難曲との評判が聞こえていたし、「序奏とアレグロ」という標題から変拍子を駆使した現代曲をイメージ(私世代の吹奏楽人固有の”刷り込み”だが…^^;)して、酒井 格もそんな曲を書いていたのか-などと勝手に想像を膨らませていたのだが- いざ聴いてみたらこれも酒井ワールド全開のハッピーな楽曲だった!

♪♪♪

この「序奏とアレグロ」は、あるブラスアンサンブルへのオマージュを込めて創られている。
「この作品は1986年のある日、NHK-FMで放送された、「上野の森ブラスアンサンブル」の素晴らしい演奏に感銘を受け書いたものです。その時に放送されていた織田英子さんの作品「金管五重奏曲」は今まで私が知らなかった金管楽器の可能性を駆使した作品。同じく織田英子さんの編曲した「聖者の行進」のとても気の利いた楽しいアレンジなど、数多くの影響を受けています。その他、作曲当時親しんでいた吹奏楽作品の影響も感じられるでしょう。」
(スコア所載の作曲者コメント)

1998_25上野の森ブラス(旧称:上野の森ブラスアンサンブル/略称:モリキン)は1973年に当時東京芸術大学在学中のメンバーにより結成、現在のメンバーも1979年からという、現存する”日本最古のブラスアンサンブル”(上野の森ブラスHPより)である。
Trumpet 曾我部清典 織田準一、Horn 澤敦、Trombone 花坂義孝、Tuba 杉山淳 というメンバーの皆さんは、常任指揮者をお願いした花坂師匠をはじめ、私が学生時代に所属した大学バンドの指導陣として丸ごとお世話になった先生方である。その縁で親しくさせていただき、上野の森ブラスのコンサートの聴衆も我が大学バンドのメンバーが一大勢力であった。(^^)

華麗なテクニックと優れた音色は当然として、音楽性溢れる表現と絶妙に息の合ったアンサンブル、音楽の楽しさを自由自在に表すそのステージは「さすが」の一言に尽きる。さらに織田英子の書下ろしオリジナルアレンジによる個性的で魅力に満ちた楽曲もこのアンサンブルの強力な武器である。

Cdルネサンス期の古楽に始まるクラシック音楽はもちろん、世界各地の民謡、本格的なジャズやポピュラーソングに至るまで扱うジャンルは実に幅広く、それぞれの愉しさを尽くす-これこそが「上野の森ブラス」の奏でる音楽の真骨頂だろう。
いち早くジブリ映画音楽もレパートリーに取入れていたし、コンサートでは衝撃極まるTubaの超絶ベースラインによる本格的ジャズの「チュニジアの夜」も忘れられないし、かと思うとプログラムに載っていない「矢切の渡し」ではオーバーアクション&存分に”こぶし”を回したりの大サービスも…!(^^)
「中世のマドリガルとキャロル」「12の英雄的行進曲(テレマン)」「中南米のフォルクローレ」「日本民謡組曲」「イエスタデイ(ビートルズ)」 -斬新な楽曲と心躍る演奏は今も私の記憶にありありと甦る。聴衆を楽しませる想いが充満したそのパフォーマンスは、いつだって音楽の喜びへ存分に浸らせてくれるのだ。

そして、最大の特長は全曲を「暗譜立奏」すること!
Photo_21996年にはレパートリー101曲を全て暗譜で演奏するという前代未聞の”オールリクエストコンサート”を敢行、当然私も拝聴に参上したが、大いに盛り上がった!
プログラムには101の曲目リストが掲載されており、客席にゴムボールを投げ込んで受け取った人にリストから任意で曲を選んでもらい、直ちに演奏・進行するのである。それを実際全て暗譜で演奏してしまうのも見事だし、構成自体が出たとこ勝負というあり得ないコンサートを滞りなく、この上なく楽しく進行させてしまうTuba杉山氏のMCも凄かった!
たった5人のアンサンブルなのに、あの東京文化会館(@上野)大ホールに響きを満たし何の違和感も生じさせぬ「上野の森ブラス」の演奏には、まさに感嘆するばかりなのであった。

♪♪♪

そんな「上野の森ブラス」の演奏を耳にした当時まだ高校生の酒井 格はこんな感銘を抱いたとか。
「TrumpetやTromboneのHigh Toneはもちろんのこと、Hornに音程が存在する!そして何よりも驚いたのはTubaの機動性です。普段はマーチのベースを刻むくらい。たまにTromboneとユニゾンでのメロディー、そして「恋のカーニバル(岩井直溥編)」に至っては、あれがTubaの限界と認識していたのですが、この時に演奏されていた織田英子作曲「金管五重奏曲」を聴いて、そのTubaの圧倒的なパフォーマンスには度肝を抜かれてしまったのです。」
(作曲者HPより)
Photo          ※画像:織田英子作曲「金管五重奏曲」収録CD、ならびに「その頃」の上野の森ブラス

そんな「上野の森ブラス」を意識しつつ、作曲者がそれまでの金管楽器の認識を振り払うように、或いは何かに挑戦するように書いたというのがこの「序奏とアレグロ」だ。14年が経過し(一部和声を直したものの)原型のままに初演を迎えたわけだが、結果としてプロの初演奏者も認める難曲となったと同時に、「金管楽器の暖かいサウンドと可能性を追求した、素晴らしい曲です。」とのコメントを得たとのことである。
      ※NHK交響楽団首席Trombone奏者 新田幹男氏


技術面そのものとしては他に一層難しい楽曲も多数あるはずだが、この曲を実際に吹いてみて何より痛感するのは…「休みがない」 !!!
あったかくて底抜けに明るく、”楽しーいっ♪”って音楽なのに、音域やダイナミクス、ニュアンスの目まぐるしい変化が「休みなく」襲って(?)くる。一見した譜面(フヅラ)よりも一層エグい曲となっているのは紛れもない事実なのだ。

♪♪♪

標題通り、Moderatoの序奏部に続いて、アンカーと展開部が交互に織上げられるAllegroの主部となり、Piu mossoのコーダで締めくくられるという明快な構成の、陽気な音楽である。輝きを放つ魅力的な旋律やパッセージが随所にちりばめられているのは、まさに酒井 格ならではと云って良いだろう。

序奏部は明らかにアルフレッド・リードの名作「アルメニアン・ダンスPartI」の影響を受けているが、現れる旋律は民俗的ではなくモダンでリリカル、そして若々しい印象を与える音楽となっている。
冒頭、32分音符に始まるファンファーレ(冒頭画像)とその反復はまさに「アルメニアン・ダンスPartI」の冒頭を彷彿とさせるもの。やがて優しく感傷的な旋律がTromboneに現れ、
B_tromboneそのムードがHorn-Trumpetへと移りゆく。冒頭部をTubaが再現するころには大変ファンタジックな響きが聴くものを包み込むのであり、ぜひ繊細な弱奏が聴きたいところである

静まった音楽がポーンと弾けるようにAllegroに入ると、
Allegro一転して快活で陽気、そして洒脱を極めた楽想となる。ここからはTubaによる実に機動的なベースラインが現れ、その縦横無尽に”飛び回る”さまが聴きものである。
Tuba_allegro前述の通り、このAllegroでは最初に現れるリズミックな旋律がアンカーとなり、
Allegro_2それと交互に展開部が織り込まれて曲が進んでいくのである。

その展開部ではTromboneがそのキャラクターや特性を活かしてまさに大活躍だ!
Allegro_tromboneアンカー旋律が戻り一旦落着いた後、放射状に高揚してPiu mossoに突入すると
Piu_mosso音楽は足取りを早め活気をさらに増しつつ、爽快でハッピーな聴後感に包まれる終結へと一心に向かってゆく。

♪♪♪

Blow_cd音源としては
ブラスアンサンブル・ブロウ
(brass ensemble BLOW)

によるセッション録音を。この曲の特性、愉しさを伝えてくれる好演であり、移り変わる曲想のニュアンスも適切に表現されているのが大変好もしい。

さあ、あとはそのオマージュから発したこの作品が、本家「上野の森ブラス」で演奏されるのを待ち望むだけ。当たり前だがこの「序奏とアレグロ」という音楽は”暗譜立奏”で演じられる「上野の森ブラス」の世界そのものなのだから!!!

先生方に実演を期待しつつ、私は自分でも「序奏とアレグロ」を演奏してみたいと切望している。この曲はTromboneを旋律担当にセッティングしてあり、実にやりがいのある楽しい譜面だし、心を入れ替え(?)Tromboneの練習に励み直して4年目、漸くこの曲を演奏可能になったという手応えを得ているので…。
演奏するなら、当然”暗譜立奏”やるしかない!\(^o^)/

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2017年9月 6日 (水)

猫組曲 (「4匹の猫」「もう3匹の猫」)

Photo
Cat Suite
I. Kraken   II. Black Sam   III. Borage   IV. Mr. Jums


Three More Cats
I. Flora   II. Tubby Mousetrouser   III. Homepride


クリス・ヘイゼル ( Chris Hazell  1948- )

♪♪♪

「4匹の猫」(Cat Suite)はブラスアンサンブルの金字塔、フィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブル(Philip Jones Brass Ensemble/PJBE)の委嘱作品であり、特に彼らのアンコール・ピースとして大変な人気を博していた。
Pjbe002「ミスター・ジャムズ」「ブラック・サム」「バーリッジ」の3曲がまず作曲され(”3匹の猫”(Three Brass Cats)として出版)、追って「クラーケン」が”もう1匹の猫”(Another Cat)として作曲・出版されたのだが、現在は作曲者ヘイゼル自身がここまでの4曲をまとめて「4匹の猫」と認識していることから、本稿でもこれに従う。
一方、「もう3匹の猫」(Three More Cats)はPJBEの後継として活動したロンドン・ブラス(London Brass Virtuosi)の委嘱作品。
これらから成る「猫組曲」は、ブラスアンサンブルのレパートリーとして最大のヒット作の一つとなったのだった。

Chris_hazell_3作曲者クリス・ヘイゼルはDECCAレーベルにてマエストロたちが指揮する名録音を数多く世に送り出す録音プロデューサーとして活躍の傍ら、映像関連音楽やブラスアンサンブルに優れた作品を生み出している作曲家である。ブラスサンブル作品としては「ゴスペル・ホール」なども人気が高い。

彼自身はこの「猫組曲」について
「この曲のインスピレーションを得たとき、私は4匹の猫と暮らしていた。4匹が全く違った個性を持っていたので、それぞれの猫にちなんだ作品を書くというのはいいアイディアだと思った。また「もう3匹の猫」については(「4匹の猫」から随分時間が経ってしまったが)1つを除いて、その後新たに我が家へやってきた猫にちなんだ作品である。」
と述べている。
それはどの曲も魅力的な旋律に満ち、金管楽器の音色や機能を活かす一方、ジャジーな或いはゴスペル調の作風で親しみやすく、そのうえ実に品があってシャレている!奏者も聴衆も理屈抜きに楽しめる素敵な作品なのである。

     【出典・参考】
      Brass Wind Publications 社 HP
      ”BRASS CATS”(KLAVIER K11129) CDリーフレット解説
       (以降のヘイゼルによる解説も同出典)


♪♪♪

それではさらにヘイゼル自身の解説(「 」)を引きながら、各曲を見ていきたい。

■4匹の猫

I.クラーケン (Kraken ♀)
Kraken「”巨大な”伝説上の海獣の名前から、ジョークを込めて命名。捨て猫だったクラーケンは私の片方の手のひらで丸まって眠るほど小さかったのだが…。
成猫となっても小さいままだったが、他の猫が如何に大きくとも、クラーケンは家中の猫のボスであり、とても長生きして20歳まで生きた。クラーケンの気取った鳴き声は自らがボスであることを誇示するものであり、そして小さいながらもその威を示す斑点のある尻尾が彼女の特徴なのだ。
そこでクラーケンを表すこの曲にはフーガを入れることにした。”フーガ”の語源はラテン語の”尻尾”だから…。」


私自身、この曲を聴いてもクラーケンが小柄な牝猫とは想像が及ばず大いにびっくりした。とても気取って飄々と歩き回るイメージは実物通りだが、まさか「姉御様」だったとは…!
Tubaのベース音のオクターブ上でBass Tromboneがビートを刻む斬新なオープニング。そこに高らかなTromboneのモチーフ提示が降ってくる。(上画像参照)
ほどなくジャジーでノリノリな旋律が流れ出し、
Kraken_3おしゃまで気取ったクラーケンが闊歩し出すと、もう堪らなく陽気になれる。(途中、ひと時挿まれるたおやかなはフレーズは、クラーケンにも乙女な一面があるってことかしらん?)
場面転換して始まるフーガはこの曲の”華”-あくまで小品であるはずの楽曲を実に奥行きのあるものに仕立てている。
Krakenそして最終盤のクライマックスは、もうご機嫌で一層得意げなクラーケンの大闊歩だ!
Kraken_3一瞬静まった後のエンディングは”very cheekily (とっても生意気に)”と指示のあるTrumpetのフレーズと、それに続く全合奏の鮮烈なショットで締めくくられる。

II.ブラック・サム (Black Sam ♂)
Black_sam「雨の降る寒い日曜の朝、窓の外に座ってニャーニャーわめいていたのを家に入れてやったのがこのブラック・サム。これまで聞いたことのある中で一番大きくかつしゃがれた声でのどを鳴らす猫だった。それはまるでゴスペルシンガーがお気に入りの霊歌に没頭しているかのよう。私が抱っこするとブラック・サムはこの”霊歌”を奏で、やがてそれは彼の性格を反映してか、だんだん気だるいスウィングに変っていくのだ。」

ミュートを装着したTrumpet・Tromboneのコラール(上画像参照)に始まり、3拍子スウィングの主部に入る。何と暖かな旋律だろうか-カウンターに入るTubaのフレーズもリズミックでいて包み込むような暖かさがあるのである。
Black_sam_2この旋律が移ろい、作曲者コメント通り気だるく”揺れて”いくさまが洵に心地よい。この曲から感じるのは、やはり「雨」のムードでもあると思う。
ただ決してそれだけではなく、意を決したようにPiccolo Trumpetが現れるやダイナミックなクライマックスを形成、楽曲に一本芯が通るのだ。

III.バーリッジ (Borage ♂)
Borage「バーリッジは4匹の中で一番最後に我が家にやってきた野良猫。若く、エネルギーに満ち溢れていて、家の中や庭を狂ったように駆け回っているというのが日課だった。彼の名は彼がよく潜んでいた庭の植物に由来する。可愛そうにバーリッジの寿命はとても短く、車に轢かれて死んでしまった。」

    ※Borage :和名「ルリジサ」 星の形をした青い花を咲かせる食用/薬用ハーブ

Bass TromboneがLowC音を”轟かせて”始まる鮮烈なオープニング!そしてこの冒頭からずっとBass Tromboneがリードしていく -こんな楽曲はなかなかない。全曲の中で最もジャズの色彩が濃く、そしてエネルギッシュな音楽だ。
強奏と弱奏のコントラスト、スリリングなリズムとテンションの高まり、音色のスピード感。聴いているとそのカッコよさにどんどん胸がドキドキしてくるのを禁じ得ない。
20170906_089繰り返されるフレーズがまた更にギアを上げて昂ぶり、応酬しスケールを拡げていくさまに圧倒されるばかり。最後は束の間の鎮静に続き、Hornの咆哮に導かれた激烈なシンコペーションのフレーズで閉じられる。

VI.ミスター・ジャムズ (Mr. Jums ♂)
Mr_jums「この猫も元は野良猫で、やせっぽちでズタボロの、とてつもなくひどい状態でどこからともなく現れ、クラーケンからエサを盗もうとしていた。こんな彼は信用がなく、数ヶ月は家に入れてやらなかった。野良猫時代には毛の色に因んで”ジンジャー”と呼んでいたのだが、それがいつしか”ジャンブル”に変わり、最終的に”ミスター・ジャムズ”に落ち着いた。そんな荒んだ過去を持つ猫だが、我が家の猫たちの中で一番心優しいのはこのミスター・ジャムズなのだった。この曲はその優しさを描こうとしたものである。
尚、この曲は4曲の中でも一番人気がある。そこで私はロンドンのロイヤル・フェスティヴァル・ホールで開催されたPJBEのさよならコンサートのために、この”ミスター・ジャムズ(Mr.Jums)”をもじった名の曲を提供した。ブラスアンサンブルの有名なレパートリー30曲を織り込んだものだったのだが、その曲名こそは…
”ミスター・ジョーンズ(Mr.Jones)”であった!」


出会いの印象こそ良くなかったようだが、作曲者ヘイゼルが一番好きな猫はこのミスター・ジャムズだったのだろう。その想いが溶け込んでいるように感じられる、まさに”優しさ”の充満した楽曲である。
穏やかに始まる前奏部では包容力に満ちたBass Tromboneのソロも現れ、続くファンタジックなハーモニーが印象的。フリューゲルホーンの奏でる旋律はこの上なく抒情に溢れていて、心に迫る。
Mr_jums輝かしく光を放つ終結部はそれまでの曲想とのコントラストも鮮やか。Mr_jums_picctrumpet_3ここで切り込んでくるPiccolo Trumpetの華麗な音色はそれを一層強めている。最後はオルガン・サウンドの如き重厚なコードが響きわたりエンディングとなる。


■もう3匹の猫

I.フローラ (Flora ♀)
Flora「フローラは仔猫の時分にゴミ箱の中で見つけた。バーリッジと同じで、彼女は走り回るのが何よりも好き。かと思うと急に止まって眠ってしまい、また飛び起きて走り回るというのを繰り返す。彼女を捜すとたいていは庭の茂みの中にいた。フローラ(花の女神)という名前はそのことにちなんでいる。」


冒頭のリズムは快活なフローラの性格を象徴したものだろう。Piccolo Trumpetの奏でる跳ねまわるような旋律は活気に満ち、一層その印象を強くさせる。
Flora_1そして現れるTrumpetの夢見るようなスィートな旋律 -私は全7曲を通じてこの旋律が一番好き…!
Flora_2大きなフレーズで歌われるその抒情には、思わず抱きしめたくなるような衝動に駆られるのだ。
終結部ではこの2つの旋律がクロスオーヴァーして音楽を高揚させていく。

II. タビー・マウストラウザー (Tubby Mousetrouser ♂)
Tubby_mt_2「レコードのディーラーをやっている私の友人の猫。この友人はPJBEのとてつもないファンで「4匹の猫」が大好き。そんな彼に敬意を表して、彼の猫をこの「もう3匹の猫」に入れることにした。
名前の由来はよく判らない。「タビー」と「マウス」は直ぐ判るけど、「トラウザー」は?眠ることと食べることが何より大好きな猫なのだが…。」


この曲だけはヘイゼルの飼い猫ではない。”Tubby”とは”桶のような、ずんぐりした”という意味だから、結構なおデブちゃんなのだろう。^^)
終始幻想的で夢うつつなムードの楽曲は「眠ることと食べることが何より大好き」なのんびりした性格の猫を描写していよう。それにしても、この曲の旋律も実に美しく魅力的である。
Tubby_mtたびたび現れる鐘の音を模した呼びかけるようなフレーズは、いつも寝惚け眼のこの猫に愛情をもって接する飼い主の声だろうか。

III.ホームプライド (Homepride ♂)
Homepride_4「巨大で、薄いジンジャー色をした猫。ある日の早朝、私の家の台所で勝手にエサを物色しているのを見つけたのが最初。その時、私は小麦粉か何かをかぶったミスター・ジャムズがいるのだとばかり思ったのだが…。この猫が完全に我が家の猫になった後も、「小麦粉」の印象は残っていたので、イギリスの有名な小麦粉とパンのブランドからとって”ホームプライド”と名付けた。このホームプライドを従わせることができたのは、やはりクラーケンだけだった。」


Homepride_2”ホームプライド”はイギリスのナショナル・ブランドで、その小麦粉のパッケージは左画像の通り。それにしても…つくづく”クラーケン姉さん畏るべし!”である。^^)
     ※ホームプライド社 HP

この曲はフィナーレを飾るにふさわしい華やかで活気あふれる楽曲であり、16ビートを刻むドラムセットやタンバリンも加わって、全曲中最もポップで生きいきとした曲想を演出している。
中間部には少々憂いを含む洒落たジャジーな旋律も現れ、
Homepride_5一味加えているのが、これまた心憎いばかり!
冒頭の快活さを呼び戻してからはいよいよ生気あふれるダイナミックな音楽となり、高揚の頂点でシンコペーションのフレーズを”スカッ”とキメて全曲を終う。

♪♪♪

さて音源である。
Pjbe001フィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブル
「4匹の猫」収録、名手ぞろいのPJBEによる永遠の名盤!
音色・歌い方・構成感・アンサンブルの見事さと、どれをとっても他の追随を許さない。プレイヤー全員が素晴らしいが、この演奏を聴くとHornのアイファー・ジェームズ(Ifor James)の凄さは突き抜けているし、またつくづく「あーっ、やっぱりレイモンド・プレムル(Ramond Premuru)のBass Tromboneって最高!」と思わされるのだ。

Denver_brass001ザ・デンバー・ブラス(The Denver Brass)
「4匹の猫」「もう3匹の猫」全7曲を収録。
チームワークの良いアンサンブルで、「歌心」を大切にした演奏である。



World_brass001ジュネス・ミュジカル・ワールドオーケストラ
オールブラス・アンサンブル
(All-Brass-Ensemble Jeunesses Musicale
World Orchestra)

こちらも「4匹の猫」「もう3匹の猫」全7曲を収録。とても小気味良い、リズム感溢れる演奏。メリハリがハッキリしているが、ややニュアンスを欠くか。

Be_photo_2※左上画像:The Denver Brass
   右上画像:All-Brass-Ensemble Jeunesses Musicale World Orchestra


    【その他の所有音源】
     シンフォニア・ヴァルソヴィア・ブラス (「三匹の猫」)

♪♪♪

2017年の夏、私も遂にこの「猫組曲」を実演する機会に恵まれた。Bass Tromboneパートにて「ミスター・ジャムズ」「クラーケン」の2曲をステージで演ることができたのである。
予ての想像通りとても素敵な楽曲であり、洵に楽しい演奏体験であった。しかし実際に触れることのできた幸福感を味わう一方、やはり”聴かせる”のはとても難しい楽曲であるということも実感させられた。

今回の演奏に際し、気持ちも新たにPJBEの録音を聴いた。そして聴くたびにPJBEというアンサンブルの変らぬ凄さを、またも痛感することになった。
PJBEはそもそも音自体が凄い。質感が充実しているというか、本当に「全て」の音が、一つ一つしっかりと響いているのである。(ああ、金管奏者の端くれとして、かくありたいものだ。もちろんとても無理だけど、少しでも近づきたい…。)

そして旋律の歌い方の卓越ぶり…決して淀むことのない音楽の流れ、メリハリの効いたコントラスト -テンポも揺れておりデジタルな凄みがあるといった類の演奏ではないが、PJBEのスタイルにより超高次元で完結したその演奏にはただ脱帽というほかない。PJBEの演奏の前では、どの演奏も大人と子供ほどの落差を感じてしまうのだ。

♪♪♪

「もう3匹の猫」ではThe Denver Brassも、All-Brass-Ensemble Jeunesses Musicale World Orchestraもともに健闘している。この曲の魅力は充分伝わるであろう。

しかし、である。
この「もう3匹の猫」においても、フィリップ・ジョーンズやジョン・フレッチャーのいた、全盛のPJBEの演奏が存在したなら…。

-と、無いものねだりをしたくなるのは、決して私だけではあるまい。

(First Issued on 2006. 6.13. / Overall Revised on 2017.9.6.)

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2007年5月23日 (水)

ラ・ペリのファンファーレ

Pjbe_fanfaresFanfare pour preceder "La Peri"
P.デュカ 
Paul Dukas 18651935




金管楽器の華といえばファンファーレ!
古今東西多くのファンファーレが作曲されており、私の敬愛する

フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル
Philip Jones Brass Ensemble/以下PJBE
「ファンファーレ集」というアルバム(冒頭画像)をリリースしていて、収録された曲はどれも素晴らしい。殊に金管楽器奏者の私にとって、ファンファーレはいつも特別な想いで聴くことになるものだ。

一方、金管楽器(および打楽器)によるファンファーレだけでなく、管弦楽曲や吹奏楽曲に挿入されたファンファーレ、吹奏楽全体を使ったバンド・ファンファーレ(J.スタンプの作品など)のいずれからも感じられる華やかさ、壮麗さは広く聴く者を魅了する。

管楽器による音楽にほとんど興味のない家内ですら、つい先日子供向けのオーケストラ・コンサートに次男と行って来た際、その冒頭で演奏されたファンファーレにいたく感じ入ったようで、「すっごくいい音だった!録音されているものを聴かされてるのかと思ったわ。あんなに素敵な音がするのね~。」と興奮気味に語っていた。
(おいおい、いつも来てくれてるワシの演奏会は・・・?
_| ̄|○
と私はかなり落ち込んだ。)

-そして、家内を魅了したそのファンファーレこそ、「ラ・ペリのファンファーレ」であった!

♪♪♪

Photo_378_2このファンファーレは「魔法使いの弟子」で有名なポール・デュカ(右画像)が、1910に作曲した舞踏詩「ラ・ペリ」の初演に際して書き加えた1912年)もので、同作品の導入となるファンファーレである。現在では本体とは別に演奏される機会が多く、このファンファーレの方が有名となっている。

「ラ・ペリのファンファーレ」の魅力は、その華麗さと爽快さ、そして高潔な品格が抜群であることだろう。更に、中間部の幻想的で深遠なムードが楽曲に魅力を加えており、そこから再び沸き起こるように冒頭の楽句に回帰するさまは洵に感動的。この簡潔な小楽曲の中に、深く広がる世界が見えるのである。

Photo

演奏は冒頭でご紹介した、PJBE(下画像)の録音をお奨めする。
快活・華麗であるのに、たおやかな冒頭-。全編に亘るスピード感のある音色と、明晰で真っ直ぐな音楽の運びが大変素晴らしい。たとえるなら、”世に美女はたくさんあれど、この美しさは格が違う”といった女性をイメージさせる、魅力的な演奏である。
Pjbe_photo

♪♪♪

舞踏詩「ラ・ペリ」
La Peri, Poeme Danse en un Tableau
についても触れておきたい。

「ペリ」とは仙女(妖精)の名前であり、この舞踏詩の登場人物は僅かに二人。
ストーリーの概略は以下の通り。

「不老不死を希求する無敵のペルシャ王イスカンデルは、流浪の果てに不老不死の蓮の花を持った仙女ペリと出遭う。
エメラルド色に輝く不老不死の蓮の花を、静かに眠るペリの手から奪うイスカンデル王。目覚め狼狽する美しいペリの姿に、俗な欲望を感じてしまったイスカンデル王の手にある蓮の花は、真っ赤に変わってしまう。蓮の花を失っては聖なる光の世界へ戻ることのできないペリは、仙女の踊りを舞いイスカンデル王を魅惑して、花を取り戻そうとする。艶やかなその踊りに魅了され、終にイスカンデル王は不老不死の蓮の花をペリに返す。
するとたちまち蓮の花は黄金色に輝き、ペリはその光の中に消え去ってしまう。取り残されたイスカンデル王は自分の最期が近づいたのを知り、闇に包まれていくのを感じるのであった・・・。」

イスカンデル王の欲望により、蓮の花は姿を変えてしまうが、これはこの不老不死の花が、決してイスカンデル王のものとはならないことを示すとされる。不老不死の花はエメラルド色、劣情の花の色は真紅・・・。なかなか印象深い話である。

♪♪♪

大変幻想的なムードに包まれており、まさにこの不思議な物語を体現した音楽。優美でロマンティックな旋律が聴きものだが、クライマックスでは壮大で豊潤なサウンドが伸びやかに迫ってくる。

自作に対する評価が厳しく、多くの作品を自ら破棄したといわれる寡作家のデュカにおいて、この「ラ・ペリ」は事実上最後の作品である。

(以降の略四半世紀に亘り、デュカは作曲家として沈黙。それどころか、この「ラ・ペリ」もすんでのところでデュカ自身に破棄されるところだった、というエピソードがある。)

器楽曲としてデュカの最大の力作にして、彼の精緻な作風を極めた作品と評価されるこの「ラ・ペリ」。

Photo_2ジャン・フルネ
cond.
オランダ放送
フィルハーモニー管弦楽団
の録音(左画像)あたりでお聴きになってみては如何だろうか。
もちろん「ラ・ペリのファンファーレ」も収録されたこのデュカの管弦楽作品集は、可愛いイラストのジャケットもなかなか良い
CDだ

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