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2017年7月 2日 (日)

序曲「バラの謝肉祭」

PhotoCarnival of Roses, Overture
J. オリヴァドーティ (Joseph Olivadoti 1893-1979)


Olivadoti1950年代から1970年代にかけて吹奏楽を経験した者にとって、ジョセフ・オリヴァドーティ(オリヴァドゥティ、オリヴァドッティ等の表記もあり)の名は間違いなく記憶に刻まれているだろう。吹奏楽のために彼が書いた(演奏会用)序曲はいずれも若い初級バンドに好適な作品ばかりであり、当時は誰もが1度はどれかを演奏したはずのレパートリーなのである。
中でも、オリヴァドーティの代表作であり日本版楽譜も発売されていた「バラの謝肉祭」は実に広く演奏された楽曲だ。私自身、中学時代に他校との合同練習会で初見合奏したのを皮切りに、その後冒頭のAndante部分がこの母校で入学式や卒業式に於ける入場音楽として使用されるようになったため、随分とこの曲を演奏し親しんだ。
吹奏楽コンクールの記録を見ると、オリヴァドーティ作品は1956年を最初に1970年まで全国大会の自由曲(「イシターの凱旋」が多い)としても登場している。支部大会・県大会レベルで見るとやはり1960年代にピークアウトはしているものの、現在でも「バラの謝肉祭」を中心に毎年5-6団体がオリヴァドーティ作品を採り上げているという息の長い人気ぶりなのである。

      【出典】  全日本吹奏楽コンクール データベース


♪♪♪

オリヴァドーティはイタリア移民のアメリカの作曲家だが、ホルンやサキソフォン、クラリネットなどを学び、1920年からハロルド・バックマン率いるミリオンダラー・バンドのメンバーとして活躍した他、シカゴ交響楽団ではオーボエ奏者として活躍した音楽家である。第二次世界大戦中は海軍に応召、そののちたくさんの吹奏楽曲を著すこととなる。
本邦で有名な彼の楽曲は天真爛漫でファンシーな曲想にして平易なものが多く、楽器を始めて間もない低年齢層向けの「序曲」が大宗を占めている。私などは楽曲のイメージから(オーボエというよりは)トランペットあたりを演ってた人かな?…などと勝手な思い込みをしていた次第である。

     【出典・参考】   
新版吹奏楽講座8 (音楽之友社)

私が「バラの謝肉祭」以外に音源を所有しているものとして
 ・イシターの凱旋 (Triumph of Ishtar)
 ・ヴェニスの休日 (Venetian Holiday)
 ・ポンセ・デ・レオン (Ponce de Leon)
 ・美しい剣士 (Beau Sabreur)
 ・りんごの谷 (Apple Valley)
 ・大洋の偉観 (Pacific Grandeur)
 ・桂冠詩人 (Laureate)
 ・アバロンの夜 (Avalon Nights)
を挙げることができるが、これらは1942-1956年に書かれたものだ。

Lp2どれも”オペラの序曲風”と評される接続曲(メドレー)というべき楽曲で、親しみやすい通俗性を持った健康的な音楽である。

(左画像:オリヴァドーティ作品の未CD化音源を多く
収録したCBS-SONY盤)



(ここからは私の推定に過ぎないが)おそらくオリヴァドーティは前稿で採り上げた”歌劇「ザンパ」序曲”のような音楽を想定して作曲に臨んだのであろう。或いはもしかすると彼の頭の中にはたくさんの空想(構想)上のオペレッタが渦巻いていて、そこから序曲を書き下ろしていったのかもしれない。

一方で、オリヴァドーティ作品は良くも悪くも常套的で安易、やや幼稚で散漫気味といった声があることも否定できない。ただ、我々が認識しておかねばならないのはおそらくこれらの屈託のない序曲を、オリヴァドーティは”子供たちのために””作り込んで”いったのだろうということだ。

彼が遺した行進曲-音源が存在する3曲-
 ・名誉の殿堂 (Hall of Fame
 ・空の波 (Air Waves
 ・海軍士官候補生 (The Naval Sea Cadet March
を聴くと、明朗快活な曲想は共通でありつつも、確りとした骨格による形式美を示しており、幼さは影を潜めていることが判る。

即ち、こと「序曲」の作曲にあたってオリヴァドーティは子供たちが演奏して喜ぶ- 決して退屈することなく親しめる楽曲を想起し一直線に作り込んでいったのではないだろうか?それがヴァラエティに富み、場面のクルクル転換する”優しい(易しい)”単純明快な楽曲へ結実したと推定されるのである。

♪♪♪

さてこの曲の表題「バラの謝肉祭」とは何を指すのか-。
「謝肉祭(カーニヴァル)」と「バラ」との関連で有名なのは、ドイツ各地で行われる”Rosenmontag(=薔薇の月曜日)”という祭典だ。
Rosenmontag1823年にケルンで発祥し、デュッセルドルフやマインツなどに拡大していったというこのお祭りは、紙吹雪やキャンディーの降り注ぐ中で行われるパレードであり、さまざまに仮装した楽隊やダンスグループ、騎士団や巨大な紙製の像を載せたフロートなどが列を成して練り歩くもので、まさにカーニヴァルの最高潮を成すものとのことである。

     【参考・出典】  ドイツ大使館/ドイツ総領事館 HP


San_joses_historic_downtown_lauren_また米国カリフォルニア州・サンノゼにて1901年5月にその名も”Carnival of Roses”が開催された事実がある。これは当時の第25代アメリカ合衆国大統領ウイリアム・マッキンリーの栄誉を讃える祝典であった由である。
この祝典の記録にオリヴァドーティが触れた可能性はあるが、彼が生国イタリアからアメリカに渡ったのが1911年と伝わっていることから、関係性は薄いと見るのが妥当だろう。

【参考・出典】 San Jose's Historic Downtown
          (L. M. Gilbert&B. Johnson 著)


「バラの謝肉祭」という楽曲と”薔薇の月曜日”をはじめとする実際の祭典とに直接の関係を確認することはできないが、とにかく楽しげなこれらのお祭り騒ぎの雰囲気が、本楽曲の曲想と共通するものであることもまた間違いないであろう。

♪♪♪

「バラの謝肉祭」も5つのパートが切れ目なく現れる、オリヴァドーティお得意のメドレー風序曲である。
曲はAndante 4/4拍子の清らかで敬虔なコラールの序奏(冒頭画像参照)に始まる。ここでは伸びやかで優しい旋律が大変印象的である。
Andanteその高揚が収まると続いて金管楽器のファンファーレからAllegro 2/4拍子の緊張感のある短調の音楽となる。
Allegro勇ましい中低音の旋律に、ステレオタイプともいうべきTrumpetの華々しいカウンターが呼応するクライマックスの後、
Allegro_80全音音階の楽句による夢幻的なブリッジを挟んでModerato 3/4拍子の安寧な音楽へと続く。ここでは中音楽器の奏するたおやかな旋律が大変美しい。
Moderatoそこにシンコペーションのリズムが聴こえてきてGrandioso 9/8拍子に転じ、スケールの大きな音楽となって堂々たる歌が奏される。
Grandioso最後は再びAllegro 2/4拍子となり、木管楽器の快活で愛らしい旋律が存分に駆け回る。
Allegro_2Trumpetの伴奏や対旋律も相俟って、一層ファンシーな曲想となってPiu mossoに突入。典型的な序曲や終楽章における”終結部”の様相を呈し、文字通り「元気よく」フィナーレを迎え締めくくられる。

♪♪♪

音源としては
Cd渡邊 一正cond.
東京佼成ウインドオーケストラ(Live)

を推したい。
「バラの謝肉祭」という楽曲をこの上なく丁寧に扱い、”自然な”音楽の流れと表情に帰結させた名演と思う。

     【その他の所有音源】
       フレデリック・フェネルcond. 東京佼成ウインドオーケストラ
       汐澤 安彦cond. フィルハーモニア・ウインドアンサンブル
       井町 昭cond. 大阪府音楽団
       小澤 俊朗cond. 尚美ウインドオーケストラ
       山田 一雄cond. 東京吹奏楽団
       木村 吉宏cond. フィルハーモニックウインズ大阪
       木村 吉宏cond. 広島ウインドオーケストラ
       丸谷 明夫cond. なにわオーケストラル・ウインズ(Live)
       汐澤 安彦cond. 東京吹奏楽団


♪♪♪

改めて今、「バラの謝肉祭」を聴いて思うことが二つ。

第一に、音楽は演奏することで特別なものとなり、そしてその演奏体験こそは極めて貴重で、その個人本人にとっても大切なものであるということ。「バラの謝肉祭」を一度も演奏することなく年齢を重ね、ここで初めて聴いたとして私は今抱いているほどの”愛着”をこの曲に感じただろうか?
-否、である。
加えてこの”愛着”こそは実に得難い、いいものなのである。

第二に、つくづく(歴史的にも)吹奏楽は「メドレー好き」に過ぎるということだ。
”メドレー”という楽曲形態はヴァラエティに富み飽きさせない一方、中身が薄くまた根源的に音楽性を損なった形に陥りやすい。メドレーの傑作=歌劇「ザンパ」序曲ですら、聴き手はどこか落ち着かない散漫さを感じ取っているのである。更に、ポピュラー音楽の世界でもコンサートやアルバムに於いてメドレー楽曲が多用されてはいないという事実を、そしてそれは何故なのかということを、我々は音楽的な見地から見つめ直さねばならないであろう。
メドレー(実態がメドレーである曲も含む)ばかりを安易に並べ立てたプログラムなどは、慎むべきものなのである。

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コメント

ご無沙汰しています。

高校生の頃、大阪「府」音楽団のLPに収録されていたこの曲を、それこそ擦り切れるまで何度も何度も聴いていました。しかし、残念ながら実演の機会にはまだ恵まれていません。

オリヴァドーティ氏の行進曲の存在は初めて知りました。ぜひ聴いてみたいですね!

投稿: HARA-P | 2017年7月 2日 (日) 13時57分

大阪府音楽団の演奏LPがあります

府音楽団は定期演奏会数回聞きました

オリバドーティは、中学生向きの多くの序曲を作曲した思い出がありますが、このように解説を読ませていただくと再認識できます

ありがとうございます

投稿: bandlover | 2017年7月 2日 (日) 19時32分

HARA-Pさん、暫くです!
「府音」の録音は後に東芝EMIの「全集」でCD化されまして私はLPだけでなくそれも持っています。^^)推薦盤とはしませんでしたが、旋律を伸びやかに歌う佳演だと思います。
オリヴァドーティのマーチは
Hall of Fame:フェネル指揮ダラスWS
Air Waves:サザン音楽出版デモ
にてCD化されています。
The Naval Sea Cadet March はシャウニープレスのデモLPを入手した際に収録されていたので聴くことができました。

投稿: 音源堂 | 2017年7月 2日 (日) 23時44分

bandloverさん、こちらにもコメントを有難うございます!

投稿: 音源堂 | 2017年7月 2日 (日) 23時45分

たまに拝見しております。

僕は合奏で最初に演奏した曲が「りんごの谷」でした(当時中1夏休みの合奏のお題がこれに決まってました)。その後も「ヴェニスの休日」やらこの「バラ肉(省略形失礼)」を演奏して育った世代です。

少し前に、近隣の社会人バンドの「ポンセ・デ・レオン」を聴いたのですが、ちゃんとロッシーニなんかに通ずるイタリアンな響きがするのですね。同じバンドでさらに少し前に「どろぼうかささぎ」なんぞを聴いたせいかもしれませんが…。

最近の邦人作品全盛の状況を見るにつけ、こういった技術的に平易な作品で西洋音楽の基本的なところを体験するのも悪くない(悪くなかった)なぁ、と思う次第です。

投稿: hirorin380 | 2017年7月13日 (木) 20時23分

私なんかは正直なところオリヴァドーティ作品が好きで好きでたまらない、ってことはないです。丁度アンチテーゼが芽生えた世代だったかもしれません。
でも…どうにも「愛着」があって、それも誤魔化せません。
「りんごの谷」は(「バラの謝肉祭」の)翌年の合同練習会でやりました。忘れません、忘れられません。

投稿: 音源堂 | 2017年7月13日 (木) 21時51分

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