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2017年7月 2日 (日)

歌劇「ザンパ」序曲

Fornasaris_benefitopera_of_zampa_he       (画像:1844年ハー・マジェスティ劇場に於ける歌劇「ザンパ」上演の様子)

Zampa ou La Fiancée de Marbre, Overture
L. J. F. エロルド(エロール)
(Louis Joseph Ferdinand Hérold 1791-1833)


舞台は16世紀のシチリア島。海賊の頭領ザンパはルガノ城のある島を侵略し捕えた伯爵を解放するのと引換えに、伯爵の美しい娘カミラに結婚を迫り、カミラと許婚アルフォンソとを別れさせようとする。無理やりカミラと婚約したザンパはその祝宴にて先妻であるアリスの石像を嘲弄しながら婚約指輪を像の指にはめるのだが、威嚇するようにアリスの石像は指を閉じ、指輪を返そうとしないのだった。
ザンパはカミラを解放してほしいとの如何なる嘆願にも耳を貸すことなく、アルフォンソを監獄に送り、忌々しいアリスの石像は海に投げ捨てるよう命じる。ザンパに迫られたカミラは祭壇へ逃げ、ここは聖域だから誰も自分に手を触れてはならないと主張するも、ザンパはお構いなしにカミラから服を剥ぎ取り、逃げ出したカミラを更に追いかけようとした。
そのとき、海に捨てられたアリスの石像が波を引き起こし、ザンパは海に引きずりこまれて絶命してしまう
厄災は去り、今こそカミラとアルフォンソは再び結ばれた。

    【出典・参考】
      「オックスフォード オペラ大辞典」(平凡社)
      「歌劇大事典」 大田黒 元雄 著 (音楽之友社)
      「名曲解説事典」 門馬 直美 執筆稿 (音楽之友社)

Ferdinand_heroldこのような内容の喜歌劇である。1831年にフランスの作曲家フェルディナン・エロルド(エロール)によって作曲されたこの歌劇は19世紀を通じて大きな人気を博したと伝わるが、今日では上演機会が乏しくなっており、一般には専ら序曲が演奏されるのみとなっている。
エロルドはベートーヴェンやシューベルトとほぼ同世代であり、パリ・コンセルヴァトワールでは吹奏楽でもおなじみのカテルやメユールに師事した作曲家である。42年という短い生涯において主に歌劇やバレエ音楽の分野に作品を遺しフランスにおけるグランド・オペラの祖と称される。歌劇「ザンパ」と並んでバレエ音楽「おてんば娘リーズ(リーズの結婚)」が代表作である。

♪♪♪

この歌劇「ザンパ」序曲は、NHK-FMのクラシック音楽番組「朝の名曲」(1972-1985年)のテーマとして使われていたので、曲名は知らなくとも中間部の軽やかな旋律が耳馴染みな方も多いであろう。私は随分後になって全曲を聴き、そうかあれは「ザンパ」だったのか!と知った次第である。
また明朗快活でダイナミックな曲想は英国式金管バンドや吹奏楽のレパートリーとして好まれ古くから演奏されており、所謂”クラシック・アレンジ”のスタンダードでもある。曲中の抒情部分がほぼ全てクラリネット・ソロで歌われるのも吹奏楽で人気となった理由かもしれない。

歌劇自体「グランド・オペラ風の圧倒的な効果と絵画的、色彩的な筆法があり、親しみ易く美しい旋律とドイツ的で堅実な管弦楽法を持つ」と評価されると同時に「性格描写や変化や情熱に乏しい」「現在では音楽的な冗長と弱点のため、ほとんど通して演奏されることがない」と断じられている。
序曲も「通俗的な名曲」「華やかで色彩的」「親しみやすい旋律」「華やかに劇的な迫力をもちながらクライマックスを築き上げる」と美点を挙げられつつも、結局は「目先がつぎつぎと変っておもしろいが、全体からみてかなり散漫である」とバッサリ総括されるなど、何とも毀誉褒貶入り混じる楽曲である。

     ※上記評論は「名曲解説事典」 (音楽之友社) 門馬 直美 執筆稿 より引用

私はと云うと、もちろん歌劇「ザンパ」序曲が大好きである。とにかく旋律が美しく魅力があり、また印象的な楽句が次々に現れる。これを”まとまりがなく散漫”というよりは”宝石箱の如き素敵な音楽の詰合せ”であるとポジティヴに評価したい。メドレー(接続曲)風の作品として豊かな色彩とコントラストの見事さに溢れ、またそれを生かす構成が成されている。理屈抜きに愉しいではないか!
904zampa「ザンパ」はオペラ全曲が聴ける音源が極めて乏しく、私が所有しているのは2008年3月にウイリアム・クリスティcond. レザール・フロリサン(William Christie cond. Les Arts Florissants)がパリ・オペラ=コミック座にて上演した際のライヴ録音(インディーズ盤)のみである。
※下画像:同公演の模様

Zampa_christie_paris_2008aこれを聴く限り「序曲」にはオペラ本編には遂に登場しない旋律や楽句がかなり含まれている。「序曲」は歌劇から抜粋してメドレー風にまとめたもの、という解説も目にしたが実際にはどうなのだろうか。エロルドは幕開けのためにオリジナルの部分も加え再構成した「序曲」を拵えていたのか?或いは歌劇そのものが改訂によって、元々の姿とは違っているのだろうか…?。
Zampa_christie_paris_2008b_2この序曲はハッキリ”接続曲”=メドレーと言い切って良いだろう。そしてメドレーとしては最高レベルの出来映えではあるまいか。メドレーというものはショーマンシップの観点からは重宝され人気を博す(ウケる)一方、音楽としての意義や価値についてはジャンルを問わず(ポピュラー音楽の世界ですら)疑問を呈されがちである。
それを踏まえても猶、この歌劇「ザンパ」序曲の愉しさには抗えない自分がいる。どんなものでも水準を超えたものには、理屈抜きの魅力が存在するのだと私は思う。

♪♪♪

Photoこの上なく輝かしく、生命感に満ち溢れたAllegro vivace ed impetuosoの序奏に始まる。
この冒頭こそが全曲の白眉と云っても差支えなかろう。それほどに印象的で、音楽的興奮を喚起する序奏である。
ff で華やかに始まり、緊張と快速さを維持したpを挟み、また鮮やかなff へという流れの中で、眼前にありありと浮かぶが如く立体的なカラフルさも感じさせるのだ。

そこに突然管楽器群のB♭音ユニゾンがフェルマータで強奏されAndante misuratoへ入る。同様にB♭、C、Cと繰返す管楽器群の強奏に弦楽器+ティンパニのppが呼応し神秘的で安寧なブリッジとなり、次の場面へと移っていく。

冒頭の雰囲気からは一転したAndante non lentoの密やかで抒情的な音楽となる。
Andante_cl前述の通りこの曲に於いて抒情的な歌はほぼ全てクラリネットで奏されており、ここはその最初である。
ほどなく音楽は徐々に活気を取戻す。冒頭主題の変奏
Photo_2が現れて生命感と色彩、緊張感やスピード感、輝度と音量といった全てをじりじりと高めながら亢進し、グランドマーチ風のAllegro vivace assai con grande forzaへと進んでいく。
Allegro_vivace_assai_con_grande_forその運び方が実に見事であり、到達した先に提示される音楽の壮麗さを一層引き立てているのである。続いて抒情的な場面に転換するのであるが、ここで前出のAndante misuratoをなぞったブリッジを挟むなども心憎いばかりだ。そしてPiu lentoとなって再びクラリネットのソロ-。文字通りespressivoを極めた美しいものである。
Piu_lento_cl鎮まった音楽の熱はそのままに、軽やかで愛らしいUn poco piu vivoへと移る。
Un_poco_piu_vivo楽曲中最も有名な部分であるがTriangleの加わる伴奏も含めとても品の良い音楽である。これが最終盤のパワフルな推進力を示す圧倒的な盛上りを前に、極めて効果的なコントラストを生み出している。
可愛らしい音楽を一転させるUn poco piu animatoの金管群のファンファーレから音楽はその最終盤へ。更にテンポを上げPiu mossoで繰返されるファンファーレからは一気呵成に精力的なエンディングへと突き進み、最後も華麗な余韻を堪能させて全曲を閉じる

♪♪♪

音源はかなり多い。色々な意見はありつつも、親しみやすく魅力のある楽曲であることの証明だろう。中でも胸のすくような好演として
61xae59igyl__ss500ロナルド・コープcond.
ボーンマス交響楽団

をお奨めしたい。
この曲の録音に駄演というものはそもそもあまりないが、巨匠指揮の高名なオケの演奏と比較しても秀演であり、実にヴィヴィッドでコントラストに富み、楽曲の魅力を存分に発揮している。楽器間のバランスも終始良好であり、楽しく聴けるのだ。

     このアルバムは英国ボーンマス交響楽団の創設指揮者であるダン・ゴドフリー
     のレパートリーを再現したもののようだが、このダン・ゴドフリーは英国軍楽隊
           の指揮者・編曲者として何代にも亘り活躍した一族の出身である。(ダン・ゴド
           フリーII世の長男でダン・ゴドフリーJr.と呼ばれることが多い。)
      ボーンマス交響楽団は1893年に創設されているが、その当時の編成は”吹奏
           楽団”であった。おそらく同団にとって歌劇「ザンパ」序曲は歴史的に十八番の
      レパートリーなのだろうが、こうした名演に繋がったのはやはり吹奏楽とも関
     連した指揮者・楽団であったことが背景にあるのかも知れない。

     【出典・参考】
       ボーンマス交響楽団HP   新版吹奏楽講座8(音楽之友社)

     【その他の所有音源】
      ユージン・オーマンディcond. フィラデルフィア管弦楽団
      レナード・バーンスタインcond. ニューヨーク・フィルハーモニック管弦楽団
       ヴォルフ=ディーター・ハウシルトcond. スイス・イタリア語放送管弦楽団
             ヤン=パスカル・トルテリエcond. BBCフィルハーモニック管弦楽団
       ヴォルフガング・サバリッシュcond. バイエルン国立管弦楽団
       チャールズ・グローヴスcond. フィルハーモニア管弦楽団
       ヘルマン・シェルヘンcond. ウィーン国立歌劇場管弦楽団
       アルトゥーロ・トスカニーニcond. NBC交響楽団
             アーサー・フィードラーcond. ボストン・ポップス管弦楽団
      エルネスト・アンセルメ,cond. スイス・ロマンド管弦楽団
             タマス・パルcond. ブダペスト交響楽団
             ポール・パレイcond. デトロイト交響楽団
             マルセル・フリードマンcond. ヨーロッパ・フィルハーモニック管弦楽団
      ジャン・マルティノンcond. ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
             リチャード・ボニングcond. ロンドン交響楽団
             マッシモ・フレッチャcond. ローマ・フィルハーモニー管弦楽団
             レイモン・アグーcond. ロンドン新交響楽団
             ニコライ・マルコcond. フィルハーモニア管弦楽団

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コメント

この序曲、吹奏楽版で聞くのが好きですが、原曲のオケもいいですね~。

阪急・今津のコンクール版などは緊張の名演奏です
英国砲兵隊やデトロイトなどの演奏もあります

序曲としては、好きな部類です

投稿: bandlover | 2017年7月 2日 (日) 19時20分

吹奏楽で聴いても聴き映えのする曲ですよね。私も一度は演奏してみたいです☆

投稿: 音源堂 | 2017年7月 2日 (日) 23時46分

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