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2016年7月24日 (日)

友愛のファンファーレと讃歌

PhotoFanfare and Hymn of Brotherhood
J.ボクック (Jay Bocook 1953- )


   ※本邦には「友愛のファンファーレと聖歌」の訳題で紹介され、現
     在に至るが
、作曲の背景(後述)を勘案すると「聖歌」より「讃歌」
     の方が適切と思われるので、本稿では「友愛のファンファーレと
     讃歌」とした。


ファンファーレを伴った演奏会用オープナーとして出色の出来映えの傑作である。シンプルだが魅力的な旋律、終始安定したサウンド、佇まいの整った構成感の大変スマートな楽曲にして、陳腐さを感じさせぬモダンなムードを持っている。華麗さのみならず爽快さをも兼ね備える曲想は、洵に得難いものである。

Jay_bocook_2作曲者ジェイ・ボクックはアメリカの作編曲家で、マーチングを含めスクールバンドの指導経験も豊富であり、Jenson Publicationsから多くの作品を出版し後に同社の吹奏楽出版部門の責任者も務めた人物である。その作品からは手堅く高い手腕が感じられ、現在もバンド指導者として活躍の傍ら、Hal Leonard社の主筆作編曲者として作品を発表し続けている。

この「友愛のファンファーレと讃歌」は、アメリカ南部の名門リベラル・アーツ・カレッジとして高名なファーマン大学(Furman University)の音楽愛好者団体「ファイ・ミュー・アルファ・シンフォニア友愛会」からの委嘱によって作曲された。ボクックは1982年からの7年間及び2001年から現在に至るまで同大学にてバンド指導者を務めている。本作の作曲年は明記されていないが、ボクックが最初にファーマン大学と関わりを持った1982年が有力であろう。

”友愛=Brotherhood”とは同友愛会の設立趣意にある”brotherhood of musical students”という文言に由来するものと思われる。ボクック自身が同友愛会の全米組織の出身でもあり、その趣意に強い共感を有していたであろうことは想像に難くない。
      ※Furman University HP : Phi Mu Alpha Sinfonia - Gamma Eta

♪♪♪

本作の特徴であり楽曲に大きな魅力を加えているものとして、後半から登場する”Antiphonal Brass”の華麗さ、壮麗さを忘れるわけにはいかない。Trumpet×3&Trombone×2から成るこのバンダの効果は測り知れないのである。

バンダ(Banda)とは管弦楽団や吹奏楽団の”別働隊”を広く指し示すものである。オフ・ステージのTrumpet独奏や、歌劇においてオケピットから離れ舞台上にて”劇の一部”として奏楽する合奏体、或いは例えばO.リードの名作「メキシコの祭り」第1楽章に登場する祭楽隊なども、みな”バンダ”である。しかしながら、やはり何といってもバンダと云えばファンファーレ編成の金管合奏体が真っ先に思い起こされることだろう。

最も有名なものを挙げれば、管弦楽作品では
交響詩「ローマの松」”アッピア街道の松” (O. レスピーギ)
祝典序曲 (D. ショスタコーヴィチ)

Banda_3がいずれもバンダを極めて効果的に使用し、劇的で絢爛豪華、壮麗さに聴衆を酔わせる最終盤を現出している。

吹奏楽曲ではアンティフォナーレ (V. ネリベル)が傑作!
Banda最終盤で金管六重奏(Trp.&Trb. 各3)のバンダが示す鮮烈な音響は「これぞネリベル!」という圧倒的な印象を与え、実に感動的である。

バンダには舞台の”つくり”や、演出によってさまざまな配置がある。楽団本体と正面対峙するよう客席(特に2階客席)に配置する「対立配置型」もよく見られる。ステージ後方/中空のバルコニー席あるいはひな壇最上段に配置する「正面型」、またステージの花道など片方のサイドに配置したり、ステレオ効果を狙って左右サイドに分割配置する「サイド型」など、曲によって会場によって指揮者によって、バリエーションが存在するのである。

■佐渡 裕cond. シエナウインドオーケストラでのバンダ
   ステージ後方/中空のバルコニー席での配置
   祝典序曲 (D. ショスタコーヴィチ)
   2006.12.22.@横浜みなとみらいホール

Banda_sienaバンダの登場は大変インパクトが強く、聴衆を興奮に導く。即ち、バンダは純粋な音楽の観点だけでなく、当然に視覚的アピールや演劇的な要素も狙って使用されるものなのだ。
Banda_siena_2しかしながら、バンダを使用した場合でもやはり音楽的な説得力は充分であってほしいと私は思っている。
特に「対立配置型」はサプライズ感に富み、また上手くいけば音響の立体感や、前後から響きが充満する状況に聴衆を浸すことが大いに期待できる一方で、演奏は難しくリスクも高い。どちらかと云えば”演出”重視の選択と感じられる。
カッコ良い演出が生きるのも良い演奏あってのこと-。海外オーケストラの動画を見ても、バンダにステージ後方/中空やひな壇の最上段の「正面型」配置が多いのは、その観点からすぐれて納得的と思う。

この「友愛のファンファーレと讃歌」は魅力的な内容を持ちながら難度も相応であり、大編成となる合同演奏会などで演奏するにはもってこいの楽曲ではなかろうか。大編成ゆえに可能となる充実したバンダは、きっとこの曲を一層輝かせ大輪の華をそえることであろう。

♪♪♪

「友愛のファンファーレと讃歌」は2つの主要な旋律と、そのモチーフによるファンファーレから成っている。
冒頭Allegro Maestoso(♩=108)はTrumpetとTromboneが高らかに第2主題のモチーフを奏で、これに第1主題のモチーフによるカウンターをHorn(+ A.Sax, A.Cl, Glocken)が奏する華やかなファンファーレ(冒頭画像参照)。華麗さはもちろん備えているが決して硬質でなく、美しく伸びやかでスケールの大きな音楽となっているのがとても素敵である。
これが静まって悠然としたProudly(♩=80)に移り、Hornが第1主題の全貌を提示する。
Photo_2これが木管楽器によって繰り返され、冒頭のファンファーレ再現を挟んでAndante con espressivo(♩=72-80)となり、今度は第2主題が木管アンサンブルに現れる。
2この2つの”讃歌”はとても美しく安寧で、加えて何とも爽やかな印象が心に刻まれるのである。
第2主題がMaestosoで一層朗々と歌われた後には、快活なAllegro(♩=144)の中間部に入る。16ビートで疾駆するスネアに木管高音+Glockenのリズミックな動きが加わったスピード感溢れる伴奏に導かれ、PiccoloとTuba(+ B.Cl, Fagotto)のソリで第1主題が歌いだす。
Allegroこの最高音と最低音の組合せは吹奏楽でしばしば用いられる手法であるが、ユーモラスでありながら心地よいテンションがあって耳が惹きつけられる。本作の聴かせどころの一つである。
Trombone(+ T.Sax)に旋律が移り反復すると転調し、鐘を打ち鳴らすような壮麗なサウンドの伴奏となりバンド全体が眩い輝きを発し、Maestosoとなって高揚していく。

その高揚の彼方、Antiphonal Brass(バンダ)の響きが天から降ってくるのだ。
Antiphonal_brass荘厳な金管の響きが気高く告げるのはクライマックスへの序章-。
Photoそして押し寄せるTriumphantly(♩=92)のクライマックスはまさに誇りに満ちた凱歌そのものだ。
Antiphonal Brassからバンドへと引継がれた第1主題が旗鼓堂々と奏されるのに対峙し、Antiphonal Brassの壮麗な第2主題がクロスオーバーしてここで一体となり、心に迫る感動的な音楽で満たされるのである。

冒頭のファンファーレを再現してコーダへと入り、重厚なサウンドを背景に華々しく鐘が打ち鳴らされ金管群の鮮烈な楽句とともに、最後まで緩むことなく輝きを放ち続けて曲を結ぶ。

♪♪♪

音源は
Lp汐澤 安彦cond.
東京佼成ウインドオーケストラ

の演奏(LPレコード)をお奨めする。
明確に設計されメリハリのきいた演奏で、この曲の魅力を存分に発揮している。美爽な印象の好演であるが、残念なことにCD化されていない…!


    【他の所有音源】
      井田 重芳cond. なにわオーケストラル・ウィンズ(Live)
     トーマス・レスリーcond. ネヴァダ大学ラスベガス校ウインドオーケストラ(Live)

     ※現在本作品の出版はJensonからHal Leonaradに移っている。
       Hal Leonardの提供している参考音源はこちら。(上記ネヴァダ大学の演奏) 

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