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2015年8月 2日 (日)

イーストコーストの風景

SunsetovernewyorkcitydrkEast Coast Pictures 
N.ヘス (Nigel Hess 1953- )
I.Shelter Island  II.The Catskills  III.New York

(冒頭画像:ニューヨークの夕暮れ)

2nigel_hessイギリスの作曲家ナイジェル・ヘスによる1985年の作品である。
ヘスの代表的なキャリアとしてはロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(Royal Shakespeare Company)のホーム・コンポーザーを務めたことが挙げられるが、1875年創設の歴史を有しシェイクスピアの生誕地ストラットフォード・アポン・エイボンを本拠とするこの”世界で最も有名な劇団”のために、彼は20もの作品を書いた。ヘスはまたテレビ番組を中心に映像関連の音楽に多く携わり、手腕を発揮している作曲家としても高名だ。

吹奏楽作品も多く、「グローバル・ヴァリエーション」「スティーブンソンのロケット号」などモダンで多彩、かつ突き抜けたユーモアが個性的な楽曲で知られており、中でも「イーストコーストの風景」はヘスが最初に出版した吹奏楽曲にして代表作として高く評価されている。やはりモダンなサウンドとポピュラー音楽に通じる曲想でノリも良く理屈抜きに楽しいこの曲は、同時に壮大なクライマックスと色彩の豊かさも備え、まさに鮮やかな3枚の絵と云うべき作品となっている。

♪♪♪

「組曲『イーストコーストの風景』は3つのコンパクトな”絵”から成っているが、その着想は私がアメリカ東海岸のごく一部に数度訪れたことがあり、そこから閃いたもの。この地域はその地理や住民が実に極端なのである。」
                                   (ヘスのコメント)


題材は上記コメントにもあるように、ヘスが訪れたアメリカ東海岸に位置するアメリカ最大の都市ニューヨークとそのごく周辺のリゾート地であり、その情景と印象とを3楽章からなる組曲で描写するもの。
Photo各楽章はいずれも高揚感が高くそれぞれに完結したイメージを与えるもので、対比的なセッティングになっていると解されよう。
同じ題材の楽曲として「マンハッタン交響曲」(S.ランセン/吹奏楽)や「ニューヨークのロンドンっ子」(J.パーカー/ブラスアンサンブル)などが挙げられる。いずれもガーシュウィンの「パリのアメリカ人」の向こうを張って、欧州の作曲家がニューヨークを描写しているわけだが、特に「マンハッタン交響曲」第4楽章”ブロードウェイ”のエネルギッシュでスピード感のある楽想が示す活気と喧噪の情景はヘスの描いたニューヨークと共通しており、それこそがこの大都会の強烈な印象となっているのだと感じられるのは興味深い。

【ニューヨーク (New York)】
Timessquareニューヨークは市街区のみでも8百万人、エリアでは2千万人を超える人口を擁する”人種の坩堝”であり、経済・政治・スポーツ・芸術・エンタテインメントなどあらゆる面に於いてアメリカのみならず世界の中心的な存在である。
Lincolncenter例えば国連本部もこの地に設置されており、またとりわけアメリカの生んだジャズやミュージカルなどのポピュラー芸術においては、まさに総本山と位置付けられるのがニューヨークという街である。

Central_parkこの大都市は、17世紀初めにオランダが入植して建てた「ニューアムステルダム」を起源とするがこれを1664年にイギリスが征服した際に当時のイングランド国王の弟君=ヨーク公に因み「ニューヨーク」と名付けられた。後の独立戦争直後の5年間はアメリカの首都でもあったのである。1825年にエリー運河が整備完成されてからは港湾都市機能を発揮、アメリカ屈指の貿易拠点として弛みなく発展を続け現在の繁栄へと至った。そうした発展の原動力は”移民”であり、”移民社会”ゆえに深まった多様性(diversity)が新たな価値創造を生んだこと-それこそがニューヨークの魅力と評されるところである。
Metropolitan_museumエンパイアステートビルをはじめアール・デコを取り入れた摩天楼のひしめく近代的な都市の風貌に自由の女神を配する景観、世界的な経済の中心地ミッドタウンで中核を成すウォール街、超一流の文化・芸術施設、繁栄する都市ならではの食事やエンタテインメントの豊富さなど、観光的にも随一の魅力を誇る。ベースボールのヤンキースとメッツなど多くのスポーツチームも本拠地をここに構えているし、
Broadwaytheatresignsカーネギーホールや舞台芸術の聖地であるリンカーンセンター、ミュージカルで有名なブロードウェー、メトロポリタン美術館(世界三大美術館)、Eleven Madison Park(世界的に高名なミシュラン三ツ星レストラン)、メガシティのオアシスたるセントラル・パーク、更にタイムズスクウェアにチャイナタウンなど枚挙に暇のない観光名所…これらはみなニューヨークにあるのである。

     ※画像(上より):Times Square、Lincoln Center、Central Park、
                 Metroplitan Museum、Broadway


Photo_2【出典・参考】
「ニューヨーク」 亀井 俊介 著 (岩波新書)
「図説 ニューヨーク都市物語」
 賀川 洋 / 桑子 学 著 (河出書房新社)




【シェルター・アイランド(Shelter Island)】
Photoニューヨークのあるアメリカ最大の島・ロングアイランドの東端に挟まれるように位置する30km2ほど(世界遺産で有名な広島の厳島と同じくらい)の島であり、マンハッタンからは車で2時間+フェリーで5分の距離にある。
Shelter_island_sunset_beachニューヨーカーにとっては日帰りも可能で気軽なリゾート地であり、夏期には大変賑わう。セレブの別荘やプライベートビーチも多いが、普通の人が普通に泳ぎに行きリラックスできる綺麗な海とSailboats2ビーチがあり、夏の穏やかな海でヨットやボート、カヤックや釣りなども楽しまれている。古くから富裕層の避暑地であったため、ニューマネーによる開発を逃れたことも特筆すべきである。
Kayak_2このため古き良き佇まいの建物が多く残り、また手つかずの自然-深い緑にも包まれたその景色はどこも美しいと評される。
更にオイスターやソフトシェルクラブなど美味なシーフードに恵まれ、また海を挟んですぐ北側にあるグリーンポートはワイナリーが集まっているエリアであるため、多彩なローカルワインも楽しめるとのこと。

「ニューヨークの都会の喧騒を離れて過ごす時間は貴重で、とてもリラックスできます。」との評価は多く、人気も頷けるものである。

        ※音楽関連では、世界的なヴァイオリニスト、イツァーク・パール
            マンが
主宰する後進教育プロフラムの開催拠点となっており、
            1994年以来毎夏12~18才の若き音楽学生がここシェルター・
      アイランドで7週間に亘るミュージックキャンプに参加している。

   
 【出典・参考】
     
Town of Shelter Island HP   The Perlman Music Program HP
           尚、リゾート地としてのShelter Island については多くの在NY邦人の方々の
     SNS、並びに旅行サイトの評価から情報を収集した
 
 
【キャッツキル山地(The Catskills)】
Catskills_4ニューヨーク市街から200kmほど北上したハドソン河の西側に位置する広大なキャッツキルパークの中心を成す山地である。
Ihoverlook0415_3キャッツキルパークは約3万km2に及ぶ自然保護区であり、ニューヨーク市の水源地として厳しい規制によりその美しい水と環境とが200年に亘り守られているという。
ニューヨーカーの感覚としては東京に於ける奥多摩や秩父に近いとも云われる。

    ※尚、killという言葉がその名についているが、これは”小川”
      ”水路”などを表すオランダ古語に由来するもので、水辺に
       近いところを表し物騒な意味はないとのことだ。実際、前述
      のようにオランダの入植が先行したこのニューヨーク周辺
      には-killという地名が多いのである。
      (Webster米語辞典に記述あり)


Bastion_falls_21960年代後半までは避暑地としての開拓も進み、富裕層の別荘や大規模なホテルなども多かったが、自動車と高速道路の発達によりニューヨーク市街から完全な日帰り圏内となったことで、避暑施設は不要となり現在では残っていない。しかし現在でも冬はスキー、夏はフライフィッシングや川下り、ハイキングにキャンプなどが楽しめる手近なリゾートとして親しまれている。
美しく聳えるキャッツキル山地に加え、山間各所に見られる沢から流れ落ちる滝はまさに一瞬息を呑むほどの美しさと評されており、秋の紅葉も見事である。こうした景観の素晴らしさに人気は高い。

    【出典・参考】
     キャッツキル オフィシャル・ガイド
     緑のgoo :
vol.8
     「アートとエデュケーションとアグリカルチャー、ロハスが息づくキャッツキル」
     

♪♪♪

前述の通り、いずれも情景描写的な3つの楽章で構成される組曲である。ヘスのコメント(「 」)も引きながら内容を見ていこう。

I. シェルター・アイランド
Shelter_island_winter_2「シェルター・アイランドはロング・アイランドの果てといったところに位置する小さな島で、ニューヨーク市街からはクルマで2-3時間だ。夏にはシェルター・アイランドに惹きつけられた旅行者でごったがえすのだが、冬には見事に人気(ひとけ)が無い。
この季節、荒れ狂う大西洋の襲撃に敢然と対峙するこの島は、海霧と横殴りの雨に覆われている。この曲の情景は、シェルター・アイランドで過ごす冬の週末の良き想い出である。」




既に述べたように、シェルター・アイランドはニューヨーク郊外の”夏の”リゾート地として人気である。だが、ヘスは実体験から”冬の”シェルター・アイランドを描いた。
(上画像:冬のシェルター・アイランドの情景)

Bright(♩=138)、12/8拍子
の冒頭は、やはり冷たい雨を乗せた風を表すFluteの素早い3連符のフレーズに始まる。
Shelter_island4拍3連のビートでブレイクすると、主要主題のモチーフがHorn、続いてこれにEnglishhornが加わって提示される。そしてこの伸びやかで暖かな旋律は朗々たるTrp.によって全容を表すのである。
Shelter_island_2第1楽章を通じ、海霧と横殴りの雨を表す木管の細かなフレーズに金管群の吹き下ろす大きな冷気が加わって表現される”情景”が、それとはうらはらに暖かく幸せに満ちた”心象”を示すこの主要旋律に絡みつつ描かれていく。

  現地アメリカの旅行サイトを見てみると、彼氏から冬のシェルター・
  アイランドで週末を過ごそう、と誘われ戸惑う女性の投稿があった。
  夏はリゾートとして賑わうのを知っているけど、冬には一体何をし
  に行くの???とややふくれっ面ですらある。
     これに対して「彼氏はただあなたと穏やかでロマンティックな週末
  を過ごしたいんじゃない?冬のシェルター・アイランドは本当に安寧
    で、ニューヨーク市街から行くなら素晴らしい気分転換になるわよ。」
  などのアドバイスが寄せられたこともあり、結局彼女は彼に従って
  出掛けた様子である。
  結果、この彼女は冬のシェルター・アイランドに大満足したと報告し
  ている。美しい風景、こじんまりとはしているが素敵な宿、シーズン
  オフであっても頻繁に行き来するフェリーで対岸へ渡ってのワイナ
  リー巡り -どこへ行っても混んでなくて、恋人二人いい時間が過
  ごせたようだ。一番美味しかったお店はシェルター・アイランドにあ
  る”The Vine Cafe”で、ここが一番混んでいたと。冬のシェルター・
  アイランドは静かだがとても素晴らしく、同じニューヨーク州で過ご
  したとは思えない”a great weekend”だったと結んでいる。
  他のコメントを見ても、冬のシェルター・アイランドがニューヨーカー
  にトップシーズンとはまた違った素晴らしい”癒し”を与えてくれるこ
  とは間違いないようだ。
Mash_3    この曲を”a fond memory”であると解説している作曲者ヘスの心に
  も、きっと
冬のシェルター・アイランドで過ごしたロマンティックで素
  敵な想い出が刻まれているのだろう。


これらが多様な楽器のとりどりの音色とダイナミクスの起伏に次々と移りゆき豊かな音楽となる。中でも、少しばかり顔を出した最終楽章「ニューヨーク」のモチーフを挟み、2度奏される抒情的なOboe+Englishhornのソリが殊のほか美しい。
Shelter_island_w_reedそして、徐々に雄大さを増しやがてあの美しい旋律が力強く高らかに奏され、Trp.のハイトーンとともに劇的なクライマックスへと到達するのである。力を込めて奏されるほどに、この旋律の素晴らしさ、豊かさが胸に迫ることだろう。
ほどなく鎮まるや再び風のフレーズが現れ、ファゴットのSoliに導かれたファンタジックな音風景に見送られて静かに曲は閉じる。

II.キャッツキルズ
1400woodstockcatskillswg_web_4「ニューヨーク州北部に鎮座するキャッツキル山地-そこでは静穏と力強さ、そして安寧と荘厳さとが絶妙に融合している。一度目にしたならば、その魅力に何度も何度も呼び戻され、再び訪れたくなってしまうのだ。」


The_catskillsSteady4(4/4拍子 ♩=72)と標され、Trb.を中心とした静謐で落着きのあるコラールにより厳かに開始され、やがてOboeのロマンティックな歌が聴こえてくる。この序奏部に続いて甘美極まるリリックなソロをコルネットが歌い出す。
The_catskills_cornet_soloトランペットとコルネットで実際に音質の差はないと云われるが、このソロこそは英国式ブラスバンドの擁するあの”コルネット”のまろやかな音色(ねいろ)こそがイメージされて已まない。ここでは伴奏のオルガンの如き厳かでファンタジックなサウンドも魅力的である。
続いて旋律がトロンボーンに移り、これをバックに木管群が美しくまた自在に歌う。コルネットのソロに戻って主題が変奏され高揚するが、クライマックスの手前で引き返し、鎮まって冒頭が呼び返されるのが心憎い。
再びコルネットのソロから始まる音楽の流れは一層雄大なものへと発展していく。気高い自然の威容を讃える堂々たるクライマックスとなり、スケールの大きなサウンドで締めくくられる。

III.ニューヨーク
Lowermanhattan「ニューヨーク…より厳密に云えばマンハッタンの情景だ。この奇矯で素敵な都市に慣れ親しんだ人にとっては、この曲が描いた情景に説明は要らない。まだニューヨークの虜になっていない方々には、ニューヨークを訪ねた折に目のあたりにするであろうものを、この曲でささやかながら味見してもらおうというわけさ!」


New_yorkマンハッタンとはウォール街に5番街、タイムズスクエアやブロードウェイに名だたるホールや美術館などを擁し、まさにニューヨークの中心たる或いはニューヨークそのものを指し示す地区である。前述のように政治も経済もスポーツも芸術も、最先端からアングラに至る文化や風俗も、それら全てが集約した街は良くも悪くもエネルギッシュさに満ち、魅力が満載だ。
当然そこには騒動や犯罪も起こるわけだが、それらが全部ごった煮になって噴きこぼれているさまが、スピード感溢れる音楽で表現されている。

冒頭(Bright4 4/4拍子 ♩=168)のモチーフ提示からして生命感に満ち溢れ、そのスピードと鮮烈さに惹きつけられる。ここで”立った”サウンドの低音のカウンターがドンピシャのタイミングで決まったら、それだけで鳥肌立つこと請合いだ。
主部に入ると元気なTom toms のお囃子に乗って第1主題が奏される。
New_york_2活気と浮き立つ感覚がとても愉しい音楽だ。途中7/8の変拍子による変奏を挟むが、ここではJaw Bone(Quijada キハーダ)やString Bassの音色と機能が効果的に使用され楽曲に魅力を加えているのも見逃せないし、かと思うと続くMuted Trp.(+Piccolo)の奏する経過句のバックにはクラベスやマラカスが躍るなど、まさに多様な文化の坩堝であるニューヨークを体現した曲想である。
更に金管楽器のgrowl奏法を絡めたり、ダイナミクスと各楽器を目まぐるしく入れ替え決して飽きさせることのないままエナジティックに高揚させていく。

Playingthequijada※Quijada キハーダ (正式名称 Quijada de Burro)
その名の通りロバや馬の顎を乾燥させて作られるラテンパーカッション。「歯の部分を撥で擦る」「顎の骨本体を手で打って震わせる」の組合せで演奏する。”カーッ””カラララララ”などと表現される個性の強い音が出る。入手できない場合はヴィブラ・スラップで代用されるのが一般的である。実際の演奏の様子はこちら


この高揚の頂点を越えて、すぅっと視界が開け美爽な第2主題がHorn(+Euph.)に現れる。
New_york_3この最終楽章ではずっとHornとEuph.が主題を奏していたのに、転調を絡めまたガラリと変わった感じを示すのが凄い!

    ※クッキリと姿を現わし、堂々と主役を務めるここのHornだが”ベルアップ”とい
       う感じでもない。あれこれ考えたが指示するなら”満面の笑みで!”といった
      ところか。


第2主題は木管へと移り、再び転調しさらに伸びやかで流麗なTrp.のフレーズになる。シンコペーションの賑やかな伴奏を従えて歌い上げると第1主題が戻ってきて、けたたましくホイッスルが鳴るや主題のモチーフの応答から6/8拍子の強いビートで鳴動するクライマックスを迎える。
このエキサイティングな曲想はG.P.で一転、Steady4となりFlute、次にダブルリード楽器のSoliが穏やかに第1主題のモチーフを奏でるのだ。
New_york_siren_2続いて描かれるのはニューヨークの黄昏時だろうか。(冒頭画像参照)想い出に浸り、思い切りセンチな気分になっていると- それをつんざくパトカーのサイレン!

Nypd_police_car…やれやれ、この街の騒々しさは旅人を感傷に浸らせてもくれない。
コーダ(Tempo primo)に突入し第1主題が一段とスピードを増して駆け出すや、まさにエネルギーの塊となって捲りに捲り(Presto)、一気呵成の鮮やかさで全曲を締めくくる。

    ※この”サイレン”の「けたたましさ」は極めて重要。音楽的に(演奏的に)最も
      コントロールしやすく表現しやすいのは「サイレン・ホイッスル」(下左)だと
      思うが、臨場感のある演出にはぜひ「サイレンそのもの」を使いたいところ。
      手動サイレンも演奏用(?)だと直ちに音をストップするスイッチが装備され
      ている(下中)とのことだが、音の出だしは?
      全くの電子サイレン(メガホン型/下右)では如何にも味気ないし…思案の
      しどころである。

Sirens_2♪♪♪

「イーストコーストの風景」は捉えやすい楽曲である。しかしながら各部分部分を対比させるべく、それぞれを”らしく”演奏する=演じ切ることが求められる楽曲でもある。譜面を無難に音にしただけではこの曲の魅力は発揮しきれないだろう。こういう曲こそイメージを豊かに膨らませ、それを表現したメリハリの効いた演奏が求められるのだ。
逆に云えば、素敵な旋律を持ちさまざまな”仕掛け”がなされているこの曲は、そうした表現ができたなら、この上なく愉しい音楽になる。
例えば”ニューヨーク”の最後、アッチェルランドを経て突入したPrestoの最終5小節で打楽器群が「楽譜に正確に」とばかりにマーチの如きフィーリングで演奏してしまうとエラく幼稚な音楽に聴こえてしまう。
Ending_percここはあたかも和太鼓の乱打ちに近いニュアンスで一気呵成さを表現することが求められよう。書いてある音符を追うのではなく、「どういう音楽にしたいか」を考えて楽譜を読み解くことこそが肝要なのである。

叙上の観点から、音源は下記の作曲者自作自演盤をお奨めする。
Cdナイジェル・ヘスcond.
ロンドン・シンフォニックウインド
オーケストラ

”完璧”とまではいかないが、さすがにこの曲の魅力を存分に語った名演。各ソロも名手の優れた音色と豊潤な”歌”で聴かせてくれる。テンポ設定・間の取り方・ダイナミクス設計も見事で、実にイメージ豊かな音楽となっている。
”ニューヨーク”に登場するサイレンにはサイレン・ホイッスルを使用し、音楽的なコントロールと表現を優先。全編に亘りこうした小物の”演技”も大変素晴らしい。

     【その他の所有音源】
       加養 浩幸cond. 土気シビックウインドオーケストラ
       石津谷 治法cond. なにわオーケストラルウインズ(Live)
       鈴木 孝佳cond. TADウインドシンフォニー(Live)


♪♪♪

本稿の執筆に際してあたった文献や資料、写真の多くに、あの「世界貿易センタービル」の姿があった。1985年に作曲されたこの「イーストコーストの風景」が音で表現するニューヨークの情景にも、もちろんあのモダンな摩天楼が描かれていたはずなのだ。
ご存知の通り、大都会ニューヨークを象徴していた「世界貿易センタービル」は、2001.9.11.のテロによって2,700人を超える尊い人命とともに消滅した。あの悲劇は、世界中の誰もが決して忘れることのできないものだ。

教条めいたことは言いたくないが、音楽が楽しめるのも平和であればこそ-ニューヨークを題材にした実に愉しいこの曲と接する時も、どこかで必ずそのことには想いをめぐらせねばならないであろう。

(Revised on 2017.10.15.)

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コメント

お~、曲の前の地理的紹介にくぎ付け
(ロチェスター)バッファロー・シラキュース・オルバニー・ボストン・ニューヨーク・フィラデルフィア・ワシントンと大学の時一人でバス旅行で行きました。ちょうど今頃はボストンハーバード大学紛争後に行きました。
ニューヨークは、地下鉄に乗りあちこち行きました。
その後、教育出張でも3回ほどニューヨークで泊りましたが、大学時代と比べてかなり和食が広がり、安全度は下がったような気がしました。出張費があったので安いミュージカルも見ましたが迫力はさすがでした。
Goldman bandが演奏した野外音楽堂The Mallも見てきた。
さて、クラクションといえばパリのアメリカ人を思い出します。ニューヨークのフランス人という曲もありました。
(イサカ音楽カレッジ・Wビーラー指揮)
今回紹介された曲も、おもしろそうですね
近くならぜひ定演?に駆け付けたいところです
成功を願っています

投稿: bandlover | 2015年8月15日 (土) 07時49分

bandloverさん、まだまだ暑いですね!コメントを有難うございます。これまでに随分と見聞を広めておられたご様子で羨ましい限りです。
この曲はニューヨーク市街の風景をクライマックスとしながらも、周辺にある2つのリゾート地の風景を描いているところがミソだと思います。理屈抜きに愉しくまた感動のあるよい曲ですから、練習にも熱が入るというものです。^^)
尚、とてもゴージャスな大編成で書かれていて、本来はダブルリードや木管低音、ストリングベースに至るまで充実したバンドを想定した作品です。Piccoloも2本必要なのですよ!我がバンドは”歯抜け”の限りですが上手く埋め合わせて作品の魅力を発揮した演奏をしたいと思います☆

投稿: 音源堂 | 2015年8月15日 (土) 21時45分

初めまして。
吹奏楽ファンです。この曲大好きです。
あと、ピアノ協奏曲もすごく綺麗な曲ですね。
チョット気になったのですが、最近NHKでやってるサンダーバードのアニメの音楽が、ナイジェル・ヒースって書かれてるのですが、この人の事でしょうか?

投稿: YU-KA | 2015年10月20日 (火) 21時06分

YU-KAさん、ようこそお越し下さいました。コメントを有難うございます!
お尋ねの件、新版(2015/4月)サンダーバードである”Thunderbirds are go"の音楽担当はベン&ニック・フォスターであり、「ナイジェル・ヒース」という方は”音響”の担当ですから、本作の作曲者とは別人と推測します。(英文クレジットがどこにも見あたらず、最終未確認ですが…。)

「イーストコーストの風景」は演奏していて実に楽しい曲です!私は今回実演の機会を得てとてもラッキーでした。

投稿: 音源堂 | 2015年10月20日 (火) 22時37分

お答えありがとうございます。
そうだったんですか。何気なく見てたら、カタカナ表記だったので、この人かなと思ってビックリしました。
イーストコーストの風景は春のような爽やかでのびのびした雰囲気を感じますね。次々出てくる聴かせどころが、ツボにはまって見事な曲だと思います。
あと、このブログは吹奏楽の宝箱みたいな所なんですね。これも驚きました。

投稿: YU-KA | 2015年10月20日 (火) 23時07分

身近に「実演」で音楽と接する機会をくれる吹奏楽は、私にとってとても大切なものです。拙Blogではそんな私の憧れと想い出、そして何よりも感動体験をお伝えしようとしております。今後とも我が「音源堂」をご贔屓のほど何卒宜しくお願い致します。

プレーヤーとして遅ればせながら目覚めた身としては、最近改めてJ.J.Johnsonにハマっています。素敵なTrombone Playerは数多居ますけれど、聴くほどに彼が特別な存在であることを感じ、彼の音楽の魅力に強く惹きつけられていくのを感じます。
ジャンルに囚われずにこれからもイイ音楽を探し、楽しんでいきたいと思っています♪

<追記>
確認できました。Thunderbirds are go の音響スタッフは Nigel Heath という方ですね。Hessとはやはり別人です。下記URLご参照下さい。
http://www.imdb.com/name/nm0372695/?ref_=ttfc_fc_cl_t14

投稿: 音源堂 | 2015年10月21日 (水) 09時21分

ヒースのこと詳しく調べてもらってありがとうございます。別人でしたか。チョット期待したのですがザンネン。
演奏した経験ってすごく貴重ですよね。私は楽器全然できないので、出来る人が羨ましいです。中学時代に合唱はやってたんですが、ほんとは吹部に憧れました。
トロンボーンは長いのですか? トロンボーンの曲で好きなのはアッペルモントのカラーズです。あと最近ハマってるのはジョン・マッキーですね。翡翠とかアスファルトカクテルとか聴きました。
最近アニメでやってた、響け! ユーフォニアムも良かったです。J.J.Johnson探してみます。

投稿: YU-KA | 2015年10月21日 (水) 21時34分

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