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2015年2月 4日 (水)

ラプソディック・エピソード

PhotoRhapsodic Episode
C.カーター (Charles Carter 1926-1996)


Charles_carter1960-1970年代を中心に、技術的には易しくしかし確りとした構成とサウンド、魅力的な旋律とモダンなリズムとを備えた愛すべき作品を多数吹奏楽界に提供したチャールズ・カーターの代表作。
1971年に作曲されると翌年直ちにCBSソニーの「ダイナミック・バンド・コンサート(吹奏楽コンクール自由曲集)」シリーズの皮切りとなる第1集に収録され、あっという間に大人気曲となった。邦訳標題としては「狂詩的挿話」がある。

急-緩-急のオーソドックスな吹奏楽の序曲形式の作品だが、シンコペーションを利かせた序奏部からしてサウンドやリズムにモダンさがある。ポップスさながらにフィルインを決める打楽器も聴かれ、若々しく溌剌とした曲想が当時の吹奏楽オリジナル曲としては大変新鮮な印象だった。演奏時間6分強の手頃なサイズに、そうした快活さと同時に美しく抒情的な旋律や楽句を詰め込み、コントラストにも富んだその魅力はなかなかのもの。
題名は“民謡風の旋律による小楽曲”あたりを意味するものであろう。

♪♪♪

冒頭(Allegro ♩=160)全合奏によるシンコペーションの鮮烈な楽句によるオープニング。これに打楽器ソリが応答し一旦静まるが、密やかながらもリズミックな音楽で序奏部を形成している。(冒頭画像)
打楽器のダイナミックなフィルインに導かれて主部に入り、
Trp. (+ Fl.、Ob.、A.Sax)によって快活な旋律がマルカートで奏される。
Allegro浮き立つような伴奏のリズムの魅力は絶品、そして前述のようにこの主部ではフィルインをキメる打楽器群が大活躍である。優れた音色でキレの良い
Timp.が聴きたいところであり、また全編に亘りシンバルも重要な役割を果たす。まさにセットドラムのシンバルをイメージさせる部分もあり、細かいダイナミクスの変化やアクセントのメリハリなど、奏者として実に聴かせどころが多くやり甲斐のある曲であろう。
旋律が反復されるとClarinet+Horn
による対旋律がこれを追うのだが、なかなか斬新で音楽をよりふくよかなものとしている。
Photo
快活な音楽に続いて、今度は心憎くもすぅっと力が抜けた嫋やかな楽想が現れる。各楽器の綾なすなめらかな応答が実に心地よい。
Photo_2これがスケールを拡大し厚いサウンドに包んで主部を再現し、ブリッジを挟み抒情的な中間部
Moderato(♩=72)へと入る。
ここでは美しくノスタルジックな旋律が存分に歌われるのだが、バックハーモニーを務めるTromboneがモダンな響きで対位的に動くのもとても新鮮で印象的だ。
Moderato緩やかな起伏を繰り返しやがて中間部の旋律が放射上に高揚、朗々と歌う
Trp.にリードされて感動的なクライマックスを迎える。
Climaxダイナミックなカーター・サウンドの余韻が静まってテンポを戻し、可愛らしいスタッカートのモチーフ提示に打楽器が応答するブリッジへ。ブリッジを締めくくるべく(練習番号
K2小節前)シンコペーションを刻みながらクレッシェンドし爽快に花開くクラッシュシンバルがとても素敵!
ほどなくカーター得意のカノンとなって楽曲に奥行きを与え、たっぷりとリタルダンドした高揚の後、ダル・セーニョして快活な主部の再現へ。音域を上げた
Codaに突入すると音楽はエキサイティングさを増し、最後はMaestosoとなって音価を拡大したモチーフが堂々たるユニゾンで奏され、全合奏のサウンドがクレシェンドして壮麗に曲を閉じる。
Ending


♪♪♪

所謂“小楽曲”であるが、カーターのさまざまな創意工夫とひらめきが随所に織り込まれている-それが感じられて已まないのだ。末永くもっと多く演奏されてしかるべき佳曲である。

音源は以下をお奨めしたい。
Cd山田 一雄cond. 東京吹奏楽団
楽曲の各部分をそれぞれに相応しく表現、明快なコントラストを描く秀演。主部の旋律は文字通りの“Trp.のマルカート”で奏され、打楽器群も細やかなダイナミックスの変化で活き活きと奏されるなどをはじめとして、全編を通じ明確に積極的な「表現」が感じられる。テンポや場面の切換え、リタルダンドやクレシェンド、デクレシェンドの設計にも全く迷いがなく、楽曲を確りと捉えた演奏となっている。
Cd_2汐澤 安彦(飯吉 靖彦)cond.
フィルハーモニア・ウインド・アンサンブル
自然な音響の録音であり、確りと設計されたゆえのスムーズな音楽の流れが印象に残る。主部に挿入された“嫋やかな楽想”において、各楽器の応答する楽句が実に滑らかに繋がっていくさまなどはとても音楽的。中間部においては
Trp.が実によく歌い、感動的なクライマックスを形成している。後半ややバテ気味な部分はあるが、テンポや場面の切換えも澱みない好演。

  【その他の所有音源】
     木村 吉宏cond. 広島ウインドオーケストラ
     丸谷 明夫comd. なにわオーケストラル・ウインズ(Live)
 

♪♪♪

「ラプソディック・エピソード」のような曲は“安易に”演奏されがちだと思う。…そんなに「難しく」も「深く」もないし、指定テンポで正確に揃え、音程合わせて、ともあれ楽譜通りに演奏してるでショ?…となってはいまいか。この曲の魅力を伝えようという「表現」が置き去りになってはいないか?
既に述べた通り、カーターはさまざまな魅力を詰め込んでこの曲を送り出したというのに?愛すべきこの曲が”愛されている”ことの伝わってくる演奏を聴きたいものだ。

この曲に限らず、そしてプロ・アマ問わず、最近耳にする吹奏楽の演奏は一言で云って「表現不足」に起因する「つまらない・面白くない・感動しない」ものが本当に多い。もちろん「楽曲自体の問題」もあるのだが、多くは「演りよう」次第だと思う。
曲中どんな楽想が現れても変化なく一本調子だったり、ダイナミックレンジが狭小だったり、場面やテンポの転換が成行任せだったり逆に実にわざとらしかったり、ましてや「ニュアンス」なんてとてもとても…。スケールの小さな演奏と感じられるのも、積極的な表現に乏しいことが起因していると思う。テクニックは「表現」するために磨いているはずなのに…。

まず楽曲ごとに異なる「魅力」を的確に捉えているだろうか?そしてそれを表現するための設計と、これを実現する努力とをギリギリまでやっているだろうか?「こういう風に演奏しなきゃ許されない」というこだわりは?そして上品に個性を込めることで、更に演奏の魅力を高めようとしているだろうか?

楽曲をどのように「表現」するか- それが伝わる演奏と出遇って感動したい!それが私の常にして切なる願いだ。
「表現しようとしない」アマチュアの演奏なんてただ下手なだけ、何の価値もない。-演奏者の端くれとしてはそう自戒している。

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コメント

五十路の私が中学二年生の頃に吹いた名曲です。とにかくラッパがカッコよく、音源である飯吉氏のフィルハーモニアウィンドのレコードをすり切れるくらい何度も聴いたものです。カーターと言えば、序奏とカプリス、バンドのためのファンタジー、クイーンシティなんかコンクールで良く演奏されてましたね。当時の地区大会は中学校の体育館だったのでカーターの曲を聴くと体育館独特のほこりっぽい匂いを思い出します。

投稿: あおがえる | 2015年2月 8日 (日) 08時49分

あおがえるさん、コメントを有難うございます。まさに懐かしの名曲ですよね!そうなんです、カッコいいんです♪
この曲のカッコ良さを表現した演奏が聴きたいな、という思いが募って本稿となりました。
ぜひ自身でも演奏してみたいです!

投稿: 音源堂 | 2015年2月 8日 (日) 17時16分

あおがえるさんも書いてらっしゃいますが、この曲は単純に「カッコいい」ですね。
変な例えですが、子供の頃に流行った巨大ロボットアニメのテーマソングみたいなw
でもそこはさすがチャールズ・カーター。氏独特の美しいメロディも光っていますね。

ご紹介の音源は二つとも持っていますが、私的にはなんといっても山田一雄/東吹版に
軍配をあげます。この録音がまた単純に「カッコいい」んですよね♪

投稿: HARA-P | 2015年2月 9日 (月) 11時53分

HARA-Pさん、久し振りの出稿^^;)でしたがコメントを有難うございます♪
この曲、パーカッションはどのパートもえらく楽しいのではないですか?それこそHARA-Pさんだったら嬉々として奏されるだろうなあと想像していましたヨ。^^)

投稿: 音源堂 | 2015年2月 9日 (月) 12時34分

すっかりご無沙汰しておりまして、久々の投稿でございます。

狂詩的挿話いいですよね。
西部劇が好きな家族からその手の音楽を沢山聴かされていたこともあってか、リズムがなんとなく西部劇の「荒野の七人」を彷彿させられた記憶があります。それはともかく、コーダからの盛り上がり(練習記号Nあたり)が最もお気に入りですね。
ご紹介の音源は両方とも所持してますよ(^_^)

それはそうと話はそれますが、かつて体育館で地区大会が行われていたこともありましたね。県大会ではありますが私にも経験がございまして、ライブ録音されたレコードを聴くと雨の音が混じっていたりして、音楽とは別な意味でよい思い出になりました。

投稿: mitakasyun | 2015年2月 9日 (月) 15時16分

mitakasyunさん、暫くです!いやいや私の方こそ4ケ月ほども出稿できずにおりました。久々の久々にBassからTenorに戻り、昨年末のコンサートでは35年くらいぶりにスタンドでSoloも吹くというので、とにかく必死に練習しておりまして。^^;)その後も楽器を新調したりで吹くことにかまけ?なかなか執筆できず…でした。

「ラプソディック・エピソード」は理屈抜きに楽しめる名曲ですよね。でもその楽しさも「表現」なしには伝わらない-つくづくそう感じた次第です。

投稿: 音源堂 | 2015年2月 9日 (月) 17時19分

音源堂さん、レスありがとうございます。

「表現」なしには伝わらない。全くそうだと思います。
難易度はそんなに高くなくてもいいから、もう少し曲を掘り下げた演奏が聴きたいものですね。難しい曲ばっかりだと音符追いかけるのに手一杯なんじゃないかな~。私が偉そうなこと言える立場じゃないんですが、そんな余裕のない演奏がチラホラ見受けられるような感じがしてます(^_^;

話がそれますが、私も一昨年楽器を新調しました。
TrbからEuphに持ち替えて数年。未だに試行錯誤の毎日です(笑)

投稿: mitakasyun | 2015年2月10日 (火) 15時15分

mitakasyunさんも楽器を新調されていたんですね!年取ってから(?)買った楽器って、一段と可愛くないですか?^^)すっごくまめにメンテしている自分が自分でも信じられません。(爆)

さて最近のコンクールなど聴いていますと、細やかな「表現」で勝負できないから、演っただけで「すげー」ってなる超難曲を好んで選んでいるような印象があります。その方がある意味ラクなのかも、と勘繰ってしまいます。
簡単な曲だと「流して」しまいがちとも感じるんですよねー。

過去には単に「巧い」とは違って、いい演奏だったなあと思えるものと少なからず出遇ってきました。私はそれを敬意を込めて「ハートのある演奏」と呼んでいます。また「ハートのある演奏」が聴きたいと心から願っています。

投稿: 音源堂 | 2015年2月10日 (火) 16時03分

初めてコメントさせて頂きます。
表現…しきれていなかったなぁ、と今になって思いますが、高校時代(80年代)の最後の最後に演奏した曲がこれなので、思い出深い曲です。

投稿: absolute | 2015年2月24日 (火) 00時21分

absoluteさん、ようこそお越し下さいました。そしてコメントを有難うございます!
楽曲は「演奏する」ことで”特別なもの”になりますよね。しかもその楽曲の魅力が高ければ高いほど、存在は自分にとって想い出深いものに…。そういう出遇いをもっとしたいものです。

「表現」するのは本当に難しい。そのために一定以上のテクニックは必要ですし、相当努力したつもりでも全然至ってないなんてこともしょっちゅうです。
でも私は絶対にあきらめません、ってことなんです。巧くたって感動のない演奏は実際に頻繁に耳にします。それよりは「伝わる」演奏に価値がありますから。
目指すところを見失うことなく、たとえ僅かずつでも努力を積み重ねていきたいです。

投稿: 音源堂 | 2015年2月24日 (火) 07時52分

ご無沙汰しています。「ブラバンKISS」です。
管理人さんも変わらず、アグレッシブに音楽に取り組んでおられるようで、何よりです。お励みくださいませ。
さて「ラプソディック・エピソード」ですが、私も高校時代のオフシーズンに取り組んだ事があります。
まさに、「simple is best」のお手本のような、佳曲だと思います。もちろん、私も時折思い出しては、所有のCDを愛聴しています。近年のコンクール演奏や商業用CDの感想は、管理人さんはじめ、皆さんの実感と同様ですが、それにしても、録音の状態も格段に良くなり、演奏技術も格段の進歩を遂げたと認めざるを得ません。
が、音楽の本質は、その先(向う側)にあるのだと云う事が、尚更分かる今日この頃です。
カーターのこの楽曲はそういった事を、回帰させてくれ、今でも、心と記憶に残っているすばらしい音楽ですよね。私も、この曲に出会えて、本当に良かったです。
しかし、もっと腰を据えて、音楽を感じながら、思いを込めた演奏に出会えないものでしょうか。故、中澤先生の言葉「音楽は心」。アマもプロも関係なく、まさに至言だと思います。

投稿: ブラバンKISS | 2015年3月 2日 (月) 21時08分

追伸。
ちなみに、同氏の作品「Bold city」の、音源をさがしていますが、なかなか出会えません。心当たりがお有りでしたら、ご教示くださいませ。それと、ほかで、邦題が「勇気ある町」という、表記も見られますが、「?」。
「Bold」って、そんなニュアンスかなあと・・・。結構、作曲者名や作品名って誤記も多いし・・・。
こちらのサイトのように、内容もしっかりと理解され、詳しくご紹介されているところは、稀ですから・・・。いつも、敬意を表します。

投稿: ブラバンKISS | 2015年3月 2日 (月) 21時22分

ブラバンKISSさん、コメントを有難うございます!
はい、音楽を「聴く」のも「演る」のも頑張っていきます☆

Bold City ですが、CBSソニーから随分昔に発売されていた「阪急百貨店吹奏楽団インコンサート」というLPに収録され、その演奏が同じくCBSソニーがその後に発売した「チャールズ・カーター作品集」というコンピレーション盤にも収録されていたと思います。出版社チャーター自体が買収されて存在せず、譜面も絶版ですのでデモ音源もなく、おそらく上記LPしか音源が存在しないと思われます。

これらのLPは時折Yahoo!オークションに出品されていますよ。(「阪急百貨店吹奏楽団インコンサート」はマドモアゼル・アンゴー / ルコック作曲なども収録された興味深いアルバムだったと記憶していますが、私も入手はしておりません。)

ざっと調べたところでは、1967年にアメリカ・フロリダ州最大の都市ジャクソンビルが、行き詰まった当時の市政から脱却すべく住民投票を経て市郡合併を断行した際に”Bold New City of the South”と呼ばれるようになったとのことです。即ちBold Cityはジャクソンビルのニックネームなんですね。カーターはフロリダ州立大学で永く教鞭を執っていましたから、連関も合点がいきます。
このニックネームの由来を意識してカーターが作曲したのなら「勇気ある街」でもおかしくはないかもしれません。
(なにぶん、私もBold Cityという曲に詳しくないので、この程度ですみません。)

投稿: 音源堂 | 2015年3月 3日 (火) 09時24分

Bold Cityとはまた懐かしい(o^-^o)
昭和53年の宮崎県大会では何校か演奏していましたよ。全国的にも県大会などではよく演奏されてたんじゃないかなぁ。

当時中学1年生だった私はこの宮崎県大会のライブレコードを持っているのですが、プレーヤーがおシャカになってしまってもはや聴く術はございません(笑)

投稿: mitakasyun | 2015年3月28日 (土) 15時09分

mitakashunさん、コメントを有難うございます。
…実はつい先日Bold City収録の「阪急百貨店吹奏楽団インコンサート」を入手しました。しかしながら聴くのは当面先になりそうです。LP音源をポツポツ買い足しており、ある程度まとまったらまたデジタル音源化の発注をしたいと思っているので…。その時が楽しみです!

投稿: 音源堂 | 2015年3月29日 (日) 10時49分

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