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2013年1月23日 (水)

キンバリー序曲

PhotoKimberly Overture
J.スピアーズ(Jared Spears 1936
 

今では信じられないことだが、大昔は吹奏楽コンクールでの演奏を会場にて録音しても問題にならなかった。「生録(ナマロク)」ブームを巻き起こしたSONYカセットデンスケの登場が1973年-その頃までは録音機材を持つアマチュアも少ない時代で、権利関係や操作ミスによる雑音発生などに目くじらを立てる必要もなかったからかも知れない。
中学の吹奏楽部の大先輩の一人がその当時に西部(現九州)吹奏楽コンクールの演奏を録音し残してくれていた。おかげで音源も少なかった時代にレコード録音が存在しないものも含め、さまざまな曲を聴くことができたのは本当に有難いことであった。(大好きな曲なのに全くレコーディングされておらず、私にとってはその録音でしか聴いたことのない曲も未だにあるのだ。)

そして- 曲も色々だが演奏も色々、各バンドの思い入れが伝わる演奏は現在のレベルに比べれば拙いが、そんなものを超えて音楽的興味をそそる個性を持つものも多かった。

「キンバリー序曲」を初めて聴いたのもその録音だ。当時まだ小編成(B)の部が開催されていた西部大会にて北九州市の中学が演奏していたのだった。この曲一番の素敵な旋律が出てくる部分(練習番号C及びIから各6小節間)ではAllegroにもかかわらずぐっとテンポを落とし、存分に歌うという非常に大胆な解釈で奏されていたけれど、このバンドがそこを大好きで入れ込んでいることが伝わる演奏であり、強く印象に残っている。

また、他校のこうした演奏をいつまでも残したくて、何度でも聴きたくて懸命に録音した先輩とその仲間(中学生)たち
が、眼前の演奏に熱いハートで接していたさまも目に浮かんでくるのである。

♪♪♪

Lp「キンバリー序曲」(1968年)は吹奏楽レコードの草分けであるCBSソニーの「吹奏楽コンクール自由曲集 ダイナミック・バンド・コンサート Vol.1」に収録され、1970年代を中心に人気を博した作品である。



Jared_spears作曲したジャレッド・スピアーズはこの「自由曲集」シリーズに多くの楽曲を提供したことで本邦でも有名な作曲家となった。

題名の「キンバリー」について詳細は不明である。
「キンバリー」は英語圏の女性の名前としてはかなり一般的なものであり、この序曲がスピアーズのお嬢さん=マーシャのために書かれた作品であることからすれば、マーシャのお友だちか、或いは大事にしていたお人形の名前あたりに因むものではないかと私は推定している。いずれにしても、お嬢さんへ愛情を込めてプレゼントされた楽曲であることは間違いない。

    ※南アフリカ共和国に「キンバリー」というダイヤモンド採掘で有名な街があり、
      またそれに準えて命名されたオーストラリア西部の同名都市もあるが、とも
      に”Kimberley”とスペルが異なっており、無関係と推定される。
      曲名と同じスペルの”Kimberly”としては、製紙とそこから派生したヘルスケ
      ア用品製造を手がける米国大手企業キンバリー・クラーク(Kimberly-Clark)
       社と、その創業者に因んで名付けられたウィスコンシン州にある村の名前
      くらいしか見当たるものはない。しかしスピアーズの経歴にウィスコンシン州
      での活動は登場せず、そこにお嬢さんとの特別な想い出があるようにも思え
      ないので、これも無関係なのではないだろうか。


♪♪♪

序奏部はAllegro 2/4拍子、中低音によってモチーフがダイナミックに奏され、カウンターのTimp.が小気味良いオープニング。(冒頭画像)
輝きを放つ木管のトリルとともにモチーフが発展し高揚するとリズミックな第1主題が現れ、中低音のカウンターと交互に繰返される。これがスネアのリズムで静まると、シンコペーションを効かせたモダンな伴奏が聴こえてくるのだが、これがとても洒落ていて私は大好き!
Photo_2この伴奏に乗って水晶のような透明感のある第2の主題をClarinetが奏し、
Cl_2さらにFlute、Oboe、E♭Clarinetも加わってオクターブ上で歌い上げると、キラキラと水しぶきがはじけ飛ぶような楽想がこれに続く。
Photo_3爽快なサウンドの中で2つの美しい旋律が絡み合うさまには、思わず心がときめいてしまうのだ。

緊張感とダイナミクスを高めたブリッジを挟み第1主題が戻ってくるが、今度は濃厚なサウンドと鳴り響くドラで仕舞われ、Trombone→Cornetと受継ぐSoliにより鎮まって中間部のAndante 4/4拍子に入る。
ここでは落ち着いた雰囲気へと変わり、やや内省的で憂いを帯びた旋律が歌い出す。
Photo_4幻想的な木管低音の響きとTimp.の密やかなSoloとで一旦遠く消えていくのだが、Clarinetの低音が再び歌い出して音楽は徐々に高まり、やがてテュッティとなってサウンドも暖かさを増していくのが実に印象的である。

フェルマータで迎えたその頂点の次には、柔らかにまばゆい、昇りゆく朝日をイメージさせる幅広い音楽となってブリッジを形成し、Allegroの再現部へ。
Gもう一度リズミックで爽快な楽想を繰返して楽しませた後、冒頭のモチーフを応酬してコーダに入り、パーカッションSoliを挟んで最後まで快活なままに曲を閉じる。

急-緩-急のオーソドックスな構成によるシンプルで愛らしい、技術的には易しい小品だが、美爽な旋律に満ち、ハーモニーを活かした効果的な楽句を要所に配した佳曲だ。聴いていると「おっ、いいなぁ!」って幾度もワクワクさせられる、私のお気に入りである。現在は楽譜の入手も困難となっているが、この曲もまた忘れ去るのは惜し過ぎる作品と思う。

♪♪♪

唯一の録音が
Cd飯吉 靖彦(汐澤 安彦)cond.
フィルハーモニア・ウインド・アンサンブル

の演奏である。よく歌い、曲の魅力を発揮させた好演だが、ぜひ他の演奏でこの曲を聴いてみたいとも思う。

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コメント

音源堂さん、こんにちは。
はじめまして!

キンバリー序曲、とても懐かしいです。
音源堂さんがご紹介下さっている、正にそのLPを父が買って所有していました。
しかし、音源や音響機器類をこよなく大切にしている父は、滅多に聴かせてはくれませんでした。
なので、父の留守中に勝手にコッソリ聴く時間が、私にとっての至福の時でした(笑)

このキンバリー序曲を、初めて聴いた時は、「なんてカッコいい曲なんだ。日本人の感性じゃ絶対作れない」などと、偉そうにそう思ったものでした。

吹奏楽に触れ始めたばかりで、駆け出しのクセに、そんな不尊な思いのまま、中学の吹奏楽部顧問に「この曲を吹きたい」と要望したところ、先生も先刻ご承知で、「お前たちが全く出来ていないこと(歯切れとか歌うとか揃えるとか)ばかり求められる曲たぞ。折角カッコいい曲を、わざわざカッコ悪く演奏してどうする?」と、曲の方が可哀想だと言わんばかりにピシャリ!

その時初めて、作品に向き合う姿勢を学んだような気がしますが、これも今では懐かしい思い出です。

最近、この曲を生で聴きたくなっていますが、どこもやらないでしょうね…
第一、楽譜の入手が困難かと。
手に入れることができたら、どこかの学校に持ち込んで、演奏会のレパートリーにお願いしてみたいところです(笑)

投稿: 昔のホラ吹き | 2013年9月 9日 (月) 11時54分

昔のホラ吹きさん、コメントを有難うございます。
この曲は出版社自体が今はもう存在していないようなんです。作曲者スピアーズはご健在ですが、楽譜の権利関係は複雑なことになっていることが多いので、再販が難しいのかもしれませんね。

投稿: 音源堂 | 2013年9月 9日 (月) 20時56分

音源堂さん、お久しぶりです。
先日、この曲の楽譜(購入譜面)を、奇跡的に入手しました!

まるで宝物を触るようにして封を開けると、早速カビ臭が…笑

でも、大切にしたいと思います。

投稿: 昔のホラ吹き | 2014年1月24日 (金) 12時14分

昔のホラ吹きさん、良かったですね!
うれしいお気持ち、我が事のように感じられます。次は実演できるといいですね!

(コメント修正しておきました。わざわざ恐れ入ります。)

前の方のコメントにお返ししましたように、本Blog当面お休みします。

投稿: 音源堂 | 2014年1月24日 (金) 12時37分

大変なご決断をされ、たまたま一時的にOPENされただけなのを知らずに、能天気な書き込みで申し訳ありませんでした。

もったいなくて、もったいなくて、更新はされなくても、閲覧だけでいいから、閉鎖はしないで欲しいと勝手に願うばかりです。
これまでたくさんの、貴重な情報や音楽に対するご意見・お考え等々、本当にありがとうございました。(お返事ご無用です)

投稿: 昔のホラ吹き | 2014年1月24日 (金) 19時25分

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