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2012年12月28日 (金)

イーグルクレスト序曲

PhotoEaglecrest -An Overture
J.C.バーンズ
(
James Charles Barnes 1949- 


James_barnes_portrait「パガニーニの主題による幻想変奏曲」「呪文とトッカータ」「アルヴァマー序曲」や吹奏楽のための7つの交響曲で高名なジェームズ・バーンズが作曲した序曲「イーグルクレスト」(1984年)は、幾つもの面で究極の”典型”な楽曲である。
即ちまず第一に吹奏楽オリジナル曲の、第二にアメリカ的なセンスの、そして第三にバーンズの序曲としていずれにおいても”典型”と云える作品なのである。

急-緩-急のシンプルな3部形式・厚く充実したサウンドと豊かなダイナミクス・ラッパ群の特質を活かしたカッコイイ旋律とカウンター・「管」の息吹の感じられる中間部を併せ持つところなどは吹奏楽オリジナルの極致だし、また「勇壮」と「甘美」という判りやすい魅力をコンセプトとして、ド派手でストレートに伝えてくる明快さは如何にもアメリカ的。そしてそれらをモダンな”バーンズ色”できっちり料理した作品であり、バーンズの美点、手法が惜しみなく投入されている。そうした全ての”典型”を、ナルシスティックなまでに極めた怪作なのだ。

    ※1986年頃、まだ学生だった私が深夜にぼんやりテレビを見ていたら
       「中央競馬ダイジェスト」で馬たちが力走するレースの模様が映し出
       される中、この曲がBGMで流れてきたので驚いた記憶がある。明快
      な曲想と力感のある勇壮さが見事に画面と合致していた。因みに
      この時期、同番組ではオープニングに「チェストフォード・ポートレー
      ト」(スウェアリンジェン)を使用していたから、番組制作側に吹奏楽
      関係者が居たのかも…。


Photo_2標題の「イーグルクレスト」とは鷲の紋章を意味する。
アメリカという国家の象徴たる国章(左画像)もその一つであるし、鷲の紋章はそれに止まらず広くアメリカ社会の中で親しまれ、さまざまな団体の象徴となっている存在である。


Walt_whitman_1854また、バーンズは標題の下にウォルター・ホイットマン(Walter Whitman 1819–1892)による「鷲のたわむれ」という詩の一節を掲げている。(冒頭画像参照)
楽曲はこの詩の内容を直接的に辿るものではないが、標題にしろ、アメリカ文学の象徴であるホイットマンの詩を掲げたことにしろ、そこから感じられるのは、やはりバーンズの念頭にアメリカへの愛情・愛着があって、この曲が誕生したのだろうということだ。

    ※「鷲のたわむれ」
      ホイットマンの代表作「草の葉」に収録。詳細は下記リンクを参照
      いただきたいが、一つがいの鷲の”愛の戯れ”を描写的に詠った
      ものである。作者の日常風景の中に飛び込んできた高く、速く、激
      しい野生の愛の交歓への驚きと、そのあり方をそのまま認め受け
      入れる作者の視点が感じられる。卑小なものにも偉大なものにも
      区別を認めず、どんな形であれ存在するものをそのままに肯定し
      愛着する特異な感性を有した、と評されるホイットマンらしい作品と
      云える。この
”全ての個別への愛着”(これは強い自己肯定でもあ
      る)が”全体という理念”に帰着し、ホイットマンにアメリカという国の
      ダイナミズムへの期待をもたらしたという分析もされている。

      詩集「草の葉」こそは、アメリカが生み出したものであり、アメリカを
      してアメリカたらしめている根源とも評され、文字通りアメリカに根ざ
      し、アメリカを象徴するものと捉えられているのである。

      原文及び訳文:「eagleswhitman_rev.jpg」をダウンロード


      【参考・出典】
       「対訳ホイットマン詩集」(木島 始 編/岩波文庫)
       「草の葉」上・中・下 (ホイットマン 作 酒本雅之 訳/岩波文庫)


♪♪♪

シンバルに続いてTrumpet(+Horn. Euph.)が主要旋律のモチーフを奏で、これに金管中低音の豊かなサウンドが受ける華々しいAllegro risoluteのオープニング(冒頭画像)。木管楽器のアルペジオをバックに、モチーフがカノンで奏される序奏部がダイナミックに高揚すると、ついに堂々たる旋律が全容を現す。
Photo_2リズミックで鮮烈なカウンターを伴うここの楽想は実に力強く、「勇壮」という言葉が良く似合う。テンポの速過ぎない、スケールの大きな演奏が好ましい。
リズミックな経過句で一旦静まるのだが、この緊張感のある経過句は曲中の要所で効果的に使われている。
Photo_3ここでも重要な役割を果たしているのがTimpaniであり、全曲に亘ってその存在は非常に大きい。音色とセンスの優れた奏者が求められよう。

続いて木管と鍵盤打楽器のアルペジオが今度は雄大なサウンドを醸し、拡大された旋律がHorn(+Euph.、T.Sax、Fagotto)によって伸びやかに奏される。常套的な手法だが感動的である。転調して旋律がTrp.+Trb.へ移り高揚した後、Trb.のファンファーレ風のハーモニーに導かれリズミックな楽想となり、再び転調して勇壮な旋律が再現される。
経過句を挟みいよいよ前半のクライマックスへ進むが、ここでバーンズはなんと全合奏のカウンターに対峙して低音群に旋律を奏させる。
Tuba豪壮なTubaの音色(破裂音ではなく)が聴けたなら感涙間違いなしだ。

ファンファーレが劇的に高揚し頂点でドラが轟きブレイク!Timp.のダイナミックなソロもすぐに静まって、興奮を鎮める”鐘”をHornが打ち鳴らし中間部Adagioへ向かう。
AdagioここではVibraphone - Fagotto - Oboeと移ろう音色の配置が実に巧みだ。

そして甘美さを極めたAlto Saxソロがやってくる-。
Asax何というセンチメンタルでスィートな…!この夢見る旋律を品良く、しかし充分に歌ってくれたらうれしい。
これを受けて音楽はさらにロマンティックに発展し、ついには全合奏で歌い上げていくのだが、Piccoloも効かせた木管楽器の対旋律は究極のセンチメンタリズムを示し、豊かなバンド・サウンドと幅広いフレーズに包み込む感動的なクライマックスを迎える。
Photo_4幻想的なAdagioの終わりも、その始まりに呼応したHornの”鐘”で締めくくられ、再び経過句を挟んでコンパクトな再現部となる。

ダイナミックな曲想を呼び返した後は、今度は経過句をテンションの高いTrp.の音色で奏させることにより華やかさと緊張感を押し上げて舞台を調え、そこにHornが終幕への歌を高らかに歌う。
Horn最後まで重厚なサウンドの響きわたるエンディングである。

♪♪♪

”典型”的であるということはデフォルメの要素も帯びているということで、この曲はまるで星条旗柄の帽子と衣装を纏ったアンクル・サム(或いはイーグル・サム)のようでもあり、やや気恥ずかしい感じはあるのだが、それでも私はこの曲が大好きだ。
同じ楽句や同じ楽器の音色を、巧みに変化をつけつつも呼応させることで全編に統一感のある楽曲に仕上がっているので、ストレートな”カッコ良さ””スィートさ”を品良く伝えられたなら理屈抜きに愉しい音楽になると思う。

     ※アンクルサム(Uncle Sam)
      アメリカを擬人化したと云われるキャラクター。衣装はアメリカ国旗そのもの
      (ウルトラスターハットにスタータキシード、というらしい^^)であり、1800年代
      からアメリカの愛国心を象徴し、鼓舞する存在であった。
      イーグルサム(Eagle Sam)は1984年のロサンゼルス五輪マスコットキャラク
      ターで、アンクルサムのコンセプトをこれもまたアメリカの象徴である鷲に纏
      わせたもの。
      画像参照
「UncleSamEagleSam.jpg」をダウンロード

この曲の演奏において一番イケナイのはうつむいたり、逆の意味で格好つけてスカしたりといったこと。CDやネット上の動画で耳にするこの曲の演奏は、実は多くが全然カッコ良くない。こうした曲を軽く見る傾向は吹奏楽界の浅はかさを物語るわけだが、如何にもカッコイイ曲をカッコ良く演奏するのにも技術が必要だし、センスが必要なのだ。「品」を失ってはいけないが、楽曲の特質を的確に摑んで、それぞれを”それらしく”表現しなければちっとも愉しくない。

音源は以下をお奨めしたい。
Cd汐澤 安彦cond.
東京アカデミックウインドオーケストラ

楽曲の魅力を大きく捉え、メリハリをもって示した演奏。スケールが大きく、この曲に要求される「推進力」に満ちている。



    【その他の所有音源】
     汐澤 安彦cond. 東京佼成ウインドオーケストラ
     木村 吉宏cond. 広島ウインドオーケストラ
     ジェームズ・バーンズcond. カンザス大学吹奏楽団

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コメント

はじめまして!
いつも拝見させていただいてます。
バーンズの知られざる名曲(と思っています)
が紹介されている嬉しさでコメントしてしまいました(笑)

個人的にはバーンズの書いた序曲では一番良い曲だなと思います
最初に聞いたのが東京アカデミックの音源だったために最近の出版の都合でだらしなく演奏されている音源には私も残念におもっていたところです……。

アルヴァマーの代わりにもっと演奏されるべきです!!!(笑)(笑)

投稿: ほし | 2012年12月30日 (日) 01時52分

ほしさん、ようこそお越し下さいました。
イーグルクレストのような曲を「中身がない」とかってしたり顔のヒト、吹奏楽界にちょくちょく居るんですが、ダメだなあって思いますね。
この曲はとにかく旋律が魅力的です。旋律に魅力があるということは旋律に構成力があるということで、ひいては楽曲そのものにも構成力が期待できるということなんです。

もちろんバーンズはとても確りした手腕があり、こういう明快な曲であっても昨今の邦人作品などに結構見られる拙さ、うんざりする無意味さみたいなものは全く無いんです。とにかく素敵な曲ですし、こういう曲は個人的な思いで云うと「振ってみたいなあー」って思いますね♪

またぜひ、お気軽にコメントをお寄せ下さい☆

投稿: 音源堂 | 2012年12月30日 (日) 02時18分

この曲は、大学四年のコンクールで演奏しました。懐かしい曲です。パートはトランペットでしたからかなりハードでしたがカッコイイ曲でしたね。音源堂さんの取り上げる曲は、いつも私の好みの曲と合致してますから楽しく拝見しています。いつかリードのインペラトリクス、リランド・フォースブラッドの作品、ラ・ガッシーの海の肖像など取り上げていただけると嬉しいです。

投稿: あおがえる | 2013年11月29日 (金) 06時32分

あおがえるさん コメントを有難うございます!
まさに「カッコイイ」の一言に尽きるこの曲、「カッコよく」演奏したいところですが難しいんですよねー。

現在仕事が忙しくなってますのと、所属している楽団の演奏会本番が近付いている状況下、ちょっと大型(?)の稿を執筆中でしてなかなか更新できておりません。他の執筆予定稿も大幅に遅れております。
「海の肖像」「エレクトラ」はぜひ採り上げたい楽曲です。叙上の状況ですのでupできるのはかなり先になってしまうかもしれませんが…。(「インペラトリクス」もとても良い曲ですが、リード作品は採り上げ予定のものがまだズラリとありまして…。)

今後とも拙Blogをご贔屓のほど宜しくお願い致します。

投稿: 音源堂 | 2013年11月29日 (金) 11時01分

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