« SHURE SE535 V-J (2011.4.16.) | トップページ | ウェールズの歌 »

2011年5月22日 (日)

リートニア序曲

PhotoLeetonia Overture
ハロルド・L・ワルタース
(Harold Lawrence Walters 1918-1984)


今となってはまさに”レトロ”な用紙と印刷- 私と同世代かそれ以上の年代の吹奏楽経験者だと、そんなRubank社の(或いは日本版=共同音楽出版社の)譜面の数々にお世話になった方も多いと思う。

Walters_portrait_2「リートニア序曲」(1957年)の作曲者ハロルド・ワルタースはアメリカ海軍軍楽隊のテューバ奏者・アレンジャーを経て自立し、後にこのRubank社専属となった作編曲家で、送り出した楽曲は1,500曲にのぼるともいわれる。
その盟友ポール・ヨーダー(Paul van Buskirik Yodar 1908-1990)とともに1950-1970年代の吹奏楽レパートリーを支え、現在の吹奏楽隆盛の礎を築いた功労者の一人であり、その作品は本邦でも広く演奏された。
技術的には平易でかつ安定感のあるサウンドを持ち明快なその音楽は、常に教育的見地に立ったものと云えるが音楽の本質に適ったものばかりであり、聴いていてもとても愉しい。

  ※英語の発音としては”ハロルド・ウォルターズ”あたりが適当と思われるが、
    本稿では永く慣れ親しまれた”ワルタース”を採用している。本邦では”ワル
    ターズ””ワルター”といった表記も見られる。


Walters_5th_army_band「ジャマイカ民謡組曲」「日本民謡組曲」「マリアッチ」「西部の人々」「コパカバーナ」「ジャングルマジック」「フーテナニー」「インスタント・コンサート」…アメリカのみならず全世界の民謡やリズムが吹奏楽曲になっており、実にヴァラエティに富む。そこにはワルタース自身の幅広い音楽的興味とともに、おそらく”若い奏者たちをさまざまな地域のそれぞれ個性ある音楽に触れさせたい”という思いがあったに違いない。
(上画像:アメリカ第5陸軍バンドとレコーディング中のワルタース)

♪♪♪

「リートニア序曲」はワルタースの作品中、最もがっちりとした骨格と充実したバンド・サウンドを持つ楽曲で、彼の代表作の一つと云えるものである。
作曲の経緯等を詳しく示す資料は見当たらない。かつては「ギリシャ神話に由来するのではないか」との説もあったが、実際にはアメリカのオハイオ州コロンビアナ郡にあるリートニア村(標題に同じ Leetonia)と関係していると考えるのが自然である。おそらくワルタースはリートニア村自体、或いはこの村で活動するバンドから作曲委嘱を受けたのであろう。
北アメリカ”五大湖”の一つであるエリー湖に接し、北側にカナダを望むオハイオ州-その東北部に位置するリートニア村は、南北戦争直後の1869年に創設されている。史跡と自然に恵まれた、人口2,000人(2000年時点)ほどの村だそうである。

  ※リートニア村HPはこちら。尚”リートニア”とは、かつてかの地にあった製鉄・
       製炭会社の創業者の名に因んだものとのこと。


♪♪♪

スケールの大きなMaestosoの序奏(冒頭画像)に始まり、直ぐにAllegro con brioの主部- Euph.(+木管低音)とCornetが掛け合う真摯な表情の第一主題だ。
Photo_4これが2度繰返されると、長調に転じ快活で勇壮な低音群の主題に引き継がれ、前半のクライマックスとなる。
Photo_5そして続く中間部のWaltzがとても愛らしく、美しい!
WaltzClarinet低音の豊かな音色を巧みに活かしており、このことはClarinetが伴奏に回った途端に一層強く感じられる。
Waltz_2夢見るようなワルツが終わり再び険しい表情を挟むと、今度は憂いに満ちた旋律が木管楽器に現れ、Euph.(+ T.Sax, Fag.)の対旋律とともに存分に歌う。
この旋律が長調に転じ金管群によって高らかに奏され、遂に全曲のクライマックスへ。
Photo_6サウンドに濃厚さを増し、堂々たる足取りのコーダで曲を閉じる。

♪♪♪

形式・手法とも常套的な作品だが、優美だったり溌剌だったりと豊かな表情を持つ旋律を備えており、且つ確りとした聴かせどころを有した佳曲である。

音源は
Cd朝比奈 隆cond. 大阪市音楽団
をお奨めする。
明確な構成の、メリハリが効いた好演で各楽器の音色配置や場面場面の表情の変化なども丁寧に演奏されている。


   【その他の所有音源】
     山田 一雄cond. 東京吹奏楽団


♪♪♪

当時あれほど愛されたワルタースの作品だが、その数の多さとはうらはらに、録音は非常に少ない。その希少な録音の中で、代表的なものにも触れておこう。

Lpハロルド・ワルタース
& B. G. クックcond.
アメリカ第5陸軍バンド

本人の吹奏楽作編曲家生活25周年を記念した”ワルタース作品集(LP)”。
「マリアッチ」「日本民謡組曲」「ジャマイカ民謡組曲」「リングマスター・マーチ」の自作自演を含む、全11作品を収録。

Photo指揮者不詳
ザ・グレート・アメリカン・
メインストリート・バンド

”サーカス音楽の100年”と題されたこのアルバムには「コパカバーナ」を収録。これはサンバのリズムによる愉快な小品で、サーカスでのジャグリングを想起させる楽曲。
この他にもサーカス音楽を多数収録しているが、”サーカス音楽”もまた吹奏楽の一形態だったことを、改めて感じさせる一枚。

Photo_2成田 俊太郎cond.
航空自衛隊南西航空音楽隊

おそらくワルタース最大のヒット作である「インスタント・コンサート」を収録。本作はクラシックの名曲から民謡から、さまざまな30曲を3分間にとにかく詰め込んだもので、くるくると目まぐるしく曲が変わるそのさま=音楽的ユーモアには脱帽である。
   ※メドレー楽曲:「instant_concert_contents.jpg」をダウンロード

Photo_3山田 一雄cond. 東京吹奏楽団

過去LP3枚で発売されていた音源を復刻CD化!「西部の人々」「ジャマイカ民謡組曲」「リートニア序曲」「フーテナニー」の4曲を1度に聴くことができる。

♪♪♪

あの頃吹奏楽部の部室に備えてあったワルタースの作品は、ヨーダーの作品(例えば”Dry Bones”とか)や兼田 敏によるYBSブラウン/グリーンシリーズ(”ピクニック””草競馬”など)と並んで、まさに奏者たちが演奏を楽しむためのものだったと思う。
もちろん行事で用いたり、曲によってはコンクールで演奏されるものもあったのだが、それ以上に奏者自身が”棚から一掴み”的に、「今日は、これ演ってみっかー!」というノリで取組む位置付けの楽曲でもあったと思うのだ。

-あれは、ある意味で最も音楽的な活動だったのかもしれない。

|

« SHURE SE535 V-J (2011.4.16.) | トップページ | ウェールズの歌 »

コメント

はじめまして。いつも音源堂様の博識に圧倒されながら楽しく拝見しています。
遂にリートニアですか。待ってました。技術的に簡単で、これだけ壮大な曲想を持つ作品はそうそうないと思います。しかし、この手の曲、Rubank社の大部分の楽譜が絶版というのが残念です。

投稿: うさぎいぬ | 2011年5月23日 (月) 22時24分

うさぎいぬさん、コメントを有難うございます。コメントをいただきますと、また書こうって強く励まされます。本当に有難いです。

リートニア序曲はワルタース作品の中で一番好きな曲なんです。全く仰る通りで、気軽に取組めるのにこれだけ充実した内容の曲になっているのは、実に素晴らしいですよね!

投稿: 音源堂 | 2011年5月24日 (火) 02時17分

ご無沙汰しています。

この曲に最初に触れたのは中3の頃で、地元の吹奏楽祭での他校の演奏を、自らの出番を待つ舞台袖で聴き、なんてカッコいい曲なんだろう…と思ったのを覚えています。
今、改めて聴いても短い演奏時間のなかで非常によくまとまっていて、いい意味で教科書的な曲だと思っています。

ところが実は自分ではまだ一回も演奏したことがありません。
こういう曲はもうなかなか演奏の機会は訪れないでしょうね…。

投稿: HARA-P | 2011年5月28日 (土) 01時52分

HARA-Pさん、件の大震災以降では初めていただいたコメントですよね。お元気でしたか!有難うございます。

楽譜も入手できない、音源もごく少ないという現状ですから、なかなかこの曲にはスポットが当たりません。本稿はリートニア序曲が、そしてワルタースの愛すべき作品たちが決して忘れ去られることのないようにとの願いを込めて書きました。
今となっては「陳腐」という向きもあるかもしれませんが私はこの曲大好きですし、仮令「陳腐」であったとしても、「陳腐ではないかもしれないけれど、何もない」最近良くある楽曲より、遥かに価値があると思っています。

投稿: 音源堂 | 2011年5月28日 (土) 08時21分

リートニアですね!待ってました(^o^)
演奏したことありますよ~!

この曲、私は全然陳腐などとは思っていません。
それどころか、今現在においてもちょっとしたコンサートなどで取り上げて良いような曲にも思えます(コンクールではちと厳しいか)。
ただ肝心の楽譜が・・・orz

インスタント・コンサートは今でも入手出来るみたいですね。これも楽しい曲なので、いつかうちの楽団でも取り上げて貰えるよう働きかけてみようと思います。
ジャマイカもやってみたい曲なのですが、これもまた楽譜が・・・orz

投稿: mitakasyun | 2011年5月29日 (日) 00時25分

mitakasyunさん、そうなんですよねー。
たびたび拙Blogのコメント欄では申し上げているのですが、現在譜面が絶版となっている数々の名曲たちを後世に伝えることは、吹奏楽界の大きな課題だと思います。
ワルタースの作品はリートニアを含め、民音資料館あるいは国会図書館に保管されているものが相応ありますので、まだ何とか…。
しかしオン・デマンド印刷での再版により、もっと多くの方々が演奏できる環境の実現が望まれます。ささやかですが、私は忘れてはならないこうした楽曲が世代を超えて再評価されるよう、今後も発信し続けていきたいと思っています。

投稿: 音源堂 | 2011年5月29日 (日) 08時58分

はじめまして。現在の共同音楽出版社は、吹奏楽譜の出版の規模がすっかり小さくなってしまいましたね。
しかし、ワルターズの作品の楽譜は、オランダのある小さな出版社でいくつか入手できる物があるようです。
ワルターズのみならず、オリヴァドーティもあり、オンラインで購入できるようになっていました。

投稿: tama | 2011年6月26日 (日) 20時43分

tamaさん、コメントを有難うございます。
「オランダの小さな出版社」の動きがどんどん広がるといいですね。そのためにもまず往年の愛すべき作品たちが確り再評価されるよう、私も地道に活動を続けていきたいと思います。

投稿: 音源堂 | 2011年6月26日 (日) 23時11分

 たいへんご無沙汰しております。
 ワルターズのリートニア序曲。この曲は、演奏したことはありませんが、放送で聴き記憶に残った曲として私にとって特異な位置付けにある曲です。と、申しますのは、内容をあまり憶えていない割りに作曲者と曲名の組合せは明確に憶えているのです。
 ワルターズの曲で実際に演奏したのはジャマイカ民謡組曲とかインスタントコンサートとかなのですが、リートニアもまた同じ位‘聴いた’記憶が残っています。…なのにその実はあまりにも淡い記憶…不思議としかいいようがありません。
 このような曖昧な記憶に残る曲は、他には作曲者を思い出せない『ページェント』があります。ページェントなんて一般名詞ではとても特定できないとは思いますが、演奏していてメロディやハーモニーの心地よさに危うく楽器(Euph)を取り落としそうになったほどです。あれは一体誰の『ページェント』だったのか、今は知る由もありません。
 後半はリートニア序曲とは関係ない話になってしまいました。すみません。

投稿: 長谷部 | 2011年7月22日 (金) 21時38分

長谷部さん、しばらくです!
「ページェント」ですが、私どもの世代で真っ先に思い浮かぶのはヴィンセント・パーシケッティ作曲の「ページェント」だと思います。が、長谷部さんのご感想から推測しますと、もしかしたらロナルド・ロ=プレスティ作曲の「ページェント序曲」の可能性も…?(こちらは音楽之友社から国内版の譜面も発売されていましたし。)

最近作ではレイフ・ハルトグレンにも「ページェント」という作品がありますが…。「○○のページェント」「×××・ページェント」という名の作品や、「ページェント」という名の楽章を含む組曲(ロジャー・ニクソンなど)はありますが、曲名自体が「ページェント」というと、私にはそれ位しか思いつきません。

淡いご記憶にあるその楽曲と再会できたらいいですね☆

投稿: 音源堂 | 2011年7月23日 (土) 19時20分

 こんばんは。
 ページェントですが、音源堂さんのコメントを拝見後、先日プレスティの序曲の音盤を店頭で見つけまして聴いてみました。結果は、中間部こそコラール風ですがその前後は軽快な三部形式で、どうも違うようでした。
 私の記憶の中に朧気ながら残るページェントは、形式らしい構造があまり感じられず、御指摘のとおり「ページェント」という名の楽章を含む組曲だったのかもしれません。その意味では二重鉤括弧で括ったのは軽率でした。
 時間が取れれば上野の資料室とか民音とかの類に出掛けるのですけどね。まあ、生きているうちには再会できるでしょう。
 ちなみに、80年代前半の夏合宿の思い出で、ファゴットの伊藤さんが振ってくださったように記憶しています(←私の現役時代を知る人への「憶えておいででしたら教えてくださいまし」のメッセージでした)。

投稿: 長谷部 | 2011年8月16日 (火) 00時23分

長谷部さん、そうでしたか…。
でもきっと再会できますよ。私も「真っ直ぐな道を」という大好きなマーチと25年以上ぶりに再会できました折には、本当に感激しました。再会の時が楽しみですよね!

投稿: 音源堂 | 2011年8月16日 (火) 21時05分

お久しぶりです。久しぶりにお邪魔したら、懐かしい曲名「リートニア」序曲が目に留まりました。delicious この曲は私が吹奏楽を始めた年に、初めてコンクールで演奏した曲です。当時(昭和52年)はまだ今のように、情報が溢れていることもなく、ただ顧問の先生の指導と情熱にひたすらついていっただけ…。それすら、満足に出来ていなかったと思います。もっとも、まだ楽器を受け持って4ケ月くらいの中学生には、音楽のイロハも分かっていなかったと思いますが…。結果は地区予選「銅賞」。crying でもこの曲は、メロディックな部分が多く、30数年経った今でも、心に強く残っています。昨年復刻発売された東京吹奏楽団のCDや大阪市音楽団のCDを時々懐かしく聴いています。最近のコンクールでの中学生の演奏は、非常に技術面が進歩して、ただ驚くばかりですが(他の部門もなおさら)、こういう曲もゆっくりと眺めてみる感覚で、演奏して欲しいなと思います。今の主流のレパートリーで、何十年か経って心に残っているものがあれば、それはそれでいいのだけど…。それにしても、私にとって、古き良き時代の思い出の曲です。

投稿: ブラバンKISS | 2012年1月19日 (木) 22時52分

ブラバンKISSさん、今年も宜しくお願い致します☆

怪我のため年末からずっと入院しておりましたので、年末年始に仕上げるつもりだったブログ更新もできておりません。漸く退院できましたので、頑張って書いていきたいと思います。
「リートニア序曲」のような往年の名曲も、引続きどんどん採り上げますので、今後とも我が「音源堂」をご贔屓のほどお願い申し上げます。

投稿: 音源堂 | 2012年1月20日 (金) 21時27分

リートニア序曲

1977(昭和52)年
中学入部当時、少しだけ練習した事あります
譜面の読めなかった少年が、ひょんな事から
Euphonoiumを預けられたんですが


現在3本所有、他テナーフリューゲルホルン2本
テナーバストロンボーン1本も。。。

この曲を聴くたび、本気で練習したい気持ちです。
とは言っても、楽器を吹く事が出来ない身体の為
今は、少年時代の名曲である
リートニア等を聴く事が心の支えです。

投稿: 柳香 | 2016年8月14日 (日) 02時13分

コメントを有難うございます!
やはり皆さんも私と同じように想い出の曲、思い入れのある曲がおありですよね。そうした素敵な曲が世代の違う人たちにも承継されることを心から願っています。これからもそうした曲たちを採り上げて参ります!

投稿: 音源堂 | 2016年8月14日 (日) 08時24分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/181124/51603412

この記事へのトラックバック一覧です: リートニア序曲:

« SHURE SE535 V-J (2011.4.16.) | トップページ | ウェールズの歌 »