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2011年1月15日 (土)

序曲「祝典」

PhotoOverture Jubiloso
F.エリクソン (Frank William Erickson  1923-1996)


吹奏楽界というのは不思議なトコロで、”祝典序曲”とこれを倒置しただけの”序曲「祝典」”とで、何故か別の楽曲だとちゃあんと判別がつく。「祝意を示す序曲」という意の標題を持つ楽曲はそれこそたくさんあるわけだが、斯界の人間にとっては”祝典序曲”といえば何といってもショスタコーヴィチの作品が、そして”序曲「祝典」”といえば本稿で採り上げるエリクソンの作品が、実にスムーズに想起されることだろう。

Erickson_portrait_2作曲者フランク・エリクソンは「吹奏楽のためのトッカータ」「吹奏楽のための幻想曲」といった技術的には易しくメロディアスな、とても親しみやすい楽曲で知られる。どれも奏者に不安を感じさせることのない、纏まったサウンドと確りとした骨格を持つ曲ばかりで、1960-1970年代のバンドにとって、重要なレパートリーとなっていたのである。
エリクソンは、一貫して教育的な立場から音楽=吹奏楽に接してきた作曲家であり、手掛けた作品も”現場”の視点から離れることはなかった。

Pb280001_2そのことはエリクソンの著書「バンドのための編曲法」(音楽之友社/伊藤 康英 訳)にも端的に現れている。普遍的な編曲論・理想は押さえつつも、楽器の特性はもちろん、”奏者が未熟であるということは、どういうことか””アマチュアバンドの現実の編成は如何なるものか”といった制約を踏まえ、実践的な手法を説明しているのだ。更に演奏者にとって読みやすい記譜の仕方にまで言及されていることは、アマチュアバンドに対するエリクソンの配慮と愛情を感じさせるものである。

♪♪♪

P1020329序曲「祝典」1978年の出版、エリクソン最大のヒット作の一つである。本邦ではCBSソニーから毎春発売されていた「コンクール自由曲集」1979年版LP(左画像)に収録され、瞬く間に人気を集めた。国内版の譜面も発売され、楽曲が知れ亘った翌1980年の吹奏楽コンクールでは早くも数多くのバンドに演奏されている。(同年、大分県吹奏楽コンクールでも2ケタに及ぶバンドが採り上げていて、とても驚かされた。)

全国大会では1979年に中学・職場で1団体ずつが採り上げたに過ぎないが、下部大会での演奏団体は1980年代を中心に、それこそ無数にあったはずである。
難易度の割に聴き栄えがするし、コンクール自由曲としてカット不要の丁度いい尺あったこともそうだが、何より時代/世代が望んでいた吹奏楽曲のトレンドを先駆けて掴んでいたことが、人気の理由だったのではあるまいか?

曲冒頭から繰り返されるリズム・パターン- ベースラインと8分音符のアクセントのリズミックさ、コード進行からして、たまらなく吹奏楽界を惹きつけた。前述の「コンクール自由曲集1979」ではA面第1曲目がこの曲だったが、初めてLPに針を落とし曲が始まった途端、「あっ、これだ!」という新鮮な魅力が間違いなくあったのだ。
当時待ち望まれていた”この感じ”は序曲「祝典」こそが端緒であって、後にスウェアリンジェンやバーンズ、ハックビーらの作品が一時代を築いた流れへと、確実に繋がっていったと思う。

♪♪♪

序曲「祝典」の難易度はそう高くはないが、細かい音符も多く、エリクソン作品としては”意外感”もあった作品。ミズーリ大学ローラ校バンドの50周年を祝う”祝典序曲”にもかかわらず、冒頭から提示される旋律からして短調を挟むことで真摯な表情を見せる、変わり種でもある。
形式はA-B-A-コーダと典型的なものである一方、リズミックさを絶やすことなく維持しつつ、長調と短調とがくるくる入れ替わって、表情とサウンドの輝きを変え続けるさまには斬新さが感じられる。そこがエリクソンの腐心だったかもしれない。

   ※ミズーリ大学自体はコロンビア校がその中核であり、ローラ校は元々鉱冶金
          学校だった歴史を持つユニークな学校とのこと。またこのローラ校はレックス・
          ミッチェルに「大草原の歌」を委嘱したことでも知られる。


前述の通り、快活さにあふれたリズムに導かれ、朗々とした旋律が現れて始まる。
Photo繰り返される旋律にTrp.の16分音符の楽句がオブリガートとなって、スピード感と緊張の新味を加えている。これなどは従来のエリクソンのスタイルになかった楽句である。
Cornet_16楽曲は2つの主題をオーソドックスに反復して提示・展開するが、短調の厳しい表情と、輝かしさ或いは重厚さをもったサウンドとがそれぞれ対比的に用いられており、聴き手の興味を巧みに刺激し続けるのだ。

短いブリッジでテンポを落とし、ノスタルジックな中間部に入る。最もエリクソンらしい旋律が聴かれる部分である。移り変わる楽器の音色配置も巧みで、音楽に奥行きがある。
そして何といっても、スケールの大きなクライマックスを現出したことで、エリクソン作品の中でも出色の出来映えになったと云えよう。
Photo豊かなサウンドと色彩に支えられた、このスケールの大きさこそが感銘を与えていることは見逃せない。単に旋律が郷愁に満ちているだけでは、これほど聴衆のノスタルジーに訴求することはできないはずだ。

名残惜しげに中間部を終うと、ベルトーンを用い、緊張と弛緩の表情を織り交ぜるブリッジが主題のモチーフを導き出し、快速な再現部となる。
Codaコーダでは主題の音符が拡大され、これをエネルギッシュな伴奏が彩る濃厚なクライマックスへ-。テンションとダイナミクスの高揚が、煌びやかなぶ厚いサウンドへと帰結して炸裂する!

そのジェット噴射さながらのスピードとエネルギーをそのままに、2拍3連符が特徴的であるエキサイティングな終結部へとなだれこみ、最後は足取りを緩めて堂々たるエンディングを迎える。

この序曲「祝典」は、エリクソンが作曲において貫いてきたスタンスの延長線上で、更に一段”突き抜けた”作品となった。アマチュアにも楽しめる(或いは”教育的な”とも云える)楽曲の枠組みの中にありながら、この高みにあることがとても価値のあることであり素晴らしい!広く愛奏されているのも、当然なのである。

♪♪♪

Photo_3音源は
汐澤 安彦cond.
フィルハーモニアウインドアンサンブル

の演奏を推したい。”ノリノリ”であることがこの曲の重要な要素だと思うが、その特長を存分に活かしており、また中間部へのブリッジのテンポ設定および rit. が非常に適切なことは特筆できる。

   【他の所有音源】
      フレデリック・フェネルcond. 東京佼成ウインドオーケストラ
      山下 一史cond. 東京佼成ウインドオーケストラ
      小澤 俊朗cond. 尚美ウインドオーケストラ
      デニス・ゼイスラーcond. ヴァージニア・ウインドシンフォニー
      新田 ユリcond. 大阪市音楽団
      小野 照三cond. 葛飾吹奏楽団
             木村 吉宏cond. 広島ウインドオーケストラ
      汐澤 安彦cond. 東京吹奏楽団
      鈴木 孝佳cond. TADウインドシンフォニー (Live)


エリクソンの遺した愛すべき楽曲たちをCD2枚にまとめた作品集もご紹介しておこう。
Erickson_cdデニス・ゼイスラーcond.
ヴァージニア・ウインド・
シンフォニー

(収録曲:
「contents.jpg」をダウンロード
  )


演奏は相応のレベルとしか云えないが、非常に貴重な録音であり、ファンにとってはかけがえのないもののはずである。

(Revised on 2013.2.23.)

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コメント

おお、出ましたね。F.エリクソンの序曲「祝典」♪

この曲を知ったのはやはり、コンクール自由曲集1979年版のLPで、本来はB面1曲目の「アルメニアンダンス・パートII」(A.リード)をお目当てで買ったのですが、まぁ、まずはA面1曲目から順に…と、針を下したところ、スカッと目が覚めるようなこの曲のサウンドが溢れ出ててきて、一瞬にしてこの曲が大好きになりました。
当時の吹奏楽部の仲間にもこの曲は評判で「おぃ!なんか今度、すごか曲の出てきたごたるバイ!」と、騒いだものですw

冒頭部分の爽やかなサウンドや中間部もとても素晴らしいですが、この曲で強い印象を与えられるのはやはり終結部分でしょう(練習番号Wの一小節目から最後まで)。たたみかけるようなクライマックスは、改めて聴き直してみても本当に興奮します。

打楽器奏者的には練習番号W以降、Bass Drum がまるで
メロディ楽器のように主旋律をなぞっているのが印象的です。

実演の機会を得たのは2002年の池袋の某団の演奏会にて。この時はTimpaniを担当しました。
また演奏してみたい曲のひとつです。

---
余談ですが、F.エリクソンの「バンドのためのファンタジー」も大好きで、昔、大阪市音(府音?)のLPでよく聴いていましたね♪

投稿: HARA-P | 2011年1月15日 (土) 20時09分

はじめて書きこませていただきます。いつも興味深く読ませていただいております。現在、関西在住のアマチュアクラ吹きです。

エリクソンいいですね。東京在住の際、初めて吹いたのですが、「交響曲第2番」。いい曲なんですけど、どうしても音源の見つからないんですよねえ。

投稿: スールー | 2011年1月16日 (日) 00時03分

HARA-Pさんも、この曲との出会いは私と似ていますね!そうなんです、始まった時の印象が本当に強かったですねー。

終結部に関するコメントにも全く同感です。私は練習番号Yから轟々と鳴っていた分厚い木管のトリルがパタッと終わり、全合奏同じ動き(譜割)になって高揚した次の瞬間(練習番号Z)、”ぱあっ”と開けるあの爽快感が、たまらなく好きです!

>ファンタジー
そうそう、あの音源は「府音」でしたね♪

投稿: 音源堂 | 2011年1月16日 (日) 01時13分

スールーさん、ようこそお越しいただきました。コメントも頂戴し有難うございます♪

エリクソンの交響曲第2番は耳にしたことがないです!興味深いですねー。エリクソンはとても多くの作品を遺したはずなんですが、録音は少ない。1960-1980頃に愛奏されていた吹奏楽作曲家の作品は、本当に録音されていないものが多すぎると思いますね。

音源は常に探索し続けていますので、また発見しましたらレポートさせていただきます。今後とも我が音源堂をご贔屓にお願い致します。

投稿: 音源堂 | 2011年1月16日 (日) 01時21分

最近、ネットで探し物をしていたらなんと、序曲「祝典」の
金管バンド版(!)の録音を発見してしまいました。
どこのバンドの演奏なのか全く情報がないのですが、まるでもともと金管バンドのために書かれたかのような仕上がりでしたね。

音源堂さんはご存知でしたか?

投稿: HARA-P | 2011年2月 4日 (金) 23時01分

HARA-Pさん、どうもです!
いや知りませんでした…が、探してみたらすぐ見つかりましたので、聴きました~。ブラスバンド編成の機動力を発揮した、快速な演奏でしたね。音色の多彩さを失ってノスタルジックなムードは後退した一方、活力とスピード感が増幅された演奏で、これはこれでアリだと思いました!吹奏楽と比して少ない人数で豊かなダイナミクスを持つブラスバンドのアレグロって、本当にスピード感が高いんですよねー。吹奏楽演奏のヒントにもなる演奏でしょう。

投稿: 音源堂 | 2011年2月 5日 (土) 12時55分

この曲が出回り始めた1979年。私の学校では楽譜だけはあったものの、実際にコンクールで演奏したのは同じエリクソンのトッカータでした(^_^;)

そんなわけでこれまで演奏する機会に恵まれなかった序曲祝典ですが、つい先日エキストラで参加した演奏会でやっと吹くことができました。思えば35年ぶりかぁ…長かった(笑)

理屈抜きでとても感動しました。
やっぱり良い曲はいつの時代でもいいものですね。

投稿: mitakasyun | 2015年2月12日 (木) 19時07分

mitakasyunさん、それは良かったですねえ!私も高校1年の時、1年下の後輩たちが自由曲として採り上げ、指導もしたのでこの曲はごく身近な存在なのですが、実は自分自身は未だ演ったことがありません。演れたらきっと激しくウレシイと思います…羨ましい!

投稿: 音源堂 | 2015年2月13日 (金) 09時23分

エリクソンの交響曲全集(第1~3番)が入手可能となっていますので告知致します。
ローレンス・ストフェルcond.カリフォルニアステート大学ノースリッジ校ウインドアンサンブルのLive盤がMark社からリリースされました。
https://www.musicstore.jp/shop/database/search.php?order_no=072568&view=review
にて販売中です。ファンの方、どうぞご覧下さい!

投稿: 音源堂 | 2016年8月11日 (木) 18時28分

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