ジュビラーテ
Jubirate
R.E.ジェイガー
(Robert E. Jager 1939- )
ふと無意識に出てしまう口笛や鼻歌-それは人それぞれに違っていると思うが、私の場合は相当の確率で冒頭譜例のフレーズが現れる。1978年度全日本吹奏楽コンクールの課題曲A「ジュビラーテ」練習番号Eのピッコロ・ソロ(A.Sax.とのソリ)である。
-何で「ジュビラーテ」?自分でも判然としない…。
♪♪♪
1978年の吹奏楽コンクール課題曲は
A ジュビラーテ (R.E.ジェイガー)
B カント (W.F.マクベス)
C ポップス変奏曲「かぞえうた」 (岩井 直溥)
D 行進曲「砂丘の曙」 (上岡 洋一)
であり、私が演奏したのは「かぞえうた」。コンクールの想い出が「ジュビラーテ」にあるわけではない。
吹連は40周年記念事業として、この年の課題曲をジェイガー、マクベスという二大巨匠に委嘱していた。ところが、マクベスは日本のコンクールを当時のアメリカのコンクール(初見演奏審査が中心と聞いた)と同様と想定してしまったようだ。そのためか、全国大会で「カント」を演奏したバンドはなし、という結果になってしまった。
また、前年の課題曲D=行進曲(「若人の心」)がBの部以下を対象としていたことから、1978年も「課題曲DはAの部では使えない」という思い込みがかなりの広範囲で発生していたと思う。大分県予選では選択したバンドはゼロ、西部(現九州)大会でも「砂丘の曙」を選んでいたのは全部門で石田中(沖縄)だけだったと記憶している。
ただ、石田中は「砂丘の曙」を”行進曲の枠組を超えて”歌いまくり、自由曲も伝説の名演となった「パッサカリア」を揃えて全国大会に進む。そして、金賞までも射止めてしまったのだが…。
そのような1978年課題曲の中で、「ジュビラーテ」が圧倒的な支持を集めていたことは間違いない。旋律はどれも魅力に溢れており、それがこの短い作品の中で次々に繰り出されて聴くものを惹きつけるのだ。自由曲もジェイガー作品で揃えるバンドもあり、”ジェイガー大好き”な私は羨ましくて仕方がなかった。
思えば、冒頭譜例のフレーズが私に刷り込まれたのも、そんな渇望ゆえだったのだろうか…。
♪♪♪
ロバート・ジェイガーは自作の特に緩舒部分が日本人に大変人気があることを知っており、「ジュビラーテ」を書くにあたってもこの”期待”に応えようとしたとのことである。そして、まさにその期待通りの作品となっている。
ジェイガー自身が解説したように、冒頭はホルストの「木星」(組曲「惑星」第4曲)にインスピレーションを得たもので、最初の主題提示もHorn(+ Sax)で行われる。
急-緩-急の典型的な序曲形式であり、表題は”歓喜の小楽曲”といったニュアンスか。吹連の40周年を祝う意図もあったであろう。
「木星」よろしくシンコペーションを効かせた主題の展開が特徴的。後年この「ジュビラーテ」を演奏した際、トレーナーの方から「シンコペーションは音を抜かないで(=音の保持を充分に)!じゃないとリズムやテンポが判らなくなる。」と指導され、なるほどと得心したものである。
視界が開けて、Clarinet低音に現れる歌は実に幅広く暖かい。
続いておどけたような木管セクションの応酬がある(冒頭譜例もその中のワンフレーズ)が、突如目覚めてエキサイティングさを取戻し、あっという間にクライマックスへ!
熱を冷ますようにTubaに導かれて音量とテンポを鎮め、Cantabile となる。ひらりひらりと舞うようなFluteの伴奏にのって、再び優美な旋律をClarinetが歌う。
この中間部はロマンティックで、何より幻想的である。高揚した旋律に絡んでくるEuph.(+ Sax)の対旋律がまた素晴らしい!
(実は私、主旋律よりこの対旋律の方が好みである♪しかも…音色はEuph.だけでいい!)
Hornのソロがますます幻想性を深めたのに続き、中間部冒頭が戻ってきてAllegro con brio の再現部へ。旋律が大きなうねりのようにセクション間を受け渡されて循環し昂ぶるさまが聴きもの。最後は短いコーダに突入し、スネアのリムショットとベル・トーンで鮮やかなエンディングとなる。
♪♪♪
課題曲としての役目を終えて「ジュビラーテ」は改訂※され、Southern Music Companyより出版された。
※中間部に入る前=練習番号Gの3小節前の低音(Tuba,Fagotto)の動き:
4分音符スタッカート → 休符なしの長い音符のスラーに
非常にコンパクトにかつ確りとまとまった佳曲であり、何より中間部の夢想的な幻想性は、永く愛される価値のあるものである。
音源は1975年以降のデモ・テープ音源がついにCD化されたものがある。2008年までの全て(1979年課題曲E「朝をたたえて」を除く)が4CD×2セットにて網羅されたのである。
「ジュビラーテ」は
アントニン・キューネルcond.
東京佼成ウインドオーケストラ
による演奏。完璧、とはいえないし当時多かった「如何にもスタヂヲ録音」な音源だが、真摯で情熱的な演奏であり、私はやはりこれをお薦めしておきたい。
※他の所有音源<いずれも課題曲版>
渡邊 一正cond. 大阪市音楽団
山下 一史cond. 東京佼成ウインドオーケストラ
♪♪♪
演奏参加型の音楽である吹奏楽において、「課題曲」は特別な存在。なにしろ見事なまでに各世代ごとの”共通体験”なのである。「○○○(課題曲名)の年に中3で…。」なんていうだけで、歳まで判ってしまう。^^)
課題曲であろうがなかろうが、良い曲は良いし、良くない曲は良くない。ただ、否が応にも”演奏体験”が付加されるために、課題曲は過大評価されがちだと思う。本来、楽曲に対する評価は”演奏体験”を除いた客観性によって下されるべきなのに。もちろん如何なる課題曲であっても”想い出”としての価値は十二分に認めるところではあるのだが…。
いずれにしても、日本中のバンド(しかも多くは若い生徒たち)が長い時間と多大な労力、思い入れを投入するのであるから、提供する側にも、「課題曲」を音楽的魅力や内容を備えたものとする責務があるはずだ。
「(オーケストレーションを含めて)”良くない音楽”を何とか良いものになるよう演奏することこそが、課題曲への取組である」
などという馬鹿げた考えは、まさかないだろうと信じたい。しかし近年、その様相がいよいよ強まっているようにも感じられて仕方がないのだが…。
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コメント
Southern版を昨年演奏しました。
改訂箇所としては、最後の小節の最後の音が課題曲版は2拍目でしたが、改訂版は3拍目になっています。伸ばしが1拍長いのです。
スコアをよく見たわけではないですが、大きな改訂箇所は中間部前のところと最後の2ヶ所だと思います。
投稿: CLA | 2009年5月 6日 (水) 09時32分
CLAさん、コメント&情報を有難うございます。
1978年当時、中間部前のTubaを譜面通りスタッカートで演奏するバンドが当然大勢を占めてはいましたが、なるべく長くつないで演奏しようとするバンドもありました。この部分、どう演奏すべきか-議論のあったところです。
Jagerによる改訂版が発表され「やはり音を長くしてつなぐ解釈も”アリ”だったんだー」とまた話題になったものです。
(あくまでJagerの最終的な決断であって、解釈の正解・不正解の話ではありませんが…。)
投稿: h-ongendo1964 | 2009年5月 6日 (水) 10時25分
ここ近年課題曲をしてもフレーズも曲の題名も忘れるのに1977年1978年に吹奏楽をがむしゃらにやって来たものにとって、なぜかディスコキッド、若人の心、ジュビラーテ、砂丘の曙が頭の中で浮かぶのはなぜなんでしょうね(笑)やった自由曲も全部歌いきれる自分がおかしいです。
投稿: | 2009年5月11日 (月) 03時35分
コメントを有難うございます。(常連さんですか?^^)
仰る通りで、このころの曲は全部最後まで歌えますし、コンクールでやった曲なら暗譜もしてますね。
ジュビラーテあたりは、課題曲なんですが本当に旋律が良くってしみじみ思い出されます。長い時間練習するのですから、いい想い出にできる-そんな曲であってほしいと思います。
投稿: h-ongendo1964 | 2009年5月11日 (月) 12時48分
音源堂さんこんばんわ。今日はお聞きしたいことがあります。1976年1977年ジュビラーテ 砂丘の曙の楽譜はどうやったら手に入るのでしょうか?ジュビラーテは上記にありましたが確かドリアンラプソディーの課題曲の裏がディスコキッドだったような・・。母校では今昔の面影もなく現在の顧問はみせてもらえるのも拒まれ、たぶんちゃんと整理されていないようです。悲しいです。あの当時の曲をぜひなつかしみたくて(最近あの時代が注目されてませんか?)あっ年齢ばれますね、いやでも懐かしんでしまいます。吹いてみたい気持ちが沸々と・・
投稿: | 2009年5月27日 (水) 00時14分
拙Blogにお越しいただきありがとうございます。懐かしい、という意味では課題曲のほかにも多く”懐かしい”曲を採り上げております。他の記事もご覧いただけましたら幸甚です。
さて、お尋ねの件ですが
ジュビラーテ:記事中にもありますがSouthern Music Companyより改訂版を入手可能です。
砂丘の曙:残念ながら購入方法がないようです。作曲者上岡 洋一氏のサイトや全日本吹奏楽連盟のHPでも、販売対象の譜面になっておりませんでした。
ディスコ・キッド:改訂版”ディスコ・キッド2009”を作曲者/東海林 修氏のサイト経由で購入可能です。ファンサイトによるご案内を参考にされて下さい。→ http://www6.airnet.ne.jp/oumesan/discography/discomidi.htm
昨今の吹奏楽人気-しかも、今現在の中高生のみならず、(私を含め)過去の吹奏楽経験者の回帰にも支えられたその高まりを勘案しますと、昔の課題曲再販はあり得ると思います。「砂丘の曙」の作曲者上岡 洋一氏も自作品の販売をされてますし、要望を寄せれば「砂丘の曙」についても販売を開始されるかもしれませんね。
投稿: h-ongendo1964 | 2009年5月27日 (水) 08時39分
投稿: | 2009年5月27日 (水) 14時23分
本当に毎度毎度個人的なコメントで恐縮ですが、『ジュビラーテ』は私が中学2年生のときの課題曲でした。『ディスコ・キッド』や『若人の心』もよく演奏していましたので、いろいろな貴記事を拝見するに、いい時代に現役だったのだな、とつくづく思いました。(ちなみに自由曲はカウディル(コーディル?)の「ランドマーク序曲」でした)
しかし、「ジュビラーテ」の冒頭がホルストの「木星」に関わり深いという話は知りませんでした。不勉強を30年以上経って反省しています。
でも、言われてみれば、確かに合点がいきますね。シンコペーションは吹奏楽(オリヂナル)曲では日常茶飯事でしたので特に気づかなかったのだと思いますが、確かにそっくりです。
では、また機会あれば。
失礼しました。
投稿: 長谷部 | 2009年7月 2日 (木) 23時02分
長谷部さん、コメントを有難うございます。私と同学年でいらしたのですね!
私もあの頃の楽曲の方が、今でも素敵に感じられて仕方がないのです。でもそろそろ、全く新しい曲の中で素敵なものに出遭いたいなあと思っております。
投稿: h-ongendo1964 | 2009年7月 3日 (金) 13時36分