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2009年5月29日 (金)

ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス

David_gillingham_condWith Heart and Voice
D.R.ギリングハム
(David R. Gillingham
1947- )







デヴィッド・ギリングハム
(冒頭画像)は「黙示録による幻想」「創世記」の2つの交響曲、「エアロダイナミクス」「ギャラクティック・エンパイア」などで知られ、今や吹奏楽界で最も人気のあるアメリカの作曲家。ダイナミックなサウンドと、現代感覚のある曲想がその魅力である。
「ベトナムの回顧」「アンド・キャン・イット・ビー?」「目覚める天使たち」といった時事問題をテーマにしたシリアスな作品もあるが、これらを含めた多くが標題音楽であり、内容がインスピレーションの対象に直結しているという”判りやすさ”も、人気を集めている要因だろう。

本稿で採り上げる「ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス」(2000年)も標題音楽の例外でなく、かつ祝典音楽としての”華やぎ”も有していることから、ギリングハム作品の中でも際立って人気が高い。
2003年全日本吹奏楽コンクールでは樽町中と広島大がこの曲を採り上げて見事金賞を受賞、人気は一気にブレイクした。

♪♪♪

「ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス」は、ミネソタ州のアップル・ヴァレー高校の創立25周年を記念してギリングハムへ委嘱された作品。
ギリングハムは同校を訪問した際にその芸術への傾倒ぶりに感銘を受け、大きなインスピレーションを得たとのことである。加えて同校の校歌がギリングハムが特に好んだ聖歌("Come Christians, Join to Sing")と同一であったことに、運命を感じたという。
かくしてギリングハムは委嘱を快諾し、
"Come Christians, Join to Sing"の主題をフィーチャーした楽曲を完成、創立時の不安から学校としての使命への傾倒、そしてその使命を忘れることなく達成へと進む同校の未来を描いて、アップル・ヴァレー高校を祝うものとしたのである。

「聖歌”Come Christians, Join to Sing”の最初の一節には”Let all, with heart and voice, before his throne rejoice”というくだりがあり、これに基いて標題は”With Heart and Voice”となった。素晴らしいアップル・ヴァレー高校の25年間を祝福するに、我々の「心」と「声」を以ってするに勝ることはあるまい。ここでの「声」とは音楽であり、そして「心」とは祝典において音楽が与えてくれる感動のことである。」
(ギリングハムのコメント)


♪♪♪

Come_christians_join_to_sing「ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス」にフィーチャーされた聖歌
”Come Christians, Join to Sing”(来たれ教徒よ、ともに歌わん)
は古くからスペインに伝承されていた旋律とのことだが、これは元々”Come Children, Join to Sing”という題名で、子供たちの日曜学校の歌であった。これを現在の歌詞の作者であるC.H.ベイトマン(Christian H. Bateman)が「この聖歌があらゆる人々に愛唱されるように」と改めたものである。ベイトマンによる作詞は1843年で、スコットランドにおける子供向けの聖歌集に初出している。

     歌詞の各連に現れる「アレルヤ(Alleluia)」「アーメン(Amen)」という言葉は
     意味深い聖書用語とされる。
     「アレルヤ」は英語の「ハレルヤ」と同義のラテン語で”主を讃えよ”を意味す
     るもの。一方、祈りの締めくくりとなることが多い「アーメン」は”真実””確信を
     もって””そうあれかし”といったことを意味するもの。
     従って、讃美の「アレルヤ」と喜びを確信する「アーメン」とを組み合わせた歌
     詞を持つこの聖歌は、主キリストを讃える音楽で満たされている。現在、そし
     て今後永久に主への讃歌を歌おう、とキリスト教徒に呼びかけるものであり、
     老若男女を問わず全ての人々に受容れられる聖歌と位置づけられている。


     ※出典:The Center for Church Music

♪♪♪

楽曲としては、
1. アップル・ヴァレー高校の校歌でもある聖歌
   ”Come Christians, Join to Sing”の主題
2. 同高校の芸術への傾倒(commitment)という
    ”使命”(mission)を表すオリジナルの主題
の2つの旋律を用いたコラージュというべき作品。

密やかで緊張感の高い導入部に始まり、美しくたおやかな歌があり、荘厳で輝かしい歌があり、激しい打楽器群の鳴動があり、16ビートの現代的でエネルギッシュな場面もある。そして変拍子でアクセントをつけたかと思うと、2つの旋律が一つになって高揚するクライマックス!
最後は快速・迫力・華麗を備えた終結部と、極めて多彩な楽曲となっている。

一方、ギリングハムのオリジナルである”使命の主題”は”聖歌”からの派生的なものであり、当初から”聖歌”と一つとなって歌われることが想定されていただろう。楽曲の設計と作曲意図が非常に明確であり、2つの主題が密接な関係を有していることが、全曲に亘り統一感を与えている。

以上のように、約9分弱の音楽の中で”多彩さ”と”統一感”とが見事に両立しているものであり、ギリングハムの最高傑作の一つと評価できよう。

詳細は、ギリングハム自身の解説(「」)に沿ってご紹介する。

1_3「曲のもつ性格としてはまずもって祝典の楽曲なのだが、この曲は遠慮がち且つ不安気に始まる。おそらくアップル・ヴァレー高校の創立時がそうだったように…。
同校の校歌の小さな断片が冒頭に聴こえてきて、この最初の4音が徐々に勢いを増し、重なり合い、音量を増して、導入部は劇的なクライマックスを迎える。」

「これが静まって、抒情的なFluteソロが現れる。この新要素は、優れた学園たることと芸術への傾倒とに根ざしていくべく創立されたアップル・ヴァレー高校の”使命”のユニークさを表現するものだ。」
Fluteeuph「EuphoniumがFluteに谺し、ほどなく他の楽器も加わってきて、劇的なファンファーレとともに高揚していく。」
F_horn
「次いで、不協和音と活発なリズムを伴った移行部となるが、これこそは新設校に命を吹き込もうとした挑戦を示すもの。さらに校歌(聖歌)が輝かしく提示され、25年前のアップル・ヴァレー高校の献身を表している。」
3_2
5_2
「目まぐるしい打楽器群の動きをバックに展開するフーガは、同校の目標ならびに使命に対する、たゆみない挑戦そのものである。熱狂的であり、鬼気迫らんばかりに昂ぶるが、それもやがて落ち着いてゆく。
”校歌の旋律”と
”使命の旋律”とが一つになって大いなる安寧を描写するのだ。」


6



「…アップル・ヴァレー高校は存立し続けるために、自らの”使命”を決して忘れてはならないのである。
拡張された終結部では、陽気で楽しげに、そして劇的さをもった祝典のムードに溢れて2つの主題が奏され、全曲を締めくくる。」

それまで自由に、さまざまな表情を見せていた音楽が、2つの主題の一体となったクライマックスへ集約していくさまは、
(ある意味”お約束”とはいえ)
洵に感動的!

そして終結部に現れる金管群の重厚で輝かしいサウンドや、鮮烈なドラ(Tam-tam)の響きは理屈抜きにエキサイティングであり、熱情的なエンディングに心躍らされる。

尚、全編に亘りさまざまな打楽器群が登場し、その演奏には優れた音色・精密さと積極的な表現が求められる。優秀なパーカッション・パートの存在が好演の前提となることは、疑いないだろう。

   ※ timpani, crotales(antique cymbals), xylophone, temple blocks,
       bells, crash cymbal, tam-tam, vibraphone, chimes, hi-hat,
       snare drum, tom-toms, bass drum, brake drum,
       suspended cymbal, marimba


Ws001音源としては
ユージン・コーポロンcond.
昭和ウインド・シンフォニー

のLive録音が素晴らしい出来映え。
積極的でメリハリのある表現は、個々のプレイヤーの自発性の高さゆえ。全曲をよく見透した構成力のある演奏であり、ここぞという場面で開華する鮮やかなサウンドも見事!

  【他の所有音源】
    デヴィッド・ギリングハムcond. フィルハーモニックウインズ大阪 [Live/自作自演]
    デニス・フィッシャーcond. ノーステキサス大学シンフォニックバンド
    井上 道義cond. 大阪市音楽団 [Live]

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コメント

パーカが♪=166からかっこいい

投稿: ァ | 2009年8月 3日 (月) 11時41分

多彩な打楽器群の活躍がとても印象深い作品ですよね。感心するのはその音色や特徴をよく活かしている点です。この曲を採り上げたバンドの打楽器奏者の皆さんには、楽器やスティックの選定から通常にも増して拘っていただき、センスよく個性を発揮した演奏を聴きたいものだと思います。

投稿: 音源堂 | 2009年8月 3日 (月) 13時09分

今年のコンクールでやりますっ(*^ω^*)

まだ楽譜ゎ配られてないんですがEuphのソロがあると言う事で…

楽しみです♪

投稿: 黒猫 | 2010年4月22日 (木) 06時54分

黒猫さん、コメントを有難うございます。
推薦盤をはじめとして、色んな演奏を聴くこともきっとためになりますよ。そして「私ならこう吹きたい!」というイメージができたなら、素晴らしいですね。
コンクールでの成功をお祈りしています。またぜひお越し下さいね☆

投稿: 音源堂 | 2010年4月22日 (木) 20時19分

二回目失礼します(^O^)

楽譜がくばられて、
この部分ゎどうゆう意味が含まれているのかまた再確認することができました♪

ギリングハムさんの気持ち?を表現できるように頑張りたいです!!

投稿: 黒猫 | 2010年5月 1日 (土) 16時18分

黒猫さん、このブログが少しでもお役に立ちましたのなら、とても嬉しく思います。

一つ一つのフレーズ、音を大事に演奏することも大切ですが、楽曲全体を見通すことも重要です。それは指揮者の統率の下に行われるわけですが、プレイヤー自身も考え、理解することが必要です。その意味で楽曲の表すもの、構成や特色を知り理解することが必要になるわけです。
ぜひ、この曲のもつ鮮烈なコントラストを表現することにチャレンジして下さいね。いい演奏ができますように!

投稿: 音源堂 | 2010年5月 2日 (日) 11時10分

今年の自由曲に
なりました^^/☆
具体的な事が
たくさんかかれていて
とても参考に
なりました(^ω^)shine
ありがとうございます。

投稿: スマイリー | 2010年6月20日 (日) 20時49分

スマイリーさん、ようこそお越し下さいました。そしてコメントを有難うございます。お役に立てましたら幸いです。
先日発売された、土気シビックWOのCDにも収録されていますね。できれば、ご紹介した音源を聴き比べていただき「なるほど…。さて、では自分達はどう演奏したいのか?」という具合に追求していただくと、良い演奏に繋がると思います。
またぜひ他の記事もご覧いただけましたら、とてもうれしく思います。

投稿: 音源堂 | 2010年6月20日 (日) 22時55分

こんにちは(*^o^*)

前コメした黒猫です…

今日大会があって
演奏してきました(*^_^*)


結果は銀賞という結果でしたsweat02
だけどウィズハートアンドボイスを吹けてすごい幸せでしたheart01

投稿: 黒猫 | 2010年7月31日 (土) 21時43分

黒猫さん、お疲れさまでした。
必ずしもコンクールの結果は満足の行くものではなかったのかなと拝察しましたが、いただいたコメントから黒猫さんのお気持ちが端的に伝わってきて、嬉しく思いました。
実際に演奏されたことで、この曲は黒猫さんにとって「特別な一曲」となったはずです。これからもどうかこういう体験を数多くされ、音楽を楽しまれますよう、心からお祈りしています☆

投稿: 音源堂 | 2010年8月 1日 (日) 00時48分

再びお目にかかります。
紹介楽曲リストを見ると「ウィズハートアンドボイス」があったので、見させて頂きました。
この曲も定演でする曲です。
この曲は、各パート色々おいしい所がありますよね  自分はこの曲は、1stです。
(もちろんトロンボーンも☆)
特に、パーカッションとホルン。
打楽器のとにかく、おいしい所と、ホルンの高音の鳴っているところ。
ホルンの活躍はうらやましいですが、
trbも活躍はあるので(笑)
来年のコンクール自由曲になるらしいので、練習して行こうと思います!

投稿: trbのMさん | 2010年12月22日 (水) 23時19分

Mさん、こちらにもコメントを有難うございます。
ギリングハム作品の中でも、特に明快で簡潔、親しみやすい作品だと思います。この曲の持つダイナミックで輝かしいサウンドは、演奏するバンドの資質の示しどころですね!こちらも素敵な演奏をされますよう、祈念致します。

投稿: 音源堂 | 2010年12月23日 (木) 02時22分

私は、今年のコンクールで、この曲を吹くので、頑張りたいと思いました。

投稿: サックス | 2017年6月18日 (日) 15時42分

サックスさん、お越しいただきまたコメントをいただき有難うございました。今年もいよいよコンクールシーズンに突入ですね!練習の成果が満足のいく結果になりますよう、心からお祈りします。
作品に込められたものを存分に表現され、まずはともに演奏するメンバーの方々と、そして本番では聴衆の方々と素敵な「ウイズ・ハート・アンド・ヴォイス」の感動を共有されますように…。

投稿: 音源堂 | 2017年6月18日 (日) 17時19分

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