ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス
With Heart and Voice
D.R.ギリングハム
(David R. Gillingham
1947- )
デヴィッド・ギリングハム(冒頭画像)は「黙示録による幻想」「創世記」の2つの交響曲、「エアロダイナミクス」「ギャラクティック・エンパイア」などで知られ、今や吹奏楽界で最も人気のあるアメリカの作曲家。ダイナミックなサウンドと、現代感覚のある曲想がその魅力である。
「ベトナムの回顧」「アンド・キャン・イット・ビー?」「目覚める天使たち」といった時事問題をテーマにしたシリアスな作品もあるが、これらを含めた多くが標題音楽であり、内容がインスピレーションの対象に直結しているという”判りやすさ”も、人気を集めている要因だろう。
本稿で採り上げる「ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス」(2000年)も標題音楽の例外でなく、かつ祝典音楽としての”華やぎ”も有していることから、ギリングハム作品の中でも際立って人気が高い。
2003年全日本吹奏楽コンクールでは樽町中と広島大がこの曲を採り上げて見事金賞を受賞、人気は一気にブレイクした。
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「ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス」は、ミネソタ州のアップル・ヴァレー高校の創立25周年を記念してギリングハムへ委嘱された作品。
ギリングハムは同校を訪問した際にその芸術への傾倒ぶりに感銘を受け、大きなインスピレーションを得たとのことである。加えて同校の校歌がギリングハムが特に好んだ聖歌("Come Christians, Join to Sing")と同一であったことに、運命を感じたという。
かくしてギリングハムは委嘱を快諾し、
"Come Christians, Join to Sing"の主題をフィーチャーした楽曲を完成、創立時の不安から学校としての使命への傾倒、そしてその使命を忘れることなく達成へと進む同校の未来を描いて、アップル・ヴァレー高校を祝うものとしたのである。
「聖歌”Come Christians, Join to Sing”の最初の一節には”Let all, with heart and voice, before his throne rejoice”というくだりがあり、これに基いて標題は”With Heart and Voice”となった。素晴らしいアップル・ヴァレー高校の25年間を祝福するに、我々の「心」と「声」を以ってするに勝ることはあるまい。ここでの「声」とは音楽であり、そして「心」とは祝典において音楽が与えてくれる感動のことである。」
(ギリングハムのコメント)
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「ウィズ・ハート・アンド・ヴォイス」にフィーチャーされた聖歌
”Come Christians, Join to Sing”(来たれ教徒よ、ともに歌わん)
は古くからスペインに伝承されていた旋律とのことだが、これは元々”Come Children, Join to Sing”という題名で、子供たちの日曜学校の歌であった。これを現在の歌詞の作者であるC.H.ベイトマン(Christian H. Bateman)が「この聖歌があらゆる人々に愛唱されるように」と改めたものである。ベイトマンによる作詞は1843年で、スコットランドにおける子供向けの聖歌集に初出している。
歌詞の各連に現れる「アレルヤ(Alleluia)」「アーメン(Amen)」という言葉は
意味深い聖書用語とされる。
「アレルヤ」は英語の「ハレルヤ」と同義のラテン語で”主を讃えよ”を意味す
るもの。一方、祈りの締めくくりとなることが多い「アーメン」は”真実””確信を
もって””そうあれかし”といったことを意味するもの。
従って、讃美の「アレルヤ」と喜びを確信する「アーメン」とを組み合わせた歌
詞を持つこの聖歌は、主キリストを讃える音楽で満たされている。現在、そし
て今後永久に主への讃歌を歌おう、とキリスト教徒に呼びかけるものであり、
老若男女を問わず全ての人々に受容れられる聖歌と位置づけられている。
※出典:The Center for Church Music
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楽曲としては、
1. アップル・ヴァレー高校の校歌でもある聖歌
”Come Christians, Join to Sing”の主題
2. 同高校の芸術への傾倒(commitment)という
”使命”(mission)を表すオリジナルの主題
の2つの旋律を用いたコラージュというべき作品。
密やかで緊張感の高い導入部に始まり、美しくたおやかな歌があり、荘厳で輝かしい歌があり、激しい打楽器群の鳴動があり、16ビートの現代的でエネルギッシュな場面もある。そして変拍子でアクセントをつけたかと思うと、2つの旋律が一つになって高揚するクライマックス!
最後は快速・迫力・華麗を備えた終結部と、極めて多彩な楽曲となっている。
一方、ギリングハムのオリジナルである”使命の主題”は”聖歌”からの派生的なものであり、当初から”聖歌”と一つとなって歌われることが想定されていただろう。楽曲の設計と作曲意図が非常に明確であり、2つの主題が密接な関係を有していることが、全曲に亘り統一感を与えている。
以上のように、約9分弱の音楽の中で”多彩さ”と”統一感”とが見事に両立しているものであり、ギリングハムの最高傑作の一つと評価できよう。
詳細は、ギリングハム自身の解説(「」)に沿ってご紹介する。
「曲のもつ性格としてはまずもって祝典の楽曲なのだが、この曲は遠慮がち且つ不安気に始まる。おそらくアップル・ヴァレー高校の創立時がそうだったように…。
同校の校歌の小さな断片が冒頭に聴こえてきて、この最初の4音が徐々に勢いを増し、重なり合い、音量を増して、導入部は劇的なクライマックスを迎える。」
「これが静まって、抒情的なFluteソロが現れる。この新要素は、優れた学園たることと芸術への傾倒とに根ざしていくべく創立されたアップル・ヴァレー高校の”使命”のユニークさを表現するものだ。」
「EuphoniumがFluteに谺し、ほどなく他の楽器も加わってきて、劇的なファンファーレとともに高揚していく。」
「次いで、不協和音と活発なリズムを伴った移行部となるが、これこそは新設校に命を吹き込もうとした挑戦を示すもの。さらに校歌(聖歌)が輝かしく提示され、25年前のアップル・ヴァレー高校の献身を表している。」
「目まぐるしい打楽器群の動きをバックに展開するフーガは、同校の目標ならびに使命に対する、たゆみない挑戦そのものである。熱狂的であり、鬼気迫らんばかりに昂ぶるが、それもやがて落ち着いてゆく。
”校歌の旋律”と
”使命の旋律”とが一つになって大いなる安寧を描写するのだ。」
「…アップル・ヴァレー高校は存立し続けるために、自らの”使命”を決して忘れてはならないのである。
拡張された終結部では、陽気で楽しげに、そして劇的さをもった祝典のムードに溢れて2つの主題が奏され、全曲を締めくくる。」
それまで自由に、さまざまな表情を見せていた音楽が、2つの主題の一体となったクライマックスへ集約していくさまは(ある意味”お約束”とはいえ)、洵に感動的!
そして終結部に現れる金管群の重厚で輝かしいサウンドや、鮮烈なドラ(Tam-tam)の響きは理屈抜きにエキサイティングであり、熱情的なエンディングに心躍らされる。
尚、全編に亘りさまざまな打楽器群※が登場し、その演奏には優れた音色・精密さと積極的な表現が求められる。優秀なパーカッション・パートの存在が好演の前提となることは、疑いないだろう。
※ timpani, crotales(antique cymbals), xylophone, temple blocks,
bells, crash cymbal, tam-tam, vibraphone, chimes, hi-hat,
snare drum, tom-toms, bass drum, brake drum,
suspended cymbal, marimba
音源としては
ユージン・コーポロンcond.
昭和ウインド・シンフォニー
のLive録音が素晴らしい出来映え。
積極的でメリハリのある表現は、個々のプレイヤーの自発性の高さゆえ。全曲をよく見透した構成力のある演奏であり、ここぞという場面で開華する鮮やかなサウンドも見事!
【他の所有音源】
デヴィッド・ギリングハムcond. フィルハーモニックウインズ大阪 [Live/自作自演]
デニス・フィッシャーcond. ノーステキサス大学シンフォニックバンド
井上 道義cond. 大阪市音楽団 [Live]
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コメント
パーカが♪=166からかっこいい
投稿: ァ | 2009年8月 3日 (月) 11時41分
多彩な打楽器群の活躍がとても印象深い作品ですよね。感心するのはその音色や特徴をよく活かしている点です。この曲を採り上げたバンドの打楽器奏者の皆さんには、楽器やスティックの選定から通常にも増して拘っていただき、センスよく個性を発揮した演奏を聴きたいものだと思います。
投稿: h-ongendo1964 | 2009年8月 3日 (月) 13時09分