ポップス描写曲「メインストリートで」
On Main Street, Pop Image
岩井 直溥
(Naohiro Iwai 1923-2014)
作曲者岩井 直溥は誰もが知る吹奏楽ポップス界の巨匠にしてニューサウンズ・イン・ブラスの生みの親。本邦吹奏楽の特色である「ポップス・ステージ」をまさに創出した方であり、その功績は筆舌に尽くし難い。
(吹奏楽界と直接関係のない一般聴衆にとっては「ポップス・ステージだけが楽しみ」と言っても過言ではないくらいだから。)
この曲は1976年全日本吹奏楽コンクールの課題曲。
1972年「シンコペーテッド・マーチ”明日に向かって”」、1975年「ポップスオーバーチュア”未来への展開”」に続く岩井氏の手による課題曲である。さらに1978年「ポップス変奏曲”かぞえうた”」、1989年「ポップス・マーチ”すてきな日々”」と続くのであるが、この「メインストリートで」は、これら岩井課題曲の頂点に位置づけられる作品である。
(「明日に向かって」なども、今聴いてもハッとさせられるが・・・。最初のテーマを導き出すリズム・パターンなどは出色!)
♪♪♪
内容は、読んで字の如し。メインストリートの夜明けからラッシュアワー、そして夜の帳が下りるまでをポップスの手法で「描写」している。
「今回私が書きました課題曲はポップス的な描写曲とでもいうもので、曲の表現法やリズムのノリ方、バランス等は、かなり色々な方法があると思いますので、(コンクール課題曲参考演奏の)テープに吹き込まれた演奏はあくまで参考として考えられ、ポップスの特長である個性的な演奏を心掛けてください。
但し、ポップスにはポップスの約束事がありますので、その範囲内で上品な演奏をされることが大切です。」
(作曲者コメント)
圧巻は活気溢れるラッシュ・アワーの部分であろう。ベースラインのリズムに呼び起こされるわけだが、もうその時点で誰もが胸を躍らす。
内容的に難解なものは何もないが、手法は適切にして高度。課題曲でブラスに”shake”が出てくるなんて!曲想は「岩井節」の象徴だが、取組み甲斐のある課題曲だ。
因みに、この1976年の課題曲は凄い!
A:即興曲 (後藤 洋)
B:吹奏楽のための協奏的序曲 (藤掛 廣幸)
C:カンティレーナ (保科 洋)
D:ポップス描写曲「メインストリートで」 (岩井 直溥)
こういうラインナップである。どの曲も個性のある堂々たるものであり、課題曲のラインナップが毎年このレベルだったら、皆納得だ。「自分のバンドの個性を生かす」、また「好み」という観点から、どの曲を選ぼうかとワクワクしてしまうだろう。
長期間各バンドが真摯に取り組むこととなる課題曲であるならば、かくあって欲しいものである。
♪♪♪
ところで、吹連は2013年に至るまでポップス課題曲を復活させることがなかった。漸く復活なった2013年の後も毎年ポップス課題曲を、とはなっていないようだ。
技術レベルの割に、ポップス演奏のレベルが未だ低すぎるというのは吹奏楽界の課題の一つ。ポップス演奏法の伝播も未だ立ち遅れている。
音楽はボーダレスとなっており、吹奏楽の世界でもポップスやジャズの要素を取り入れたオリジナル曲も増えているから、ポップスを「らしく」演奏できることは重要になっている。そして何よりポップスが上手に演奏できるバンドは「もう一つの表情を持つ」ことになる。人間も、多彩な表情をもつ人ほど魅力があるものだ。
レベルの底上げがなされた現在の吹奏楽界においては、情報をいきわたらせることが可能な環境でもあり、ここでポップス課題曲を導入すれば、ポップス演奏の一層のレベルアップ → ポップス・ステージの聴衆満足ラインへの到達 → 吹奏楽の一層の興隆、と連鎖すると期待されるのだが…。
吹奏楽の中で私はさまざまなポップス曲にも触れた。それがきっかけで「原曲はどんなんだろう?」と興味を持ち、聴いた。自分が演奏して直に触れているのだから、すーっと自分の中に入ってくる。
大好きな秋吉敏子なんかもその延長線上で知ったわけであり、吹奏楽をやってなかったら一生知ることがなかったかも知れない。
音楽はどのジャンルでも素晴らしいものがいっぱいあるのであって、そうした音楽を愛する人々の「きっかけ」に吹奏楽はなれる、そのことはとても意味のあることだと思う。
♪♪♪
色々なジャンルの音楽が、夫々違った表情で日々私に喜びや元気をくれる。私にとっての、その「きっかけ」も吹奏楽に他ならない。
だから私は岩井先生に感謝、感謝なのである。
♪♪♪
音源としては、高橋 良雄cond. 陸上自衛隊中央音楽隊による1976年度コンクール参考演奏を収録したLPを挙げたい。
(冒頭画像/他稿で述べた1979年課題曲「朝をたたえて」も収録)2006年のコンサート・ライヴを収録した
佐渡 裕cond.
シエナウインドオーケストラ
の演奏も素晴らしい!(DVD:左画像)
最近、立続けにこの「メインストリートで」が録音されているが、良い演奏には出会えない。その中で、このLive演奏は出色のものである。作品への愛情と、”これぞプロ”というべき整い方の両立した、ハートのある演奏であった。
曲の最後にはサプライズも・・・。
(ご自身の目でお確かめいただきたい。^^)
(Revised on 2014.5.14. [初出:2005.4.21.] )
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コメント
初めてカキコ致します。
明解にして適確なレコード評?,解説?
素晴らしいと思います。
「目のつけどころ」も良いし・笑。
ポップス課題曲の「もうひとつの難点」は,
「審査できる審査員がいない」ということも
あるでしょう。
それから自分が(アンサンブルの地方大会ではありますが)審査員をやって実感したのですが,ジャズ・ポップスは「上手くて」当たり前。少しでも落ちがあると,評価が下がります。「カッコ悪い」のはそれだけで「いけな
い」..のです。いただけない。
だから,ジャズ・ポップス系の曲を避ける
のも分からない気もしないでもない..。
某東海大学四高(笑)の演奏,初めて聴いた
時,「あ,この先生,絶対『バンドマンあがり』だ」..と思いました。死語ですね。でも
20年くらい前だから。演奏してくれたのは
拙作でしたから,余計に分かりました。
..正解!。
某A吹奏楽団,そんなに上手いバンドでは
ないのですが,「すてきな日々」は,秀逸な
演奏。絶対,「ズージャのロープ」が教えて
る!と,確信。..正解でした。
何を言いたいのか?。..そういうものだ
と言いたいのです。ではまた!・笑。
(2005-04-22 04:58:14 )
投稿: アレンジャー氏 | 2006年6月13日 (火) 17時04分
ようこそ!
いついらっしゃるかとお待ちしてました。(笑)
>「審査できる審査員がいない」
ポップス課題曲がなくなったのは専らそのせいだと言われていますね。
尤も、それ以前に曲審査の段階で、そちらの「審査員」にも通してもらえないということもありますかね。(笑)
「アレンジャー氏」ご指摘の「本質」は然り、でございます。
でも「今」は、ことコンクールの成績に寄与するというなら尋常でない努力をしますよね。それも一握りのバンドが、ではなく・・・。
だから「今なら」効果が期待できると思っているわけです。
だって、つまらないポップス演奏が多すぎますから。そのためか新しく出てくる譜面も冴えないし。悪循環ですよね。
***
吹奏楽やっててジャズを知り、その後の趣味はビッグバンドでの演奏・・・なんていう音楽人生も本当に素晴らしいと思います。吹奏楽でジャズやっても物足りないし、それ自体は「フェイク」に過ぎないかもしれませんが「意味はある」と思うんですね。
ですのでその意味でも、引続きアレンジャー氏には胸のすくようなアレンジをどんどん送り出していただきたいと期待致しております。(真剣!)
とにかく吹奏楽界にいる人たちは想像以上に「音楽を聴かない」。
オケの人たちはクラシック音楽のフリークだし、ジャズ好きも本当によくジャズを聴いてますよね。決して「吹奏楽を」というだけではなく、色々な音楽をもっともっと聴いて欲しい。
その願いも込めて、このブログを続けていきたいと思っております。今後ともご贔屓に。
(2005-04-23 00:08:06)
投稿: 音源堂 | 2006年6月13日 (火) 17時06分
こんばんは。
度々記事を見に来てはいるのですがご無沙汰致しております。
1976年は後述の1979年もそうでしたが名作と言っても過言ではない課題曲ばかりでしたね(ちなみにこの課題曲LPは私も所持しております)。
ポップス系課題曲と言えば、私の在籍していた中学校では「シンコペーテッドマーチ 明日に向かって」が伝統的に受け継がれていて、3年間の間随分お世話になりましたね。タイトルの通りシンコペーションを基調にポップスのテイストをふんだんに取り入れたこの曲は、当時子供ながらも、とても斬新で魅力的な物に感じた物でした。
ポップスに限らず吹奏楽で扱われる曲は「物まね」のような印象を与える部分も確かにありますので、随分前からあらゆる場所で賛否両論あるのを見かける訳ですが、逆に言えばongendoさんの言われているとおり、これらを通じて色々な可能性を見いだす意味でも意義のあることだと私も思います。
「朝をたたえて」は素晴らしかったですね~。前年の「砂丘の曙」と「スター・ウォーズ」を収録したLPもしっかり持っていますよ~。あの頃から阪急百貨店は私の中で注目している団体の一つとなっています。
投稿: mitakasyun | 2008年8月 7日 (木) 00時01分
mitakashunさん、しばらくです!実は夏休みの家族旅行で屋久島~鹿児島を訪ねていまして、留守にしていたのです。中3の九州大会以来の(!)鹿児島でしたが、いいところですね。鹿児島にお住まいのmitakashunさんが羨ましいです♪
(最後に天文館で「白熊」食べて帰りましたー。)
本稿は、元々拙Blogの2稿目の記事=2005年の春に執筆したものなのですが、佐渡&シエナの素晴らしい演奏と、それと対照的に最近次々と繰り出される駄演CDとに触発されて、改訂再掲した次第です。今でも内容的には全く古くないので、追記部分以外はほぼ改訂前のままです。
岩井先生のコメントを改めて読んでみて「ポップスらしく個性的に、でも上品に。」というその言葉に、高い美意識を感じずにはいられません。ポップス、いや音楽はカッコ良くないと!と私も思うのです。
岩井先生には、いつまでもお元気でいていただきたいものです。
投稿: 音源堂 | 2008年8月 9日 (土) 20時50分
こんばんは。
なんと!鹿児島にいらっしゃったとは。
シロクマ食べられましたか、量的にすごかったでしょう。この店では地方配送もやっておりますが、現地で食べられた方が氷も柔らかく、きっと美味しく召し上がって頂けたことだろうと思います。連日の猛暑の中でしたから丁度良かったんじゃないですか?
岩井先生は昔自衛隊のコンサートにゲストコンダクターとして参加下さった事が何度かありますが、端から見ていてもポップスは楽しく・・という言葉を体現するような指揮ぶりはとても印象に残っていますね。これからも益々お元気でご活躍してもらいたい方だと思います。
投稿: mitakasyun | 2008年8月13日 (水) 00時04分
はい、「白熊」は凄く大きかったです。練乳かけは私の一番好きなかき氷なので、その点でもストライクゾーンど真ん中!でした。
ついでに、中3敗北の地・鹿児島文化センターにも行きました。(地元の高校の皆さんが演奏会をやってました。)
約30年前、表彰式が終わって「銅賞」の賞状を握り締め舞台を降り、応援に来てくれたOBの顔を見た途端、こらえ切れず大声を上げて泣いたことを思い出しちゃいました・・・。
投稿: 音源堂 | 2008年8月13日 (水) 10時37分
こんばんは
ご無沙汰致しております。メインストリートですか?大変に頭が痛かった(悩ませた)曲です。私がいた中学の県大会のAの部(西部大会県予選の部)初出場の時の課題曲でした。あの時代もそうですが離島の学校の為、殆んど情報が入ってこない状態でして、ある方に「ポップスを演奏すれば県大会で金賞はとれても代表になるのは難しいよ」と助言(苦言w)を頂き、先生はじめ部員達を大変に悩ませた曲です。五月初めまで即興曲とメインストリートの両方を練習してましたが、後者がうちのバンドの明るいサウンドに合ってるとの事で決まりました。前者は吹いてて息が詰まりそうで辛かったです。何を申し上げたいかと言うとongendoさんが仰る通り課題曲は種々のラインナッブがあればあるほど、その楽団に一番合った曲が選べる確率が高まると思うからです。もしあの頃ポップス調課題曲がなければ私のいた中学はどうなってたかと思うとゾーッとします。県予選初参加で熊本に行けたのも、この曲があったからだと思ってます。
是非 76、79年当時の様な種々なラインナッブな課題曲が復活する事を希望します。
追伸
奄美もいい所ですから遊びにいらして下さい。
私は在京ですが28年目を迎えます(笑)
ところで甚だ恐縮ではございますがongendoさんと直にメールさせて頂きたいと思っておりましてよろしかったら上記のメアドまでご連絡頂ければと切にお願い申し上げます。吹奏楽のお話しが出来ればと思っております。
投稿: h.tama | 2008年9月24日 (水) 23時17分
h.tamaさん、コメントありがとうございます。
1976年が初出場だったのですか!?初めて知りました。この年は石田中も「メインストリートで」で、同校はDrumsの女の子がとっても上手だったって評判でしたが・・・。^^)
今夏、お近く(?)の屋久島までお邪魔しました。いいところでしたー。いつかきっと奄美にも行きたいです!
メールの件、早速ご連絡を申上げておきました。こちらこそ宜しくお願い申上げます。
投稿: 音源堂 | 2008年9月25日 (木) 14時28分
「シンフォニア・ノビリッシマ」に続いての書き込み失礼します。
年齢が完全にばれますが、高校3年のコンクールで「メインストリートで」を演奏しました。
(自由曲は「ディバージェンツ」3-4楽章でした。)
九州地区(当時は「西部地区」)大会で銀賞を取った思い出の曲です。
(なぜか3rdクラリネット担当でした。)
このときはエレキベース入りでやりましたが、現在、コンクールはエレキベース禁止だそうですね。
「ニューサウンズ・イン・ブラス」はビートルズを中心に何曲もやりました。
「イェスタデイ」とか「オブラディ・オブラダ」とか…。
すみません、書き出すとつい長くなって…。
投稿: Lionbass | 2009年2月14日 (土) 13時19分
おおっ、Lionbassさんは私と同じ九州人の先輩でいらしたんですね!うれしい限りです。ディヴァージェンツも大好きで、当Blogでも採り上げております。
いや、楽しかった音楽の想い出は本当に尽きることがありませんよね。またぜひお越しいただき、どんどんコメントされて下さいね!
投稿: 音源堂 | 2009年2月15日 (日) 01時36分