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2008年7月13日 (日)

ミュージカル「マイ・フェア・レディ」セレクション

Myfairlady_poster"My Fair Lady" Selection
フレデリック・ロウ 作曲
(Frederic Loewe 1901-1988)
杉本 幸一 編曲
(Koichi Sugimoto 1958- )



「マイ・フェア・レディ」1956年にブロードウェーで初演され、大ヒットとなったミュージカル。オリジナルの舞台版では「サウンド・オブ・ミュージック」「メリー・ポピンズ」などで高名なジュリー・アンドリュース(Julie Andrews 1935- )が主演を務めたが、1964年にはオードリー・ヘプバーン(Audley Hepburn 1929-1993)の主演で映画化され、これも大ヒット。不朽のミュージカル名作として、現在も広く愛されている。

1900年代前半のロンドンが舞台となった物語。下町の花売り娘イライザが、偏屈だが優れた言語学者であるヒギンズ教授に徹底的に鍛え上げられ、僅か6ケ月で華麗なレディに変身する物語である。

※映画版あらすじの詳細 「my_fair_lady_synopsis.pdf」をダウンロード

Loewelerner脚本と作詞を担当したアラン・ジェイ・ラーナー(Alan Jay Lerner 1918-1986/右)と作曲のフレデリック・ロウ(Frederic Loewe 1901-1988/左)による楽曲は、全てが素晴らしい!文字通り、名曲の宝石箱というべきミュージカルとなっている。

♪♪♪


Shaw_2原作はジョージ・バーナード・ショー(Gerorge Bernard Shaw 1856-1950/左画像)の戯曲、「ピグマリオン(Pygmalion)」である。

※ピグマリオンという標題はギリシャ神話に登場するキプロス王の名に因るものである。彼は現実の女性には目もくれず、理想の女性を思い描いて自ら石像を製作する。彼はガラテアと名付けたこの石像に恋焦がれるが、それを見ていた女神アフロディーテが石像に命を与えて、ガラテアは人間の女性となり、ピグマリオン王と結ばれる -というエピソードが伝えられている。戯曲の内容からすれば、ショーがその標題を「ピグマリオン」としたのは、相当な皮肉であるといえよう。


Photo「マイ・フェア・レディ」とその原作「ピグマリオン」(左画像:倉橋 健による邦訳版)との決定的な違いは、物語の結末部分である。

即ち、「ピグマリオン」では花売り娘からレディに変身したイライザと、ヒギンズ教授とが結ばれることはない。「ピグマリオン」には後日譚が付されており、イライザはフレディと結婚し、ヒギンズとは対等の友人関係を続けたとある。
ヒギンズはイライザに失恋するのではなく、最後まで女性というもの(というより恋愛というもの自体)を必要としない男であり、イライザに恋愛感情を抱くこともないまま終わってしまう。原作におけるヒギンズは、まるっきり性格欠陥者といったニュアンスで描かれている。

これに対し「マイ・フェア・レディ」では、変わり者のヒギンズ教授も、最後は自らがイライザを愛していることに気づき、イライザは彼の全てを受入れてヒギンズのもとに戻ってくるシーンを描く。二人が結ばれることを暗示したハッピー・エンディングとなっているのである。

♪♪♪

Audley_in_my_fair_lady_4私にとっての「マイ・フェア・レディ」は、大好きなオードリー・ヘプバーンが主演する映画版である。既に高い評価を得ていたこのミュージカルを映画化するにあたり、監督のジョージ・キューカー(George Cukor)は「完璧」を期したとされる。
スタッフは、衣装=セシル・ビートン、音楽監督=アンドレ・プレヴィンを初めとする超豪華布陣。主演をオードリー・ヘプバーンにシフトした上で、劇中の歌唱はマーニー・ニクソンによる吹き替え。同様にフレディ役/ジェレミー・ブレットの歌う「君住む街で」も吹き替えである。

※近年発売された「マイ・フェア・レディ【特別版】」のDVDには、特典映像としてオードリー自身が歌った”素敵じゃない?””証拠を見せて”の2曲が収録されている。オードリー・ファンの私としては、これもこれで悪くはないと思うが、純粋に音楽として見れば、歌唱力のみならず声質からしてもマーニー・ニクソンの歌の方が遥かに次元が高い。キューカー監督の選択も、「あり」だと改めて認めざるを得ないところだ。ありとあらゆる手段を尽くして、エンターテインメントとしての完成度を志向した時代でもあったということだろう。


1全てのシーンが甲乙つけ難いのだが、私が特に大好きなのはヒギンズの優しさにふれたことをきっかけに苦手な発音を克服し、イライザが喜びを爆発させる「スペインの雨」-「踊り明かそう」と続く場面。
希望に輝き生き生きとしたオードリーの表情と楽曲の魅力とが相まって、大きな感動を与えてくれる。
…また、ラストシーンのオードリーの表情の変化の絶妙なこと!


何といってもレディに変身したイライザの”美しさ”のイメージに合致するのは、オードリーをおいて他にないと思うけれど、この映画でオードリーの果たしたことは、当然それだけではない。全編に亘りニュアンスを細やかに表現した演技が、実に素晴らしいのだ。
歌が吹き替えだからといって、この映画のオードリーが輝きを失うことは断じてない。

♪♪♪

Sugimoto_2杉本 幸一(左画像)編曲による、ミュージカル「マイ・フェア・レディ」セレクションは、NEC玉川吹奏楽団のコンクール自由曲として編まれたもので、同楽団は2005年全国大会で銀賞を受賞した。
杉本 幸一=NEC玉川による”ミュージカル3部作”の掉尾を飾る作品であり、従来にない「マイ・フェア・レディ」を!という意気込みで書かれたアレンジ。編曲者は「妥協はしていない」とコメントしており、演奏難易度は高いが、演奏効果も高く、感動的で聴き応えがある。

JcdPhoto_2有名な映画版だけでなく、ジュリー・アンドリュース主演の舞台版にも着目し、大編成を生かしたゴージャスでダイナミックなアレンジである。

出版はウインドギャラリー
(左:ジュリー・アンドリュースによる「マイ・フェア・レディ組曲」の収録CD/右:映画版「マイ・フェア・レディ」サウンドトラック盤)

珠玉の名曲揃いのこのミュージカルから、どの曲を選んで構成するかが重大なポイントであったが、最終的には
序曲
市場の男たちのコーラス(「素敵じゃない?」前奏部分)
アスコット・ガヴォット
君住む街で
証拠を見せて

忘れられない彼女の顔
踊り明かそう

というメドレーとなった。

金管群の”鐘の音”に続き”でかしたぞ!(You did it !)”の主題をフィーチャーした快活な「序曲」に始まる。ファンファーレが高らかに響いて一旦静まり、「市場の男たちのコーラス」がしみじみと歌われて導入部を形成する。続く木管群主体の「アスコット・ガヴォット」は、クラシカルで典雅な楽想が印象的である。

My_fair_lady_scoreワルツ風の「君住む街で」を優雅に聴かせたかと思うと、突如熱情とスピード感に溢れた「証拠を見せて」(画像参照)へ。鮮烈な音色と、セットドラムも入った生命感に満ちたリズムを聴かせるこの曲のエネルギッシュさは、全曲の白眉といえよう。殊に、テンポとヴォルテージをガンガン上げていく終結部は見事!

エキサイティングなブリッジを挟んで、EuphoniumとOboeのソロがリリカルに歌う「忘れられない彼女の顔」
センチメンタルでファンタジックな曲想が、前後と見事なコントラストを成す。編曲者得意のマンシーニ風サウンドや、効果的に使われたフィンガーシンバルなども心憎い。

さあ、そして最後はこの曲しかない。
「踊り明かそう」が賑やかに、時にはお茶目に、そして幅広い音楽の束となって最後のクライマックスに向かう。音符を拡大して迎えたクライマックスでは、運命的なスネアドラムのリズムとホルンのオブリガートがあまりに劇的!これが更にスケールの大きなダイナミック・シネラマサウンドのエンディングとなり、冒頭のファンファーレを呼び返したあと、重厚なサウンドで全曲を終う。

♪♪♪

Photo_3音源は
稲垣 征夫cond. NEC玉川吹奏楽団
のコンサート・ライヴ。
同バンドの全日本吹奏楽コンクール本番の演奏の方が優れているが、惜しくも銀賞に止まったため、こちらは市販音源となっていないのが残念。

♪♪♪

尚、杉本 幸一版以外の「マイ・フェア・レディ」吹奏楽版も紹介しておこう。どれもそれなりに工夫を凝らしたものではあるが、これらを聴けば、杉本版が実に多彩な音色と充実したサウンドを持った”渾身のアレンジ”であることを、理解いただけるとも思う。

My_fair_ladyR.R.ベネット 編曲
運が向いてきたぞ - 君住む街で - 素敵じゃない?- 時間通りに教会へ -忘れられない彼女の顔 - 踊り明かそう
「シンフォニック・ソング」「アメリカ古舞踊組曲」で吹奏楽界にも知られたベネットは、実はオリジナルの舞台版「マイ・フェア・レディ」の編曲者でもある。当時彼がイメージしていたであろう吹奏楽サウンドで書かれており、響きは古風なモノトーン。
演奏:野中 図洋和cond.陸上自衛隊中央音楽隊

My_fair_lady_2岩井 直溥 編曲
イントロダクション(忘れられない彼女の顔) - 運が向いてきたぞ - 踊り明かそう - 忘れられない彼女の顔 - 素敵じゃない?- 君住む街で
ニュー・サウンズ・イン・ブラスの一曲として発表されたもので、さまざまなリズムパターンを使用し、どこまでもポップな「マイ・フェア・レディ」。
演奏:岩井 直溥cond.東京佼成ウィンドオーケストラ

My_fair_lady_3J.カカヴァス 編曲
序曲(でかしたぞ!)- 君住む街で - スペインの雨 - 素敵じゃない?- 舞踏会のワルツ - アスコット・ガヴォット - 忘れられない彼女の顔 - 証拠を見せて - 踊り明かそう
収めた曲は多岐に亘るが、少々細切れか?サウンドは相当薄い印象を受ける。
演奏:P.ネヴィルcond.ロイヤル・マリーンズ・バンド

♪♪♪

「マイ・フェア・レディ」は、本当にどれも”力”がある素晴らしい楽曲ばかり。音楽の力というのは実に不思議で、ジャンルだとかそういうものを超えて心に訴えかけてくる。感動はクラシックの名曲にだけあるものではない。
”いいものは、いい”
-これが真実だと、つくづく思う。

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