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2008年4月18日 (金)

序曲 ハ調

Charles_simon_catel_2Gossec_3Overture in C
C.S.カテル
(Charles Simon Catel
1773-1830)








シャルル・シモン・カテル(冒頭画像左)は、ベートーヴェンと全く同時代に活躍した、古典派に属する作曲家。
カテルは、師事していたゴセック(Francois Joseph Gossec 1734-1829/冒頭画像右)とともに、フランス革命直後に創設されたパリ防衛軍軍楽隊創設に関与し、同団の指揮者であったゴセックの下、弱冠17才にして同軍楽隊の副指揮者に就任している。
こうした経緯から、この「序曲 ハ調」1792年にパリ防衛軍軍楽隊のために作曲されたものなのである。
ゴセックが同じくパリ防衛軍軍楽隊のために作曲した「古典序曲」とともに、吹奏楽オリジナル古典中の古典として、重要なレパートリーとなっている。

パリ防衛軍軍楽隊は1795年に解散した(その後、ゴセックとカテルは共にパリ・コンセルヴァトワールで教鞭を執った)が、その源流は現在も名門パリ警視庁音楽隊に受け継がれており、同音楽隊自身もゴセックとカテルが創立者であると認識している。

※パリ警視庁音楽隊
(The Musique des Gardiens de la Paix)
001_5
ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団とともに、伝統と実力を備えたフランスの誇る名門バンド。特に1954-1979年に隊長を務めたデジレ・ドンディーヌ(Desire Dondeyne 1921- )の時代に長足の進歩を遂げ、幾多の名演を遺している。


♪♪♪

その後、この「序曲 ハ調」は忘れ去られていたが、ゴールドマン・バンドの指揮者R.F.ゴールドマン(Richard Franco Goldman 1910-1980)とその助手R.スミス(Roger Smith)によって発掘される。
そしてこの両名が現代の編成に改訂し、1953年にゴールドマン・バンドにてアメリカ初演。これ以降、広く知られることとなった。

※ゴールドマン・バンド(The Goldman Band)Goldman1939
E.F.ゴールドマン(Edwin Franco Goldman 1878-1956)によって1918年に創設されたアメリカのプロフェッショナル・バンド。そのルーツは1911年のニューヨーク・ミリタリーバンドに遡る。
創設者にして指揮者であったエドウィンの死後は、これを息子リチャードが引継ぎ、ゴールドマン・バンドは1980年まで活躍を続けた。優れた演奏で知られた同バンドだが、その最大の功績は何といっても吹奏楽界に素晴らしいレパートリーを数多く遺したことであろう。
O.レスピーギ、M.グールドやP.クレストンといった著名な作曲家たちへの委嘱作品は多く、これらがオリジナル曲の極めて重要なレパートリーとなっているとともに、E.ライゼン(Eric Leidzen)など名アレンジャーも擁し、クラシック曲のトランスクリプション・レパートリーも次々と開拓した。
さらに「序曲 ハ調」「古典序曲」「トロンボーン協奏曲(リムスキー=コルサコフ)」などの埋もれた吹奏楽レパートリーの発掘・再評価も実施。そしてもちろん、ゴールドマン親子自身は作・編曲家としても活躍し、マーチを中心に(「木陰の散歩道」など)素晴らしい作品を多数遺している。
吹奏楽界への貢献は、本当に測り知れない。


♪♪♪

このように「序曲 ハ調」は、二つの歴史的バンドに深い縁のある作品。「序奏をもつソナタ形式」の典型であるこの曲は、モーツァルトの影響が色濃いとされる。こうした曲想は吹奏楽のレパートリーの中でも大変貴重である。

Largettoの”序奏”はハ短調の和音に始まり、緊迫した表情である。堂々と全合奏のコードを響かせていく。
1主部は Allegro Vivace 、木管群の軽やかな第一主題で静かに幕を開ける。透明感があり、終始気品を失わない音楽である。
2Oboeに現われる第二主題がまた可愛らしい!
3
確りとした形式を辿っていくのだが、暗鬱な短調部分と軽快な長調部分の落差が印象的。テンションの高揚するクライマックスもきっちり用意されており、飽きさせることがない。
古風ではあっても、音楽的な説得力も充分に備えたかけがえのないオリジナル曲の一つである。

♪♪♪

前述した同時代(1795年作曲)のゴセック作品「古典序曲(Classic Overture in C)」にも触れておきたい。
この作品もR.F.ゴールドマンとR.スミスに発掘・編曲され広く知られるようになっている。「ガヴォット」で有名なゴセックであるが、こと吹奏楽人にとってはこの「古典序曲」の方が馴染み深いかも知れない。
こちらも確りとした古典的構成を持ち、品があってシンプルな音楽であり、その実直さに大きな魅力がある。
序奏
1_2第一主題
2_2第二主題
3_2演奏面で困難なものはなく、古典的な曲想が存分に楽しめる。こちらも大事にしていきたいレパートリーである。

  ※尚、「古典序曲」原典版の編成はピッコロ・フルート・
        オーボエ・クラリネット・ファゴット・ホルン・トランペット
        ・セルパン(TubaやEuph.以前の低音管楽器)とのこ
        とである。
       「序曲 ハ調」の原典編成も同様と推定される。


♪♪♪

音源は以下の通り。

Photo_2ジョン・R・ブージェワーcond.
アメリカ海兵隊バンド

伝統ある実力派バンドの快演。緩急のメリハリをくっきりつけた明解な演奏で、活気に溢れた音楽となっている。充実した低音群のサウンドも抜群!

Photoフレデリック・フェネルcond.
東京佼成ウインドオーケストラ

主部(Allegro Vivace)も落ち着いたテンポ。各楽器の音色は卓越しており、よく歌う演奏。


Photo_3汐澤 安彦cond. フィルハーモニア・
ウインドアンサンブル

発奏がこの曲に関しては硬質過ぎ、サウンドも纏まりを欠くところがあり残念だが、テンポや解釈はオーソドックスで手堅い。ゴセックの「古典序曲」も収録。


  ※尚、この曲を改訂初演した
        R.F.ゴールドマンcond. ゴールドマン・バンドによる録音
        も遺されている。
    ”The Sound of the Goldman Band”というLPがそれ
        である。残念ながら廃盤になって久しく、入手は困難。
     私自身ぜひ聴いてみたいアルバムであり、CD化を
     切に望む。

  【他の所有音源(古典序曲)】
   小澤 俊朗cond. 尚美ウインドオーケストラ
   木村 吉宏cond. 広島ウインドオーケストラ
      川瀬 賢太郎cond. 九州管楽合奏団 [Live]
   

♪♪♪

私が「序曲 ハ調」を知ったのは、この曲が好きになるずっと以前。中高生の頃は刺激の強い現代的手法の曲に興味をそそられていたから、当初はこの曲に物足りなさを感じていたことも事実である。
しかし、1981年の全日本吹奏楽コンクール実況録音で聴いた基町高校(下画像)の演奏に驚かされ、以後「序曲 ハ調」は大好きな曲になった。
005中国支部の名門である同校は一貫してクラシカルな作品を自由曲に採り上げてきていたが、この年は更に古風極まる「序曲 ハ調」で全国大会に進出、見事金賞を射止めたのだ。
このタイプの楽曲でコンクールに挑むのは今も当時も大変勇気が必要だと思うし、ましてや結果を残すのは難しい。洵に畏れ入るばかりであり、同校の気持ちのこもった丁寧な演奏が楽曲の魅力を引出し、常識や思い込みを覆した瞬間であったと思う。

(Revised on 2010.4.25.)

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コメント

うひゃぁ、びっくりしました。私、ご紹介いただいている基町高校で、しかも序曲ハ調リアルタイムで演奏しました。私もこの曲大好きです。当時の器楽部の重厚なバランスもさることながら、指揮をされた増広先生の仕上げ方が秀逸で年齢を重ねるほど曲の良さが身にしみてわかってきます。本当に「まっさん」にはすばらしいプレゼントをいただきました。
実はこの増広先生が今年お亡くなりになり、11月22日に追悼演奏会が同校OBにより行われます。(当然ハ調もするだろうなぁと思いググってみるとこのサイトが見つかった訳です。)よろしければぜひお越し下さい。
それでは失礼いたします。

投稿: ざっき | 2009年6月26日 (金) 06時35分

ざっきさん、ようこそお越し下さいました。今後とも我が音源堂をご贔屓下さいませ。
「序曲ハ調」本当に素敵な演奏でした!あんなに地味な(失礼!)曲なのに、とにかく魅力的な音楽で…。そういえば、基町高校は「古典序曲」でも全国大会に出ておられますよね。

▼▼▼

増広先生、ご逝去されたのですか…。
基町高校が演奏された中では、1977年の「タンクレディ」も印象に残っております。実に品のある演奏で、クラシック音楽の素養が豊かな方のご指導によるものだと感じておりました。
”最新曲をいの一番に演る”といったバンドとはまた異なる、吹奏楽界で独自の個性を放っていたバンドでしたよね。
心より増広先生のご冥福をお祈り申し上げます。

投稿: 音源堂 | 2009年6月28日 (日) 12時02分

すみません。
私も序曲ハ調を普門館のステージで演奏した一人です。
当時は、「こんな曲で」という思いもありましたが、今となっては名曲の一つで私の人生の大きな思い出の一つです。
当時の増広先生は、にこにこしていたイメージしかなく、自分たちで曲を作っておりました。
でも、ここ一番の指導は今思い出しても非常に厳しくかつよい思い出です。
年月はたっても、いい音楽はいつまでも残るのですね。ありがとうございます。

投稿: ひろくん | 2011年4月 9日 (土) 21時48分

ひろくんさん、ようこそお越し下さいました。
とても音楽的な演奏でしたよ。古典らしい品があって、美しいサウンドが素敵でした。表現もとてもポジティヴだったと思います。

「いい音楽はいつまでも残る」
仰る通りです。拙Blogでは私の中で永遠に残ることになった楽曲について語らせていただいております。他稿もご覧いただけましたら幸いです。

投稿: 音源堂 | 2011年4月 9日 (土) 22時19分

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