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2008年2月21日 (木)

小組曲  C.ドビュッシー

DebussyHenri_busser_5Petite Suite
C.ドビュッシー
Claude Debussy
1862-
1918

管弦楽編曲
H.ビュッセル

(Henri
Busser
1872-1973




I.   En Bateau II. Cortege III. Menuet IV. Ballet

まだ20代半ばであったクロード・ドビュッシー(冒頭画像左)が4手連弾によるピアノ曲として1886-1889年に作曲。後にドビュッシーの友人である指揮者アンリ・ビュッセル(冒頭画像右)によって1907年に管弦楽に編曲され、どちらも同等に有名となっている。管弦楽版は作曲者自身の依頼、立会いのもとに作られたものである。

1979年の全日本吹奏楽コンクールでは弘前南高校が”小舟にて””バレエ”を採上げ金賞受賞。その爽やかな演奏以来、吹奏楽のレパートリーとしても定着し、現在では著名なアレンジャーがこぞって吹奏楽版スコアを手掛けている。
”第二の原曲”ビュッセル版自体が、木管楽器の音色やフィーリングを存分に活かしたものとなっており、吹奏楽でも貴重なジャンルのレパートリーとして重用されているようだ。

♪♪♪

Verlaine若き日のドビュッシーはフランスの詩人
ポールヴェルレーヌ
(Paul Verlaine 1844-1896/左画像)

に傾倒し、1880-90年代にはその詩を題材とした作品を遺している。「歌曲集”艶なる宴”」「歌曲集”忘れられた小唄”」「ベルガマスク組曲」といった作品群がそれである。
ヴェルレーヌの作品中でも、ドビュッシーは「艶なる宴 (Fetes Galantes)」に強く惹かれ、その幻想的な内容を自作に反映していたという。本稿で採り上げた「小組曲」もその一つに数えられる。

「艶なる宴」より (ヴェルレーヌ詩集/堀口 大學 訳)

小舟にて

空より暗い水面に  金星うかびただように
舟子、股引のポケットに火打石たずぬるに。

さても皆さん今こそは二度とまたないよい時分  傍若無人にいたしましょう、
さてもわたしのこの両手  以後かまわずにどこへでも!

騎士アチス切なげにギタール鳴らし

つれなびとクロリスあてに  あやしげな秋波おくる。

法師はひそひそエグレを口説き
ちと気の変な伯爵は  心を遠くへ通わせる。

かかるおりしも月の出て 小舟は走るいそいそと
夢みる水のそのおもて。


行  列

金襴の仕着のお猿、 彼女の先に立ち、 踊ったり跳ねたり、
夫人はお上品な手袋の片手に  ダンテルの手巾をいじくって。

後ろから、赤いおべべの黒奴小僧、  両腕にあふれこぼれる彼女のお晴れ
長い裳裾を重げに抱いて、  襞の一つの動きにも目の玉ぱちくり。

夫人の白い衿元から  猿め、かた時目を離さない。
見えぬ胸乳のふくよかさ  女神の体にふさわしい

黒奴小僧のいたずら奴、  その豪勢な重荷をば  必要以上に持ち上げて
彼の夜ごとの夢に入るものの象(すがた)をのぞき込む。

彼女は石の階を、心静かに登り行く、 飼いならされた動物の
身のほど知らぬ恋慕なぞ  気にもとめないのどかさで。


♪♪♪

(以下はビュッセル編の管弦楽版をもとに述べる。)
前述の通り、ハープを含む弦楽器と木管楽器を中心とした編曲であり、洵に魅力的な旋律を、そのイメージに実に合致した楽器の音色で聴かせる。音楽は明快で非常に愛らしい。虚心坦懐、”いい歌”をシンプルに提示しているさまは、音楽の根源的な悦びそのもの。
「小組曲」という題名は、そのシンプルさに対するドビュッシーのはにかみが表れたものかもしれないが、楽曲には充分な魅力と高い品格が備わっている。

I.小舟にて
優雅なバルカロール(Barcarolle/ヴェネツィアのゴンドラ漕ぎの舟歌、もしくはそれを模して書かれた楽曲)で幕開け。Harpの分散和音の上に、瑞々しいFluteの旋律が歌いだす。
Photo中間に凛とした表情の弦楽アンサンブルを挟むが、あくまでふんわりとした音楽であり、クラリネットやオーボエの音色も実に映えている。柔らかに寄せては返す旋律に応えるオーボエのカウンターは、これもまた名フレーズ。

II.行 列
「ちょこちょこぴょんと跳ねていく」Fluteで軽やかに始まり、シンコペーションを効かせた中間部は幻想的。全曲中でも可愛らしさを極めた、愛すべき音楽。
Photo_2
III.メヌエット
この組曲の中で最も私の好きな楽章。ルイ王朝風と評される音楽であり、OboeとFagottoのソリで始まる短い序奏部に続き、ノスタルジックで典雅な第一主題が現れる。1_2
そして、一層ノスタルジーを高め、切なさを掻きたてる第二主題をFagottoが奏する。私はこの旋律がどうにもこうにも好きなのだ。
2_2
VI.バレエ
浮き立つような快活なフレーズで始まるが、決して無用に泡立つことはなく落着いた品のある音楽。
1_3中間部のワルツも小洒落ており、生命感に満ち満ちている。冴えるピッコロの音色は注目!
2_3やがて冒頭の旋律が戻り、さらに2拍子が3拍子に変容してスケールの大きな音楽となる。品格を保ちながら音楽は高揚し、爽やかな全合奏で終末を駆け抜けていく。

♪♪♪

さて、音源。管弦楽版は以下をお薦めする。

3ヤン・パスカル・トルトゥリエcond.
アルスター管弦楽団

若々しく快活な演奏。軽やかで陽気な”才色兼備の女学生”のイメージ。



2ジャン=フランソワ・パイヤールcond.
パイヤール室内管弦楽団

端整で落着きのある美しさ。自信に溢れた人生をおくる”大人の女性”のイメージ。



1ヨアヴ・タルミcond. ケベック交響楽団

非常に繊細で透明感のある演奏。可憐で清純な”深窓の令嬢”のイメージ。




51ntku5llzlエマニュエル・クリヴィヌcond.
国立リヨン管弦楽団

清潔な美しさと精神的な成熟を感じさせる、凛とした好演。自分の美しさを的確に把握した美人にして、眼鏡の似合う理知的な”お姉さま”のイメージ。

  【その他の所有音源】
   ジャン・マルティノンcond.フランス国立放送局管弦楽団
   ルイス・レインcond.クリーヴランド管弦楽団
   ポール・パレーcond.デトロイト交響楽団

   エルネスト・アンセルメcond.スイス・ロマンド管弦楽団

原曲/4手連弾版としては、定番の
ベロフ=コラール
(Michel Beroff & Jean-Philippe Collard)
盤や、
ハース=リー(Werner Haas & Noel Lee)
盤も良いのだが、

Photoリュヴィーシ=マクダーモット
(Lee Luvisi & Anne-Marie McDermott)

盤を紹介しておきたい。
とても素朴で、好感の持てる演奏である。


(Revised on 2008.8.26.)

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コメント

小組曲、取り上げていただき嬉しいです。
お薦め音源も参考になります。
でも、ここのサイトを見てタワーなんかに行っても、けっこう置いてない音源も多いですね。
ご購入は通販が多いのでしょうか?

投稿: くっしぃ@サウジ | 2008年2月21日 (木) 07時20分

大変お待たせしました!

今回、じっくりと聴き込みまして「小舟にて」+「バレエ」という吹奏楽的刷り込み?は一掃され、「メヌエット」が大好きになりました。私自身にとっても大きな収穫でした。この曲に現れる木管楽器の魅力は金管楽器では出せないものですねえ。しみじみいいなーって思います。

この曲は録音が少なく、メジャーなオケ/指揮者の録音となると本当に僅かです。今回お薦めしたもの以外の演奏も、夫々に味があって悪くないと思いますが、それはこの曲が奏者の心もあったかくしてくれる音楽だからかもしれませんね。
・・・で、「お薦め」については印象を女性の魅力に例えてみました。^^)

♪♪♪

お気付きの通り、私のCD購入は通販が多いです。最大の理由は「マニアック」なものが多く、ショップの店頭ではなかなか手に入らないからです。ご紹介したものは全てAmazonで購入できますよ。

投稿: 音源堂 | 2008年2月21日 (木) 12時28分

なるほど、やはりアマゾンですか。
こちらでも前に紹介いただいたWerner Haasのドビュッシー集をアマゾンに頼んでいて、届くのが楽しみです。
小組曲はどの曲も魅力があって、どれか一つと言われたら僕なら困ってしまうでしょう。その時の気分にもよりますが、今なら「小舟にて」かなあ。木管(オケ版)が本当にいいですね、この曲は。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2008年2月25日 (月) 03時12分

Haasのドビュッシー、本当にいいですよ。特にオケや吹奏楽をやっている人にとってはそう感じられるんじゃないかと思います。
「小組曲」はビュッセルの編曲が本当に素晴らしいですね。これに比べると「喜びの島」の管弦楽版は・・・。今回買増したCDにもこれが収録されているものがあったのですが、やっぱりイマイチ。演奏というより、オーケストレーションの問題ですな。真島吹奏楽版の方が原曲の良さが出てると思います。

投稿: 音源堂 | 2008年2月25日 (月) 10時51分

この曲との出会いは、やはり弘前南高校の演奏でした。
社会人になってからは、オケで全曲演奏を経験しました。オーボエとしてはおいしいところだらけでしたね。いつか又やってみたいです。

吹奏楽では、アンコンで生徒にやらせることがありますが、成績はなかなか、、、、。

バレエをやったときは「いける!!」と思いましたが、生徒が熱中しすぎて自爆(というか評価されませんでした)
行列は、演奏もチームとしてもいまいちまとまりきれず。
今年は一年生木金打混合6人チームで、小舟にて、に挑戦します。
中学生ではなかなか難しいと思いますが、この曲のすばらしさに少しでも近づければなあ、と思います。

それにしても編曲が大変だった。これから2ヶ月の練習で本番です。

投稿: とらまる | 2009年11月 6日 (金) 11時43分

とらまるさん、コメントを有難うございます。
Oboe奏者でいらしたんですね…!素敵ですよねー。永遠の憧れですね、Oboeは。

「小組曲」はその名の通り可愛いらしい小品ですが、しみじみといい曲です。どの演奏を聴いてもそれぞれに良さがあるのは、この曲が優れていることの表われでしょう。
そして、私にとってこの曲にはどうしても美しい女性のイメージがあり、それから離れられません。^^)

投稿: 音源堂 | 2009年11月 6日 (金) 17時45分

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