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2008年2月24日 (日)

パンチネロ -ロマンティック喜劇のための序曲

CdPunchinello,
Overture to a Romantic Comedy
A.リード
(Alfred Reed  1921-2005)




何より自分を落ち着かせるために、一つ息をついてメンバーの顔を見渡し、わざと深くうなづいて、指揮棒を挙げる。予備拍1拍に続いて、直ちに音のエネルギーが溢れ出す「パンチネロ」の始まりだ。前奏部で最も大きなダイナミクスとなるところ、我がバンドは実に伸び伸びとよく鳴っている-。
今思えば、優れた演奏とは言い難い。しかし、所与の環境で懸命にやってきた。1985年5月、母校の講堂で開催された演奏会のオープニングで、学生指揮者として初めて本番のステージに立った私であった。
-あの瞬間の高揚感、充実感は忘れることができない。

♪♪♪

Punchinello「パンチネロ」(邦題としては「パンチネルロ」も根強い)は、世界中の吹奏楽人に深く愛されたアルフレッド・リード1973年に作曲した傑作。「ジュビラント序曲」 「春の猟犬」に並ぶ”リード序曲”の人気作である。

「パンチネロ」(左画像)とは、元々16-18世紀にかけてヨーロッパで盛んであったイタリアの仮面道化芝居「コメディア・デラルテ(Commedia dell'Arte)」に登場するキャラクターのこと。イタリア語ではプルチネッラ(Pulcinella)といい、これがイギリスでパンチネロ、フランスでピエロに転化したという。また、これを起源とする「パンチとジュディ(Punch & Judy)」という人形芝居によってこのキャラクターは更にポピュラーなものとなった。
パンチネロは道化の中でも、少々お馬鹿さんで人にだまされることが多いのだが、純真な夢想家というイメージとされる。

このリードによる「パンチネロ」序曲がどこか懐かしくレトロで、夢見るような曲想を持っているのは、まさに作曲者の意図通りなのだと思う。

♪♪♪

鮮烈な楽句で音がほとばしり、快速で華やかにこの曲はスタートする。
Photo高揚感のある輝かしい前奏部に続いて、クラリネットに愛嬌のあるメロディが現れ、各楽器の応酬へと発展。
Photo_2やがてぐんっと高揚して、得意げに胸をはる道化師をイメージさせる最初のクライマックスへ。かと思うと次のクラリネット・ソロは落ち着きを与える美しさ。
Photo_3音色とダイナミクス・拍子の変化、効果的なシンコペーションの使用が音楽に絶妙なアクセントをつけていく。

さあ、そして夢見る中間部。ブリッジのやや野性味のあるサウンドは徐々に優しく穏やかな響きに変わり、ゆっくりとしたテンポでHornとコールアングレが優美な旋律を奏でていく。
Photo_4これに高音を活かしたクラリネットの対旋律が応え曲想はロマンティックさを深める。さらにVibraphoneの音色が幻想的なサウンドを醸し、甘美だがなぜか”遠い”音楽は徐々にスケールを拡大、ついには厚く暖かい音が充満して、聴くものを包み込むのだ。

名残惜しげなFagottoの音色で中間部を終え、再び快速な再現部。ダイナミックで力強い楽想に続いて短調も顔を出し、緊張感が走る。
-しかし直ぐに転換するここからが、楽しくって仕方ない!シンコペーションの伴奏に導かれて Muted Trumpetにポップス風のフレーズが現われ、洒落たスネアのリズムも加わって音楽はまさにノリノリ!誰もが頬を緩ますことであろう。

それから息もつかせず、リズミックな前半部分の旋律にのり、Trumpetが中間部の旋律を高らかに歌い上げるポリリズムに突入する。ビートとハーモニーを支える誇らしげなTromboneの伴奏が、また実にカッコいい!
Photo_5冒頭のビートを取り戻してコーダ。畳みかけるような全合奏の2拍3連に続いて、天まで届けといわんばかりのTrumpet+Tromboneの鮮烈なファンファーレ風楽句が響きわたり、エキサイティングに曲を閉じる。
Photo_6
♪♪♪

ああ、どうしたらこんな素敵な音楽が書けるんだろう!
リードが遺してくれた宝珠のようなこの曲、ずっと大事にしていきたい。

音源は、リード自身の指揮による東京佼成ウインドオーケストラLive盤(冒頭画像)が実に素敵な演奏でありお薦めしたい。理屈抜きに、音楽に活力が満ち溢れキラキラと輝いていることが判るはずだ。

 【その他の所有音源】
   市岡 史郎cond. フィルハーモニア・ウインドアンサンブル
   時任 康文cond. 大江戸ウインドオーケストラ(Live)
   加養 浩幸cond. 土気シビックウインドオーケストラ
   エドワード・ピーターセンcond. ワシントン・ウインズ

   ※尚、試聴音源を含む出版社(C.L.Barnhouse)サイトは
こちら

♪♪♪

「パンチネロ」は私にとって文字通り”青春の一曲”。
ただ単に、学生時代の楽しい或いは哀しい、さまざまな想い出が甦るだけではない。前述の通り、私が学生指揮者としてスタートを切ったこの曲は、現在に連なる私の吹奏楽、いや音楽に対する”欲”の象徴でもある。
何の才能はなくとも、努力はしたし情熱だけは人並み外れていた。その情熱だけをバックボーンに”欲”を掻いて、音楽活動に接した。それが結果として多くの方々にご迷惑を掛けたこともあったし、思い出すと死にたくなるほど恥ずかしいこともやらかしてきた。「パンチネロ」を聴き、こうした回想がもたらされるたびに、私は煩悶する。

しかしその苦しみの奥底で、この期に及んで未だに”欲”の炎がチラチラと揺らめいていることに自分でも驚く。自分の美学とは正反対なのに、頭や理性では判っているのに。ああ、何と業が深いのか!私は・・・。
音楽とは、私にとって最大の悦びであるとともに、最も深い苦しみの根源でもあり続けている。

(Revised on 2010.10.17.)

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コメント

こんばんは~

ぼくも1980年ごろに、この曲を演奏しましたよ。
京都の某ウインドオーケストラを設立し意気揚々とした、いわば楽団初演の第1曲目!
あのイントロの出だしの爽快感!!
あれは忘れられません。

そして中間部の美しいレガート、、、
アルトサックスで初めて1stを担当し、ヴィブラートで哀愁をそそる・・・
いま思い出しても涙が出そうです。。

投稿: アカルイくらりねっと | 2008年3月 3日 (月) 23時03分

アカルイくらりねっとさん、コメントを有難うございます。いつも貴ブログを拝見し、精力的なご活動に感服致しておりますよ。今後とも宜しくお願い申上げます。

音楽を通じての想い出はたくさんありますね。「パンチネロ」もその最も大きなものの一つに関係していたわけです。

あと大きな想い出というと、以前所属していた市民バンドで内紛があり、それがもとでパーカッションパート全員と常任指揮者が突如離脱、歴史あるバンドが空中分解しそうになった時のことになりましょうか。

それを乗り越えて演奏会を無事成功させ、打ち上げで抱き合った時の団長さんの涙・・・。当時未だ団歴の浅い私も、副指揮者として懸命に注力し、建て直しができたぞという充実感に浸ったものです。
その演奏会の想い出の曲は、R.ジェイガーの「R.シューマンの主題による変奏曲」。この曲についてもいつか触れたいと思っております。

・・・それだけ愛していた当時のバンドも、辞してから早や10年を超えました。退団した頃を思い出し、今でも当時の自分の至らなさを改めて痛感(文字通り「痛い」のです)する日々です。

投稿: 音源堂 | 2008年3月 4日 (火) 10時57分

初めてお邪魔します。
音源堂さんがこのような素晴らしいブログを書いていらっしゃることを知り,その一部を読ませていただいてとても懐かしくなり,思わずコメントを書いています。

私が今まで演奏した中で最も好きな曲の一つが「パンチネルロ」です。大学2年のサマーコンサートの選曲でどうしてもこの曲がやりたいと強く推し,パート決めでも初めて先輩に「スネアドラムかシロホンをやらせて欲しい。」と生意気にも頼み込んだ思い入れの深い曲でした。

そして確か音源堂さんが学指揮としてデビューした練習で初めてこの曲を振ったのでしたね。 その時の衝撃は今でもはっきりと覚えています。 

自分の出番が来ると必ずこちらを鋭い目で見て,どのように演奏したいのかをタクトで示してくださいました。

コーダに入る直前にスネアドラムがリズムを刻みだすところ,すごく好きなのですが,「そのスネアがとても重要だ。」というようなコメントをいただいたのがとても嬉しかったです。

それまでパーカッションに対して的確な指示や言葉をくださる指揮者の方が回りにいなかったため,音源堂さんの指揮に出会えたことは私にとってとてもありがたいことでした。そしてその一年間「呪文とトッカータ」「アルメニアンダンス」などパーカッションのやりがいのある曲をたくさんやらせていただきとても楽しかったのを思い出します。

誰が何と言おうと,私は音源堂さんの指揮が大好きでした!

今現在は,なかなか演奏に携わることが難しくなってしまいましたが,やっぱり吹奏楽は
自分の青春そのものです。ずっと音楽を続けていらっしゃる音源堂さんがうらやましいです。
これからもがんばってくださいね。

このブログには懐かしい曲がたくさんアップされているのでときどき覗かせていただきますね。

ところで,どこかにカセットテープに録音された当時の自分たちの演奏をデジタル化する云々というコメントがありましたが,それはお金を出せば可能なのでしょうか?

拙い演奏でしたが,テープでは今聞けなくなってしまったので,もう一度聴きたいなあと思うことがあります。良かったら教えてください。

ではお身体に気をつけて,ますますのご活躍をお祈りしています。

投稿: Tomo | 2013年1月 5日 (土) 00時10分

Tomoちゃん、よく来てくれましたね。そしてコメントをいただき本当に有難うございます。
プロでも何でもない、どアマチュアの私ですが、本当に音楽が好きで好きで学生時代からずっとこの曲はこう演奏したい、あの演奏はここが素晴らしいなどと四六時中思いを巡らし日々を過ごしています。

私の棒など拙いばかりでしたが、Tomoちゃんからコメントをいただき素直に喜んでいます。今でもあのパンチネロが始まった瞬間の音の勢い、みんなの気持ちの集約というものは絶対に忘れることのできない想い出です。

♪♪♪

カセットテープのデジタル化ですが、私は福岡にある「工房ブルーランナー」さんにお願いしました。60分テープで3,000円(送料別途要)と相応のお値段ですが、私は満足しております。詳しくは本Blog中の記事「懐かしの『素晴らしきヒコーキ野郎』」をご参照いただき、文中のリンクから見てみて下さい。

尚、私がカセットテープをデジタル化したのは、先日開催された私どもの代の卒業25周年記念同窓会の際に、同期の面々に幹部の年のサマコン(パンチネロ他)・定演(アルメニアンダンス他)の録音をCD-Rにして配るためでした。この年のマスターテープは私が保管していたので、最大限の音質で皆に配布することができたのです。同期たちもとても喜んでくれました。

従いましてこの年のものしかありませんが(しかもサマコンはPopsなし)、Tomoちゃんが欲しいということでしたら、CD-Rをお送りしますよ。ご連絡下さい!

ではまた拙Blogにぜひお越し下さい。演奏活動を続けるのは大変ですが、頑張ります☆いつかまたTomoちゃんと一緒に演れたら素晴らしいですね。私自身はまた棒が振れたらとも思い、その意味でももっと勉強しようと思っているところです。

投稿: 音源堂 | 2013年1月 5日 (土) 17時01分

早々と返信コメントありがとうございます。
(o^-^o)

CD-R 是非お願いしたいです!!
甘えてしまっていいのでしょうか?
全く急ぎませんので、お手すきのときにでもよろしくお願い致します。
本当に嬉しいです~。
 
そして同窓会を開かれたとのこと、先輩方にも久しくお会いしていませんが皆様お元気でしたでしょうか。

本当にまたいつか一緒に演奏ができたら素敵ですね...
 
ではまたお邪魔させていただきます。

投稿: Tomo | 2013年1月 5日 (土) 20時09分

Tomoちゃん、了解です。
梱包の準備等ありますので、少しお時間下さい☆

同期たちは若干の欠席者は居ましたが、欠席者も含めみな元気です。その内演奏活動を続けているのはEuph.のI君、コンマスのT君、そして私の3名でした。
この年になっても3人も続けているということは、やはり僕らの代には音楽中毒が多かったということかな?^^;)

投稿: 音源堂 | 2013年1月 5日 (土) 20時41分

ありがとうございます(≧∇≦)
どうぞよろしくお願いいたします。

音源堂さんはもちろんのこと、Iさん、Tさんとも人一倍音楽への情熱にあふれていらっしゃいましたよね。 
演奏活動も一人ではできないわけで、楽団などに所属すれば「行きたいときに行けば良い」というわけにはいかないですから、それを続けるには相当のエネルギーと時間をそそがなくてはならないと思います。本当に感服し尊敬します。

私も子どもが高2と中2となりずいぶん手はかからなくなったので、演奏会を聴きに行くくらいはできると思います。そういう機会がありましたらご連絡いただければ嬉しいです。
そして是非またいつか音源堂さんの指揮するお姿を拝見できることを楽しみにしております。


投稿: Tomo | 2013年1月 6日 (日) 22時21分

本日CD-Rが届きました。

すぐに一通り聴かせていただきその素晴らしい音質にまず感動し、続いて懐かしさと共に当時の様々な想い出がよみがえってきました。

思えば四半世紀も前のことになるのですが、不思議とはっきり覚えているシーンや言葉もたくさんありますね。

私にとってどれも大切な想い出です。


音源堂さん、本当にありがとうございましたm(_ _)m  

新年早々、最高のプレゼントをいただきました。ずっと大事にします。

自分たちの時の定期演奏会もそのうちデジタル化していただこうかなと考えています。

取り急ぎお礼まで...


投稿: Tomo | 2013年1月 9日 (水) 20時46分

Tomoちゃん、喜んでいただけたようで良かったです。
マスターテープからデジタル化できたのはラッキーでした。25年以上経過してましたが、何とかテープもダメにならずにいてくれたんですよね。

またお越し下さいね☆

投稿: 音源堂 | 2013年1月 9日 (水) 20時59分

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