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2007年12月15日 (土)

ディエス・ナタリス

Photo_5
Dies Natalis
ハワード・ハンソン
(Howard Hanson  1896-1981)

12月を迎えると、世の中はクリスマス・ムードに染まる。
(冒頭画像:クリスマス・ミサの情景)
吹奏楽のオリジナル曲にもクリスマスに因んだものがあるわけだが、その中でも屈指の名作はハワード・ハンソンの「ディエス・ナタリス」であろう。
題名はラテン語で「誕生の日」の意。キリスト教圏にとってそれはイエス・キリストの降誕祭=即ちクリスマスを指すものだ。

この「ディエス・ナタリス」はキリストの誕生を祝う、歴史ある美しいルーテル教会の聖歌の旋律に基く作品で、序奏、聖歌、5つの変奏曲、そして終曲から成る。
1967年に作曲された管弦楽曲から1970年に改作されたもので、この吹奏楽版初演は1972年4月7日。イーストマン音楽学校の50回目の創立記念日を祝い、イーストマン劇場にてドナルド・ハンスバーガーcond. イーストマン・ウインドアンサンブルが行っている。

♪♪♪

ルーテル教会とは、宗教改革の中心人物にしてプロテスタント教会の源流を作ったマルティン・ルター(Martin Luther 1483-1546)が創始したもの。ルター自身が賛美歌を奨励し、作詞作曲も手掛けるなど音楽に造詣を有していたこと、J.S.バッハやG.ヘンデルも信仰していたことから、特に音楽との関係が深いキリスト教派とされる。

ドイツ、そして北欧で篤く信仰されたルーテル教会であるが、19世紀には北欧系ルーテル派教徒が多数アメリカに移住。作曲者ハンソンもこうしたスウェーデン系移民の両親のもとに生まれている。
ハンソンにとって、幼少の頃から親しんだこのルーテル教会の聖歌は極めて重要な「音楽」であったようだ。

「私は少年時代、このコラールをネブラスカ州ワフーのスウェーデン系ルーテル教会で歌ったものです。作曲家としての私の人生において、このコラールが最大の音楽的影響を与えたものであることは疑いありません。
このコラールは、私が作曲した初期の管弦楽作品-例えば「ルクス・エテルナ」や歌劇「メリー・マウント」にその痕跡を刻んでいますし、吹奏楽作品である「コラールとアレルヤ」、そして管弦楽のための交響曲第4番および第5番にも影響を与えております。」

(プログラム・ノートにあるハンソン自身のコメント)

「ディエス・ナタリス」は、ハンソンが愛したこの優美なコラールを、荘厳にそして大きなスケールで大切に歌い上げている音楽。まさに聖夜に相応しい作品といえよう。

♪♪♪

厳かなTimp.ソロによる序奏に続き、トロンボーンのハーモニーによる鐘の音が聴こえ、聖歌が始まる。
Dies_natalis_1聖歌はユーフォニアムとクラリネットの低音による、朗々とした音色で歌い出される。
Photo_2これが徐々に厚みを増して、聖歌が更にスケールの大きな音楽となっていく最初のクライマックス。劇的だが神聖さと高潔さを失わない曲想が全曲のムードを支配することを宣言する。

続いて、ややテンポを上げて5つの変奏曲へ入る。
第1変奏:幻想的な響きと揺らぎが交錯、最後はテンポを早めて律動感を増し、更に大きく揺らぐが、ほどなく静かにそして遠くなっていく。
第2変奏:木管のオスシナートの上で展開する、打楽器と金管群の激しい応酬。
第3変奏:静まって、ゆっくりとした変拍子(2/4 , 3/8)。各木管楽器の音色の個性を際立たせている。
第4変奏:急転して不安げな木管楽器の細かい音符に始まり、緊張感の高い強烈な楽句とサウンド、激しい感情の昂ぶり。
第5変奏:音楽は落着きを取り戻し、安寧なクラリネットの音色が感情を鎮めていく。

テンポやダイナミクス、色彩を次々に転換させるのが見事。

そして終曲。冒頭のTimp.が再び現れ、ファゴットとオーボエによる鐘の音が遠くから聴こえてくる。だんだんと熱を帯びてきた音楽は大きな火の玉のように高揚し、やがて全合奏が炸裂して、鳴り響く鐘の音が壮大に表現される。
かと思うと、すぅーっと穏やかに、そして伸びやかに冒頭のコラールが帰ってきたのに続き、さらに劇的な旋律が高らかに歌われる。
-その変幻ぶりが実に心憎い。
Dies_natalis_2最大のクライマックスへは、二つの主要旋律、そして「鐘の音」とが夫々呼び合うように鳴り響き、重厚さや荘厳さを極めていくのだが、これがこの上なく感動的!ハンソンの作曲手腕はもちろん、彼の強い思い入れを感じさせるものである。
コーダでは鮮烈な”間”に続き、金管の「鐘」に導かれて豊潤なコードを轟かせ、最後まで劇的に終幕を迎える。

♪♪♪

さて音源だが、私としては以下を推したい。神秘性が強く、緊張感に包まれる音楽であるが、クリスマスの厳かな側面に存分に浸れること請合いであり、お聴きでない方はぜひ一聴を。

Dies_natalis汐澤 安彦cond.
東京佼成ウインドオーケストラ

大変丹念な演奏にして、メリハリのあるテンポとダイナミクスの設定によるコントラストが素晴らしい。終盤の重厚さは随一のもの。
(最後のコードは記譜とは異なる解釈。)

Dies_natalis_eweドナルド・ハンスバーガーcond.
イーストマン・ウインドアンサンブル

この曲の初演者による録音。涼やかなサウンドが、この楽曲により一層神聖さを与えている。


♪♪♪

Howard_hanson作曲者ハワード・ハンソン(左画像)はアメリカのクラシック音楽界の重鎮であった人物であり、イーストマン音楽学校校長を40年の永きに亘り務めた。作風は保守的でネオ・ロマンティックに属し、また北欧の色彩が濃いことで知られる。1944年には、交響曲第4番「レクイエム」でピューリッツァー賞を受賞。

吹奏楽では本作のほか、「コラールとアレルヤ」「ラウデ」「センテニアル・マーチ」といったオリジナル曲があり、また「歌劇”メリーマウント”組曲」「交響曲第2番”ロマンティック”」も編曲されて演奏されている。

♪♪♪

最後に、クリスマスに因んだ吹奏楽のオリジナル曲をもう少し紹介しておきたい。

2ロシアのクリスマス音楽    A.リード
Russian Christmas Music
Alfed Reed

リード初期の大傑作。静かに降積む雪のムードに始まり、素朴な聖歌が歌われていく。
中間部はコール・アングレのソロが大変味わい深く、またストリング・ベースの伴奏により、木管楽器が愛らしい聖歌をしみじみと歌う。
一転、終結部に向かって放射状に高揚するクライマックスは、劇的なTimp.や濃密なサウンドとも相俟って、もはや”壮絶”と形容すべきもの。息の長い旋律がパワフルに歌われるさまは、洵に感動的である。
音源は作曲者A.リードcond. 東京佼成ウインドオーケストラの秀演を。

Photo_3クリスマス組曲    D.バーカー
A Christmas Suite    David Barker

こちらはイギリスで歌われた古いクリスマス・キャロルを3楽章( I. Chaconne  II. Scherzo Variation  III. Fanfare and Fugue )にまとめたものだが、これも素朴さに溢れており、古きよき時代を感じさせる音楽。
緊迫感をもってダイナミックに聴かせる第2楽章が見事なコントラストを演出するなど、楽曲そのものもなかなか良くできている。
音源はR.ウィッフィンcond. イギリス空軍ウエスタン・バンドの演奏で。

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コメント

ディエス・ナタリス
今の時期になると無性に聴きたくなります。そして私は実際に聴くわけですが、冒頭のハーモニーに乗って奏でられる主題はとても温かい気持ちにさせてくれますし、変奏を経て再び主題に帰ってきた後、それまでの集大成となるべく重厚なサウンドで圧倒されますね。
何度聴いても飽きが来ません。願わくば一度でもいいから演奏してみたかったです。

あと紹介されているクリスマス関連の曲では「ロシアのクリスマス音楽」を実際演奏したことがあります。終盤息の長いフレーズはかなり疲れもしましたが、とても感動的でありました。こちらは聴くよりも実際演奏した方が楽しめる曲のように個人的に思っています(もちろん聴いても素晴らしい曲なのは言うまでもありませんね)。

へぇ~。クリスマス組曲というのもあったのか・・
良いことを教えていただきました、有り難うございます。

投稿: mitakasyun | 2007年12月25日 (火) 23時33分

mitakashunさん、コメントを有難うございます。

吹奏楽でクリスマス・コンサートをやるなら、ぜひプログラムに入れたい名曲ですよね!私もこの季節になると必ず聴いている曲です。

デヴィッド・バーカーのクリスマス組曲は、日本ではあまり馴染みのないキャロルを採り入れた作品ですが、素朴な旋律の美しさとダイナミックな高揚感がとても素敵です。
GREAT BRITISH MUSIC FOR WIND BAND VOL. 1 というCD(品番:Polyphonic QPRM 115D)に収録されております。
MSJPさんでは以下をご参照下さい。
https://www.musicstore.jp/database/search.php?order_no=023312

投稿: 音源堂 | 2007年12月26日 (水) 09時53分

CDを紹介してくださり恐縮です。
早速ウィッシュリストに追加しましたので、後ほど
他の物と纏めて購入します。
どうも有り難うございました。

投稿: mitakasyun | 2007年12月26日 (水) 21時19分

mitakashunさん、ご丁寧に有難うございます。お役に立てたなら嬉しく思います。
年内ももう一本出稿したいと考えておりますが、今後とも当ブログをどうぞ宜しくお願い申上げます。

投稿: 音源堂 | 2007年12月27日 (木) 09時34分

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