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2007年11月26日 (月)

サンタフェ物語

PhotoSanta Fe Saga
M.グールド
(Morton Gould 1913-1996)





この曲は、吹奏楽音源の淋しさを象徴する作品である。古くは1964年に天理高校が全日本吹奏楽コンクールで演奏し優勝して以来、コンクール自由曲としてもたびたび採り上げられているにもかかわらず、全曲収録の国内盤はなく、輸入盤もごく僅か・・・。私にとって憧れの曲の一つであるから、この現状は如何にも淋しい。

♪♪♪

Morton_gould作曲者モートン・グールド(左画像)は、現代アメリカ音楽界の重鎮であった。クラシックのコンピレーション盤でも収録されることの多い「アメリカン・サリュート」をはじめ、「フォールリヴァーの伝説」「フォスター・ギャラリー」等の作品で知られ、最晩年の1995年にはStringmusicでピューリッツァー賞も受賞している。
「狂詩曲ジェリコ」「バラード」「ウエストポイント交響曲」などの吹奏楽曲も有名。

彼の作風はクラシック音楽のフォルムと、ジャズや民謡とを巧みに融合したと評されており、この「サンタフェ物語」(1955)もその典型である。かのE.F.ゴールドマンの委嘱により、ゴールドマン・バンドのために作曲されたもので、オーソドックスだが、バンドの実力が厳しく問われる難曲となっている。

♪♪♪

「サンタフェ」とはアメリカ/ニューメキシコ州の州都。その歴史の変遷に起因して、サンタフェはネイティヴ・アメリカン、スパニッシュ、そして西部開拓者というそれぞれ異なった3つの文化が混在する特異な街となった。
1そうした文化の象徴であるアドビ(日干し煉瓦)造りや、スパニッシュ風などの歴史的な建築物も数多く、それらが産み出す景観がアメリカでも人気観光スポットとなっている。

2聖フランシス大聖堂(上左)やロレット礼拝堂(上右)は特に高名であり、その代表的な存在である。

※詳しくは Santa Fe Convention & Visitors Bureau

♪♪♪

「サンタフェ物語」は、そうした異文化の坩堝であるこの街を表す、非常に多彩な描写曲というべき作品である。
「リオ・グランデ」(Rio Grande)
「ラウンド・アップ」(Round-up)
「ワゴン・トレイン」(Wagon Train)
「フィエスタ」(Fiesta)

の4つの部分から成り、これらが続けて演奏される。

001「リオ・グランデ」
は”ゆっくりと、ラプソディックに”との指示通り、Fluteの民謡風のソロで始まる。
この序奏部分は神秘的なムードが大変印象的で、それはHornやFagottoなどの中音楽器群が、雄大でどこか懐かしい旋律を歌いだしたのちも続いている。やがて3/8拍子の軽やかな舞曲で踊りだすが、ここでもサウンドは独特の透明さを見せる。

G.P.のあと、一転して快活な2/4拍子、エキサイティングな「ラウンド・アップ」が遠くから近づいてくる。金管群のベル・トーンを効果的に使ったリズミックなフレーズと、中低音の鮮烈なカウンターの対比が聴きもの。
002再び3拍子の舞曲が帰ってきて、ややゆっくりと、今度はバンド全体が大きく踊りだす。

続いて、一旦静まったと思う間もなく、Trb.の明快なアタックが場面転換を告げ、アッチェランドして豪快な「ワゴン・トレイン」へ。ここでは長いフレーズの狂詩的な旋律と、金管群・打楽器の荒げた音色が打込むリズムの対比。
003殊に、Trb.のグリッサンドや鞭(Whip)が大変効果的に音楽に息吹きを与えており、見事である。また、スレイ・ベルの響きも印象的。
高まった昂奮は徐々に沈静化し、冒頭の旋律をうっとりと再現するPicc.のソロへ -。
004目まぐるしい場面・色彩の転換を見せながら、一気に聴かせてしまう音楽の流れ。
やはりグールドは只者ではない!

そして、Muted Trp.のスピード感漲るフレーズが鳴り響き、「フィエスタ」=お祭りの始まりだ。快速でエキサイティングに祭典の様子を描くこの場面、何といってもTrp.の息の長いハイトーン・ソロが凄い!005

スピードのある音色で張って、張って(テヌートの指示!)、挙句に最後はHi B♭の吹きのばし15拍半!
”これぞトランペット”という華麗さ、その「男前」ぶりがビンビンに発揮されるフレーズだが・・・!

曲は3/4拍子で祭りの賑やかな踊りの場面に移り、今度は重厚なサウンドを聴かせたのち、「リオ・グランデ」の雄大な旋律を高らかに再現。これが「フィエスタ」の楽句と渾然一体となってテンポを速め、5/4拍子と3/4拍子の混在するコーダへなだれこむ。スケールの大きな音楽となって、スネアのリムショットが映え、エキサイティングなリズムと音の坩堝を切り裂くようにHornが雄叫びを挙げる。
※ここはHornの音色を効かせるしかない!(同奏のTrp.はおまけ!)
007最後はHornのGliss-downとともに、鮮やかなテュッティの一撃で曲を閉じる。

♪♪♪

とにかくキツイ。が、とにかくカッコイイ!
演奏するには「男前」なTrp.を擁することが大前提となるが、コントラストに富んだ感動的な作品であり、もっと演奏を聴きたい名曲だ。

音源は
R.M.ギャンボーンcond.
アメリカ海軍ワシントンバンド

の演奏(冒頭画像)が素晴らしい。
漸くこの曲の真価を捉えた全曲版録音の登場である。ストレートにこの曲の良さを表した演奏であり、中でもFlute、Picc.のソロは特筆すべき出来映え。
(このCD自体は非売品であったが、現在 iTunes Store よりダウンロード購入が可能となっている。同ストアを”United States Navy Band”にて検索していただくと見つけられるだろう。)

Americanlandscapesそして、もう一つの秀演が
K.W.ミーガンcond.
アメリカ沿岸警備隊バンド

の演奏。大変丁寧で細やかなニュアンスまで行き届きつつ、メリハリの効いた演奏。市販譜にはないHarpを加えているが、これが大変効果的!Harpを加えたことの意味が確りと伝わるほどに、全曲がハイセンスで貫かれているのだ。
※この演奏が無料ダウンロードできるサイトが復活!こちらへ。

Photo_2また、貴重な音源として作曲者グールド自身の指揮によるナイツブリッジ交響吹奏楽団の演奏したLPもある。
しかし、残念ながら演奏は満足の行くものとはとても言えない。作曲者の意図を垣間見ることは出来るかもしれないが・・・。指揮者としても活躍していたグールドだけに、些か残念である。

【他の所有音源】
ハワード・ダンcond. ダラス・ウインド・シンフォニー


( First Issued 2007.2.5. / 新音源入手を機に改訂 )

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コメント

ご無沙汰してます。時折、覗いてました。この曲は、何と言っても「野庭高校1985年の悪夢」として、記憶に残っています。天理や駒澤の演奏も、正直あまり印象に残っていないのですが、ダン/ダラスW・SのCDで少し聴いたくらいです。早速、上記サイトからDLしてみました。あとでゆっくり聴きたいと思います。では、また来ます。

投稿: ブラバンKISS | 2007年11月27日 (火) 02時10分

「ここは普門館じゃありません。」
ってやつですね。(嘆息)

当時、大学の吹奏楽団の同期が後輩の応援をしに川崎の会場に行ってまして、
「何と野庭が落ちちゃったんだよ!他のバンドとの実力差は歴然だったんだけどねぇ・・・。音がデカ過ぎたってことらしいが、俺はいいと思ったんだけど。うーん、ああいうので落としちゃっていいのかねえ。」
と、母校そっちのけで嘆いていたのを思い出します。

吹奏楽における「音量過大」問題については、音楽に対する価値観の話になりますので、今は触れないことにします。
(尚、私個人は「鳴らないバンドはつまらん!」と思っております。)

♪♪♪

ご紹介した沿岸警備隊バンドの「サンタフェ」は、相当イケてると思います!こんな演奏が無料で入手できるなんて、夢みたい。このバンド、各楽器の音色・音質もなかなかのものですし、他の曲も好演ですよ。

投稿: 音源堂 | 2007年11月27日 (火) 11時42分

DLして、じっくり聴いてみました。サウンド、リズム感共ゴキゲンです。時折、O・リードを思わせる場面もあって、確かに優れた作品だと思います。ただ、この曲はあまりコンクール向きではないような気がします。やはり、コンサートなどで、じっくり取り組んで演奏されたいですね。グールドは結構たくさん作品を残しているのですが、あまり良い録音が残ってないみたいですね。もっとも、今のコンクールでは
傾向と対策を、きっちりやってきた団体が、良い結果を残しているみたいで、課題曲のマーチなんか、全然訴えてくるものがない・・・。もっと、いい曲だと思うものもあるのに。すみません、愚痴になってしまいました・・・。

投稿: ブラバンKISS | 2007年11月28日 (水) 01時41分

今となってはちょっと古くさいかもしれませんね。色彩とダイナミクスのコントラストがいつも私の胸を躍らせるのではありますが・・・。

♪♪♪

楽曲・・・演奏する側でいかようにもなるものではありますが、近年の課題曲に関しては私自身は些か疑問です。

本当に考え抜いて、能力を尽くして書いた曲なんだろうか。
自分自身で「推敲」というものをしたのだろうか。
これを「作品」として世に提示していいか、自問自答したのだろうか。

-そんなことを感じさせる曲が多すぎます。
「課題曲」でなかったら、この曲を演奏するバンドはあるだろうか?或いは、数年後にまたこの曲を演奏したいと思うだろうか?ということを考えれば、自明だろうと私は思っております。

投稿: 音源堂 | 2007年11月28日 (水) 14時59分

今を去ること20年以上昔、大学の時に演奏いたしました。
だから、私の持っている全曲演奏の音源は、自分たちで演奏したこれだけです。
この時の演奏会では、フレデリック・フェネルさんに指揮をしていただきました。この曲は別の方の指揮でしたが、すばらしい体験をさせていただきました。
天理高校の演奏はもちろんすばらしいですが、個人的には駒澤大学の演奏がピカイチかなと思います。
ここで紹介されたアメリカ海軍の演奏も是非聴いてみたいですね。

投稿: とらまる | 2008年12月11日 (木) 16時27分

とらまるさん、こちらの記事もご覧いただき有難うございます。

サンタフェ物語、私大好きなんです。
実はつい先月くらいまで、アメリカ沿岸警備隊バンドの演奏は彼らのHPから無料ダウンロードできましたので、ぜひ聴いてみていただきたかったのですが・・・今はそのリンクが消滅しているのです。残念です。

♪♪♪

>今を去ること20年以上昔
偶然ですね!確か1984年に私も1st Stageがフェネル氏の客演指揮、ステージドリルを挟んで、プログラムの最後がこのサンタフェ物語(指揮はEuph.の大先生)という、某大学の演奏会を拝聴しましたよ。冒頭のロス・オリンピックのファンファーレからして圧倒されましたし「イギリス民謡組曲」「万霊節」と名演の連続でした。フェネル氏のアンコール「ライツ・アウト」では指揮台上のバッティング・パフォーマンスが忘れられません。演奏会の最後まで気力の漲った演奏で、大変感心・感動したのを憶えております。

・・・もしかして、とらまるさんはあの大学バンドにいらした方ですか?(なんてね。^^)

投稿: 音源堂 | 2008年12月11日 (木) 23時17分

あっ、、、。それです。2年生でした。

投稿: とらまる | 2008年12月12日 (金) 10時02分

おおっ、とらまるさん!やっぱりそうでしたか。
しかも私たちは同学年ですね!

いや、素晴らしい演奏でしたよ。20回の記念演奏会でいらしたと思いますが、それにふさわしい吹奏楽の魅力が充満したコンサートでした。
強力な金管群(特にラッパのTopの方はバケモノでしたね。プレイの素晴らしさはもちろん、あの底知れないスタミナは驚嘆するばかりでした。)が印象的ですが、少ない人数でこれに応える木管群の方々はさぞや大変でしたでしょうねー。

忘れられない演奏会の一つです。いい音楽を有難うございました。

今後とも我が音源堂をご贔屓に!

投稿: 音源堂 | 2008年12月12日 (金) 15時03分

いやあ、思わぬところで、、、。世間は狭いですね。
あのトランペットの人は当時3年生で、今はスタジオミュージシャンとして活躍中ですよ。

投稿: とらまる | 2008年12月12日 (金) 17時09分

とらまるさん、朗報です!
今しがたネットサーフィンしてましたら、アメリカ沿岸警備隊バンドの「サンタフェ物語」の演奏がダウンロードできるサイトが復活してました。
記事中にリンクを貼りましたので、ぜひお聴きになってみて下さい。オススメします!

投稿: 音源堂 | 2008年12月29日 (月) 13時25分

アリガト~!本当に有難うございます!苦節25年です。やっと聴けました!レコードを処分して以来初めて聴くことが出来ました!もう思い残すことはございません!!!憧れの曲をこれほどすばらしい演奏で聴けるとは、、、涙ものです!!!後は生で聴いて死にます!?

投稿: お山のタクシー | 2009年2月15日 (日) 05時29分

お山のタクシーさん

お役に立てたなら幸いです。なかなか素敵な演奏でしたでしょう?
今後とも音源堂をご贔屓にお願いします!

投稿: 音源堂 | 2009年2月15日 (日) 11時29分

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