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2007年8月19日 (日)

歌劇「ウインザーの陽気な女房たち」序曲

Hugh_thompson_windsorThe Merry Wives of Windsor,  Overture
O.ニコライ
(Otto Nicolai 1810-1849)


陽気な女房がこれすなわち
浮気な女房とはかぎらない、
私たちが身をもって証拠を
ごらんにいれましょう。
ふざけておしゃべりするものが
ふしだらするとはかぎらない、
むっつり黙っているものが
実は助平と言うでしょう。

(原作第4幕第2場 /
小田島 雄志 訳
白水社刊 シェイクスピア全集より)


冒頭画像 :
Hugh Thompson /
The Merry Wives of Windsor

Onicolai_2オットー・ニコライ(右画像)はウイーン・フィルハーモニー管弦楽団の創設者・初代指揮者として、そしてこの歌劇「ウインザーの陽気な女房たち」で音楽史に永遠の名を残した人物である。1941年にウイーン王立歌劇場主席楽長となったが、その翌1942年にオペラ上演以外の活動を行っていなかったこの楽団に”演奏会シリーズ”を創設、これがあの名オケ/ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団の始まりである。指揮者としての評価も極めて高かったという。

前述の通り、そのニコライの代表作こそが歌劇「ウインザーの陽気な女房たち」。その序曲は同歌劇中の名旋律を縦横無尽に散りばめた名曲とされ、単独演奏の機会も多い。ニコライの「ドイツ楽派というものがもちろん前提だが、それにイタリアの軽快さが付加されねばならぬ。」との言葉通りの作品といえる。

♪♪♪

歌劇「ウインザーの陽気な女房たち」はシェイクスピア(William Shakespear 1564 1616の名作喜劇をオペラ化したもの。原作の内容は-。

かなり落ちぶれた壮年の騎士フォルスタッフ。彼は自分を色男と思い込み、フォード夫人・ページ夫人の二人の貴婦人に同時に恋を仕掛け、”色”と”金”を手中に収めようとする。
もとより、醜く太ったフォルスタッフに夫人たちがなびく筈もないのだが、フォルスタッフが「オレに気がある」と思い込むところからして滑稽である。おまけに初手から、二人の夫人に全く同じ文面のラヴレターを送ったことがバレてしまう。
これに怒った二人の夫人は示し合わせて、フォルスタッフに応じていくフリをしつつ、この好色漢をとっちめていくわけだ。

このストーリーを軸に、本当に妻が不倫しようとしていると勘違いするフォード氏や、田舎訛りの牧師、フランス訛りのフランス人医師など、エキセントリックな登場人物が続々登場して、賑やかながらも混乱気味に。
その間隙を縫うように、ページ夫妻の娘アンとその恋人フェントンの恋が成就し、大団円。最後はフォルスタッフも交えて和やかな晩餐を、という話で閉じる終始愉快な物語である。


フォルスタッフは何度も酷い目に遭わされる(自業自得)のだが、冒頭画像はその最初の一コマ。
間男を気取ったフォルスタッフがフォード夫人を訪ねると、何とフォードが帰ってくる!「逃がしてあげる」というフォード夫人の口車に乗らされ、フォルスタッフは大きな洗濯籠の中へ。そこへ上から汚れ物をたっぷり突っ込まれ、それに塗れてフォルスタッフは脱出(?)するが、最後はフォード夫人の言いつけを受けた召使に、汚れ物ごとテムズ川に放り込まれてしまうのである。


   ※尚、フォルスタッフは元々「ヘンリー4世」「ヘンリー5世」に登場したキャラ
     クターで、時のイングランド女王エリザベス1世がそのフォルスタッフを気
      に入り、「フォルスタッフの恋物語が見たい」と所望したことから、この「ウ
          インザーの陽気な女房たち」が書かれたとされている。


♪♪♪


歌劇「ウインザーの陽気な女房たち」序曲は序奏をもったソナタ形式。
低音で歌いだされる主題は深遠にして暖かく、私の大好きな旋律である。
Photo
展開するこの旋律のハーモニックスを務めるHornがまた一つの聴きものとなっている。
これに続いて長閑なOboeとFagottoのソリに始まり、愛らしい楽句が次々と現れ、音楽は眠りから醒めて活気を帯びてくる。

Allegro vivaceの主部に入り、軽やかなこの曲は持ち前の生命感を顕わにする。旋律もサウンドも高い品格を保ちながら、それでいて洒脱。
主部は dolce con anima と指示された第2主題を中心に展開するが、この旋律が大変素敵なのである。
Dolce
そして、フル・テュッテイで高らかに奏される快活な結尾主題!
Photo_2
如何にエネルギーが充満しようとも、最後までその軽やかさは失われることはない。これがこの曲固有のの稀有な特質。

あくまで軽妙洒脱にして高貴な品格、そしてキラキラとした輝き、神秘的な側面・・・。短い序曲だが、単にオペラのハイライトというだけでなく、音楽のさまざま魅力が見事に詰め込まれた、とても素敵な作品である。

「ウインザーの陽気な女房たち」初演から僅か2ケ月あまりでニコライは急逝した。文字通り畢生の作品としてこの作品は愛され、短命だったニコライの名を永遠のものとしたのである。

♪♪♪

私がこの歌劇「ウインザーの陽気な女房たち」序曲と出遭ったのは、やはり吹奏楽。九州職場バンドの雄、ブリヂストンタイヤ久留米のコンクール演奏である。1979年のこの曲と、翌1980年の歌劇「ルスランとリュドミラ」序曲あたりが、当時の小山 卯三郎=ブリヂストンの真骨頂だったと思う。これぞ大人の演奏と感心したものだ。

音源(管弦楽原曲)は数多いが、どの演奏も相応に納得いくもの。これは楽曲自体の完成度が高いことの証左と思う。

Photo_3私の好みでは、何と言っても
カルロス・クライバーcond.
ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団

の演奏がいい!
1992年ニューイヤーコンサートのライヴ録音であり、若干バランスが崩れる瞬間はあるものの、これほどまでに生命感のある音楽には脱帽・心酔するほかない。

Photo_12ネヴィル・マリナーcond.
アカデミー・オブ・セント・マーチン・
イン・ザ・フィールズ

の演奏は、マリナーに多い”軽くてあっさり”な演奏だが、この曲に関してはマッチしており、なかなか良い。


Photo_4ミハイル・ジュロウスキcond.
ケルン放送管弦楽団

の演奏は、珍しい「ニコライ作品集」に収録されている。
(同時収録 : "The Templar" Overture, "The Return of the Exile" Overture, Fantasy & Brilliant Variations on a Theme "Norma", Funeral March, Church Festival Overture )


   【その他の所有音源】
     ウィリー・ボスコフスキーcond. ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
     クリスティアン・ティーレマンcond.
                        ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
     ルドルフ・ケンペcond. ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団
     ハンス・フォンクcond. シュターツカペレ・ドレスデン
     ミハイル・ジュロウスキcond. ケルン放送管弦楽団
     ハンス・レーヴラインcond. バンベルク交響楽団
     ハンス・クナッパーツブッシュcond.
                        ウイーン・フィルハーモニー管弦楽団


(Revised on 2007.10.31.)

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コメント

おお!まことに奇遇ですが、先日のアマゾン大量衝動買いの中にクライバー/ウィーンフィル92年ニューイヤーのDVDが入っていました。しかもお目当てはウインザーです。
聴いてみてこのディスクは本当に買って良かったと思いました。何回聴いても最後のF音まで来ると気分が高揚します。まさにブラボーです。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年8月20日 (月) 08時01分

「徹底聴き比べシリーズ第2弾」如何でしたでしょうか?この曲はウィーン・フィル自身、十八番という認識があるようで、同管弦楽団の録音が圧倒的に多いです。他のオケの演奏を中心に、引続きこの曲の演奏を集めていますので、その結果を踏まえて記事をリヴァイスする所存です。

(「祝典序曲」はお薦め演奏に、カレル・アンチェル/チェコフィルを追加しました♪)

投稿: 音源堂 | 2007年8月23日 (木) 22時07分

こうして見ると意外と録音ありますね。ウィーン・フィルにとってはさすがに創設者の曲ですから、完全に自分のものになってるんでしょうね。多分、彼らは譜面なしでもさらさら弾けるのでしょう。
我々も陽気なオヤジたちを自分のものにしなければいけないのですが。。。
ところで、スコアを見て前から気になっていたことがあるのですが、この曲を特徴づけるAllegro vivaceから49小節目の音階的な16分音符のフレーズ、弦楽器だとスラー付とスラーなしのところがあります。吹奏楽の編曲ではたいてい全部スラーでやってしまうところですが、今回気をつけて聴いてみたら、オーケストラでは弾き分けてますね。スラーなしだとちょっと刻み気味で、何となくビート感が出てくるような気がします。
というわけで、ただ今、ダブルタンギングの練習中。しかし、指と口が一致しない。。。あ~あ。
これ、弦でもかなり難しいんだろうなあ。。。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年8月24日 (金) 07時39分

吹奏楽のタンギング、大きな問題を孕んでます。時折聴かれる「もわー」とした発奏、オケでもJazzでもブラスバンドでも見られないものなんですよねえ。私自身はあれを聴くとゲンナリしてしまうのですが・・・。その話はまたの機会に。

クライバーの演奏ではdolce con anima(第2主題)の歌い方が特徴的です。他の演奏よりもずうっと長いフレーズと捉えており、それが音楽に生命感を与えている大きな要因の一つだと思います♪

投稿: 音源堂 | 2007年8月24日 (金) 21時43分

なるほど、クライバーはdolce con animaですか。今度、あらためてよく聴いてみます。
タンギングの件、今たまたま吹奏楽の「こうもり序曲」聴いてますが、この曲でも終盤にさしかかるとまずい場面が出てきますね。金管低音ががんばるんですが、何やってんだかさっぱり分かりません。これって、編成が持っている本質的な欠点なんでしょうか?ブラスバンドだともうちょっとつぶ立ちがくっきりしてるような気がするんですが。。。「またの機会」、楽しみにしてます。
僕のダブルタンギングは、ロータリーが音を立てて分解し始めたので、しばしお休みです。あ~あ。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年8月31日 (金) 07時12分

こんにちは。はじめまして。

私も中学生のときに吹奏楽コンクールの自由曲でこの曲を
演奏しました。

すごく良い曲なのですが吹奏楽にありがちな「ヘ長調」⇒「変ホ長調」に編曲されていた気がしてイマイチオーケストラの雰囲気は出ませんでした。

タンギングも「モコモコ」でしたね。

投稿: ニョッキ | 2007年9月 1日 (土) 12時02分

ニョッキさん、初めまして。ようこそお越しいただきました。
楽曲自体の持つ魅力が高い一方、本当の意味で聴かせるのはなかなか難しい曲ですね。弦楽器を欠く吹奏楽では特にそうかもしれないです。

投稿: 音源堂 | 2007年9月 2日 (日) 20時37分

ongendoさんと同じく私もこの曲との出会いはブリヂストンの演奏でした。オケのミニチュアスコアでしか楽譜について目を通したことがないのですが、吹奏楽に置き換えたときタンギングが辛そうな印象は確かにありましたね。

話は変わりますが、この曲と出会ったきっかけとなったLPは他にも阪急の「ルイ・ブラス」とか収録されていてお気に入りの一枚でした。

投稿: mitakasyun | 2007年9月 3日 (月) 23時34分

おおっ、阪急の「ルイ・ブラス」!
同年は課題曲「朝をたたえて」の名演が有名ですが、この「ルイ・ブラス」も素晴らしいですよね。特に憂いに満ちた序奏が終わって、リズミックな木管の伴奏に載って現れるあの”黒々”としたEuph.の旋律・・・!

背中がゾクゾク、感動の演奏でしたねー。

投稿: 音源堂 | 2007年9月 4日 (火) 12時26分

こんにちは、はじめまして。B.クレー指揮 シュターツカペレ・ベルリン(ベルリン・クラシックス)全曲盤から序曲を抜粋したCDが出てますが、これも演奏・録音共に素晴らしい演奏です。(序曲だけでなく、全曲すばらしい!)

投稿: 通りすがり | 2007年9月14日 (金) 12時22分

未知の音源情報は有難いです♪8月26日のリヴァイス以降もまた新たに1つ別の演奏を聴きましたが、この演奏は耳にしておりませんので、探してみたいと思います。有難うございました!

投稿: 音源堂 | 2007年9月18日 (火) 10時31分

いろいろ貴重な資料を有難く拝見しています。ところでこの中のさわりの音楽が聴けたらいいのになあと思います。

投稿: 夏樹 満 | 2009年1月12日 (月) 13時28分

夏樹 満さん、お越しいただき有難うございます。このようなサイトの管理人としては、皆さんにぜひ気軽にお聴きいただきたいと思うのではありますが、権利関係上できないです。
(既に踏み込み過ぎているのが事実です。アフェリエイトを含めて一切の営利を排し、また拙Blogに掲載されることがプラスにのみなるよう、配慮もしてはいますが・・・。)
また、曲の一部だけをお聴きいただくというのはお勧めできない、とも思っております。どうぞご理解いただきたく存じます。

投稿: 音源堂 | 2009年1月12日 (月) 20時23分

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