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2007年8月11日 (土)

祝典序曲  D.ショスタコーヴィチ

Shostakovich_2Festive Overture
D.ショスタコーヴィチ
(Dmitri Dmitriyevich Shostakovich 1906-1975)





ドミトリ・ショスタコーヴィチ(冒頭画像)は、ロシア・ソヴィエトのみならず世界的に見ても20世紀を代表する大作曲家であり、15の交響曲を始めとして多岐に亘るジャンルに数多くの作品を残している。一般には「革命」との俗称を持つ交響曲第5番が圧倒的な人気を誇るが、吹奏楽界ではこの「祝典序曲」が最も親しまれた楽曲であろう。

時代的に、ショスタコーヴィチはその芸術的な思想までもソヴィエト時代の”社会主義リアリズム路線”に忠実であることを強いられた作曲家であり、その中でソ連政府および同共産党に表面では迎合しつつも、内にはその反抗を秘めていたというのが通説である。

※ショスタコーヴィチについてはこちらのサイトが圧倒的に詳しいので、ぜひご覧下さい。

♪♪♪

祝典序曲(op.96 1954年)は、第37回ロシア革命記念日の祝典のためにソヴィエト共産党中央委員会からの委嘱によって作曲、その記念演奏会で初演されており、彼の作品の中では”体制派”楽曲の典型といえよう。
所謂ジダーノフ批判に晒されたショスタコーヴィチが、国策を讃美し復権を果たしたオラトリオ「森の歌」から旋律が採られていることも象徴的である。
しかし、楽曲自体はそうしたドロドロした背景とは無関係に、明快かつ爽快な音楽で魅力に溢れている。

冒頭は3/4拍子の輝かしいファンファーレ。このファンファーレの主題はショスタコーヴィチが長女ガリーナに捧げた「子供のための音楽ノート」(1944年頃)の中の”誕生日”という曲から採ったものとされる。
Photoテュッティとなるところで聴かれる金管群を中心としたオルガンの如きサウンドは特に素晴らしい。煌きと重厚さを兼備えたファンファーレが終わると一気にプレストの主部(2/2拍子)へ。

まずクラリネットに現れる流麗な旋律こそが、オラトリオ「森の歌」で用いられた旋律。
Photo_2快活な伴奏に載せてクラリネットにスピード感溢れる主題を歌わせるなど、この「祝典序曲」で見せた手法は、翌1955年に発表した映画音楽「馬あぶ」(L.アトゥミアンによる組曲版では第3曲”祭日”)にもそっくり生かされている。

ブラッシーなクライマックスを経て、中間部を飾るのはチェロとホルンによる、これまた流麗極まる主題。
Photo_3終盤ではこの旋律が金管群で高らかに再現され、最大のクライマックスを形成するのである。

快速だった音楽は勢いを保ったまま、冒頭ファンファーレの再現部に突入するが、原曲ではここで Horn 4+Trp. 3+Trb. 3 のバンダが加わって更に壮麗さを増す。
そしてテンポを捲るコーダへと続き、最後まで華々しく曲を閉じる。

♪♪♪

さて、音源だが
1. 「スピード感」溢れる各楽器の音色とテンポ設定
2. ファンファーレ部分におけるストレートな爽快さと豊かなサウンド
3. 流麗な音楽の流れが形成する「一気呵成」感

を重視する私の推薦盤は次の3枚。

001ネーメ・ヤルヴィ cond.
ローヤル・スコッティッシュ管弦楽団

スピード感と終始一貫した流麗な音楽の流れ、各楽器の爽快な音色がこの曲の魅力を余すところなく伝える。


Photo_4ヴラディーミル・アシュケナージ cond.
ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

ファンファーレにおける明快さ・シンプルな爽快さでヤルヴィ盤に及ばないが、プレストのスピード感は出色。終結部ファンファーレではバスドラムによる”花火”が豪放に炸裂!

Photo_5カレル・アンチェルcond.
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団

少々荒くもあるが、生き生きとして鮮烈、たいへん真直ぐな演奏で爽快感がある。



<その他の所有音源>
エフゲニー・スヴェトラーノフ cond. ロシア国立交響楽団
リッカルド・ムーティ cond. フィラデルフィア管弦楽団
ミハイル・プレトニェフ cond. ロシア・ナショナル管弦楽団
アンドリュー・リットン cond. ロンドン・フィルハーモニック
ユーリ・テミルカーノフ cond. サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団
アーサー・フィドラーcond. ボストン・ポップス管弦楽団


♪♪♪

さて、吹奏楽版についても触れておきたい。

この「祝典序曲」はどの管弦楽CDの解説を見ても
「吹奏楽に編曲され、広く演奏されている。これによって世界的に有名になった。」
という趣旨のコメントが見られる。
1958年にはショスタコーヴィチ自身が吹奏楽版を製作したほか、W.ペトロフ編曲版によりソヴィエト国内では早くから吹奏楽で演奏されていたという。

しかし「祝典序曲」を世界的に認知せしめたのは何といってもイーストマン・ウインド・アンサンブルの指揮者であったドナルド・ハンスバーガー(Donald Hunsberger)が1965年に出版した吹奏楽編曲版である。
原調Aに対しA♭に下げた編曲であることから、現在では原曲に比して輝きや爽快さが足りない等の指摘もあるが、そもそもこの優れた編曲がなければ吹奏楽界に「祝典序曲」自体が知られること、或いは「演奏したい」という意欲が湧くこともなかっただろう。さすれば「祝典序曲」自体が歴史に埋もれたままであったかもしれない。
「広く演奏される」ことを目的としつつ、音色の対比などを含めて曲全体を俯瞰し、よく考え抜かれた編曲でもある。
このハンスバーガー版では、

001_2フレデリック・フェネル cond.
東京佼成ウインドオーケストラ
は曲の要諦をキチンと押さえた演奏と見る。




Lp_2エリック・バンクス cond.
イギリス空軍合同音楽隊
の演奏(Live/LP)は大編成を生かしたスケールの大きさとスピード感を兼備えた好演。


♪♪♪

<その他の吹奏楽版>

001_3ペトロフ版を聴くことができるのは
ヘルト・ブイテンホイス cond.
オランダ海軍軍楽隊
の演奏。ミヤコフスキーの交響曲第19番などに見られる「ロシア編成」吹奏楽の雰囲気。



001_4調をB♭に上げた編曲の高橋 徹版
ヤン・ヴァン=デル=ロースト cond.
レマンス音楽院シンフォニックバンド
の演奏がある。
高い分だけ木管群の音も立っており、原曲とはかなり違った風景が見えるように聴こえる。


( Revised on 2008.3.6. )

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コメント

はじめまして。いつも楽しく見させてもらっています。ほかの紹介されている楽曲も、本当に詳しく解説されていて、時になるほどと頷いたり、懐かしさに共感したりと、非常に楽しいです。さて「祝典序曲」の吹奏楽版ですが、私のお気に入りは「ハンスバーガー/EWE」の来日公演(CBSソニー盤)の演奏です。編曲者自身の指揮と演奏者の卓越した技術に支えられて、会心の演奏だと思います。ライブの臨場感もあり録音も、すばらしいと思います。オケ盤については、ムーティ/フィラデルフィア管の演奏が爽快で、曲のイメージにぴったりです。高校の吹奏楽部で、真っ先に渡された楽譜がこの曲で、必死に指さらいしたのを覚えています・・・。

投稿: ブラバンKISS | 2007年8月18日 (土) 09時19分

ブラバンKISSさん、ようこそいらっしゃいました!
ブラバンKISSさんのお気に入りはイーストマンの"Live in OSAKA"ですね!私も聴いております。
「人それぞれに好きな音楽があり、好きな演奏がある。」
音楽のそういうところが私は大好きです!

拙いながら、このブログでは私の感動体験をお伝えして参ります。いつも申し上げていることですが、このブログをご覧いただいた方の”きっかけ”になれたなら本当に幸せです。
今後ともどうぞご贔屓に!

投稿: 音源堂 | 2007年8月18日 (土) 17時54分

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