ナイルの守り
Army of the Nile
K.J.アルフォード
(Kenneth Joseph Alford
1881-1945)
ケネス・アルフォードといえば、私は彼の”短調のマーチ”が好きだ。最高傑作とされる「ボギー大佐」より、寧ろ「消えた軍隊」とか「銃声」とか…。
そして何よりこの「ナイルの守り」(1941年)が一番好きだ。
憂いや哀愁に満ちた、と称されるアルフォードの短調マーチ。-私はその”引き締まった”表情に深い魅力を感じて已まない。
♪♪♪
”ケネス・アルフォード”というのはペンネームであり、彼の本名はフレデリック・ジョゼフ・リケッツ(Fredrick Joseph Ricketts)という。
イギリス/ロンドンに生まれたアルフォード※は少年兵として軍に入隊したのち、現在の王立軍楽学校(Royal Military School of Music)の前身である機関で教育を受け、以来軍楽隊一筋。1944年の退役時は海兵隊プリマス基地軍楽隊の隊長であった。
※”Alford”の発音は実際には”オルフォード”が近いようだが、本稿では本邦で既に永らく定着している”アルフォード”を使用している。
アルフォードは、退役を迎える職場となったこのプリマス・バンドを指揮して1939年に自作のマーチを中心に録音しているが、そこでのクレジットは
The Band of HM Royal Marines Plymouth Division
Conducted by Major F. J. Ricketts RM
の通り、本名となっている。(Major=”少佐”である。)現在この演奏はCDで復刻(左画像)しており、貴重なアルフォードの自作自演を聴くことができる。
残念ながら本録音時点では未だ作曲されていないため、「ナイルの守り」は収録されていないが、年代の割には録音も良く、演奏もなかなかのもの。
アルフォードのファンならば、ぜひ聴いておきたい。
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「ナイルの守り」はアルフォード最晩年の作品で、第二次世界大戦における北アフリカ戦線の司令官・ウェーヴェル将軍に捧げられている。
「連合国勝利のターニング・ポイントの一つとなったイギリス軍の勝利※を讃えたもの」との解説もあるが、北アフリカはイギリス軍がその後約2年に亘り、かのドイツ軍/ロンメル将軍と文字通りの死闘を繰り広げた地域であり、短調の第1マーチが示唆するものは、単なる祝勝ではないような気がする。
※アーチボルド・ウェーヴェル将軍(Archibald Percival Wavell) による枢軸国軍に対する攻勢で、所謂「コンパス作戦」と呼ばれるもの。当時のイギリス領エジプトに対するイタリア軍侵攻を撃退するとともに、逆にリビアへ反攻してイタリア軍に大打撃を与えることに成功した。
しかしながらこの結果、ドイツはロンメル将軍率いるドイツアフリカ軍団を派遣し、以降北アフリカ戦線は枢軸国と連合国のシーソーゲームの舞台となっていく。
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序奏からして引き締まった表情を見せるが、続くその短調の第1マーチこそが「ナイルの守り」の白眉である。
第1マーチの繰返し前のスネア・ロールの切なさ。そして、この旋律に絡むユーフォニアムとサックスの対旋律がまたこの上なく抒情的… 堪らない!
※日本人がアルフォードに憧れてメロディアスな短調マーチを書くと、なぜか 「演歌」になってしまう。そう考えると、本当にアルフォードは偉大だと思う。
長調に転じ、活力と輝きを放つ第2マーチを経て、クラリネット低音域の優美な音色が映えるトリオへ。遠くからは進軍ラッパの音も聴こえる。輝かしく重厚なファンファーレを挟んで、トリオの旋律はいよいよ逞しさを強め、オブリガートに彩られながら高らかに歌い上げられ、堂々たるエンディングを迎える。
♪♪♪
音源はヴィヴィアン・ダン中佐cond.
ロイヤル・マリーンズ・バンド
の演奏をお薦めしたい。ロイヤル・マリーンズ・バンドの誇る”マーチの巧さ”はここでも存分に発揮されている。
第1マーチの対旋律に現れる”黒々とした”ユーフォニアムの音色にも是非注目されたい。これもロイヤル・マリーンズの誇る特長の一つなのである。
【ヴィヴィアン・ダン中佐&ロイヤル・マリーンズ・バンド】
また、
汐澤 安彦cond.
東京アカデミック・ウインドオーケストラ
の演奏も優れた音色と引き締まったテンポ設定で大変素晴らしく、併せてお薦めしたい。
※「アルフォード自作自演盤」ならびに「推薦盤(ヴィヴィアン・ダン中佐cond.ロイヤル・マリーンズ・バンド)」はいずれもMBレコードで購入させていただきました。ご親切に色々と教えて下さった同店オーナーの渡辺氏には、心から感謝申し上げます。
【その他の所有音源】
フレデリック・フェネルcond. 東京佼成ウインドオーケストラ
ジョン・メイソンcond. ロイヤル・マリーンズ・バンド
バリー・ジョンソンcond. ラマール大学シンフォニックバンド
平井 哲三郎cond. フィルハーモニア・ウインドアンサンブル
朝比奈 隆cond. 大阪市音楽団 (Live)
ユージン・コーポロンcond. ノーステキサス・ウインドシンフォニー
ティモシー・レアcond. テキサスA&M大学シンフォニックバンド
武田 晃cond. 陸上自衛隊中央音楽隊
(Revised on 2011.3.26.)
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コメント
アルフォード、イギリスのマーチ王ですね。
彼の曲は素晴らしいです。私の中ではスーザは取っつきやすく、アルフォードは大人の渋みのあるマーチと言った印象を持っています。とはいえ実際に演奏したことのあるのは「ボギー大佐」と「銃声」だけですが(汗)。
「ナイルの守り」、一度は演奏してみたかったです。
投稿: mitakasyun | 2007年9月 3日 (月) 23時27分
実は・・・私も「ナイルの守り」演奏したことないんデス。
何度かチャンスがあったんですけど、未だに。まだチャンスはあると思いますので、絶対演奏したいです!
投稿: 音源堂 | 2007年9月 4日 (火) 12時15分
ナイルの守りはオルフォードの傑作ですね
ダンの指揮による演奏に並ぶとすると、阪急百貨店でしょうか
ロイヤルマリーンズのユーフォの美しさは白眉ですが
奏者は多分神父さんです
彼の演奏の美しさは、自分が好きなユーフォの代表です
バリトンの名手だった、k.キングの演奏を聴いてみたいです・・バリトン/ユーフォのがんばらなければならない名曲マーチがいっぱい残されていますので、ロイヤルマリーンズとか英国系bandの演奏で楽しみましょう
投稿: bandlover | 2009年8月 7日 (金) 17時38分
これまで私が身近に接したEuph.奏者たちの中に、ロイヤルマリーンズ系Euph.の信奉者はいません。それどころか、あまり好きではないようでした。
私個人の好みでは、あの”黒々とした艶”のある音色がとにかく堪らないのですが…。
投稿: 音源堂 | 2009年8月 8日 (土) 10時21分
音源堂さんのコメント、黒々とした艶のある音色、が無性に聴きたくてロイヤルマリーンズを買い漁ってしまいました。アルフォード最高です!ユーフォニアムの真骨頂!ユーフォニアムのためのマーチですね。
投稿: 玉社 | 2015年6月 6日 (土) 02時44分
玉社さん、ようこそお越し下さいました!そしてコメントを有難うございます。あの黒いビロードのような音色にハマられたようで、ご同慶の至りです!^^)
The Jaguar(Goff Richards)などもロイヤルマリーンズが演奏するとEuphoniumの素敵な音色が存分に聴けますよ♪まだお聴きでなければぜひ!
投稿: 音源堂 | 2015年6月 6日 (土) 11時37分