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2007年6月 7日 (木)

ストラットフォード組曲

IStratford Suite
 - Four Shakespearean Scenes for Concert Band

H.ケーブル
Howard Cable 1920- )
  I.   Fanfare, Flourish, Sennet (Richard III )
  II.  Masque by Herne's Oak
       
The Merry Wives of Windsor

  III. Ode to Rosalind (As You Like It
  IV. Elizabeth, Princess of England (Henry VIII 

Shakespeares_portrait_signatureイギリスの大文豪、ウイリアム・シェイクスピア(左画像/William Shakespear 1564-1616の作品を題材にした音楽は数知れない。

プロコフィエフやチャイコフスキーの「ロメオとジュリエット」や、ニコライの洒脱な「ウインザーの陽気な女房たち」がその有名どころだろう。ウォルトンにもシェイクスピア三部作をはじめとして多くの作品があり、吹奏楽においてもアルフレッド・リードに「オセロ」「ハムレット」「魔法の島」「アーデンの森のロザリンド」等の名作があるなど、洵に枚挙に暇がないほどである。

過去からシェイクスピアの文学作品は大変に愛好されてきたが、現在でも特に英語圏では絶大な尊敬を集めているという。シェイクスピアにインスパイアされた優れた音楽が、これほど多く登場していることは、まさにそれを証明するものであるだろう。

Stratforduponavonハワード・ケーブル「ストラットフォード組曲」も、副題に”シェイクスピアの4つの情景”とある通り、シェイクスピアの4つの作品を題材とし、1964にシェイクスピア生誕400年を記念して作曲された、吹奏楽オリジナル曲である。
表題も、シェイクスピアの生まれた街=ストラットフォード・アポン・エイヴォン(Stratford-upon-Avon)
因んでいる。ここは左上図の示す通り、イングランドのごく中心部に位置しており、現在でもシェイクスピアの時代を彷彿とさせる街並で高名である。



Photo_2Stratforduponavon








 (左)シェイクスピアの生家

 (右)ストラットフォード・アポン・エイヴォンの街並

♪♪♪

清廉な響きと上品な旋律、終始高貴な曲想は、さすがに名作文学を題材とした作品らしい。独特の透明感があり、ほとんど忘れ去られた楽曲となっているのは惜しい。ぜひとも再評価されて然るべきである。

I. ファンファーレ、フローリッシュ、セネット
中世イングランドにおける内乱である薔薇戦争(1455-1485)は、リチャード3世がヘンリー7世に討たれたことで終結したが、この史実に基いた歴史劇がシェイクスピアの「リチャード3世」である。
そこには稀代の大詭弁家にして、権謀術数の限りを尽くしてイングランド国王の座を追い求めた、残忍非道な男の姿が描かれている。シェイクスピア劇の中でもリチャード3世というのは、屈指の悪役と位置づけられているという。


そうした「リチャード3世」を題材とした第1楽章は、金管楽器と打楽器のみで奏される華麗な音楽である。
高い空に突き抜けるような
Trp.の跳躍に始まるファンファーレ(冒頭画像)は実に気高く、壮麗極まりないもので、組曲全体の印象を端的に示すものとなっている。
続いて
Trp.4本のみで奏されるリズミックなフローリッシュ
I_2フローリッシュとは壮麗なファンファーレを意味し、同時に国の繁栄なども暗示するものとされている
さらにスネアのロールに導かれてスケールの大きな音楽となるセネットが続く。
I_3セネットとは16世紀の英国エリザベス朝時代の劇(シェイクスピア劇こそはまさにその代表的なもの)において、入退場で奏されるファンファーレである。


「リチャード3世」劇中では、宮殿や出陣の場面にたびたびトランペットや太鼓による奏楽が登場するものであり、この楽章が3つのファンファーレ音楽を連ねたものとなったのも頷ける。これらが切れ目なく演奏され、簡潔にして華やかな序章を形成しているのである。


II. ヘレネの樫の仮面
Falstaffdisguisedashernediscovereda「ウインザーの陽気な女房たち」 第5幕第5場の印象による楽章で、緩やかで神秘的な序奏(Andante misterio)と、快速な主部(Allegro con spirito)から成る。

角のあるHerne the Hunter(ウインザーの森に住むという亡霊)に扮し、夜中に樫の大木の前、色男を気取って2人の夫人を待つでっぷりとしたフォルスタッフ。

-ここからこの好色漢がいよいよ完全にやりこめられ、喜劇が愉快な大団円へと向かっていく場面である。

   ※左上画像:"Falstaff disguised as Herne discovered at midnight with
                      Mrs. Ford & Mrs. Page."  by Robert Smirke (1752-1845)


序奏部は幻想的なコードの上に
Hornがソロを奏し、神秘的な夜の森を示して始まる。
Iihorn各セクションが応答しながら徐々に高揚して主部へ。主部は木管低音に始まる旋律が、各楽器に次々と受け継がれ、巧みな音色対比を見せてくれる。
Iiやがて第1楽章「フローリッシュ」のモチーフも顔を出し、統一感を醸すとともに、音楽は一層リズミックとなり輝きと快活さを増していく。
Ii_2全曲を通じ、セクションごとの応酬、対比が聴きものである。


III. ロザリンドに捧げる歌
ロザリンドとは「お気に召すまま」に登場する美しきヒロイン。快活で男勝りだが、若い女性らしく夢見がちでもあるロザリンドが、彼女の恋するオーランドーに仕掛ける駆け引きを中心とした、ユーモラスな物語。”全て良し”のこの上なくハッピーな結末で、まさに絵に描いたような喜劇となっている。

この楽章は木管楽器+ストリング・ベース+打楽器のみで演奏される。

  ※ちなみに兼田
敏の「日本民謡組曲」第2楽章”江戸子守唄”も木管楽器と
    打楽器のみによる音楽であり、兼田
 敏はこの編成がことのほかお気に入
    りだったという。


この編成が、第
1楽章と明確な対照を成すことはお判りいただけるだろう。Iii_flute
Fluteの大変優美で感傷的な旋律に始まり、これがOboeに受け継がれる。この旋律の中でも特に3/4拍子に変わった部分の素敵さといったら…!
終始品があり、流麗で静謐な印象の音楽である。僅かに高揚しニュアンス豊かなクライマックスを迎えるが、そこの清冽優美なOboeソリがまた素晴らしい!
Iiioboe再び
Fluteの旋律が戻り、最後はその音色が印象的なストリング・ベースのピチカートに続き、静かな木管群の和音で終う。

IV. 英国の王女、エリザベスIv
一転、Trp.Trb.の華やかなファンファーレで始まる終楽章は「ヘンリー8世」にインスパイアされた壮大な音楽。雄大で気品に満ちた旋律が拡大と収縮を繰り返しながらクライマックスへ向かう。

歴史劇「ヘンリー8世」はシェイクスピア作品の中でも絢爛豪華な舞台として高名であり、中でも全5幕を締めくくる”王女エリザベスの洗礼祝い”の場面はその白眉とされている。
シェイクスピア自身がその才を開花させ隆盛を極めたのが、そのエリザベス(1世)の治世であったのだから、彼女の生誕がいとも輝かしく描かれるのは当然なのだろう。「ストラットフォード組曲」の掉尾を飾るこの楽章も、その壮麗な場面を描くものに違いない。

煌びやかなチャイムのみならず、Hornのベルトーンも効果的に使ってバンド全体が奏する鐘の音をイメージした楽句の輝きは、殊に印象的である。
Ivhornその輝かしさが一旦収まり、安寧で大らかなCantandoの中間部へ。ここでClarinetが幅広く歌う旋律が実に美しい。
Ivcantandoやや遠く鐘の音が聴こえると、一層スケールを拡大してこの旋律が朗々と歌われていく。

冒頭のファンファーレが再現されると、Horn
のベル・トーンに導かれた終結部へ。高貴な祝典のイメージとともに絢爛さとスケール感を増し、息を呑むG.P.に続いて全合奏の輝かしいコードが鳴り響き、感動的に曲を締めくくる。

Photo※参考・出典
  小田島 雄志 訳 / 白水社 刊
   「リチャード三世」
   「ウインザーの陽気な女房たち」
   「お気に召すまま」
   「ヘンリー八世」

♪♪♪

音源は
Cd市岡 史郎cond.
フィルハーモニア・ウインド・アンサンブル

の演奏が唯一のもの。
全編に亘り品のいい演奏でこの曲の魅力が充分に発揮されている。(但し、もっと他の演奏も聴いてみたい曲ではある。)


Howard_cable作曲者ケーブルはカナダの作曲家で、かのカナディアン・ブラスにもアレンジを提供、クラシックから映像音楽まで幅広いジャンルで活躍している。
吹奏楽曲としては他に「ニュー・ファウンドランド狂詩曲」(Newfoundland Rhapsody「スネーク・フェンス・カントリー」(Snake Fence Country)「ケベック民謡幻想曲」(Quebec Folk Fantasy)などがある。

Photo_3いずれもハリー・ピンチンcond. エドモントン・ウインド・アンサンブルの演奏によるCDが発売されており聴くことができるが、「ニュー・ファウンドランド狂詩曲」(左画像)も、実に透明感のあるサウンドの音楽でなかなか素晴らしい。

…彼にはもっとレパートリーを提供してほしいのだが、これら以外の吹奏楽曲の存在は不明である。

(Revised on 2012.1.30.)

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コメント

初めまして!
大昔、合同演奏会で「ストラットフォード組曲」を取り上げた者です。

素晴らしいサイトで大変に懐かしく、ついつい読み耽ってしまいます。
特にスコアの画像が貴重だと思います。

高校の時に「ブロックM」「コラールとカプリチオ」「シンフォニア・ノビリッシマ」を演奏しました。

大学の時に「平和の祭り」「ポンチネルロ」「交響的断章」「吹奏楽のための交響曲(第一番)」を取り上げました。

社会人では「ファンファーレ、コラール&フーガ」「朝鮮民謡の主題による変奏曲」「吹奏楽のための木挽歌」「古いアメリカ舞曲による組曲」「ブロードウェイ・カーテン・タイム」を取り上げました。

金管五重奏ではシャイト、エワルド、アーノルドを吹きました。

ちなみに年齢は書かなくてもいいと思いますが「ジュビラーテ」の年に大学の四回生でした。

これからも お身体に気をつけて楽しみながら頑張って下さい。

投稿: parody575 | 2012年1月28日 (土) 16時22分

parody575さん、嬉しいコメントをどうも有難うございます。6才上の兄の影響で楽器を吹くようになったからでしょうか、私は自分自身の同世代というよりもっと上の世代の方々と「思い出の曲」や「好きな曲」が一致しているようです。^^)挙げていただいた曲はどの曲も大好きです!

「ストラットフォード組曲」はつくづく素敵な曲だと思います。なのに今や忘れ去られているかのように、ほとんど演奏されることもなく…。そこで再評価に向け、ちょうど本稿の改訂充実を準備しておりました。改訂完了しましたら、またぜひご覧下さいませ。
他記事も含め、今後とも「橋本音源堂」を宜しくご贔屓のほどお願い申し上げます☆

投稿: 音源堂 | 2012年1月28日 (土) 18時53分

早速のコメントありがとうございます!

第一楽章が木管楽器なし、第三楽章が金管楽器なし、というのは練習で振ってて辛いものがありました。

どうしても休みの連中が集中できないはずだと思って気になるのです。

それで兼田敏の「わらべ唄」(日本民謡組曲と書くとハロルド・ワルターズを連想してしまうので)の時には「あんたがたどこさ」に木管楽器を、「江戸子守唄」に金管楽器を書き足してしまいました。(笑)

「わらべ唄」が初の吹奏楽作品なんですね。
「序曲」や「パッサカリア」などを何曲か書いた後に委嘱されたのだと思っていました。

兼田敏にはヤマハ教販のブラウンシリーズ(やグリーンシリーズ)で御世話になりました。
一人で60曲も!
質も量もジャンルやレベルの幅の広さも大変なものです。

もっと再検証して光を当てるべき偉業ですね。
指導者用虎の巻スコアと模範演奏ソノシート付きも画期的でした。

音楽之友社の吹奏楽講座(第五巻)編曲の技法は譜例が殆どブラウンシリーズで非常に参考になりました。
現場で役立つ実際的な編曲の基本は全て兼田敏に学んだようなものです。

伊福部昭の「管絃楽法」は名著ですけど、あれはオーケストラ用なので精神とか心得だけ。
それとゴジラ好きなのもあります。(笑)

兼田敏以前では深海善次(?)の「吹奏楽法」が良かったですけど、チョット古いかな?
話題が逸れてしまいました。(^^ゞ

投稿: parody575 | 2012年1月29日 (日) 11時21分

「木管楽器なし」「金管楽器なし」の吹奏楽曲といいますと、最近作ではフィリップ・スパークの「ダンス・ムーブメント」が有名ですね。これも4楽章のうち、夫々1つずつ「木管楽器なし」「金管楽器なし」の楽章となっております。その音色やニュアンスの対比は、「ストラットフォード組曲」と同様に楽曲の魅力となっておりますね。

「ロザリンドに捧げる歌」の締めくくりはストリング・ベースのピチカート。-そこに"not cued in Tuba"とわざわざ記したところに、作曲者ケーブルの強い思い入れを感じてしまいます。

投稿: 音源堂 | 2012年1月29日 (日) 20時54分

こんにちは。
さきほど、「キンバリー序曲」のところに初コメントさせて戴いた者です。(連投スミマセン)

実は「エル・サロン・メヒコ」や「小組曲」のところでの音源堂さんの解説を読ませて戴いていたところ、私の卒業校の名前が出てきていたので驚きながら更に読み進めていると、今度はこの曲名ですから、さっきまでひとり勝手に仰天してしておりました。(笑)

なぜかと言いますと、弘前南が「エル・サロン・メヒコ」で全国に初登場する3年前のコンクールで、同校はこの「ストラットフォード組曲」を自由曲にして、東北大会に出場(全国まであと一歩の第三位)していたからなんです。
しかも、翌年の自由曲は「ディエス・ナタリス」でした。(笑)
みんな、ここにある曲ばかりではありませんか!

私はこの時点で卒業しましたが、「ストラットフォード組曲」の時は特に、大会後に発刊されたバンドジャーナルに審査員であったD.バーガー氏のコメントを秋山紀夫先生が訳された、東北大会の感想記事が載せられていて、(弘前南)という校名を出して触れて下さっていたことが何より嬉しかった記憶があります。

今聴くと、「こんなもんだったか〜…」、という感じではありますが、それでもこのアマチュア音源が入ったLP盤は今でも大事に保管しています。(全国大会でこの曲が披露されたことは、ほとんど無いのではないかと思います)

長文、失礼しました。

投稿: 昔のホラ吹き | 2013年9月 9日 (月) 18時52分

昔のホラ吹きさん、こちらにも有難うございます。
1974年に弘前南高校が東北大会で披露したストラットフォード組曲については、佐藤正人氏が「記憶に残る想い出のサウンド」の一つに挙げ、紹介されていたと思います。
この曲の備える「品格」は現在でも吹奏楽曲の中で燦然と輝いていると思います。ぜひ自分でも演奏してみたいですね。

投稿: 音源堂 | 2013年9月 9日 (月) 21時05分

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