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2007年6月28日 (木)

ヨハネスブルグ祝祭序曲

William_walton_1Johannesburg Festival Overture
W.ウォルトン
William Turner Walton
1902
1983





ウイリアム・ウォルトン
は私の大好きな作曲家の一人。品格の高い曲想、美しく洗練された旋律。それでいて時に大胆なコントラスト、ダイナミックなクライマックス!またラテンやジャズの手法をも取り入れた、多種多様な音楽を送り出している。こうしたウォルトンの作品はこの上なく
カッコよく、洵に素敵なものばかりだ。

「ヘンリー
5世」「ハムレット」「リチャード3世」のシェイクスピア3部作、イギリス王のための2つの戴冠式行進曲(「王冠」「宝珠と王杖」)、序曲「スカピーノ」、前奏曲とフーガ「スピットファイア」、「カプリチオ・ブルレスコ」、「メジャー・バーバラ」、「シエスタ」、バレエ音楽「クエスト」、ピアノ四重奏曲、「お気に召すまま」…吹奏楽で採り上げられるものもそうでないものも、煌きに満ちた宝石のような作品群である。

本稿でご紹介する「ヨハネスブルグ祝祭序曲」(1956年)も実にシャレた素敵な作品。ウォルトン管弦楽作品集のCDを購入して、この曲と出遭った途端、大好きになってしまった!

♪♪♪

南アフリカ共和国第2の都市ヨハネスブルグは、1886年に発生したゴールド・ラッシュによって誕生した街。「ヨハネスブルグ」というその名は、現地アフリカーンス語「ヨハネスブルフ」のアルファベット表記を日本で類推発音・定着したもの。したがって、ドイツ風の印象を与える語感にもかかわらず、実はドイツとは全く関係ない。

 ※但し、アフリカーンス語が低地ドイツの流れを汲むオランダ語の、いわば
   亜流であることは事実。オランダ植民地時代にオランダ語を母体に多言
      語が入り混じって形成されていった言語とのことである。


この作品はヨハネスブルグという街の誕生
70周年を祝って作曲されたが、南アフリカ共和国は歴史的にもイギリス連邦の一員であり、その縁あってウォルトンに委嘱があったものであろう。

ヨハネスブルグはこのゴールド・ラッシュの期間にめざましい成長を遂げた。しかし
1990年代に、南アフリカ共和国が抱えていたアパルトヘイト問題がその廃止という決着を迎えると、これを受けて余りに膨大な黒人たちが移住してきたために、多数の失業者が街に溢れる状況となった。これが極度の治安悪化という、非常に皮肉な結果を導くことになる。かつてのヨハネスブルグの姿はなく、中心部は経済都市の機能を失い、今や「世界最悪の犯罪都市」となってしまっているという。

外務省の渡航情報
2011.5.29.現在)を見ても警戒地域となっており、”殺人、強盗、強姦、恐喝、暴行、ひったくり、車上狙い、麻薬売買等の犯罪が時間、場所を問わず発生”とされている。また、南アフリカのHIVキャリア率は10%を超えるとの調査結果もあり、想像できないほど同国の状況は悪い。真偽のほどは確認できないが、ネット上にもヨハネスブルグの怖さを伝える記事は溢れかえっている。

  ※こうした国々で仕事をしており事情に詳しい友人がいるが、彼から聞い
    た話で衝撃的だったのは 「ヨハネスブルグでは、1足のスニーカーを手
    に入れるために殺人を犯す。」というものである。


Johannesburg写真にある通り、近代的な高層建築の街並とその人口の多さに比較して、車道の交通量が不自然に少ないのは治安の悪さを象徴しているものとされる。


♪♪♪

「ヨハネスブルグ祝祭序曲」が作曲された頃のヨハネスブルグは(大きな人権問題を有してはいたが)、おそらく現在の荒廃とは懸け離れた都市であっただろう。曲はウォルトンらしい、またイギリス音楽らしい洒脱さと気品に満ちている。

しかし、それだけではない。ウォルトンはアフリカ音楽のテイストも取り入れたのだ!

ウォルトンは実際にアフリカを訪れてはいないが、アフリカ音楽協会からアフリカの伝統音楽の録音を取り寄せ、これにインスピレーションを得た。そして、マラカス・クラヴェス・カスタネット等を含む多彩な打楽器が活躍する、アフリカのリズムを生かした音楽を織り込んだわけだが、この部分こそが、ウォルトン作品の中でも異色の個性を放つものとして「ヨハネスブルグ祝祭序曲」を輝かせている。
この曲が”イギリス風の外観を持つアフリカの都市の肖像画”と称される所以である。

♪♪♪

Presto capriccioso =152で始まるこの曲は主部が循環する複合ロンド形式で、終始テンポを緩ませず、快速にしてスカッとした爽やかな音楽。
冒頭の鋭く短い楽句による序奏に続き、早速たおやかにして軽やかな主題が
Violinに現れる。
1
Hornによって奏されるメロウな第2の主題、
2
Muted Brass の野性味に溢れる第3の主題-。
3さらに木管群の快速な細かいパッセージによる第
4の主題へと続き、音楽はぐんぐんスピード感と生命力を増してくる。
4
ほとばしる水の如く、生き生きと繰り出される魅力的な旋律!まさにウォルトンならではの”魔法”というべきものであり、しかも各旋律の個性が効果的な対比を描き出す。
そして、いよいよアフリカン・パッセージの登場だ!
5ラテン・パーカッションが賑やかにリズムを刻む中、ユーモラスな
Tubaのベースラインが・・・。異国情緒が充満したこの中間部は、前後のイギリス的音楽と鮮烈な対比に輝く。エキゾティックな音楽はさらに高揚し、ヴィブラートをかけまくって HiC をぶっ放す Muted Trp. の楽句でクライマックス!

ブリッジを挟んで再現部へ。イギリス風の曲想が戻って熱情を冷まし、流麗な音楽の流れが心地よい。
音楽はバスーン・コールアングレ+ヴィオラ・チェロの細かい下降系パッセージから終結部に入る。
Molto rit.で幅広くなる音楽は、濃厚で鮮烈なブラスの打ち込みの末、息を呑むようなG.P.!あとは一気になだれこむ激烈な音楽となり、そのエキサイティングさに心躍る。特にTrb.のグリッサンドを効かせたカウンターにはシビれてしまう!

再びアフリカン・パッセージも戻ってきて興奮は最高潮、最終盤はテンポを捲くり、
Prestissimo となって鮮烈なTrb.Trp.の掛け合い、熱狂のうちに曲を締めくくる。
6
♪♪♪

音源は以下をお奨めしたい。

Cd001_1チャールズ・グローヴス
cond.
ロイヤル・リヴァプール・
フィルハーモニック管弦楽団

スピード感とコントラストの鮮やかさで随一の演奏。ウォルトンの管弦楽曲の傑作集で、そのほかの楽曲でも、ウォルトンの凄さ・素敵さを存分に堪能できよう。

Cd002気軽に聴いてみたいという方には

ポール・ダニエル
cond.
イギリス・ノーザン・フィルハーモニア

廉価NAXOS盤だが、こちらもなかなかの好演。



   【その他の所有音源】
     ブライデン・トムソンcond. ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

♪♪♪

最後に、「ヨハネスブルグ祝祭序曲」の吹奏楽版を紹介したい。
本邦と著作権関係の異なる米国ではMerlin Pattersonによる吹奏楽版があり、録音もされている。
Photo_403トム・ベネット
cond.
ヒューストン大学ウインド・アンサンブル

(但しスピード感とダイナミックスの変化を欠き、楽曲の魅力が充分に発揮されたとは云い難い。)


本邦において演奏が認められている吹奏楽版は
冴木 匠太郎(=杉本 幸一)の編曲によるもので、著作権者である日本ショット社からレンタルされている。
  
  ※2009.12.5.現在、原著作権が移動した様子であり日本ショット社での取扱
    はストップ
されている。続報は、また本稿更新によりお伝えする。

実はこの編曲版は、私がイギリス現地からスコアを取り寄せ、杉本氏に編曲委嘱したものである。高い評価を得た編曲であるが、陸上自衛隊中央音楽隊が定期演奏会で初演して以降、演奏されていない。
既に述べた通り、非常に魅力に溢れた楽曲なので広く演奏されてほしいのだが、演奏的には難曲極まることもあり、なかなかその機会に恵まれないのだ。

こんなスカッとした曲を、コンクールやコンサートでキメたら最高!だと思うのだが・・・。

(Revised on 2011.5.29.)

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コメント

ちょっとご無沙汰してしまいました。ヨハネスと言えば治安というくらい今日では評判が悪いです。曰く、「スニーカー一足のために命まで奪う」とか。TSOTSIという映画も話題になっているようですね。まだ観ていないのですが、とても気になっています。南アもワールドカップを機に変わって行くといいのですが。。。

(プチ業務連絡)
今日、団長に次回定演の件でメイルしました。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年6月29日 (金) 04時11分

(プチ業務返信)
・・・ということは、帰ってこれそうなんですか?楽しみにしていますよ!

♪♪♪

この曲は知ってました?中間部=アフリカン・パッセージではコントラバスでなく、Tubaが一本でユーモラスなベースラインを担うという、異色の作品です。イイですよぉ。お聴きでなければぜひ!

Tromboneもとっても楽しい譜面です。難しいんだけど、やってみたいなぁ・・・。

投稿: 音源堂 | 2007年6月29日 (金) 13時32分

この曲は知りませんでした。
もともとウォルトンで知ってるのもクラウン・インペリアルくらいで。。。(と思って、手持ちのCDをがさごそ・・・)
一枚だけ発見しましたが、交響曲一番。どんな曲だか全然印象にない、ということは買っただけで聴いてないか?同じCDに収録されているのにOrb & Sceptre、こりゃ何だ?と調べたら宝珠と王杖。ロイヤルな英語って難しいですね。威風堂々といい、普通使わない単語です。
今度、海外出張なので、この曲も探してこようと思います。

ところで、広島の吹奏楽DLサイトで買った曲をCDに焼いて聴いてるのですが、雑音が目立つようになりました。これって自分で焼いたCDの宿命でしょうか?何か技があったら教えてください。というか、そろそろIpod買わなきゃ。。。
何聴いてるかというと、杉本先生のカーニバルのマーチだったりします。これ、アンコールによさげですね。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年6月30日 (土) 01時58分

本稿でご紹介したロイヤル・リヴァプール・フィルのCDがとにかく纏まっていて、楽しいですからオススメします!

>CDに焼いて聴いてるのですが、雑音が目立つようになりました

対策としては、おそらく高品位CD-Rを使用し、涼しくて電磁波の影響等のないところに保管・・・って貴地の暑さが原因なんですかね?

>そろそろIpod買わなきゃ。。。

私もiPod買い換えます。現在保有している60GBモデルがもうパンパン。80GBモデルが出ていますが、もう間もなく100GB以上のモデルが発売になるんじゃないかと、今か今かと待っております。
(前の前の買い換えの際、買い換えた翌日にほぼ同じ値段でHDD容量が格段に増加したモデルが発売となり、悔し涙にくれた経験があるもので・・・。)

ごく最近に入手した音源はiPodで聴くことができないもんで、本当に難儀してますわ。

投稿: 音源堂 | 2007年6月30日 (土) 18時18分

ヨハネス序曲、探したんですが見つかりませんでした。残念。
でも、他にいろいろと収穫がありました。詳しくは別途メイルにて。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年7月 7日 (土) 07時21分

それは残念!それでは帰国されたらお祝いにご用意しましょう。楽しみに帰って来て下さい!

投稿: 音源堂 | 2007年7月 7日 (土) 13時53分

すいません、待ちきれずにアマゾンでポチっとやってしまいました。
ついでにラ・マンチャのミュージカル盤も注文してしまいました。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年7月13日 (金) 07時36分

な~んだ。でも貴兄らしいですね。^^)
まあ、他にもたくさんネタはありますから、帰国祝いはまた別のを用意しますよ!
「ヨハネス-」の感想、聞かせてくださいね。

投稿: 音源堂 | 2007年7月15日 (日) 22時56分

来ました!ヨハネス序曲。
Prestissimoいいですね。
完璧なメカニックを保ったまま、それでいて最後まで熱狂的に駆け抜けられたら本当にスカッとすると思います。それにしても、Tubaこんなにぶりぶり鳴らしていいんでしょうか?(いいんです。こういう曲はオケでもTuba4本くらい使いましょう。;心の声)

ところで、アマゾンから届いた時、箱が既に開けられていました。当局が一応中身をチェックしたようです。Maria Ewingのサロメも入っていたのですが、大丈夫でした。パッケージの絵は何てことないので、それ以上踏み込まなかったのでしょう。
僕の勝ち!

投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年8月11日 (土) 07時05分

くっしい殿
暑中お見舞い申し上げます。(ってそっちは年中暑いか。)東京は連日異様な暑さです。

ヨハネス、いいっしょ?
でもね、スッゲー難しいんですよ、コレ。
でも、やりたい・・・。

♪♪♪

パッケージが「通りそうか」がポイントな訳ですな。それにしても、当局もやっぱり真面目に監視してるんですねえ。

投稿: 音源堂 | 2007年8月11日 (土) 08時55分

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