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2007年5月27日 (日)

七五三

Photo_380Shichi-Go-San,
The Celebration for Children of 7, 5 and 3 Years of Age

酒井 格

Itaru Sakai 1970- )


今や、大学吹奏楽界の雄として名を馳せる
龍谷大学学友会学術文化局吹奏楽部。あの佐渡
裕の指揮の下、1986年に全日本吹奏楽コンクールに初出場して以来、数多く全国大会に進出している同バンドであるが、現在の評価を決定付けたのは2002年「三角の山」、2003年「森の贈り物」、2004年「七五三」という酒井 作品による全日本吹奏楽コンクール3年連続金賞受賞に他ならない。さらに龍谷大学は、所謂”3出明け”の2006年も、酒井作品「波の通り道」で全国大会に進出、金賞受賞を続けている。

酒井作品は無用な難解さを排して魅力に溢れた旋律を確りと提示しつつ、きちんと計算された構成感を持っているのが素晴らしい!

「いい歌(旋律)」を産み出すこと自体が如何に難しいか-。
楽曲全体の構成以前に、旋律が旋律として成り立っていないのではないか?と首を傾げたくなる吹奏楽曲が濫造気味の昨今、酒井作品の存在は大変に貴重である。作曲のテクニックを如何に駆使しようとも、たった一つの琴線に触れる旋律に敵うものはないのだ。

酒井
格は、実は非常に難しいこの「琴線に触れる旋律を送り出す」作業を次々とやってのけているわけで、天才的と言える。
しかも前述の通り、単なる思いつきでない、確りとした構成感で曲に芯を通し、そしてそれを存分に表現するための作曲技術を備え、工夫を凝らしている。
だからこそ確固たる”酒井ワールド”が存在し、聴く者に感銘を与えるのだ。この「構成感をもってやり抜く」という要素も、吹奏楽界で濫造気味の新曲たちには欠けていると思う。

龍谷大学はその”酒井ワールド”の体現者。アマチュアとしての限界は当然あるが、プロの演奏を超えて音楽の魅力を放っている部分も多く、評価されたのも然るべきである。

♪♪♪

「七五三」は前述の通り、2004年に龍谷大学の委嘱により作曲。詳しい経緯や楽曲の解説は作曲者HPに詳しい。そこから作曲者コメントを抜粋する。

当時「たなばた」「おおみそか」が比較的演奏されていた私に、音楽監督の若林義人先生が「僕の誕生日が11月15日だから『七五三』という曲も書いて~!」とお願いされた?のを3年越しに実現してしまいました。(笑)「七拍子、五拍子、三拍子がたくさん出てきて、『春の祭典』に対抗して『秋の祭典』な~んて、ははは」なんてやりとりもあったので、私の作品ではめずらしく変拍子を多用した作品です。
ただ、実際の作曲に取りかかるときには、7歳の姉、5歳と3歳の弟という架空の兄弟をイメージした三つの主題を展開させています。3歳のテーマは、2004年の8月6日に3歳になった甥っ子。5歳のテーマは、1975年の秋に、石清水八幡宮に七五三参りに行った(ケーブルカーに乗ったときの嬉しさや、石畳の参道を走って転んだりした)私自身の思い出。7歳のテーマは理想のお姉さん像?なのかもしれません。」


♪♪♪

「たなばた」「おおみそか」に続き、日本の年中行事を表題に持つ作品で、この2作品同様、急-緩-急の三部形式による洵に愛すべき作品。

Trp.Snare Drumの快活なシンコペーションのファンファーレに始まり、それをバスドラムとシンバルが受けるイントロからしてハッピーな雰囲気に満ちており、頬が緩んでしまう。バンド全体が sub.p からクレッシェンドして視界が開け、実に堂々たるテュッティ!秋の日の、晴れやかな青空がイメージできることだろう。続く低音のシンコペーションの動きも斬新で印象的、私の大好きな部分である。

今度はTromboneによるファンファーレが入って徐々に静まり、リズミックなTrp.ソロで主部が始まる。この5歳の主題がまた素敵で、最後まで息の長いフレーズで吹ききったら大変な「男前」である。木管楽器に移って繰り返されるが、この部分で聴こえてくるベースラインも凄くイイ!ので耳を澄ましてほしい。
続いて冒頭のファンファーレが、チャイムを伴って鮮烈に再現され、夢見るようなサウンドとともに静まり、中間部の7歳のテーマが顔を出す。ほどなく
E♭クラが3歳のテーマで登場!E♭クラを愛してやまない作曲者らしい、可愛らしく愛情溢れるテーマである。
ブリッジは遠くからファンファーレ主題を変型したフレーズが近づいてきてクレッシェンド、頂点に続きパーカッション・ソリで仕舞い、短調のコードで中間部へ進む。

中間部は穏やかで、一層優しさを増した音楽となる。7歳の旋律をAlto Sax が存分に歌い、楽器を増やして繰り返されると幻想的なムードに覆い尽くされていく。Trp.のソロとともに高揚しクライマックス。静まってコールアングレ、クラリネット、フルートとソロが続くが、この各楽器の音色対比が世界を更に広げている。

テンポを快速に戻し決然と、しかし密やかに緊迫感を持って前半と同じフレーズでブリッジが始まるが、ここではBaritone Sax の音色が映える。再現部はエキサイティングなTimp.ソロや主要旋律の応酬を挟みながら高揚、それが静まる部分ではBass Tromboneの音色も効果的に使用されている!
7歳の旋律が高らかに奏されるポリリズムなど、主要旋律がクルクルと入れ替わりながら終結部へ。
終結部では、冒頭を
Tromboneのファンファーレから再現、躊躇することなく歩みを進め、最後の一音まで爽快な音楽で締めくくる。

♪♪♪

酒井作品のもう一つの魅力は、各楽器の音色・特徴を実に効果的に生かしていること。そこには「愛情」まで感じてしまう。プレイヤーひとりひとりの、すぐそばにいてくれるというのか・・・。演奏者が意気に感じるフレーズが散りばめられている。

「七五三」はその最たるもの。さまざまな楽器の集合による合奏音楽の喜びに満ち溢れた音楽なのだ。
Trombone奏者としては、特にこの素敵なファンファーレが吹いてみたくて堪らない!

♪♪♪

音源は、前述の2004年全日本吹奏楽コンクール実況録音/龍谷大学の演奏(冒頭画像)が、曲の魅力を充分に発揮した好演!聴けばこの曲の魅力は直ぐに判るはず。どうぞ、この爽やかで愉しい、素敵な音楽を聴いてみていただきたい。

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コメント

いやぁ、邦人作曲家って奥が深いですねぇ。知らない曲だらけですわぁ(^_^;)

七夕生まれの私としては酒井さんの「たなばた」は嬉しい曲です。以前書かれてたレビュー拝見しましたが、高校時代の作品だとか。

まぁ芸大に入ってくる作曲の人って、すでにかなりの物を書いていますけれど、酒井さんもスゴイものですねぇ。荒削りだけれど心がウキウキする素敵な曲だと思います。

それにしても「七五三」も誕生日の記念とは(^o^) これも読んでると気になりますねぇ。

投稿: Junco | 2007年5月29日 (火) 23時22分

作曲という仕事、考えに考え抜いて行われるようです。
特に「これだ」という旋律を生み出すのは本当に大変。オリジナリティ(現在では完全にオリジナルの旋律は存在しないといわれる中で)を感じさせつつ、納得感のあるものであるものでないといけません。

こんなのあり得ねえだろ!っていう旋律が横行しています。オリジナリティがあるつもりで、意味不明なだけです。
また、本当に嫌になるのが「行き当たりばったり」の楽曲。これも本邦・海外問わず本当に多いです。何の説得力もない、わけのわからないものは要りません。

(現代的な曲が嫌いなのではありません。大好きな現代曲、吹奏楽オリジナルも含めてたくさんあります。)

酒井氏の音楽は親しみやすいイメージが先行していますが、本当によく出来ていると私は思います。事実として彼に比肩する作曲家はそう多くはありません。私、大好きなんです。

投稿: 音源堂 | 2007年5月30日 (水) 11時56分

はじめまして。
すぎさまのブログにお邪魔しているごいんきょと申します。
七五三のことが書いてあってうれしくなって書き込みしてしまいました。
私も誕生日七五三なもので。
これからも素敵な解説楽しみにしています。

投稿: ごいんきょ | 2007年6月23日 (土) 09時11分

ごいんきょさん、お越しいただき有難うございます。
励みになります。今後もコツコツ頑張りますので、どうぞ宜しくお願いします。

杉本氏とはこれは、というレパートリー開拓目指し色々と画策中です。そちらもどうぞお楽しみに!(但し時期は未定ですが・・・。^^)

投稿: 音源堂 | 2007年6月23日 (土) 11時19分

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