ラ・ペリのファンファーレ
Fanfare pour preceder "La Peri"
P.デュカ
(Paul Dukas 1865-1935)
金管楽器の華といえばファンファーレ!
古今東西多くのファンファーレが作曲されており、私の敬愛する
フィリップ・ジョーンズ・ブラス・アンサンブル
(Philip Jones Brass Ensemble/以下PJBE)
も「ファンファーレ集」というアルバム(冒頭画像)をリリースしていて、収録された曲はどれも素晴らしい。殊に金管楽器奏者の私にとって、ファンファーレはいつも特別な想いで聴くことになるものだ。
一方、金管楽器(および打楽器)によるファンファーレだけでなく、管弦楽曲や吹奏楽曲に挿入されたファンファーレ、吹奏楽全体を使ったバンド・ファンファーレ(J.スタンプの作品など)のいずれからも感じられる華やかさ、壮麗さは広く聴く者を魅了する。
管楽器による音楽にほとんど興味のない家内ですら、つい先日子供向けのオーケストラ・コンサートに次男と行って来た際、その冒頭で演奏されたファンファーレにいたく感じ入ったようで、「すっごくいい音だった!録音されているものを聴かされてるのかと思ったわ。あんなに素敵な音がするのね~。」と興奮気味に語っていた。
(おいおい、いつも来てくれてるワシの演奏会は・・・?_| ̄|○ と私はかなり落ち込んだ。)
-そして、家内を魅了したそのファンファーレこそ、「ラ・ペリのファンファーレ」であった!
♪♪♪
このファンファーレは「魔法使いの弟子」で有名なポール・デュカ(右画像)が、1910年に作曲した舞踏詩「ラ・ペリ」の初演に際して書き加えた(1912年)もので、同作品の導入となるファンファーレである。現在では本体とは別に演奏される機会が多く、このファンファーレの方が有名となっている。
「ラ・ペリのファンファーレ」の魅力は、その華麗さと爽快さ、そして高潔な品格が抜群であることだろう。更に、中間部の幻想的で深遠なムードが楽曲に魅力を加えており、そこから再び沸き起こるように冒頭の楽句に回帰するさまは洵に感動的。この簡潔な小楽曲の中に、深く広がる世界が見えるのである。
演奏は冒頭でご紹介した、PJBE(下画像)の録音をお奨めする。
快活・華麗であるのに、たおやかな冒頭-。全編に亘るスピード感のある音色と、明晰で真っ直ぐな音楽の運びが大変素晴らしい。たとえるなら、”世に美女はたくさんあれど、この美しさは格が違う”といった女性をイメージさせる、魅力的な演奏である。
♪♪♪
舞踏詩「ラ・ペリ」
(La Peri, Poeme Danse en un Tableau)
についても触れておきたい。
「ペリ」とは仙女(妖精)の名前であり、この舞踏詩の登場人物は僅かに二人。 ストーリーの概略は以下の通り。
「不老不死を希求する無敵のペルシャ王イスカンデルは、流浪の果てに不老不死の蓮の花を持った仙女ペリと出遭う。
エメラルド色に輝く不老不死の蓮の花を、静かに眠るペリの手から奪うイスカンデル王。目覚め狼狽する美しいペリの姿に、俗な欲望を感じてしまったイスカンデル王の手にある蓮の花は、真っ赤に変わってしまう。蓮の花を失っては聖なる光の世界へ戻ることのできないペリは、仙女の踊りを舞いイスカンデル王を魅惑して、花を取り戻そうとする。艶やかなその踊りに魅了され、終にイスカンデル王は不老不死の蓮の花をペリに返す。
するとたちまち蓮の花は黄金色に輝き、ペリはその光の中に消え去ってしまう。取り残されたイスカンデル王は自分の最期が近づいたのを知り、闇に包まれていくのを感じるのであった・・・。」
イスカンデル王の欲望により、蓮の花は姿を変えてしまうが、これはこの不老不死の花が、決してイスカンデル王のものとはならないことを示すとされる。不老不死の花はエメラルド色、劣情の花の色は真紅・・・。なかなか印象深い話である。
♪♪♪
大変幻想的なムードに包まれており、まさにこの不思議な物語を体現した音楽。優美でロマンティックな旋律が聴きものだが、クライマックスでは壮大で豊潤なサウンドが伸びやかに迫ってくる。
自作に対する評価が厳しく、多くの作品を自ら破棄したといわれる寡作家のデュカにおいて、この「ラ・ペリ」は事実上最後の作品である。
(以降の略四半世紀に亘り、デュカは作曲家として沈黙。それどころか、この「ラ・ペリ」もすんでのところでデュカ自身に破棄されるところだった、というエピソードがある。)
器楽曲としてデュカの最大の力作にして、彼の精緻な作風を極めた作品と評価されるこの「ラ・ペリ」。ジャン・フルネcond.
オランダ放送
フィルハーモニー管弦楽団
の録音(左画像)あたりでお聴きになってみては如何だろうか。
もちろん「ラ・ペリのファンファーレ」も収録されたこのデュカの管弦楽作品集は、可愛いイラストのジャケットもなかなか良いCDだ。
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コメント
先週はお疲れさまでございます。いくら仕事とはいえ、ああいうのは二度とご勘弁、と言いたくても言えないのが辛いところですね。
PJBE、好きなのに実はほとんど持ってません。この曲も初耳です。ペルシャの素材を使って、いかにもフレンチな雰囲気がしそうで興味深いですね。全曲版も聴いてみたいです(ペルシャといえば、オペラ座の怪人のヒロインも何故かペルシャ系の名前なんですが、この時代のフランスでペルシャってどんなイメージだったんでしょう?個人的にはいつか追ってみたいテーマです)。
ところで、ハッジ、聴きました。アラビアを素材にするとどうして皆ああいうフレーズになりますかね。曲自体は随所にMelilloらしいかっこ良さもあるんですが、あのフレーズ来た時点でちょっと残念な気分になってしまいました。
でも、アメリカの騎士、ハッジと来て、最後に三法印の涅槃寂静を持ってくれば、現実世界の不調和から完全なる調和を希求するという壮大なテーマの演奏会ができそうです。
「いつも来てくれてるワシの演奏会」--- 僕も精進します。。。
投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年5月26日 (土) 08時24分
>この曲も初耳です。
それはいかん!直ぐに聴かないと大変だ!^^)
(私の好みの話ですが)アラビア音楽、実はちょっと苦手だったりして・・・。くっしぃ殿に”眼から鱗”のアラビア音楽をご教示いただかなければ。その節は宜しくお願いしますね。♪
投稿: 音源堂 | 2007年5月26日 (土) 16時59分
今日はデュカですか。魔法使い以外の音楽を探すって大変ですねぇ。どんな感じなんでしょうねぇ。ちょっと気になる(^o^)
でも、ファンファーレは短くても素敵な曲が多いですね。特にオリンピックのファンファーレって毎回印象的ですが、過去の演奏の全集ってあったらほしいと思います。
ところで、Wind DancerのCD買いました。(^_^)v すごく素敵な音楽~♪ ぜんぜん雰囲気の違う曲ですねぇ。でも、オコナーのRiversのほうが、ずっとスピアーズサウンドらしくて驚きました。(^_^;) 今の時期にぴったりの曲でした。素敵な曲を紹介していただいて有り難うございます。
投稿: Junco | 2007年5月26日 (土) 20時21分
た、大変です。耳が!すぐ聴かなければ!
>アラビア音楽
まかせてください!トラディショナル・インストから最新ポップス、ビデオクリップまで何でもあります。眼から鱗はおろか、耳から鼻血です。
投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年5月27日 (日) 03時04分
Juncoさん
良かった、「Visions」手に入ったのですね!
このCDは実にいい曲ばかりでしょう?ジェイコブの「オリジナル組曲」、マクベスの「白鯨」、そしてC.ウイリアムズの「カッチアとコラール」も・・・。
「カッチアとコラール」は以前ご紹介しているのですが、初めて聴いたのがこのCDで、突然迫り来る心臓の鼓動にとても衝撃を受けました。(詳細は同曲に関する記事をご覧下さい。)
くっしぃ 殿
何にしろ早く帰って来て下さい!スタ丼も待ってますよぉ。^^)
今、ベニー・グッドマンの"London Date"というCDを入手し、早速聴きながらこれを書いてますが・・・実にゴキゲンです。
いい音楽との出会いは本当に私に元気をくれます。幸せ気分♪
投稿: 音源堂 | 2007年5月27日 (日) 16時22分
こんにちは。
ペリのファンファーレ、いや、懐かしいです。
昔、ラジオのブラスの響きの冒頭流されてませんでした?
当時、楽譜屋行って探すも、スコアのみ販売不可、1セット10万円とか途方もないことを言われ、あっという間に断念しました。
私の方は、コンクール予選まであと一ヵ月半。盛り上がりたいところです。
投稿: きみ | 2007年6月24日 (日) 14時19分
きみさん、どうもです!
私は学生時代、このファンファーレは一度音出ししてみたことがあります。当時所属していたバンドはHornパートが・・・で即ザセツしました。^^;)
でも、カッコいいっすよね~。
コンクール!ですか。懐かしいなあー。ぜひ頑張って下さいネ。
投稿: 音源堂 | 2007年6月25日 (月) 09時51分