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2007年4月19日 (木)

シャマリータ!

Photo_322Chamarita !
R.ニクソン

Roger A. Nixon   1921-2009)




Photo_323この曲もまた、鈴木
孝佳cond. 福岡工業大学附属高校が黄金時代に全日本吹奏楽コンクールで残した快演で有名な一曲。
1981「民衆の祭りのためのコラール」1982「春の猟犬」、1983「呪文とトッカータ」に続き、4年連続の金賞を得た1984年の自由曲である。この時代の同バンドの演奏レベルは大変高く素晴らしいものであり、この「シャマリータ!」を知ったのも同校の演奏(右画像CDに収録)。聴いた途端に大ファンになってしまった!

♪♪♪


題名「シャマリータ!」※は、もともとポルトガル領アソーレス諸島(Azoresの民族舞曲の名前。調べてみるとS.アゼヴェードという人が創った合唱曲に「アソーレス諸島の5つの歌」というものがあり、その第3曲に「シャマリータ」という曲名を見つけることができる。

※フルスコアのプログラム・ノートには shah-mah-reé-tah と発音すると明確に書いてある。なのに「チャマリータ!」という日本語標題を採用しているケースがあるが、理由が判らない。

このロジャー・ニクソン作曲「シャマリータ!」は、米国カリフォルニア州のハーフ・ムーン・ベイで毎年
6月に開催される「シャマリータ・フェスティヴァル」の様子を描いたものである。
同地におけるポルトガル移民たちの祭典であり、そのお祭りの名は、彼らの出身地であるアソーレス諸島の舞曲に因んで名付けられたというわけだ。

※アソーレス諸島(Azores
Setecidadesacores_2リスボンの西/大西洋沖にあるポルトガル領の
9つの火山島群。「アゾレス諸島」とも表記。一年中温暖な気候と古き良きポルトガルの文化を色濃く残す、人気の高い観光地。



Angra_do_heroismo中でもテルセイラ島/アングラ・ド・エロイズモの街並、






Mdv2およびピコ島/石積に囲まれた葡萄畑の景観は世界遺産となっている。特産のワインは評価が高い。古くは新大陸への航海基地として、また後には捕鯨基地としての機能を果たし、現在はホエール・ウォッチングの島=”マッコウクジラの楽園”とも称される。


この祭典は聖霊祭の一つとされ、神への感謝と地域社会の愉しみという両方の側面を持つ。アソーレス諸島が飢餓にさらされ多くの人々が亡くなったが、「聖霊降臨の日曜日(
Pentecost Sunday)」に女王 によって手配された食糧を積んだ船が到着して人々は救われた、という故事に因むものであるようだ。

※フルスコアのプログラム・ノートには
14世紀初頭のポルトガル女王イザベル(聖イザベル=St. Elizabeth of Aragon 1271-1336 を指すと思われる。)と記されているが、アソーレス諸島の発見は15世紀であるため、スペイン女王イザベル1世(1451-1504, 即位1474)のことであるとも考えられる。詳細は不明。

♪♪♪

Chamarita_queen_in_2007祭典「シャマリータ」は、教会へ向かう「祭典の女王」(左画像:2007年の女王)の荘厳な行列に始まり、その教会では盛式ミサによる女王の戴冠と神の祝福が行われる。
この儀式の中には”強い風が吹く”ことを示すトランペットの吹奏や、特別な聖歌の吟唱が含まれている。

「聖霊降臨の日曜日」に行われるパレードの復路は、教会からシャマリータ・ホールの聖地に向かうもので、これこそが祭典のハイライト。

Brass_band_at_chamarita_procession_大規模なバンドやドラム隊、ボーイ・スカウトや、国旗などを携えたドリル・チームが、街の名士たちと共に「祭典の女王」に随行して行く。
この賑やかなパレードに引続いて、祭典の参加者全員にバーベキューが存分に振舞われ、競り市やさまざまな催し物も行われて、ポルトガルやアソーレス諸島の踊りはもちろんのこと、アメリカやラテン・アメリカの踊りも大々的に開催され、祭典は最高潮となるのである。

♪♪♪

曲は荘厳な行列ならびに儀式を表す序奏部(4/4, Andante Maestoso)と、活気溢れるエキゾティックな祭典の様子を表す主部(3/4, Allegro con spirito)から成る。
主部は6/8や
9/8も織り込んで展開。低音楽器によるエキゾティックな旋律に、ファンタジックで息の長い旋律が続いていく中間部を持つ、3部形式とも言える音楽である。

クレッシェンドしてくるドラのロールに導かれ、華々しくも格式高いファンファーレで開始。厳かなムードが祭典の前半の儀式を表す。
1繰り返されるファンファーレはいよいよ輝きを増し、よりくっきりとした輪郭の音楽となり、鮮やかである。
やがて
9/8拍子のTimp.ソロで一気に快速な主部に突入していき、賑やかな祭典の様子がカラフルに描かれる。
2ニクソンは「
Trumpet Cornet がアンティフォナルな効果を出すようにオーケストレーションした」とのことで、両者はそのコンセプトに基き対峙するよう書き分けられている。これが壮麗さに拍車をかけているのだが、アンサンブルは難しそうだ。

中間部はおどけた低音楽器の旋律と、細かく歯切れ良い楽句との応酬が面白い。
3やがて
Cornetに息の長い旋律が現れ、幻想的な曲想となるが、バックに聴こえてくるマリンバの音色が幻想性を更に強めていく。
4主部冒頭がさらにエキサイティングさを増幅して再現されると、全曲の白眉であるポリリズム(練習番号R)へ・・・。
これまで登場した楽句が全て渾然一体となって最大のクライマックス、一小節一つ振りとなるこの部分の浮揚感が堪らない!

最後は壮麗な高音楽器群の喧騒を、中低音がF音でビシりと引き締めて曲を閉じる。

♪♪♪

Roger_nixon荘厳で重厚な序奏部と、スピード感漲る主部との対比は見事であり、ニクソン(左画像)のもう一つの名作「平和の祭り」と比べても発散性の高い音楽で、彼の作品の中でも、私はこの曲が一番好き。






音源は冒頭でご紹介した福工大附属高の演奏のほか、
アーノルド・ゲイブリエル
cond.
ネヴァダ州立大学ラスベガス校ウインドオーケストラ
Live演奏(冒頭画像)を推しておく。

この両者とも主部のテンポは
152程度の設定で、作曲者指示(144)よりも速い。金管やサックスに現れる細かい楽句の明晰さや、入り組んだテクスチュアの明確な表現なくして「シャマリータ!」の魅力を立体的に表現することはできないのも事実であり、これらの演奏もその点では”完璧”とは言えない。
しかし、スピード感を失えば全てが台無しになるこの曲の性格をキチンと捉えた、魅力的な好演であることは間違いない。

”ディジタルかつ厳格にテンポをキープし、終始緩ませてはならない”という性格の音楽ではないが、快速な主部はやはり
152(できれば158)程度のテンポで生き生きと演奏したい。このテンポならクライマックスの「一つ振り」は一層魅力に輝くだろう。

-但し、そうなるとこの曲の演奏難度はとんでもなく高くなってしまうのだが…。今現在、全てを備えた演奏を期待するなら、アメリカ空軍バンドか、それともシエナか?

【その他の所有音源】
山下 一史cond. 東京佼成ウィンドオーケストラ
ウイリアム・バーツcond. ラトガース・ウインドアンサンブル


(Revised on 2010.11.12.)

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コメント

CHAと書いてシャと読むのはポルトガル語なんでしょうか。わざわざ「こう発音する」とことわるあたり、作曲者の愛着・こだわりを感じます。カリフォルニアの実際のお祭りを取材して作ったんでしょうね。
一方、視線を日本に移して、今年の課題曲「アラブの星」ですが、この人は実際のアラブの音楽を聴いたことあるんだろうか。今や世界中の音楽も日本で聴ける時代です。現代ポップスでも伝統的なインストでも何でもいいから、ちょっとでも研究してればあのメロディ、リズムはないだろうと思うのですが。もっといい素材がいっぱいあるのに、と口惜しいです。まったく対象へのレスペクトが感じられません。
判決:作曲が「上手」なだけの音楽は、この世に存在する資格なし。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年4月20日 (金) 05時40分

カリフォルニアはニクソンの地元であり、彼は「シャマリータ!」「平和の祭り」以外にも、カリフォルニアの祭典をテーマにした曲を幾つも書いています。「シャマリータ!」の舞台であるハーフ・ムーン・ベイもポルトガルというよりはスペイン移民の街として知られているそうで、この地域は人種や文化の坩堝。そしてそれを端的に映し出す「祭典」は、ニクソンにとって大きな興味の対象となっているのでしょう。

***

「上手な音楽」というのはなく「いい音楽」しかない、とよく言われますが、私が求めているのもジャンルに拘らず「いい音楽」です。

投稿: 音源堂 | 2007年4月20日 (金) 09時53分

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