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2007年3月21日 (水)

大序曲「1812年」

1812_21812 Overture op.49
P.I.チャイコフスキー
Peter Ilyich Tchaikovsky
18401893


やや「キワモノ」の扱いではあるが、クラシック界においても大変有名なこの曲。吹奏楽でもしばしば演奏され、終盤にカノン砲の描写があることから、殊に本物の大砲を使用して軍楽隊が演奏するなどとなると、俄然注目される曲目である。
(冒頭画像:2005年5月に行われた野外コンサートに於ける英国40th Regiment Royal Artilleryの”演奏”の様子)

♪♪♪

1812
年のナポレオンのロシア侵攻とその敗走、ロシアの勝利を題材としている標題音楽。ロシア軍は勢い盛んに攻め込んだフランス=ナポレオン軍に対し、焦土戦術を講じて耐え、最終的には「冬将軍」も味方につけて勝利したが、そのエピソードに則ったもので、ナポレオン軍の猛攻を表すフランス国歌「ラ・マルセイエーズ」と、5つのロシア旋律(ギリシャ正教の聖歌、ノブゴロド民謡、ロシア国歌など)を対峙させることで、これを表している。

重々しい聖歌に始まり、当初勢いを増す「ラ・マルセイエーズ」は、やがて戦闘の混乱の中徐々に影を潜め、ロシア旋律に覆い尽くされていく。最後は鐘が鳴り祝砲が轟く、絢爛豪華な大歓喜。ここでロシア国歌が重厚な中低音で示され、ロシアの勝利を象徴づけつつ、荘厳に曲を閉じる。


-と、実に理解しやすい音楽である。「戦争」というものをこれほどイベント的に描くことは、現代の感性では許されないだろう。また、「やり過ぎ」で俗っぽい感じもあるし、終盤などは大音響(ffff !)にして、何でもありの乱痴気騒ぎではある。

Photo_310しかし、一方でそうしたことを超越した音楽であることも事実だろう。音楽の一つの側面である「熱狂」をこれほど具現化した楽曲もないし、さすがにチャイコフスキーが創り上げたものだけあって「完成」されており、音楽の醍醐味を感じる瞬間が間違いなく存在する。数多くの巨匠たちが「
1812年」を演奏し、録音を残していることこそがその証左と思う。

♪♪♪

さて、今更本稿でこの有名な「1812年」を採り上げたのは、今現在、私好みの演奏があまりに少ないからである。

<私の好みその1>
 「合唱」は不要
冒頭部分をはじめ、原曲にはない合唱を取り入れたものが少なくなく、しかも「名演」と言われるものに多い。インストゥルメンタル好きの私には「合唱」は要らない。同じ理由でラヴェルの「ダフニスとクロエ」も合唱の入っていないものを一心に探す私である。

<私の好みその2>
 「大砲」はバスドラムで
終盤に轟く「カノン砲」であるが、エリック・カンゼル盤やアンタル・ドラティ盤に限らず、本物の大砲の音や、シンセサイザーの大砲音を使用したものが圧倒的に多い。これこそ、この曲の醍醐味じゃないの?と言われそうだが、私は「大砲」の生音は好きじゃない。「大砲」を描写したバスドラムの音が好きなのである。

昔カセットテープ(!)で発売された音源を所有しており、これがまさに「その1・その2」の両条件を備えた演奏であった。これを必死に探していたら・・・。
やっとCD版を見つけた!

1812_1レナード・バーンスタイン
cond.
ニューヨーク・フィルハーモニック
演奏自体も胸のすくような快適さ、私と同じ好みの方には、これをお薦めしたい。


♪♪♪

私は、昔聴いたバスドラム3台を連ねた演奏の「1812年」が忘れられない。
大砲の生音が轟くより、
3人の打楽器奏者が揃って渾身の強打を聴かせるあの姿が、この上なく恰好良いと思うのだ。


(2008.4.1. 追記)

本稿は予めお断りしている通り、あくまで「私の好み」について書いたものである。

昔ほどではなくなったが、私は(クラシック唱法の)人声にどうも恐怖というか圧迫感を感じてしまうところがある。そのため、人声に遮られることなく大好きな管弦打楽器の音を存分に味わいたいという、独特の「好み」を持っている。
本当は、人声による歌唱にも同じように感動できたらと思う。そうだったら、もっと飛躍的な数の素晴らしい音楽に触れることができるのに-そう思うと自分でも残念でならない。…でも、仕方ない。本能的な部分に係わることだから。

◇◇◇

これとは全く違った見地から、私は「1812年」の”カノン砲”はバスドラムを連ねて演るのが、とにかく「好き」なのだ。
この話を敬愛するS先生にしたところ、「いや、だってさあ、この曲はそーゆー音楽じゃん。」という反応だった。本来楽音でないものも総動員して、既製の枠を超えた面白み・熱狂を現出しているところに、この曲の醍醐味があるという趣旨だろう。私もそれは理解する。

でも、打楽器奏者たちの「俺たちのバスドラムで、大砲の音を表現してやる!」という想いだとか、そのために複数の奏者が技術とハートを併せて打ち込むその姿にこそ、私はときめきを感じる。
私はそうしたところに、サンプリングした大砲の音をシンセサイザーの(或いは録音音源の)スイッチを押し、アンプリファイして聴かせるといったことでは感じられないロマンを、どうしても感じてしまうのだ!

実際にそのステージを見たが、やおら準備を始め、徐々に緊張感と気力を漲らせてくる3人のバスドラム奏者の挙動もそうだし、シンクロして力強く動く3本の撥、そして轟くその音響は、視覚的にも聴覚的にも実に感動的!であった。
これも本能的に感じてしまうことなので、どうしようもない。

◇◇◇

私の「好み」は”特異”かもしれない。でも本稿でお伝えしたかったのは、単純にそうした私の感動体験だったのだ。

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コメント

こんにちは。
突然で申し訳ありませんが、音源堂さんの「1812」に対する合唱不要、大砲はバスドラムで!!という好み、私も全くの同意見です。
カルミナ・ブラーナのような曲ならまだしも、1812やダフニスとクロエのような曲で歌が入ってしまうと、なぜか違和感の覚えるのです。大砲も、何か、大砲と合奏との世界が違いすぎるというか……。また、歌や録音された大砲のためにオーケストラが音量を落とすのも残念に思ってしまいます。あんな大盛り上がりの場面で騒ぐのを我慢するなんて…。

ただ、私は、歌なし&バスドラムという組み合わせの1812は、実は吹奏楽の定期演奏会で1度聴いただけなんです。音源堂さんオススメのCDを必死に探しているんですが、入手可能なものが見当たらなくてf(^^;)

でもいつか、手に入れて聴いてみたいと思います!!

投稿: Suiso | 2010年1月19日 (火) 11時37分

Suisoさん、コメントを有難うございます。

本稿は私の「好み」が前面にでておりますが、それは他の方の「好み」を否定するものでは当然ありません。特に、クラシック歌唱に魅力を感じないというのは、私自身も「特異」な嗜好だと自覚しております。

>大砲も、何か、大砲と合奏との世界が違いすぎる

まさに私の感覚もその通りです。ですからバスドラムの方が好きですね。重ねてになりますが、何より打楽器奏者たちの息の合った渾身の一撃が炸裂した瞬間の、音響的・視覚的インパクトは実に感動的なものとして、私の記憶に深く刻まれています。
-いやあ、洵にカッコ良かったですよ、あれは。

投稿: 音源堂 | 2010年1月19日 (火) 12時35分

お初にお目にかかります! トロンボーン担当の人です!
この「橋本音源堂」は今まで見させてもらいました
自分は今年、定期演奏会でこの曲を吹奏楽でするので、参考(?)にさせてもらいました。
やっぱりこの曲の醍醐味はカノン砲ですよね!
自分達は、バスドラムでするはずです。
大砲(実)でも迫力があります。
でも、吹いてて迫力があって、また、らしさが出るのはバスドラムです!
いつ聞いてもカッコいいこの曲ができて、ホントにうれしいです!
トロンボーンのファーストとして吹くので
高いですが頑張ります!

投稿: trbのMさん | 2010年12月21日 (火) 22時07分

Mさん、初めまして。コメントを有難うございます。
1812を定演で!イイですね~♪

聴かせどころ満載で、更に最後は圧倒的な盛り上がり!
奏者にとっても大変ですが、演りがいはひとしおですよね。素晴らしい演奏をされることをお祈りします。

引続き我が音源堂をご贔屓のほど宜しくお願い致します☆

投稿: 音源堂 | 2010年12月21日 (火) 22時54分

初めまして。つい最近このサイトを知った者です。

大砲がバスドラがお好みのようですね。
ワタクシも同じです。

ところで
ニコライ・ゴロヴァノフ指揮
モスクワ放送交響楽団
の1812年はご存知ですか?

スターリン時代に録音されたので
ロシア帝国国歌の旋律が別の旋律に書き換えられた興味深い演奏です。

これはこれで一聴の価値がありますよ。


またお邪魔します。

投稿: クーネイ | 2013年9月25日 (水) 10時03分

クーネイさん、ようこそお越しいただきました。またコメントも頂戴し有難うございます。
ご指摘の所謂「シェバリーン版」の存在は知っておりましたが、実際に聴いたことはありません。いつか聴いてみたいと思います。

本稿は拙Blogの中でも初期のものにあたり、私の思うまま感じるままに書き連ねたもののままです。現在は読んでいただく方々の期待も感じ取り、情報としてより付加価値のあるものとすべく調査と聴き比べの徹底を図って出稿しておりますが、本稿には手が回らず、未だ改訂もできておりません。いつか「1812年」という曲ともう一度確りと向き合い、改訂稿をご覧いただこうと思っております。

「大砲」をバスドラムで演る場合、ステージ上に複数のバスドラムを散らして配置し、あたかも花火があちこちで打ちあがるような演出をするケースもありますが、私が好きなのは3台のバスドラムをズラッと並べ、野太く”ズドン”と演るというやり方です。
3人の奏者、3本のビーターがシンクロした迫力の打込みで生まれる衝撃の音響-そのシーンにこそ、私の心は躍って已まないのでした。

投稿: 音源堂 | 2013年9月25日 (水) 13時03分

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