ロッキー・ポイント・ホリデー
Rocky Point Holiday
R.ネルソン (1929- )
清冽で爽やかな曲想が印象的な、ロン・ネルソン※の快作。
ネルソンといえば、1993年に「パッサカリア - B-A-C-Hへのオマージュ」(Passacaglia -Homage to B-A-C-H )によりアメリカ吹奏楽界で最も権威のある「ABAオストワルド賞」「NBAレヴェリ賞」「サドラー国際賞」という3つの作曲賞を総ナメにするという快挙を果たしている。
ネルソンはアメリカ/イリノイ州生まれ。作曲は6歳から始めた天才で、イーストマン音楽学校でH.ハンソンやB.ロジャースに師事、渡仏してA.オネゲルの教えも受けたという。経歴からいって早くから吹奏楽にも造詣があったことは伺えるが、活動は幅広く、管弦楽はもちろん映像音楽、またCarpentersのアルバムにもアレンジで参画したものがある。
※吹奏楽界におけるNelsonというと、Jazzと吹奏楽の融合作品である 「プリズム」を作曲したRobert Nelsonという作曲家もいるが、本稿のRon Nelsonとは別人。
Ron Nelson のHP
Robert NelsonのHP
♪♪♪標題にある「ロッキー・ポイント」とは、メキシコ/ソノラ州にある
”Pueruto Penasco”のアメリカに於ける愛称。カリフォルニア湾の北部に位置した風光明媚な海岸で、大変人気の高いリゾート地である。
「ロッキー・ポイント・ホリデー」(1966年)はその印象を音楽で表したもので、フランク・ベンクリシュートーの委嘱によりミネソタ大学バンドのために作曲。吹奏楽曲として、ネルソンの最初のヒット作※となった。
※ネルソンがこれ以前に作曲した吹奏楽曲としてはConcerto for Pianoand Symphonic Band (1948/未出版)、Mayflower Overture(1958)がある。また、ネルソンは”Holiday”シリーズとして、Savannnah River Holiday, Sonoran Desert Holiday も作曲している。
※本作「ロッキー・ポイント・ホリデー」の作曲は永らく1969年とされてきたが、樋口 幸弘氏の研究・確認により1966年が正しいことが判明した。
♪♪♪
この「ロッキー・ポイント・ホリデー」の主要旋律は「リディア旋法」に基いているとのこと。この”Lydian”は、6-7世紀ごろにまとめられた教会旋法の一つであり、その中の第5旋法にあたる。
現代ではJazzの世界で1960年頃から教会旋法の利用が興ったとのことであるが、ネルソンは幅広い音楽活動を行っていたから、こうしたJazz界の動向からアイディアを得たことが充分考えられる。作曲年代からしてもその可能性は高いのではあるまいか。
リディア旋法は、「流麗、端然、軽妙敏速、快活、爽快、新鮮、すがすがしさを感じさせる」※とされるが、なるほどこの楽曲の与える印象にそのまま一致している。
※出典:「グレゴリオ聖歌」水嶋良雄/音楽の友社 : 参考サイト
♪♪♪
煌く稲妻のような上向型の16分音符とシンコペーションのカウンター、そしてTimp.による”決め”が鮮烈なオープニング。ほどなく柔らかで流麗な第一主題が木管群に現れる。全曲を通じ快速なテンポで奏される楽曲だが、次いで現れる第二主題は神秘的で息の長い、ゆったりとしたものである。このゆったりとした第二主題に対し、バッキングだけで快速なビートをサブリミナルにキープしていくという独特の手法を示す。したがって、この部分はポリリズム的に聴こえるわけだが、スピード感を失速させないように演奏するのは難しく、際どい。一方で、そのスリリングさが大きな魅力となっているのである。
快速なビートが再び表に戻ってきて、打楽器を効果的に使ったエキサイティングなブリッジを挟み、ぱあっと視界が開ける。スピード感をキープしつつ拍子感の消えたムードの中、さらに雄大さを増した第一主題が再現され、曲中最大のクライマックス!この部分でのドラの効果といったら、実にこの上ない。High Noteへとガンガン高揚して行くTrp.のカウンターにも注目!
穏やかにFlute,Oboe,Fagotto, Muted Trp.と旋律を受け継いでいくが、突如としてCrisply との指示で、ラテンのリズムとベースライン、Jazzyな楽句が割り込んでくる。アンヴィルの響きの新鮮さなど、多彩な打楽器の活躍は耳を奪う。この曲のもう一つの異色な部分であり、徐々に熱狂を極め、音楽がエネルギーを拡大していくさまは大変感動的。
その頂点で、テンポを落として高らかに第一主題が再現され、快速なコーダに突入、怒涛の興奮のうちに曲を閉じる。
♪♪♪
快速なテンポで一気呵成に駆け抜けていく曲想でありながら、非常に多彩で各部分のコントラストが素晴らしく、私のお気に入りの一曲である。
演奏時間5分程度とコンパクトで、快活な曲想はオープニング向きだが演奏難度は高く、濃密に書き込まれたスコア。最大のポイントである「スピード感」を最後までキープしつつも、楽句一つ一つを効果的に「見せ」ないと、この曲の真の魅力は伝わらない。
音源も、その難しさゆえに演奏の出来にバラつきがあるが、私としては以下をお薦めする。フレデリック・ナイリーンcond.
武蔵野音大ウインドアンサンブル
限界に達したともいえるテンポで一気に聴かせ、この曲の真価に迫っている。スコアの細部に亘り表現しきったとまでは行かないが、ノリがよく若々しい精気溢れる好演。トーマス・レスリーcond.
ネヴァダ州立大学ラスベガス校
ウィンドオーケストラ
スピード感と、濃密なスコアをディテールまで表現することを絶妙に両立した快演が漸く登場した。このレベルの録音が送り出されたことは大変喜ばしい。
同時収録されたN.タノウエおよび鋒山 亘の作品も興味深く、必聴の1枚といえよう。
(Revised on 2010.3.12.)
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