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2007年1月19日 (金)

喜びの島

Debussy_2L'Isle Joyeuse

C.ドビュッシー
Claude Debussy 1862-1918

管弦楽編曲 B.モリナーリ
Bernardino Molinari

吹奏楽編曲 真島 俊夫
Toshio Mashima



「ドビュッシーの「喜びの島」でしょ~。恋しちゃってルンルンな曲なんだから。 ・・・ ドビュッシーはね、前の妻を捨てて新しい恋人とバカンスに行った島で、幸せいっぱいにこの曲を書いたのよオ。」
by 江藤 かおり  - のだめカンタービレ Lesson 45
 より

♪♪♪

ドビュッシー
19031904にかけて作曲したピアノ曲だが、華麗さ、豊かな色彩感、ファンタジックさ、或いは官能的な側面と、非常に多くの表情を持った名作である。ピアノによる演奏を聴くと、直ぐに管弦楽等への発展性を感じさせるので、管弦楽や吹奏楽へのトランスクリプションが行われたことは、何ら不思議でない。
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♪♪♪

この曲については、最初の妻であるリリーという存在がありながら、ドビュッシーが
2番目の妻となるエンマ・バルダックと1903年に出会い、1904年にはジャージー島へ逃避行したというエピソードがあることから、作曲背景を、冒頭のように捉える説がある。
なるほど標題はもちろんのこと、楽曲自体-特に終盤の喜びのエネルギーに満ち溢れた様子-からして、恋に夢中になったドビュッシーの姿を想起させるものである。愛の喜びというのは、ここまで人を高揚させるものなのか!と感慨に浸ってしまう。

直接的な作曲動機としてはジャン=アントワーヌ・ヴァトー(
Jean-Antoine Watteau 1718世紀)の絵画 「シテール島への船出」 (下画像)から着想を得た、というのが通説とされる。
Photo_223これも実際にドビュッシーが見たのは同じシテール島を題材としたヴァトーの他の絵画であるという説や、はたまたA.
ベナール作「幸福な島」(1902年発表)にこそ着想を得たのであると唱える説もあり、完全に定まってはいない。
しかし、いずれの絵画もギリシャ神話に登場する”愛の島”シテールをテーマにしたものであり、それに共感を得たドビュッシーの精神状態は、推して知るべしではあるまいか。

楽曲は情景描写というよりは、精神、心象というものを描写するものだという感じがする。ピアノ曲についてはまだまだ造詣なしという私だが、この曲の多彩さ、表情の豊かさには本当に驚く。独りでオーケストラを演じるような、凄みを感じるのだ。
また、(恥ずかしながら吹奏楽版でこの曲を知った私だが)この曲と出遭ったことでピアノという楽器の魅力を改めて認識し、完全に惹きこまれてしまった。
Photo_7
♪♪♪

原曲ピアノ版は
W.ギーゼキング(
Walter Gieseking
P.クロスリー(
Paul Crossley
J.Y.ティボーデ(
Jean-Yves Thibaudet
J.ルヴィエ(Jacques Rouvier)
M.ポリーニ(Maurizio Pollini)
A.ワイセンベルク(Alexis Weissenberg)
V.アシュケナージ(Vladimir Ashkenazy)
S.フランソワ(Samson François)
V. ホロヴィッツ(Vladimir Horowitz)
K.ストッツ(Kathryn Stott)
W.ハース(
Werner Haas

の11
人の演奏家を聴いたが、それぞれに個性的なことは、この曲の懐の深さを感じるには既に充分である。

Debussy_haas中でもヴェルナーハースの演奏には魅了された。音楽の流麗な流れを、一瞬たりとも立ち止まらせることのないよう、それを妨げるものは全て排除したかのような演奏。強奏のタッチもそれを邪魔しないようコントロールされており、また休符の演奏や間の表現も、その思想に貫かれていると感じる。各声部のバランスが終始絶妙なことが一本の音楽の流れを隆々と築き上げているし、それでいてダイナミクスの幅が実に広く、アゴーギグも心憎いほど適切。
息を呑むような演奏は終盤のファンファーレ風の楽句以降、更に輝きと喜びに満ちてきて圧倒的であり、大きな感動を誘う!
(生まれて初めて、ピアノ曲で鬣がビリビリする感動、エクスタシーを感じてしまった!)

Photo_226管弦楽版はドビュッシーの監修の下、作成されたとされる。
ジオフリー・サイモン
cond.
フィルハーモニア管弦楽団
の演奏による録音があるが、正直、ピアノ原曲と比べて冴えない。あの「海」と同じ作曲家の作品であることを感じさせる部分は確かにある編曲なのだが、必ずしも成功していないのではないだろうか。
俯瞰して一本の思想が感じられる纏まりにまで至っていないし、何よりあの終盤のファンファーレ風の楽句はやっぱりラッパ群に任せるべきでしょ?ピアノ演奏の自在性や完結性には絶対及ばないのだから、アンサンブルの魅力、原色も使える管弦楽の色彩感を生かしたものであって欲しかった。

Photo_227その意味では真島
 俊夫による吹奏楽版の方が楽曲の内容に肉薄していると言えよう。
モリナーリ管弦楽版に一切とらわれず、大胆に吹奏楽で原曲の魅力を表現しようとしている。カスタネットなどの打楽器も臆することなく使用、フリューゲルホーンの音色を生かすなどのアイディアも良く、まさに楽曲の”再構成”を図るもので、私は高く評価したい。吹奏楽はその表現の幅にさらにチャレンジすべきであり、この種の音楽がもっともっとレパートリーに導入されて然るべきである。
この真島版は既に全日本吹奏楽コンクールでも演奏され金賞を受賞するなど話題を攫ったが、音源としては
ダグラス・ボストック
cond.
東京佼成ウインドオーケストラ
DVDがある。終盤のクライマックスで各声部のバランスには疑問が残り、この美しくも炸裂する感のある”歓喜”が存分に表現されたとまでは言い難いが、このDVDのプログラムの中でも、一際光る存在になっていることは充分感じられるだろう。

今や、私が一番演奏してみたい楽曲は、この「喜びの島」になってしまったのだ!

♪♪♪


さて、冒頭の話の続き。
のだめは、マラドーナ・コンクール
3次予選でこの「喜びの島」を弾き、見事本選へ進む。本番直前の楽屋で千秋のメールを読み、幸せに包まれた彼女の演奏は”恋に我を忘れた”もの。抜群のテクニックと管弦楽のような多彩な音色を持つ、と評されるのだめが弾く「喜びの島」は、さぞや素敵な演奏であったことだろう。


・・・この「喜びの島」、まだまだピアノの名演が聴けるはずであり、その邂逅を楽しみにしている。

(Reviced  2008. 8.16. )

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コメント

音源堂様

お仕事、忙しそうですね。こちらも年度末に向かってとんでもないことになりつつありますが、何とかやっています。
ドビュッシー、某バンドではやったことなさそうですが次の定期で提案しますか?
でも、ドビュッシーのTubaって、ポンとかブーとかたいてい退屈です。そのわりにバランスが微妙でやたら気を使うので、譜面どおりやってるはずなのに「私はどこ?」みたいなことによくなります。どう吹いたらいいか分かんなくなっちゃうんですよね。だから、演るのはちょっと苦手意識が先に立ってます。聴く方は大好きなんですが・・・今だったらもうちょっとましにできるかなあ。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2007年1月20日 (土) 06時25分

仕事では、正月早々酷い目に遭いました~。

◇◇◇

この年になってまた新たに、こんなに感動できる楽曲・演奏に出逢えて幸せです。色んなきっかけが重なって「喜びの島」を聴き込むことになったのですが、こうした「きっかけ」が発生したなら、チャンスと捉えて迷うことなく、貪欲に未知の音楽・演奏に触れていかねば、と改めて思いました。

こうしてブログを書くことも、実はきっかけの一つです。書く前に色々と調べものもしますし、音源ももう一度総ざらえしてみて、改めて気付くこともあります。「この曲のことを書くなら、あの音源も聴いておきたいな。」と思って音源を新たに入手したりも。
・・・そんなわけで、次回も「この年になって、新たに感動に出会ったシリーズ」です。^^)

◇◇◇

そして、このブログ。
読んで下さった方の「きっかけ」になったとしたら、これほど嬉しいことはありません。

投稿: 音源堂 | 2007年1月20日 (土) 23時48分

ongendoさま
昨日、タワレコでこの曲を購入してしまいました。しかし、後でよく見たらMonique Haasでした。この方もドビュッシーの大家のようですが紛らわしいですね。
ところで、最近、小組曲にはまっており、オーケストラ編曲版とピアノ版を両方購入しました。我々?としてはどうしても弘前南の演奏が刷り込まれているのですが、ピアノによる演奏もなかなかいいです。マルティノン-フランス国立放送局管とBeroff-Collard連弾のものを買ったのですが、他にもongendoならではのお勧めなどありますでしょうか?
あらためて聴いてみると、小粒な組曲ながら長短取り混ぜて飽きさせない展開、なかなかいいです。

投稿: くっしぃ | 2008年1月 9日 (水) 09時48分

Monique Haas はフランス人、Werner Haas はドイツ人だそうですね。Monique Haas は聴いてみたいピアニストの一人です。

「小組曲」私も大好きです。ご同様に「小舟にて」が終わると「バレエ」が続くという刷り込みは、未だに引き摺っております。^^)
ピアノ版も大好きで、この曲も現在の愛聴盤は Werner Haas のもの(連弾者:Noel Lee)です。重ねて Werner Haas のドビュッシー全集をお薦めします。「喜びの島」の終盤の凄さはやっぱりぜひ聴いていただきたいですしね。(オケよりもオケっぽく聴こえる瞬間すらあります。)

いつか「小組曲」もこのブログで採り上げたいと思っています。ただ、調べてみますと思った以上に音源は少ないですね。管弦楽版はドビュッシー自身が編んだものではないためか、尚更少ないようです。私が現在保有していますのはパイヤール盤ですが、充分に満足はしておりません。もっと音源を探求したいと思います。

投稿: 音源堂 | 2008年1月10日 (木) 10時37分

お勧め、ありがとうございます。
やはりWerner Haasがいいですか。
たくさん持っているわけではないので大きなこと言えないですが、フランスのオケってなんだかまとまりに欠ける気がします。「バレエ」の最後なんかも「ジャジャ ゥジャ ゥジャー」みたいな。この点からいくとギャルドの方がよっぽど○×△×。。。まあ、ああいうのも味と思えばいい演奏ですが。

投稿: くっしぃ | 2008年1月10日 (木) 23時04分

「小組曲」ごっそり音源入手すべく動きました。2月中旬には揃うでしょう。聴き比べの結果をお楽しみに!

投稿: 音源堂 | 2008年1月11日 (金) 01時01分

おお!楽しみにしております。

投稿: くっしぃ | 2008年1月11日 (金) 20時49分

W.ハースのピアノ盤がアマゾンから届きました!
早速聴きましたが、流れ最高です。
どうしても低音に耳が行ってしまいますが、打点よりも音の切り上げ方がツボにはまりました。絶妙の間ですね。あんなイメージで吹奏楽でもやりたいものですが、でも、あれはTubaでは難しいです。メインは木管低音にゆずります。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2008年3月 8日 (土) 06時06分

「独奏」ピアノの強みである自由で多様なアゴーギグはかなり抑制しながら、一方で多彩な音色をイメージさせる演奏であり、まさにオケを聴いているかのようです。構成感が優れた演奏であり、見事に演出された終盤の高揚感がたまりません。
ヴェルナー・ハースの演奏は、全体にとても「知的」な印象を受けますね。

投稿: 音源堂 | 2008年3月 9日 (日) 06時57分

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