吹奏楽のための三つの断章
Three Flagments for Band
桑原 洋明
(Hiroaki Kuwahara 1941- )
I. Allegro assai
II. Larghetto
III. Presto possible, con fuoco私がTromboneを始めた1977年のコンクール課題曲「吹奏楽のためのドリアン・ラプソディー」で、私は桑原 洋明(右画像)の作品と出会った。アッチェランドやリタルダンド、そして何とも言えない”間”を駆使し、揺れ動く感情まで表すかの如き佳曲であった。
これと共通した魅力を有する「吹奏楽のための三つの断章」は、1970年JBA作曲賞受賞作品。特段日本的な旋律が現れるわけではないのだが、邦人作品特有の美点や難しさを備えた楽曲である。
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「邦人作品」は1970年代を中心に、1960年代後半から1980年代前半にかけて多くの傑作が生まれた。もちろん現在に至るまで、断続的にその時代時代の空気を捉えた名作が生まれ続けているのだが、特にこの年代に濃密な作品が多く誕生したことは間違いない。邦人作品に限ったことではないが、とりとめのない楽曲や「現代音楽の成れの果て」といった印象の作品が濫造気味の昨今から見れば、夢のような時代であった。
「邦人作品」は難しい。一言でいえば”際どい”からである。
表面的なアプローチでは面白さや感動が一向に引き出せないのに、掘り下げて積極的に表現し、奥にあるものをつかめたなら、逆に本邦独特の感性が発揮された、欧米の作品とは違う得難い魅力が現出する。
-という性格の音楽が少なくないからである。楽曲の出来不出来の見極めがとても難しいのだ。
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この「三つの断章」も実に日本的な、内向的な深みを持つ作品だと思う。
第一の断章 Allegro assai
密やかな
第二の断章 Larghetto
センチメンタルで優美な第二の断章によって、第一の断章の緊張の連続をすうっと緩ませる対比が素晴らしい。Alto SaxとOboeのソロが実にしみじみとした、いい味を醸す。感情とともに徐々に昂ぶる旋律に、決然とした金管のフレーズのカウンターが突き刺さり、クライマックスとなる。
第三の断章 Presto possible, con fuoco遠くから急激に近づいてくる第三の断章。楽句の応酬と、「間」の一つ一つに音楽的な余韻を湛えながら、重厚な足取りの終結部を迎える。
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音源は
P.キュエイペルスcond.
オランダ陸軍軍楽隊
(冒頭画像)を推す。
本邦バンドの録音も2種類保有しているが、このオランダのバンドの演奏に及ばない。前述の通り日本的な感性の作品だけに残念である。
(Revised on 2008.8.10.)
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