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2006年12月21日 (木)

序曲「ブルー・レイク」

Photo_2Blue Lake Overture
J.B.チャンス
John Barnes Chance
1932-1972



「呪文と踊り」 「朝鮮民謡の主題による変奏曲」 「交響曲第2番」「エレジー」などの名作で知られるジョン・バーンズ・チャンスが、自宅での感電事故で逝去したのは40歳の誕生日を迎える前のことであった。とてつもない才能を有したこのアメリカの作曲家は、クリフトン・ウイリアムズに師事し、また従軍経験もあって吹奏楽への造詣が殊のほか深かった。彼の夭折が、吹奏楽界にとって極めて大きな損失だったことは疑いようがない。優にもう2030の得難い吹奏楽のレパートリーを残してくれたはずだったからである。
ティンパニ奏者としても活躍したキャリアのあるチャンスの打楽器用法の巧みさには定評があり、ネオ・ロマンティック・スタイルに属する楽想は、どれも個性的で魅力に溢れたものばかり。
私の最も好きな作曲家の一人だ。

♪♪♪


この
「ブルー・レイク」は演奏時間約5分の作品で、1971にミシガン州ツイン・レイクで開催されたブルー・レイク・アーツ・キャンプのために作曲された。

3部形式の序曲であり大攫みには、
エキサイティングで快速な
4/4拍子
-ワルツ風の曲想となる
3/4拍子
-再現部の
4/4拍子
という構成に成る楽曲、ということになるが、そう単純な曲ではない!

4/4拍子で書かれてはいても、実は冒頭から3/8+2/8+2/8で始まり、主要旋律は3/8+3/8+2/8であってこれが2/2とのポリリズムとなったり、また小節を跨いでの9/8に変容したり・・・。まさに全編変拍子の嵐というのが実態なのである。

Slancio(ズランチォ=激烈に、突き進むように)と表示された冒頭は、ホルンのソリがモチーフを提示する独特のオープニングであり、初手から変拍子。木管、トランペットと楽器が受け継がれながらエキサイティングで高らかなテュッティへ向かう。
轟音のようなサウンドはさっと消えて静まり、フルートの奏する
3/8+3/8+2/8のモチーフ反復と木管低音の8分音符の刻みに載って、オーボエとホルンが穏やかで雄大な2/2の旋律を奏でるポリリズムとなる。幻想的な響きが印象的である。

一転、[3/8+2/8][3/8+2/8][3/8+3/8][2/8+3/8+3/8]という変拍子の連続で変奏されたフガートとなる。クラリネットに始まり木管楽器に展開したのち、低音楽器から徐々に音域を上げ、トランペットの華麗なパッセージに集約。そして全楽句が小節を跨いだ9/8拍子となり、クライマックスに向け突き進む構成は圧倒的!

サスペンション・シンバルの残響が静まり、フルートの低音で中間部のワルツが緩やかに踊りだす。ファンタジックな旋律は遠くから聴こえてくる不思議な響きをもち、徐々にテンポを上げながら高揚、全合奏のエキサイティングなリズムとポリフォニックなサウンドには芯までシビれて・・・と、すぅっと抜けてフルートの旋律に戻るのが、実に心憎い!G.P.も効果的に使い、余韻を残しながら再現部へ。

再現部はモチーフの断片を交誦させながら、一気に高まらせていく。ティンパニの激しい打込みと各声部をエキサイティングに絡ませると、モチーフを長い音符から短い音符へ織りたたんでいく、立体的で効果的なブリッジ(「ぐるりよざ」/伊藤康英の第3楽章でも同様の手法が使われている。)を経て場面転換、ポリリズムの再現に突入する。
今度は高らかに金管群が
2/2の旋律を奏し、感動的なクライマックスを形成。そして短くも激しいコーダで一気に曲を閉じる。

♪♪♪

私自身、学生指揮者として定期演奏会のステージで棒を振った想い出の一曲。楽曲の解析を進めるほどに、この曲の凄さを知った。本邦ではほとんど演奏される機会がないが、チャンスならではの煌きを持つ、素晴らしい作品であることは間違いない。

音源は冒頭画像の
S.K.スティール
cond.
イリノイ州立大学ウインドシンフォニー
をお薦めしておく。
曲初のホルンがディレイして聴こえるなど気になる点はあるが、現時点では最も私好みの演奏である。

MkmJ.コープスcond.
オランダ海軍軍楽隊

の演奏はこの曲の王道を行く作り。(中間部はなぜかソプラノサックス・ソロに置き換えられているが・・・)同軍楽隊
創設60周年記念8枚組みCDのうちの1枚。

Photo_3アメリカ空軍バンド・オブ・リバティ
の演奏は達者だが、サウンドが如何にも薄い。





Photo_4E.コーポランcond.
ノース・テキサスWS

の演奏は極めてスッキリ整理されていて完成度は高いが、如何せん中間部のワルツが淡々とし過ぎている。


このように録音も増えてきており、「ブルー・レイク」が再評価される日も近いのではないかと思う。2007年の第93回定演で東京佼成ウインドオーケストラが採り上げており、音源発売の可能性もあるのではないか?

「フィエスタ」「バレッタ」等も網羅し、優れた演奏と録音で収録したチャンス作品集を心から待っている。その際はこの「ブルー・レイク」も、ぜひ!

♪♪♪

Photo_5貴重なチャンスの作品集CDをもう1枚。
B.W.ジョンソン
cond.
ラマール大学シンフォニックバンド
の演奏である。

正直、演奏も録音も満足できる水準にはない。しかし、

「ミュージカル・コメディのための序曲」
(Overture to a Musical Comedy)
「吹奏楽と合唱のためのバラードとマーチ」
(Ballad and March for Band and Chorus)

を収録した唯一の音源であり、私にとって宝物の
1枚だ。

(Revised on 2008.8.10.)

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