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2006年11月 2日 (木)

「天地創造」より”ノアの箱舟””メインテーマ”

Photo_141Noah's Ark, Main Theme
from the Film The Bible
: in the beginning


黛 敏郎
(Toshiro Mayuzumi 1929-1997)
吹奏楽編曲 K.フォイットコム
(Ken Whitcomb )




「天地創造」
1966年の伊米合作映画であり、旧約聖書の「創世記」を映像化したスペクタクル巨編。「十戒」「ベン・ハー」等とともに、1950-60年代を彩った古代史劇の名作である。アダムとイヴ、ノアの箱舟、バベルの塔、ソドムとゴモラなどの7つのエピソードを、CGのない時代に迫力の特撮で描く。

Photoこの大作映画の音楽を担当したのが 敏郎である。「涅槃交響曲」「曼荼羅交響曲」「饗宴」といった前衛的な作品で知られ、世界的にも評価の高い黛。吹奏楽(管楽合奏といった方が適切か)のための作品も少なからず残しているが、それらも前衛的な作品ばかりである。
しかし、実は映像関連音楽も数多く手掛けており、この映画で音楽を担当したことは決して驚きではない。加えて、この映画の内容は彼の思想・信条に合致したものであったかも知れぬ。

この「天地創造」からの2曲は非常に親しみ易く、わかり易い音楽。旋律は素晴らしく「いい歌」である。彼は当然にこういう音楽も書ける人だったのだ。

これを、ケン・フォイットコム(アメリカ軍アカデミー・バンドのチーフアレンジャーを務めた人物で、彼の吹奏楽作品では
Evening Breeze というTrp.ソロをフィーチャーした洒落た曲を知っている。)が吹奏楽のレパートリーに持ち込んだ。オーケストレーション的には完成度の低い部分もあるが、アイディア豊かなアレンジであり、楽曲の魅力を引き出している。

♪♪♪

”ノアの箱舟”は副題「動物達の行進」。ノアの奏する笛の音に集まった、一つがいずつの動物たちが箱舟に乗り込むシーンに使われた音楽。やがて嵐となり、洪水が起こるくだりはご存知の通りである。ゾウガメののっそりとした行進の場面では、これに合わせてユーモラスな楽句も現れる。
ミュートした
Trb.の鋭いグリッサンドで切り裂くように曲は始まり、続いて行進を表すリズムパターンに載ってソプラノサックスが「ノアの笛」を奏する。この旋律は素朴で美しいが、どこか不安げであり、このあたりさすが黛という他ない。
動物たちが次々に集まってくる様子を表現するマーチに続き、
Trp.の下降音階型楽句に導かれたTrb.のグリッサンド・ソリが鮮烈かつユニークで、聴き所となっている。

そしてもう一度「ノアの笛」が聴こえると、嵐が近づいてくる。緊迫感はますます高まりクライマックスを迎えるが、突如静まって
Tubaの飄げたソロが聴こえ、さらに遠くから響いてくる「ノアの笛」をミュートTrp.とホルンが奏する。やがて最後の行進がppからクレッシェンドして、ドラの一撃で曲を閉じる。

”メインテーマ”はチャイムの清らかな音に始まる。2本のホルンの掛け合いにTrp. Trb.が加わりフガートとなって、徐々にサウンドは厚みを増していく。そして、壮大さを加えたクレッシェンドの頂点で、スケールの大きい、澄み切って優美な「メインテーマ」が感動的に現れるのだ。ホルンのオブリガートも大変劇的である。寄せては引き、引いては寄せる波のようにダイナミクスとテンションが高揚してクライマックスへ。-そのあとにしみじみと抒情的に歌うTrp.ソロが泣かせる。
最後は冒頭のテーマをホルンが厳かに奏し、柔らかなテュッティのサウンドで締めくくる。

♪♪♪

音源として、東京佼成WOの黛作品集があるが、
1.”メインテーマ”冒頭を変更しており、チャイム、
    および2本の
ホルンの掛け合いで始まるという
    フォイットコムのすぐれたアイディアが殺されて
   
いる
2.なのに、肝心の”ノアの笛”のテーマはスコア
    通りで、既に定番となった三木中バージョン
    (後述)になっていない

3.例えば”ノアの箱舟”のTrb.グリッサンドに続く
    低音の打込みのラフさや、近づく嵐を表す低音
    のリズムパターンの抑揚のなさ等、全体にぞん
    ざい

といった点から、この「天地創造」に関してはお奨めしかねる。

Photo_12この曲の良さを存分に発揮しているのは、1977年全日本吹奏楽コンクールでの三木中の演奏(収録CD:左画像)である。
というより、この三木中の演奏で「天地創造」が吹奏楽界に知られるようになったのだ。

あの得津=今津中の復活を飾った伝説の「運命の力」の次に登場したにもかかわらず、堂々金賞を受賞。
(下画像参照)
今津中とはまた違った方向で高みに達したもので文句なしの快演であり、奏者の思い入れが感じられる積極的な表現が感動を誘う。
Photo終盤の
Trp.ソロの歌い方なども中学生離れしている。
何より、”ノアの箱舟”のソプラノサックス・ソロがこの上なく適切に改編されており、このソロは絶対に「三木中バージョン」でやるべきなのである。
曲順も三木中の通り”ノアの箱舟”→”メインテーマ”の順番であるべきだ。

(Revised on 2010.1.1.)

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コメント

私は三木中吹奏楽部OBの者です(といってもまだ10代の若造ですが)。
たまたま記事を読ませていただきました。先輩方の演奏について詳しく書かれていて、うれしくてついコメントしたくなってしまいました。
三木中が全国大会に出場するほどの強豪だったとは聞いていましたが、やはり過去は過去、現在は現在。今はよくても県大会に出られるくらいです。
それでも、あのころの演奏を知る方がいらっしゃることをとても誇らしく感じます。
実は恥ずかしながら、あの「天地創造」を聴いたことはありません。ですが、CDになっていることをここで知り、買ってみようと思いました。
駄文をだらだらと、失礼いたしました。

投稿: Jona | 2007年7月30日 (月) 22時51分

Jonaさん、コメントを有難うございます。
1977年は私が楽器を始めた年であり、この年の全日本吹奏楽コンクールは名演の連続でした。中学生といっても現在と比べて(テクニックや音程、サウンドの透明さでは劣る部分もありますが)音楽的な内容の高い演奏を聴かせており、特に当時発売されたライヴ録音のLP/Vol.3のA面は圧巻でした。運命の力/今津中、天地創造/三木中、三角帽子/島田二中の3連続金賞団体の競演-。得津=今津の華麗なる復活を飾った「運命の力」序曲は歴史的名演とされていますが、他の2校も大変素晴しかった!三木中の演奏もとっても素敵で、その後全国に「天地創造」ブームが起きました。
ぜひ聴いてみて下さい。凄くハートのある、素晴しい演奏ですよ。
また今後とも拙ブログをご贔屓のほど宜しくお願いします。

投稿: 音源堂 | 2007年7月31日 (火) 13時13分

その当時、Hrを吹いていた77年メンバーの者です。

このページを見つけて…なんか、うれしくもありはずかしくもあり(笑)
大人になって神戸に移り住んで震災にあってしまい、当時の音源を
無くしてしまったものですから早速購入し、当時の練習を思い出したり
してます(先ほどCDが届いたんです)。

めぐり合わせに感謝しつつ、このBLOGを今後もROMらせて頂きますね。

投稿: んとね | 2007年8月23日 (木) 23時49分

んとねさん、ようこそいらっしゃいました!

私の実兄もHorn吹きでした。Horn自体は大学に入ってから始めたのに猛練習を重ね、身内ながら大変上手。その兄が、私が繰返し聴いている三木中の演奏(当時はカセットテープです。)に興味を持ち、自分の大学でもこの曲を演奏しました。彼と彼の一つ上の先輩とで吹いた”メインテーマ”冒頭は、素晴らしい演奏でした。

私自身も幹部=学生指揮者を務めた大学3年の演奏会で、この「天地創造」を振りました。三木中の演奏に、そして兄の大学の演奏に憧れた末、念願叶って自ら演奏できた瞬間であり(出来は今一つだったけれども)想い出深い時間でした。

そんな楽曲との出遇いを下さった当時の三木中の皆さんには、改めて心からの感謝と、快演に対して拍手をお贈りしたいです。有難うございます!

投稿: 音源堂 | 2007年8月24日 (金) 00時28分

当時の者です。涙がでます。絶賛いただきましてありがとうございます。三年が少なくてクラ3名フルート1名ホルン1名ペット1名ボーン1名ユーホ1名弦バス1名ドラム3名あとはアルト1名ぐらいだったと思います。あと2年と1年で45名ぐらいでした。OB先輩の指導であれよあれよと言う間に全国でした。楽しかった合宿が思いだされます。当時のプログラムみて本当にすごい順番だったなあと今になって思います。三木中の復活が望めないのが残念です。

投稿: | 2007年9月21日 (金) 01時47分

当時の三木中メンバーの方からカキコミいただくのは殊更ウレシイことです!
当時の編成の話を伺い、自分の中学時代のことを思い出します。私どもも(所詮西部大会銅~銀賞レベルでしたが)1年生も戦力化して出場してました。

でも、当時の全国大会の名演は、今聴いても素晴らしい。特に音楽の魅力という点では、今現在のレベルをも凌駕しているかもしれません。

音楽の感動って、本当に不思議で本当に素敵だとつくづく思わされます。どうか、また拙ブログにお越し下さいね。

投稿: 音源堂 | 2007年9月21日 (金) 17時29分

私も当時三木中で演奏をさせていただいたメンバーの一人です。今は吹奏楽はしておりませんが、当時の事が今でも思い出されます。OBの方々がこまめに熱心に指導していただいてできあがった演奏であり感謝しております。この演奏のあと、他の吹奏楽部でも演奏されていてこの天地創造を演奏したものとして本当にうれしく思っています。

投稿: えれふぁんと | 2008年3月15日 (土) 00時46分

当時の三木中メンバーの皆さんに続々とお越しいただき、本当に光栄です!
この「天地創造」の譜面は現在絶版となっていて、新品の譜面を入手するのは困難なようです。大変素敵な楽曲だと思いますので、何とか再版してほしいのですが・・・。

投稿: 音源堂 | 2008年3月15日 (土) 01時12分

私の母校は30年前にこの曲で関西大会に出場しました。私は1年だったので出てないのですが先輩方の演奏をずっと聞いていたのでとても懐かしいです。このCD是非欲しいのですが出版元を教えて頂けますか?よろしくお願いします。

投稿: まりん | 2009年7月25日 (土) 22時48分

まりんさん、ようこそお越し下さいました!
さてご紹介したCD「関西の吹奏楽 Vintage Vol.9 JWRCD-209DD」ですが、日本ワールド・レコード社から出版されております。これを販売するブレーン(BRAIN)社HPの当該URLは
http://www.brain-shop.net/shop/g/gJWRCD-209DD/
です。
オンライン・ダウンロードの音質でご納得いただけるのであれば、同じくブレーン社のダウンロードサイトからも購入できます。
http://www.www-musicdownloadstore.com/fs/main/sub_catalog.asp?mother_catalog_num=43&catalog_num=887
をご参照下さい。

投稿: 音源堂 | 2009年7月26日 (日) 08時12分

当時の三木中メンバーからのカキコミがあると聞いて、早速おじゃまさせていただきました。あの頃の先輩方のカキコミがある!!!・・・読んでいて鳥肌が立ちました。

私は、当時1年生でメンバーに加えていただいた一人です(同い年ですね)。楽器を始めたばかりで、何もわからない所からのスタートでした。県から関西、そして全国へと次の大会に進むたび、少しずつ譜面が難しくなっていったのを憶えています。あれよあれよという間に、気がつけば全国大会。えれふぁんとさんも仰るとおり、OBの支えがあってこそでした。
残念ながら当時のレコードは人に貸したまま紛失してしまい、とても無念に思っていたのですが、手に入れる術があることを知り、感激です。
思い起こせば、私の中学時代はまさに部活一筋。本当に充実した3年間を送らせていただきました。吹奏楽との素晴らしい出会いを与えてくださった当時の先生、先輩方、そしてOBの皆さんに感謝しつつ、これからも吹奏楽とは細くとも長く付き合って行きたいと思っています。

またオジャマします。ありがとうございました。

投稿: | 2009年7月26日 (日) 11時25分

コメントを有難うございます。当時、あの演奏を残された方々にとっては本当に大切な音楽体験だったことが改めて強く感じられます。音が合っている、揃っている、そんなことを超えた次元の音楽の悦び…聴いていて「いいなあ」と感じられる演奏が体現できたのですから、素晴らしいですし、またとても羨ましく思います。
もちろん、私にとってもあの演奏は大切なものになっていますよ。素敵な演奏を本当に有難うございました!

投稿: 音源堂 | 2009年7月27日 (月) 10時50分

なんと懐かしい写真。バンドジャーナル掲載のではありませんか?ありがとうございました。当時のプログラムおもわず探してしまいました。

投稿: ジュビラーテ | 2010年1月17日 (日) 01時25分

ジュビラーテ様
お察しの通りです。^^)ちょこちょこと改訂しております。
当時もそう感じたことを思い出したのですが、これほどHornが活躍する曲を選んでいたのに、3本しかいなかったんですねぇ…。(驚!)
また、この年の三木中は「課題曲は最高の出来」と審査員/保科 洋先生から絶賛(BJ誌掲載)されてもいました!凄い演奏が繰り広げられたんだろうなあと思いながら、私もこの写真を眺めています。

投稿: 音源堂 | 2010年1月18日 (月) 16時20分

久しぶりに覗いてみると・・・・何とビックリ!写真が掲載されているではありませんか?!
実は、私もコレと同じ写真のパネルを押入れに大事にしまっています。ひさびさに眺めてみよっかなぁ~・・・♪

投稿: | 2010年9月 8日 (水) 20時53分

私も当事者でもないのに、当時、演奏を聴きながらこの写真を飽きることなく眺めていました。普門館ってどんなところだろう?…と夢見ていた中学生でした。

投稿: 音源堂 | 2010年9月 9日 (木) 01時31分

失礼します。

当時のメンバーです。
こんな話題があったんですね!
懐かしいです。
今から思えば、金賞をとったんですね(^^;
たしか、この年から金が多発した始まりでした。
当時は気がつけば普門館でした。
しかも今津の次…
でも舞台袖で今津の演奏を聴いたから、気持ちが吹っ切れて良かったんだと思います。
この時のメンバーの中には楽器を初めてまもない人も出ていました。
今から思えば、オイオイです(^^;

楽譜は私が高校進学した学校の楽譜で、当時は日本で1つしかない楽譜です。

投稿されてる人も当時のメンバーさんのようですね
お元気そうでなによりです。

久しぶりに当時を思い出しました。
ありがとうございます。

投稿: 当時の3Tb | 2013年7月19日 (金) 22時52分

コメントを有難うございます。当時の三木中メンバーの皆さんから多くコメントをいただき嬉しく思います。今津中の「運命の力」は圧倒的名演ですが、三木中の「天地創造」も素晴らしかったですよ。
初心者もメンバーにいらしたということで、音に濁りがあったりという箇所はありますが、楽曲の表現という点では満点、実に説得力のある好演です。その後、この曲が全国的に流行したのは三木中の演奏に感動したからに他ならないでしょう。

もちろん私もその一人で、大学3年の時この曲を指揮できたことは、人生の中でも最高の思い出です。

それにつけても楽譜が絶版なのは何とも惜しいですよね。
再評価アピールに向け、本稿の大幅な改訂を準備中です!

投稿: 音源堂 | 2013年7月20日 (土) 16時01分

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