エスカペイド
Escapade
J.T.スパニョーラ
Joseph T. Spaniola (1963-)
「この作品のヴィジョンをより明確にしようと模索している時に、”エスカペイド”という言葉に出会った。”エスカペイド”とは規範などには背を向けた、冒険的な行動や旅のことを指すわけだが、それはしばしば予測しない結果や目的地へと導いてくれる。”エスカペイド”という言葉が、私の心の中に潜んでいた奔放なアプローチの精神をつかんで、創作へと駆り立てたのだ。テクニック的には、我がロッキーバンドのメンバーの優れた才能を活かした作品を書きたかったし、メンバーたちには音楽的な挑戦をして欲しかった。」
(作曲者コメントより)ジョセフ・スパニョーラは、ノーステキサス大学やミシガンステート大学で作曲を学び、組曲「ロ・リジョイス」や「トゥモローズ・コーリング」などの吹奏楽曲の他、室内楽やギターなど幅広いジャンルの作品を送り出している。
1998年からはアメリカ空軍アカデミーバンド(ロッキーバンド)所属のMaster Sergeant(二等曹長)である。
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「エスカペイド」はこのバンドのために書かれた作品であり、曲は大きく3つの要素、即ち”コンテンポラリー””中世風””ファンク”から成り立っていることが判る。
Trp.が主要動機をユニゾンで奏し、不安げな木管と緊張感に満ちた打楽器のカウンターで曲は始まる。私のいう”コンテンポラリー”の部分である。エキサイティングで周到に絡み合ったリズムと鋭い音色が特徴的で、文字通り現代的な曲想である。
それがドラの一撃を受けて一転3/4拍子、中世の宮廷風な音楽となる。オーボエの音色が映え、幻想的である。やがてそれは”コンテンポラリー”に侵食され、同時進行するが一旦静まって、この曲最大の特徴を示す”ファンク”に突入する。
Bass Tromboneの音色を活かしたファンキーなベースラインとドラムセットのリズムに乗って、アドリブ風なAlto Sax+
後半部分は”コンテンポラリー””中世風””ファンク”が次々とクロスオーヴァー、対峙しまた或いは一体となって終幕へ向かう。分厚いジャジーな楽句とバスドラムの一撃で終う。
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本格的なジャズ-ファンクの響きも聴かれる、非常に意欲的な作品。構成感や多様性など音楽自体の魅力も充分で、2001年NBAウイリアム・レヴェリ作曲賞受賞作品に選ばれたのも納得である。既に全日本吹奏楽コンクールでも採り上げられているし、ダグラス・ボストックcond.東京佼成WOのDVDにも収録されている。爆発的な人気となってもおかしくないのだが・・・。
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音源は
ウイリアム・バーツcond.
ラトガース大学ウインドアンサンブル(冒頭画像)
が極めて素晴らしい演奏であり、ぜひ一聴を。
この演奏では”コンテンポラリー”の緊張感・スピード感、”ファンク”のノリノリ感がたまらない!やや持て余し気味だったボストックの演奏では燃えられなかった聴き手のハートにも、きっと火が着くはずだ!
(Revised on 2010.11.6.)
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コメント
日本でも少しは知られているジャック・スタンプかと思えば、まさかのスパニョーラでしたか…。
本当にお詳しいのですね。できれば5年前にこのブログを知り、談議してみたかったものです(笑)
吹奏楽は楽しければ良いというのもひとつの答え。この曲をはじめとして、知られていない名曲はまだまだたくさんありますね。
投稿: ジュリアン | 2016年9月 8日 (木) 17時21分
はい、この曲はもっともっと演奏されていい楽曲です!
本稿はこのBlogの初期に執筆したもので、その後スコアも購入し、また優れた音源もさらに出ていますので改訂必須です!^^)なるべく早く改訂稿を上梓し、この曲の再評価に繋げたいと願っているところです。
投稿: 音源堂 | 2016年9月 8日 (木) 19時03分