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2006年11月 8日 (水)

交響曲第2番「三法印」

PhotoSymphony No.2
"The Seal of the Three Laws"

R.E.ジェイガー
(Robert E.Jager  1939- )
I. Shogyo-Mujo
II.
Shoho-Muga

III.Nehan-Jakujo

名作「吹奏楽のための交響曲(第1番)」から12年あまり、東京佼成ウインドオーケストラの委嘱により、1976ロバート・ジェイガーが世に送り出した2番目の交響曲。立正佼成会会長の生誕祝典のために委嘱されたものであるため、仏教を題材とした作品となった。尚、同様の経緯により作曲された作品にアルフレッド・リードの「法華経による三つの啓示(ロータス・スートラ)」がある。

「吹奏楽のための交響曲(第1番)」が吹奏楽の機能というものを限りなく追求しつつも、オーソドックスかつ明快な音楽であったのに対し、「三法印」は深遠で内省的、変拍子の嵐に象徴される通り、より現代的な手法に傾倒した作品である。人気という面では及ばないが、内容からいえば「三法印」の方が懐が深く、充実もしている。

3つの独立した楽章から成り、演奏時間は全曲で17分弱。全体を俯瞰すると緩(静)-急(動)-緩(静)、各楽章ごとの構成も確りしており、幾つもの斬新な響きやフレーズが現れる。演奏機会は少ないが、間違いなく吹奏楽オリジナル屈指の名曲の一つである。

♪♪♪

標題「三法印」は”仏教の教えの旗幟”のことであり、仏教の他の宗教と異なる特徴を端的に表し、「諸行無常」「諸法無我」2つを自覚することで「涅槃寂静」の境地に達するとされる。その内容は、とても敬虔な仏教徒とは言えない、普通の日本人である私にも理解・共感できるものである。それだけ、日本人の価値観に仏教がサブリミナルに根ざしているということなのかもしれない。具体的な内容は各楽章ごとに、門馬 直美氏の解説(「 」)を引いて紹介する。
アメリカ人であるジェイガーは、これら
3つの真理を仏教云々というより、宗教を超えた普遍的なものとして自分なりに消化したと思われる。

1楽章 諸行無常                                                                      「この世の全ての物事(諸行)は、決して固定的なものではなく、常に変化し、生滅するものである。もし、全てのものが変化を止めたら、それは永遠の死を意味する。変化があればこそ流動があり、流動があればこそ生命があり創造もあり得る。」

この楽章は、まさに何もないところから湧き出るように静かに始まり、そして消え入るように静かに終わる。”永遠のものなどない””皆いつかは死ぬ”といったイメージで受け止められがちなこの”諸行無常”という言葉であるが、逆にこの音楽は清らかで厳かでありつつ、生命感に溢れたものとなっている。
「人生や生活には喜びがあるということを打ち出し、諸行無常の真理をいわば健康的に音楽でとらえている。」
との門馬氏分析通りであろう。

コール・アングレのソロや即興的な楽句の応酬を伴った序奏部を終えて視界が開け、響き渡るフルートのソロ。
1これが澄み切っていて殊のほか美しく、また伴奏も大変凝っており興味深い。やがてミュート・トランペットの鋭い音色とともに変拍子の主部に入るが、必然性のある変拍子でダイナミックさや緊張感を示すとともに、ピアノのソロやハープが効果的で、色彩感も増していく。

さまざまな変化を繰り返し見せながらも、止まることのない音楽の流れこそが、ジェイガーの捉えた”諸行無常”を示すものだ。終盤、ポリフォニックなコードに続いて、雄大な金管楽器の響きがこだまする部分は実に感動的。

2楽章 諸法無我
「この世の中にある全てのものや現象は、孤立して存在するものではなく、全てが繋がりをもち、依存しあい助け合って存在している。従って我々の社会も個々の人間が孤立して実在するのではなく、多くの力が集まって作り出されるものであり、その意味から、我々は自ら生き抜いているようだが実は目に見えぬ多くのものに生かされているのである。」

この真理を表現する第2楽章は、一転して快速でエキサイティングな音楽で、コーダを持った3部形式。もの凄い変拍子の嵐の中、アルトサックス・トランペット・トロンボーン・テューバに高度なテクニックを要するソロが次々と現れ、めまぐるしい。旋律は”中国の不思議な役人”(バルトーク)風。
中でもテューバのソロは規模も大きく重要で、Low E~Hi H まで3
オクターブ近くに亘る音域を使用する高度なもの。また、ホルンのソリに現れる楽句も特徴的であり、興味深い。
Photo_4
これら”個”が絡み合い、交錯し、最終的には一つに集約していくさまが鮮烈かつ華々しく描かれており、思わずその興奮に魅き込まれてしまう。

3楽章 涅槃寂静
「心身の安全な安らぎの状態をいう。但し、停止した世界ではなくて、無量寿の創造が調和する時に味わえる快感であって、それが人間の求める安らぎである。」

静けさを湛えた楽章であるが、内面的なエネルギーが沸々と感じられる音楽で、”涅槃寂静”の境地を想像させてしまうから不思議である。
美しい音楽、それも透明な美しさであって他にない個性。チェレスタに導かれてコルネットが朗々と奏でるソロも、浮世離れした質量感のない美しさ。
Photo_3やがて穏やかなエネルギーの高まりが頂点となり、ぶ厚いサウンドのテュッティとなるが、ここでも濁りの全く感じられない清廉な音楽となっている。
徐々に静けさは広がり、安らぎの幸福感を湛えつつ、音楽は余韻へと変わっていく。

♪♪♪

音源は秋山 和慶cond.東京佼成ウインドオーケストラの演奏(冒頭画像)しか存在しないが、とてつもない名演でありこれで充分!

この東京佼成+秋山のシリーズは吹奏楽録音の金字塔。クオリティが非常に高く、緊張感のある名演ばかりだ。
発売当時、佼成出版社のご担当者は大変親切な方で、片田舎の中学生である私のために、個別に通信販売の便宜を図って下さった。バンドジャーナルに広告掲載されても、当時私の田舎では入手ルートがなく夢の音源だったから・・・。手にした時の嬉しさは今でも忘れられない。

そのご担当者のお手紙によれば、この秋山シリーズは「祝典のための音楽」(G.ジェイコブ)や「リシルド序曲」(G.パレ)をはじめとするオリジナルの名曲が今後次々と録音される予定とのことであった。実際には第
3作以降、クラシックアレンジや”大作曲家の知られざる吹奏楽作品発掘”路線に行ってしまい、実現しなかったのは残念。もし当初企画通りであれば、吹奏楽界録音の穴をクオリティの高い演奏で埋める珠玉の音源集になったであろう。(もちろん、実際に録音されたものも演奏自体は素晴らしく、意義の高いものではあるのだが・・・。)

企画変更は秋山氏の意向を反映したものと推察するが、骨の髄まで吹奏楽ファンの私としては、如何にも惜しくてならないのであった。

(Revused on 2008.6.8.)

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コメント

この曲、幸運にも広島出張の日程が一致して、
広島WOの第40回定期演奏会(2013年12月8日)で全曲演奏されたのを聞く事が出来ました。

この日のプログラムは
ウィテカー:エクウス 
フサ:この地球を神と崇める                        
ジェイガー:交響曲第2番《三法印》                    
保科 洋:復興

フサとジェイガーのこれらの重い曲を並べて聞けるなんてもうマニアックでたまりません。
「広島」ならではの選曲に運営側の意識の高さを感じました。

また、過去に聞いたCDから広島WOは落ち着いた演奏をする団体と思っていましたが、
この日の演奏はフサの曲から不思議な緊張感があり、
三法印ではTKWOよりもテンポの急緩が激しく、幾分テンション高めな演奏でこの難曲を表現しきっていました。
各ソリストの方の集中力も素晴らしく、其々が見事に歌い倒しながら次々とバトンを渡し、
まるで楽器で会話のキャッチボールをしているかのよう。
もう鳥肌立ちっぱなしでした。(正直フサの演奏の時点から口あんぐり状態。)

演奏がCD化されないかなぁと待っているのですが、出ないみたいですねw

あと関東近辺のプロの団体も演奏会で受けの良い課題曲ばかりやらないで、こういう骨のある選曲して欲しいなぁ。

投稿: Shigenori | 2015年7月30日 (木) 15時12分

実演の少ない楽曲をLiveで楽しめた喜び、よくわかります。よい想い出になられたようですね。広島WOも新たな音楽監督のもと進化されているのでしょう。
私はこの「三法印」をLiveで2度聴きました。ともにアマチュアですが先に聴いた方が素晴らしい演奏だったので、二度目に聴いた際には「あーこんなに難しい曲だったんだ、やっぱり。」というのが率直な感想でした。
「三法印」の発表当時、私は吹奏楽に(というより音楽に)触れて間もない時分でした。うわっ、こんな音楽があるのか!と驚きと衝撃を受け、そして尽きない興味を抱いたのでした。

投稿: 音源堂 | 2015年7月30日 (木) 22時35分

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