« 歌劇「パーフェクト・フール」よりバレエ音楽 | トップページ | 交響曲第2番「三法印」 »

2006年11月 7日 (火)

吹奏楽のための交響曲(第1番)

Photo_151_2Symphony for Band  (No.1)
R.E.ジェイガー
Robert E. Jager  1939)






I.   
Andante espressivoAllegroAndante

II.  Alla Marcia
III. Largo espressivo
IV. Allegro con fouco-Andante
   
Allegro molto vivace

1963作曲、1964ABAオストワルド作曲賞受賞の名作。
私の世代で「吹奏楽のための交響曲(シンフォニー・フォー・バンド)」といえば、このロバート・ジェイガー(左画像)の作品が真っ先に頭に浮かぶはずだ。私にとって憧れの作品だったし、今でも最高に好きだ。
尚、交響曲第
2番「三法印」発表以降、この作品は交響曲第1と表記されることが多い。

発表当時、従来の吹奏楽オリジナル曲の殻を完全に打ち破る本格的な交響曲であったし、吹奏楽の機能、各楽器の音色を追求し生かし尽くしたもの。また独奏楽器の扱いもソロイスティックさを極めている。
その上、I=
8'30" II=3'30" III=4'30" IV=6'30"でトータル23分という演奏時間が、楽章間のバランスも含め絶妙!

※私は吹奏楽曲は最長
25分が限界、と常々思っている。聴衆も演奏者もそれを超えるとシンドくなるのに、書きまくる作曲家が少なくない。果たして判っていて、それでも
敢えて書いているのだろうか?演奏する側も、
クラシック・トランスクリプションをやる場合などによく考えるべき。例えば、管・打楽器のみの吹奏楽で「シェエラザード全曲」演奏など、本来正気の沙汰ではない。

♪♪♪

1楽章
Jager_sym_3中低音
3連符によるモチーフ提示に始まる-苦悩を表すかのような厳しい表情。
続いて哀愁に満ちたムードの中、トランペット
のソロが主題を提示する。

1楽章では主要な旋律が全て奏されるのだが、極めてソロイスティックな独奏楽器が多彩な音色を見せると同時に緊張感を漲らせる。







ホルンのソロを経て、感情の昂ぶりが感じられる全合奏へ。
Jager1_3そしてトロンボーンの刻みに導かれてアレグロとなるが、ここでもまた重要な旋律が各楽器に受け継がれ、聴衆に印象付けられていく。やがて轟としたサウンドを響かせ、一旦静まるとコール・アングレのソロがゆっくりと切なく歌う。そうかと思うと澄み切ったクラリネットのソロ・・・。音色対比の妙に舌を巻く。引き潮のように静かなエンディングが次楽章への期待を高まらせる。

-何をそんなに憂えているのだろう、何にそう苦悩しているのだろう・・・美しくも、そんな印象の冒頭楽章である。

2楽章
諧謔味に溢れるマーチ。幽かに聴こえてくるスネアのリズムに導かれたフルートの旋律で始まる。
Jager2_3飄々とした楽句が受け継がれ、徐々に楽器が増えてエキサイティングな高揚。打楽器のソリを経て静まると、酔っ払いの戯言のようなミュート・トロンボーンのソロ、そして能天気な道化師のような
E♭クラのソロが聴こえてくるが、これらはどこか狂気すら感じさせる。
トランペット+トロンボーンのソリの後、スケールの大きなテュッティのクライマックスへ。緊張感を湛えたトリルの上に、烈しい全合奏で締めくくる。

3楽章
雄大で甘美なバラード、穏やかだが常に揺れ動いている感情を示すかのようである。始めと終わりに現れるオーボエのソロが殊に印象的。
フルートやサクソフォーンのソロも美しいが、却ってオブリガートの方が魅力的なものとなっている。特にサクソフォーンが素晴らしいし、クライマックスではホルンのオブリガート咆哮が感動的。また、終盤はオーボエ・ソロを引き立たせるユーフォニアムのオブリガートが泣かせる。
終始神経の行き届いた音楽は、やがて静かに動きを止める。

4楽章
全曲の白眉。スネアオフ・ドラムの16分音符と木管のトリルで慄然と始まる。モチーフの提示が3度繰り返され序奏部を形成するが、カウンターのバストロンボーン、トランペットのミュート音が緊張感を一層高めている。テュッティのfpクレシェンドの後、エネルギッシュな楽想がスタートする。
Jager3_2
そして華麗なトロンボーン・ソロ、ああ、何と格好良いことか!
旋律・構成とも第
1楽章に呼応したものであり、全曲の統一感は充分。エキサイティングな応答を重ねながらも、シリアスで憂いに満ちた音楽であり、ピッコロとオーボエのカウンターが斬新に響く。

続いてソロの応酬。ドラマティックなテュッティとコントラストを作りながら、トランペット・トロンボーン・アルトサックス・オーボエ、そしてまたトランペット
と、ソロイスティックな楽句と音色が充満している。
Jager4
静まった中間部のアンダンテは、陰鬱なトロンボーンの伴奏とともに、哀しい旋律がオーボエ、ファゴット、コントラバスクラリネットとソロで受け継がれていく。暗く垂れこめた雨雲のようである。
Jager5_2

そこから一転、活力に溢れたモチーフの再現とドラの響きが轟いて、暗雲を切り裂く。
Timp.のソロとともにアッチェランドして、晴れやかな大歓喜のフィナーレがやってくる。快速にしてエキサイティングな曲想は、まさに天にも昇らんばかりの浮かれぶり。今までの苦悩が嘘のように晴れ渡り、人生の喜びを爆発させているかのようだ。
(チャイコフスキーの交響曲第
4番を彷彿とさせる!)

やや緩めてロマンティックなクラリネット低音+ユーフォニアムの旋律を聴かせたら、ホルン+トランペットが高らかに奏する運命的な鐘の音とともに、高度な技術を要する一気呵成のエンディングへ突入、鮮烈に曲を閉じる。

♪♪♪

この曲は、吹奏楽における究極の”カッコ良さの結晶”。コントラストも、音色の対比も、何より楽句の一つ一つが!
だから、どうあってもカッコ良く演奏して欲しい。第
4楽章の終わりは遅くしたらダメ、ダサいから。ソロも、とにかくカッコ良く吹いて欲しい。テンポ設定も、どうしたらカッコいいか、考えて演奏して欲しい。

管楽器や打楽器は、生まれながらにしてカッコいい!それを究極まで追求した作品なのだから・・・。
近時、この曲の演奏機会は激減しているが、このカッコ良さは”古い”のだろうか?
-いや、そんなことはない、と断言したい。この理屈抜きのカッコ良さは、永遠のものだ。

♪♪♪

Photo_4音源は、
木村
吉宏cond.大阪市音楽団
の演奏をお薦めしておく。
海外盤を含めて録音が少ない中で、このクオリティは貴重。(そもそもこの「吹奏楽のための交響曲全集」の企画自体に喝采を贈りたい!)

この作品は音源が非常に少ない。他の現在直ちに入手可能な全楽章収録の音源としては、
鈴木 孝佳cond. タッド・ウインド・シンフォニー(Live)
金 洪才cond. 九州管楽合奏団(Live)
志賀 亨cond. 陸上自衛隊東部方面音楽隊(Live)
の3つということになる。

しかし、どの演奏もなかなか”カッコいい”というところまで行かないところが、この曲の難しさ。LP時代のヤマハ浜松盤しかり、朝比奈
隆cond.大阪市音楽団Live盤もしかり。推薦した盤も「極めて」はいない。

全日本吹奏楽コンクール実況録音の中では、1978年の北海道教育大函館校の演奏に注目。疵も多いが、テンポ設定やコントラストの効かせ方などは私の理想に近い。また、トロンボーン・ソロのフィーリングは曲想に合致している!

♪♪♪

私は切望する。どうか、本格的な音色でソロを聴かせる、カッコ良さを極めた演奏でこの曲の録音を!今一番期待できるのは佐渡 cond.シエナWOだと思う。実現してもらえないものだろうか・・・。

(Revised on 2010.11.29.)

|

« 歌劇「パーフェクト・フール」よりバレエ音楽 | トップページ | 交響曲第2番「三法印」 »

コメント

 はじめまして、長谷部と申します。今44歳ですが、32年前からおよそ10年間、吹奏楽ではEuphoniumを担当しておりました。実は私も東海林修氏の名曲がテレビ放送されたことがきっかけでこちらに辿り着いた者ですが、中学生時代の思い出深い東海林修作品と同様に高校生時代の思い出深いジェイガー作品がこの曲なものでコメントを書きたくなりお邪魔いたしました。
 規模も技術も弱小の楽団でしたが、OBなどの賛助を集めて(それでも全パートは揃わなかったですが)自主演奏会でこの曲の全楽章演奏に取り組めたことが、よい思い出として残っております。
 携帯電話でしたので、掲載の楽譜は本文を拝見してから確認したのですが、本文だけでも“あぁ、あのパッセージだな”と、容易に想像することができ感服いたしました。
 本格的な(ただし、時間は長過ぎない)4楽章形式の(吹奏楽のための)交響曲として、私も最高に‘かっこいい’曲だと思います。木村氏のディスクは私も飛び付くように買いましたが、佐渡&シエナならばたしかに期待大ですね。

投稿: 長谷部 | 2009年5月25日 (月) 01時12分

長谷部さん、ようこそお越しいただきました。コメントを有難うございます。
私は大学時代に全曲を演奏致しました。あの頃でしたらできたと思いますので、Trb.ソロをぜひ吹きたかったのですが、まだ2年生でしたので先輩をさしおいて、は無理でした。今やBassTrb.にまわり、もう吹けないので何とも残念です。^^;)

また「もう佐渡&シエナしかない!」にご同意いただき、嬉しく思いました。本当に実現しないかなあと楽しみにしております。若い世代にも、この曲の素晴らしさは絶対に伝わると思いますので、絶版となっている譜面の再販と優れた音源が待たれます。
また今後とも宜しくお願い申上げます。他の記事もご覧いただけましたら幸甚です。

投稿: 音源堂 | 2009年5月25日 (月) 09時20分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 吹奏楽のための交響曲(第1番):

« 歌劇「パーフェクト・フール」よりバレエ音楽 | トップページ | 交響曲第2番「三法印」 »