« 「天地創造」より”ノアの箱舟””メインテーマ” | トップページ | 歌劇「パーフェクト・フール」よりバレエ音楽 »

2006年11月 3日 (金)

ミリタリーバンドのための組曲第1番変ホ長調、第2番ヘ長調

1G.ホルスト
Gustav Holst 18741916





First Suite in E
for Military Band op.28a (1909)
 I.Chaconne II.Intermezzo III.March

Second Suite in F for Military Band op.28b (1911)
 I.March II.Song without Words
  III.Song of the Blacksmith
  IV.Fantasy on "Dargason"

吹奏楽オリジナルの古典にして名作であり、広く愛され極めて高く評価されている。現在でも、本邦のみならず世界的に実際の演奏機会も最も多い吹奏楽曲であろう。

私自身、部長を務めた中学3年時のコンクール自由曲として第1組曲(シャコンヌとマーチ)に取り組み西部大会に進んでおり、想い出の一曲である。
(今思えば、コンクール自由曲としては
何と無謀な選曲か!と苦笑するしかないが・・・。)
楽曲自体は第2組曲の方が凝っており魅力的と思うが、私自身の好みとしては素朴な第1組曲の方になる。

♪♪♪

Gholstグスターヴ・ホルストといえば組曲「惑星」の作曲者として誰もがご存知のことと思う。近年、第4曲「木星」をカヴァーした平原綾香の”Jupitar"の大ヒットにより、一層有名になったことは間違いない。

ホルストはイギリス王立音楽院でC.V.スタンフォードに作曲を師事する一方、トロンボーンも学んでおりその奏者としてのキャリアも持つ。同音楽院で知り合ったR.ヴォーン=ウイリアムズと終生親交が深かったことは有名である。
1905年以来セントポール女学院で教鞭をとっていたのをはじめとして、音楽教育にも力を注ぎ、
「芸術は全ての人が理解できる言葉として、学識のある人もない人も共有する、毎日の一部分でなければならない。」
との認識を有していたが、その一方、ヒンズー教・サンスクリット文学・キリスト教・占星術からギリシャ神話等に至るまで、幅広い宗教や哲学に傾倒する神秘主義者でもあった。ホルストは「神秘」と「生活」を結びつけるものとして音楽を位置づけていたという。
(参考文献:近藤洋平「ホルストにおける脱西欧近代」

このような背景からすれば、教育者としてのホルストが、アマチュア奏者のために名作を残したことも得心されるものである。

♪♪♪

1組曲
低音に旋律のある古い舞曲「シャコンヌ」に始まる。
Holst1一つの旋律が変奏され、室内楽的なソロとアンサンブル、旋律の反進行による展開を挟んで徐々に壮大なクライマックスに向かっていく。

続いては、可愛らしく素朴な「間奏曲」
Holst2軽快な旋律と伸びやかな旋律の対比が映える。また、クラリネット・ソロは素朴で実に美しい。
Holst3
最後の堂々たる「行進曲」は、金管・打楽器のみの勇壮な前半とトリオの朗々たるサウンドの対比が見事。
Holst4コーダでは2つの主要旋律のモチーフが高らかに呼応し、終幕を迎える。

透明感と品格があり、完璧な構成感を備えていることで、他の楽曲の追随を許さないのである。

2組曲
ユーフォニアム・ソロがあまりにも有名な「行進曲」に始まる。
Holst21
次に内省的な旋律をオーボエがしんみりと歌い上げる「無言歌」へ。
Holst22
アンヴィルの音色も賑やかな「鍛冶屋の歌」は裏拍に始まる独特の打込みが快活なスケルツォ。
Holst23







そのリズミックかつダイナミックな旋律は生命感に満ちている。
Holst23_2
そして組曲の最後は、ポリリズムとなって有名なグリーンスリーブスが現れる「ダーガソンによる幻想」で締めくくられる。
Holst24
イギリスの民謡をふんだんに取り入れつつ、品格があって構成感に優れる上、第
1組曲に比べて多彩な音色やリズムを聴くことができる。

♪♪♪

音源も非常に多い。なぜならプロフェッショナルな楽団がこぞってこの曲を録音するからである。
(私も大好きな曲ではあるが、録音機会自体の少ない吹奏楽界にあって、この
2曲への偏重ぶりは明らかに行き過ぎ。権威と楽曲の内容が伴った、数少ないレパートリーだというのは判るが、もはや充分だし、他に録音すべき楽曲があると思う。)

数ある秀演の中で、私にとっての「この一枚」は
デニス・ウィック
cond.ロンドン・ウインド・オーケストラ盤(冒頭画像参照)
ということになる。ジョン・フレッチャーをはじめとしてフィリップ・ジョーンズ・ブラスアンサンブルの名手たちも多数参加したこのアルバムは、品格の高さと透明感、表現の奥行きがまた一段と素晴らしい。
フェネル盤の方がメジャーだし、アメリカ的な良さがあるあの演奏が好みの方には同意は得られないかもしれないが・・・。
同時収録の「トッカータ・マルツィアーレ」「イギリス民謡組曲」のR.ヴォーン=ウイリアムズ作品でもイチ押しの演奏であり、また同じホルストの「ハマースミス」も凄みのある出来映え。好みはともかく、お聴きでなければぜひ一聴を。

1_8
本音源発売当時のLP版ジャケット、
「全日本吹奏楽連盟推薦盤」だった。

|

« 「天地創造」より”ノアの箱舟””メインテーマ” | トップページ | 歌劇「パーフェクト・フール」よりバレエ音楽 »

コメント

他の人にはどうでもいいんですが、この曲はその冒頭のソリのおかげで、円錐形金管低音をやる者にとってはバイブル的存在です。
で、このソリ、4小節目でスラーが切れるんですが、音源によって、ここであからさまにブレス取ってブツッと切るとこと、カンニングブレスか何かで切れ目なくつないじゃうとこと2種類あるような気がいたします。手許にあんまり音源がないので半分記憶が頼りですが、デニス・ウィックは確か前者かな?、後者のタイプとしてはアメリカ空軍など。
僕も以前はつないじゃった方がいいと思って、みんながスラーの切れ目でハァッとやってる時に吸わず、全然関係ないとこで勝手にブレス取ってました。というのも、このフレーズ、最後のB♭の延ばし5拍の後で次の主役への橋渡しに8分音符1つ分だけE♭への跳躍があるんです。ブレスのタイミングを4小節目だけに限定しちゃうとこのE♭への跳躍がほとんど不可能になっちゃう(要は息が足りなくなる)。だったら、スラーの切れ目に音楽的な意味を置かない方が、罪悪感なくカンニングブレスも取れるというわけです。
ところが、ところがです。こないだの連休にアーノルド・ジェイコブズの呼吸法の本なんか読んで、ちょっとやってみようてんで、それこそパンパンになるくらい肺に息入れて吹いてみたら・・・できちゃいました。冒頭の部分だけでなく、後半でB♭の延ばし+クレッシェンドが8小節も9小節も続く部分でも、苦もなく一息でできちゃいました。
だから、今なら断言できます。好みがどうあろうと、デニス・ウィックが「正しい!」この曲はスラーやタイの真ん中で息をしてはいけない!
ホルストは多分、吹けると確信した上でスラーやタイをつけたんじゃないかな、と思うのです。
ま、他の楽器の人にはどうでもいいんですけどね。多分・・・

投稿: くっしぃ@サウジ | 2006年11月 5日 (日) 02時45分

あ、上のコメントは第一組曲の方です。一応念のため。
え、あのくらい一息で吹けて当たり前?
すいません、今頃できるようになって・・・
次回はちゃんとやります。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2006年11月 5日 (日) 03時09分

・・・じゃあ、兼田 敏のパッサカリアも一息で行けますね?^^)

呼吸法、昔ながらの腹式呼吸=強制深呼吸じゃだめという説が最近強いようで、おじさん世代的には「参ったなー。」って感じです。尤も、結論は各自自分に合ったものを、って感じですが。

それより、自分の頭や体に共鳴させることを意識した方がいいみたい。上手いヒトの演奏って、体全体で鳴ってる感じがしますもんね。

投稿: 音源堂 | 2006年11月 6日 (月) 21時17分

…え?パッサカリアですか、兼田敏の。
あれは、最初の音3つでノックアウトです。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2006年11月 9日 (木) 02時46分

何気に9/2のN響アワーを、録画しておいたのを再生してみたら、あらびっくり。なんと、この曲を演奏しているではありませんか!昨年も山下さんの指揮で、「アルメニアンダンス パートⅠ」を見てたので、期待して聴きました。さすがにオケのプロ奏者だけあって、ソロの部分はゴキゲン。シャコンヌ出だし部分の、弦バスのうまさに引き込まれ、間奏曲のEuphのソロが、外園さんの豪華バージョン。行進曲はさすがに疲れが出たか、Tpセクションが、時々乱れていましたが、最後まで堂々とした演奏でした。指揮者もどっしりと構えたテンポ、オーソドックスな解釈でよかったと思います。この曲は、やはりすばらしい。こんなふうに、オーソドックスなスタイルの演奏が、よく合っています。演奏も、気持ちが入っていたと思います。Claの横川さんも、木管セクションをよくリードされていて、かっこよかったです。

投稿: ブラバンKISS | 2007年9月 4日 (火) 00時31分

素晴らしい曲であり、個人的にも”青春の一曲”!
・・・なのですが、私としてはもうお腹いっぱいという感じです。
みんな(特にプロは)すぐこの曲を選んじゃうので、その分意欲的なプログラミングにならないという事実は否めないと思うんですね。

でも、iPodをシャッフル・モードにして聴いていて、この曲が流れてくるとつい最後まで聴いちゃいますねえ。

投稿: 音源堂 | 2007年9月 4日 (火) 12時36分

 ホルストの「イチクミ」、「ニクミ」(学生時代、私たちはそう呼んでいました)は、あらゆる意味で確かに‘別格’でした。たまたま超有名曲の「惑星」の作曲者と同じ作曲者ではありますが、私の中ではそのことはほとんど関係ないほどに心酔しておりました。(シャコンヌに触れた名曲としてはバッハのそれよりも先んじていましたが、パッサカリアもヘンデルあたりよりも先に吹奏楽オリヂナルで親しんだ環境にあったので、それはまぁ特殊事情としてカッコ内にとどめるべきでしょうが…)
 プロによる録音が多すぎるとのご指摘ですが、やはりそれだけ名曲である証なのではないかと私は思います。もっと他に録音すべき知られざる佳曲がある、とのご指摘もそれはそれでごもっともですが、たとえばベートーベンの交響曲で第5や第9みたいなものだと思えば肯定的に受け止めることもできそうな気がいたしますがどうでしょう。
 久しぶりにこの名曲と向き合い、今までたった2種のLP(I.ホルスト/イギリス空軍中央軍楽隊とフェネル/イーストマン管楽アンサンブル)しかなかったので、音源堂さん一押しのCDを購入しようと思いました。(ヴォーン・ウィリアムズのイギリス民謡組曲も演奏経験のある曲にもかかわらずフェネル盤しかなかったですし)
 ところで、ホルストの“セントポール組曲”の第4曲は「ニクミ」の第4曲のアレンジ(もしくはトランスクリプション)だと思うのですが、いかがお考えですか?

投稿: 長谷部 | 2009年6月 1日 (月) 23時28分

もちろん名曲であり、個人的にも大切な想い出のある曲ですので、新たな録音を否定することは致しません。でも、一味違った演奏をしてくれるんじゃないか?と期待させるセッションが組まれたかと思うと、その度にこの曲が録音される感じがあります。
吹奏楽は、録音の機会自体が他のクラシック音楽と比較してそもそも少ないので、未録音であったり秀演のない佳曲がまだまだ相当数ある現況下では、「1組」「2組」にばかりその大切な機会が”食われる”のは少し残念に感じてしまうわけなんです。
しかも新たな録音を聴いても、「やっぱりロンドンWOの演奏が好きだなあ。」と感じることが続いておりますので…。

>セントポール組曲
仰る通りです。この組曲は弦楽合奏版ですが、これとは別に「第2組曲」全曲を管弦楽版にした、op28-2「ハンプシャー組曲」があります。ダグラス・ボストックcond.ミュンヘン交響楽団の録音で聴くことができますよ。

投稿: 音源堂 | 2009年6月 2日 (火) 00時39分

 おはようございます。(通勤電車は空いているのが救いです)
 なかなか見つからなかったLWOのディスク、一昨日ついに入手し昨夜開封まで漕ぎ着けました。肝腎の聴取は深夜近かったのでまだですが、(明らかに行き過ぎというほど)数多ある録音の筆頭とされるホルストや、同時収録のヴォーン・ウィリアムズの音楽がやっと聴けるかと思うと嬉しい限りです。私もh-ongendo1964さんと同じように感じられれば正に至福となります。
 私が入手できたのはASVのロゴがなく、解説書にも楽団の参加メンバーについて個人名は書かれていませんでしたが、演奏者と曲目が全く同じクレヂットなので、恐らく同じ録音だと思います。今手元になく度忘れしましたが、制作年は1978年とあったと思います。
 指揮のウィック氏はトロンボーンの演奏家でもあるようで、これはホルスト,h-ongendo1964さんと同じですね。

投稿: 長谷部 | 2009年12月16日 (水) 07時43分

長谷部さん、私のお奨め音源にご興味をお持ちいただき、有難うございます。(ここのところ落着いてPCの前にも居られず、レスが遅れました。すみません。)
音楽は好みですから、この演奏が長谷部さんのお気に召すかどうかわかりません。でも、私はどうにも好きなのです。
最初にこの曲を聴いたのはフェネルcond.イーストマンWEの演奏でした。何度も何度も聴きました。もちろんこちらの演奏も良いと思っています。

でも、ロンドンWOの演奏で聴いたときに”ハッ”とさせられたことは今でも忘れられません。違った世界を見せられた気がしたのです。

その後も多くの秀演と出遭えました。
でも、やっぱりロンドンWOの演奏が好きです。

投稿: 音源堂 | 2009年12月18日 (金) 12時43分

 こんばんは。週末にホルスト他を聴けました。
 この機会にすでに所持しているLP2種、F.フェネル/イーストマン,I.ホルスト/イギリス空軍中央とともに聴き比べを敢行してみました。結果は、それぞれに別の良さが感じられる幸せなものとなりました。
 フェネルは小気味よい爽やかな印象、ホルストは重厚で幾分劇的な印象、ウィックは勤勉さと素朴さが同居する奥深い印象でした。
 改めて聴き直し、フェネルとホルストとで随分違う印象だと気付き、どちらでもないが好感の持てるウィックが加わり、イギリスの吹奏楽の古典は私にとってもこれで十分満足だと思えるに至りました。たいへん結構な音源をご紹介くださって、ありがとうございます!

投稿: 長谷部 | 2009年12月21日 (月) 21時20分

聴き比べをし、夫々の個性が各演奏から感じられると、より一層その音楽が楽しめるようになりますよね。
長谷部さんの音楽の楽しみに、拙Blogが少しでもお役に立てましたなら、うれしい限りです!

投稿: 音源堂 | 2009年12月21日 (月) 23時37分

お久しぶりです。相変わらず精力的に更新されているようで、なによりです。
私、現役を離れて20余年経つのですが、このたび、お世話になった教授の退官記念コンサートで、久々に吹くことになりました!!その一曲がこの第一組曲です。
これだけ離れると、ブレスすらまともにできず、この曲では酸欠に陥りそうです。。。でも、この曲大好きなので、全身全霊で演りたいと思います。

投稿: メタボおやじ | 2011年12月29日 (木) 21時09分

メタボおやじさん、コメントを有難うございます。
久々の一曲…楽しみですね!ぜひ思いっきり楽しまれて下さいね!

投稿: 音源堂 | 2011年12月29日 (木) 23時27分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/181124/12518472

この記事へのトラックバック一覧です: ミリタリーバンドのための組曲第1番変ホ長調、第2番ヘ長調:

« 「天地創造」より”ノアの箱舟””メインテーマ” | トップページ | 歌劇「パーフェクト・フール」よりバレエ音楽 »