リシルド序曲
Overture ”Richilde”
G.パレ
(Gabriel Pares 1860-1934)ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団第4代楽長ガブリエル・パレ(左画像)が1894年に作曲。フランス北部のバランシェンヌでのイベントにて演奏するギャルドのために作曲されたもので、同地が中世にエノー伯領であったことから、その女性領主 Richilde に因んだ作品とされる。
(赤松 文治氏の解説による)
エノー伯の歴史を調べてみると、この女性領主リシルドの結婚相手とされるボードゥアン4世(フランドル家/12世紀)は確認できたが、複数居るその妃に「リシルド」の名は確認できなかった。一方、中世フランス/カペー朝の系譜を見ると9世紀にリシルドという名の王女が実在する。その他にもリシルドという名の王女がヨーロッパに複数存在したようであり、「リシルド」は由緒正しいお姫様の名だといえる。従っていずれにしても、中世の高貴な女性に関するエピソードに因んだ作品であることは疑いないだろう。
それを証明するかのように、曲想=殊にその旋律は美しく、かつ非常に高い品格を備えたものであり、これこそが「リシルド序曲」最大の魅力である。
♪♪♪
曲は緩-急-緩-急-コーダの典型的な序曲形式を持つ。厳かな黎明の雰囲気の中、清らかなホルン・ソロに始まる。
特徴的なフルートのアルペジオをバックに旋律はより大らかに奏され、やがて哀愁に満ちたAlto Saxのソロ※を経て、不安げな主題とともにテンポの早い主部に入る。
ここでも木管楽器で奏される旋律のたおやかな跳躍が女性的で印象に残る。終始品格を保った音楽はシンプルなものではあるが、吹奏楽曲として異彩を放つ存在である。
中間部には安寧でたおやかな、女性の優美さをイメージさせる旋律も現れる。
そしてこの曲最大のクライマックスにして白眉である終結部。中低音が冒頭の旋律を壮麗に、高らかに奏でるところに、トランペットの音色を効かせた高音群の息の長いカウンター旋律。あまりに感動的だ!
※記譜上オ-ボエ他も同奏するようだが、ここはAltoSaxソロがいい!
♪♪♪
サクソルン属を多用するギャルド独特の編成で書かれているためか、近時演奏機会は減少している。しかしながら、現代の吹奏楽編成に直した建部 知弘編曲版もあり、もっと演奏されていい吹奏楽界の大切なレパートリーである。
音源は以下をお薦めしたい。林 紀人cond.
東京佼成ウインドオーケストラ
やや大味な部分もあるが、サクソルン属を重ねてギャルドの音色を再現しようとした好演。P.デュポンcond.
ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団
録音はあまりに古く状態は悪いが、本家ギャルドの演奏は当然おさえておくべきものである。
(Revised on 2008.5.5.)
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コメント
名前だけはよく聞くのですが、演奏されたのを聴いたことがなくて、てっきり編曲物だと思ってました。
いやあ、勉強になります。
投稿: くっしぃ@サウジ | 2006年9月30日 (土) 03時17分
このリシルド序曲、いい演奏で聴くと涙がちょちょ切れます。自分でも一度演奏してみたいです。
投稿: 音源堂 | 2006年10月 2日 (月) 16時55分
今週末、三重県津市で行われる「アメリカバンドVSフランスバンド」という企画で、演奏されます。
投稿: M | 2007年2月14日 (水) 14時02分
リシルドを検索していましてたどり着きました。
高校のときに演奏しまして、その時の印象が最近よみがえってきました。最近演奏されているのかなぁと思い検索してみました。
素晴らしい情報のページありがとうございます。
ほかぞのしょういちろう
投稿: 外囿 祥一郎 | 2008年11月 7日 (金) 17時17分
外囿さん、コメントを有難うございます!
日本を代表するヴィルトゥーゾであられる外囿さんに、拙blogにお越しいただき、またコメントをお寄せいただき感激です!(お問い合わせしてしまってスミマセンでした。)
吹奏楽に携わっている方々にとって、演奏する楽曲に対する興味と理解を深めたり、「聴いてみようかな」と思っていただいたり、そんな機会になればと始めたblogです。これからもコツコツ頑張りたいと思いますので宜しくお願い申し上げます。
♪♪♪
外囿さんの益々のご活躍を心よりお祈りしております。また素敵な演奏を我々にお聴かせ下さいね!引続き応援させていただきます。
投稿: 音源堂 | 2008年11月 8日 (土) 09時29分
毎回楽しく読まして頂いています。高校の時にコンクールで、散々カットして吹きましたが、カット無しの全曲を吹いた経験がありません。
ギャルドと佼成版を聞き比べると、佼成版ではギャルドで演奏されている一部分がカットされているようなのですが、これは原曲でのオプションなのか編曲者の意図なのでしょうか。
投稿: | 2013年1月31日 (木) 14時47分
お越しいただきまして有難うございます。
さてお尋ねの件ですが、スコアでいいますと練習番号Kからの62小節をカットした演奏と、していない演奏があることに関するご指摘と思います。この部分はスコア上、
”Coupre facultative de la lettre K a la lettre N”
との仏語表示があります。「練習番号KからNまではオプションとしてカットしてよい」の意味です。
尚、私が現在保有している音源におきましても、このオプションについては以下のように分かれております。
<カットあり>
林 紀人cond.東京佼成WO
丸谷 明夫cond.なにわOW …建部版
<カットなし>
P.デュポンcond.ギャルド・レピュブリケーヌ吹奏楽団
竹村 純一cond.海上自衛隊東京音楽隊
辻井 清幸cond.大阪音大WE
近々本稿は改訂し、以上の件につきましても改めて触れたいと思います。
投稿: 音源堂 | 2013年1月31日 (木) 22時07分
こんばんは。そういえば、この曲は、「ザノーニ」のCDに併録されてましたよね。もう、すっかり「古典」になってしまった?作品ですが、いかにもフランス近代の響きがする佳作ですね。TKWOもご機嫌な演奏です!(笑)
投稿: ブラバンKISS | 2018年4月22日 (日) 00時09分