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2006年9月11日 (月)

ワシントン・ポスト/士官候補生

John_philip_sousa_and_the_marine_baJohn Philip Sousa and the Marine Band
in April 1892 at the Palace Hotel, San Francisco, Calif.


吹奏楽界の偉人中の偉人-
マーチ王スーザ(John Philip Sousa 1854-1932)こそがその人である。数々の名曲マーチは往々にして吹奏楽界を卑下しているクラシック界からも一目置かれ、何より吹奏楽をよく知らない人でさえもスーザのマーチには耳が親しんでおり、文字通り永遠のものとして愛され続けている。

♪♪♪

11997年のBand People 3月号に「マーチを超えたスーザ・サウンドの秘密を探る」という特集が掲載された。
日本スーザ協会/高橋 誠一郎氏(当時)の執筆によるものだが、大変興味深い内容となっている。

スーザの演奏を伝承・再現するキース・ブライオン
cond.ニュー・スーザ・バンドの来日公演をレポートするとともに、スーザ流の個性的なコンサート演出や、「スーザの真髄」を表す独特の演奏法を紹介している。スーザのマーチ演奏に際して一読しておくべき記事である。
その内容についてかい摘んで紹介しよう。

【スーザのコンサート・スタイル】

プログラム曲は10曲程度で、クラシックアレンジやオリジナル曲のほか、独奏楽器をフィーチャーした曲、或いはノヴェルティ(ウイットに富んだ小品/ex.「口笛吹きと犬」)から流行歌に至るまで非常に幅広いもの。一方、マーチはこれらの”アンコール”曲として計15曲ほどが演奏されたという。

即ち、プログラムが
1曲終わる都度、アンコールにマーチが演奏されるスタイル。「快速アンコール」と呼ばれ、プログラム曲が終わると拍手の鳴り止まぬうちにアンコールに突入する- 聴衆に息もつかせぬショーとしての演出である。各楽器のスタンド・プレーも積極的かつ曲想に合致するよう工夫が施されており、ステージパフォーマンスは聴衆に対するサービス精神旺盛なものであった。

2_2各パートのソリストによる名人芸も見せ場を作ったが、中でも”伝説的名人”はシンバル&バスドラム担当のヘルメッケ(August Helmecke)で、
「左手のシンバルと右手のバス・ドラム・ビーターを縦横無尽に使いこなす名人技を見せつけ、スーザも彼を”バス・ドラムの芸術家”と呼んだ。」
(高橋誠一郎氏の解説による/画像はヘルメッケ・スタイルのバス・ドラム&シンバル)


【スーザのマーチ演奏法】

スーザは自作マーチの演奏にあたり、市販の譜面には記載されていない”秘伝”の演出を施したとされる。
「スーザ・アクセント」といわれる打楽器を使ってのアクセント付加、ダイナミクスの変更、オーケストレーション変更による音色変化、より積極的なクレッシェンド&ディミヌエンド・・・自作マーチの「コンサート・スタイル」での演奏に更に魅力を吹き込んだのだ。
スーザはこれらの演出を譜面に残さず、まさに彼と彼の楽団のオリジナリティとなっており、他の楽団の追随を許さなかった。

更に高橋氏は具体的な楽曲を題材にこのスーザの”秘伝”を説明しており、非常に勉強になる。


高橋氏は、スーザ・マーチ本来の魅力はこの「コンサート・スタイル」の演奏にこそ在り、そこへ回帰すべきと説く。教育用、或いは実用行進音楽用に特化したヴァージョンの譜面と、それに基いた演奏の蔓延がスーザ・マーチの本来の輝きを喪失せしめている、と-。

♪♪♪

「行進曲は何か私の心を惹きつけるものがある。それは人間の体内組織にある基本的なリズム感に対して語りかけ、或いはそれに反応し、生命力の全ての核心を刺激し、想像力を呼び覚ますものでなくてはならない。また大理石の彫像のように立派なものでなければならないし、内容に誤魔化しなどあってはもちろんいけない。音楽を嫌いな人の心の中にもアピールし、義足の人でさえも生き生きと歩かせる魅力を持たなくてはいけない。」
(スーザ自伝より/村方千之 訳)

スーザはこの言葉通りの作品を生み出した。他の誰も生み出せぬ魅力に溢れた節(歌)、創意に満ちた構成と楽曲的演出といったものを通じて、理屈抜きに楽しめる音楽となっている。本稿の表題に掲げた2つのマーチはその典型といえる名作で、私の一番好きなスーザ・マーチだ。

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ワシントン・ポスト
Washington Post (1889)

001同名のアメリカの有力紙80周年を記念した学生の作文コンテスト表彰式のために作曲されたもの。6/8拍子の軽快な楽想が当時アメリカで流行していたツーステップの踊りによく合い、このダンスの伴奏として用いられたことから、ツーステップのことを「ワシントン・ポスト」と称するほどであったとのエピソードもある。

士官候補生

The High School Cadets (1890)
002ウエストポイント士官学校に新たに編成されたドリル・チームのために作曲され、生徒たちはその謝礼として25ドルをスーザに贈ったという微笑ましいエピソードを持つ



いずれも何と大衆的なエピソードであることか。当時のアメリカの人々がごく身近にスーザの音楽を感じ、また欲していたことを感じさせるものであろう。
故 八田 泰一氏がスーザを語った際に「バンドはいつの世でも人々のものであって、高みに上ってはいけないと思う。」とコメントしているが、これこそがスーザイズムの基本ではなかろうか。

♪♪♪

音源については、幸いなことにスーザ・マーチは吹奏楽曲としては突出して録音が多いので、お気に入りの演奏を探す楽しみがあるだろう。
手軽なところではNAXOSからキース・ブライオンcond.王立砲兵隊バンドの演奏でCD5枚の作品集が出ており、リーズナブルな価格でスーザ作品を一通り揃えることができる。

私の好みとしては

Photo_99
汐澤 安彦
cond.
東京アカデミック・ウインドオーケストラ
を推したい。
こちらからダウンロード購入も可能。)

前述の「コンサート・スタイル」を想い起こさせる演奏で、清廉な音色、スッキリとしたサウンドと変化に富んだ色彩、音楽的な旋律の歌い方・・・録音も良い。


♪♪♪

生涯で百数十ものマーチを作り、名作、秀作を数多く世に送ったスーザは洵に偉大だ。作為的でないのに本当に良くできているこの偉人のマーチを愛し、憧れるのはわかる。
しかし、スーザ自身も当時おそらくそうしていたように、現代に生きる者は現代の”空気”といったものを織り込んだ作品を生み出していかねばならない。

「マーチはスーザに止めを刺す」のかもしれない。
-しかし、楽曲の作り手はスーザの模倣など全く意味がないということも確りと認識しておかなければならない。また聴き手も演奏者も、新しく生み出される楽曲に対して、そうした視点からの評価を下さなければならないのだ。

(Revised on 2008.5.4.)

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コメント

何故か手許にスーザの自作自演集がありました。
買ったことも忘れてそのままほってあったのですが、あらためて聴いてみたら意外といい録音でした。
マーチってテンポ設定がけっこう重要だと思うのですが、速すぎず遅すぎず、実にオーソドックスな感じです(というか、そもそも我々が最初からスーザバンドのテンポですり込まれてるのかも?)。
試みに星条旗の所要時間を挙げると、3分4秒です。快速のアメリカ空軍で測ってみたら、2分45秒。個人的には、今まで聴いた中で一番遅かったのはギャルドで、何分だったか分からないのですが、倍テンくらいで振ってる感じでした。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2006年9月24日 (日) 07時29分

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