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2006年8月24日 (木)

「ラ・マンチャの男」セレクション -ミュージカル・セレクション三部作

2003-2005年の3年間、職場の名門バンドであるNEC玉川吹奏楽団は極めて意欲的な選曲でコンクールに臨んだ。
それが
「ラ・マンチャの男」
「屋根の上のバイオリン弾き」
「マイ・フェア・レディ」

の”ミュージカル・セレクション三部作”である。
同団は見事3年連続の全国大会出場を果たし、中でもこの「ラ・マンチャの男」は金賞を射止め、この年のコンクールで大きな話題となる。

アレンジャーは杉本 幸一(Koichi Sugimoto 1958- )
ポピュラー音楽にも大変明るい杉本氏の手腕が存分に生かされた魅力溢れるアレンジとなっており、名作ミュージカルと吹奏楽の新たなコラボレーションを生んだ。


3曲とも音楽が本来持っている楽しさ、喜びをそのまま伝えるもので素敵だと思う。吹奏楽界では「ミス・サイゴン」の成功が先行していたが、とかく閉塞気味な斯界のレパートリーにおいて、吹奏楽のボーダレスさという強みを生かしたこの新分野を、更に拡充したものである。

※バンドジャーナル2008年4月号掲載/杉本 幸一コメント
「bj200804_sugimoto.jpg」をダウンロード

♪♪♪

「ラ・マンチャの男」(Man of La Mancha)1965初演、ロングランとなったミュージカルで、現在でも広く愛されている名作。本邦では松本幸四郎の代表作としても有名。
有名なセルヴァンテスの”ドン・キホーテ”をもとにした作品であり、ストーリー
は劇中劇の登場人物アロンソ・キハーナ老人が、自分はドン・キホーテになったと妄想するという多重構造となっている。

※あらすじの詳細 :

「synopsis_man_of_la_mancha.doc」をダウンロード


劇中のセルバンテスの科白にある
「本当の狂気とは・・・夢に溺れて現実を見ないのも狂気かもしれぬ。現実のみを追って夢を持たないのも狂気かもしれぬ。だが、一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生に、ただ折り合いをつけてしまって、あるべき姿のために戦わないことだ。
という直截なメッセージや、エキセントリックだが常にポジティブな主人公の”熱さ”は、観る者に感動と共感を与えるだろう。

Photo_78音楽はミッチ・リー(Mitch Leighの作曲であり、サントラ盤(右画像)も魅力に溢れている。
またアーサー・フィドラー&ボストン・ポップスの演奏も有名(残念ながら廃盤)であり、吹奏楽版もこれをもとに設計されている。


♪♪♪

さて、杉本アレンジによる吹奏楽版は、次の
2ヴァージョンがセットされている。

【コンクール・ヴァージョン】 演奏時間
8
ラ・マンチャの男(我こそはドン・キホーテ)/ドルシネア姫/アルドンザ/誘拐/愛しのドルシネアへ/見果てぬ夢


【コンサート・ヴァージョン】 演奏時間930
ラ・マンチャの男/ドルシネア姫/アルドンザ/マンブリーノの黄金の兜/あの方が心配で/騎士叙位の歌/愛しのドルシネアへ/見果てぬ夢


最初にコンサート・ヴァージョンが完成し、後にコンクール・ヴァージョンが作られた経緯にあるが、いずれのヴァージョンも捨てがたい。
音楽はボレロのリズムを従えた「見果てぬ夢」をはじめとしてスペイン舞曲の色彩が強いが、ファンファーレやジャズ・ワルツ風の音楽なども織り込まれており、その対比が魅力的。コンクール・バージョンの「誘拐」もモダンかつアルトサックス・ソロのフューチャーもあって異彩を放つ。明るく快活な曲想はポジティブなミュージカルの内容そのままである。


・・・要するに、理屈抜きにいいっ!のである。根源的な音楽の楽しみがあるから。どの歌の”フシ”も本当に素晴らしいし・・・。こうしたプリミティブな音楽の魅力で聴かせる楽曲でコンクールに出場するという
NEC玉川の発想と英断は賞賛に値する。

♪♪♪

音源は以下の通り。いずれも
編曲/杉本 幸一
演奏/稲垣征夫cond.NEC玉川吹奏楽団

この愉しき世界にぜひ一度接せられたい。

Photo_80「ラ・マンチャの男」セレクション
(コンクール・ヴァージョン)

NEC玉川の演奏は
持ち前の豊かなサウンドに加えて、更にリズムの切れに磨きがかかり、活力あふれる
Bravo! な出来映え。


Photo_85「ラ・マンチャの男」セレクション
(コンサート・ヴァージョン)

はこちら。




Photo_83「屋根の上のバイオリン弾き」
セレクション

ジェリー・ボック(
Jerry Bock)作曲
奇蹟の中の奇蹟/マッチメイカー/
サンライズ・サンセット/人生に乾杯

全国大会ライブ録音、「ラ・マンチャ」のスペインに対しこちらはロシア色の強い音楽で、最後の舞曲はまさにロシアものの迫力!

Photo_84「マイ・フェア・レディ」セレクション
フレデリック・ロウ
Frederic Loewe)作曲
序曲/市場の男たちのコーラス(「素敵じゃない?」導入部)/アスコット・ガヴォット/君住む街で/証拠を見せて/忘れられない彼女の顔/踊り明かそう
オードリー・ヘプバーンの映画版ではなく、ジュリー・アンドリュースの舞台版に軸足を置いて選曲したセレクションで、この有名なミュージカルの魅力を再発見させる。殊に「証拠を見せて」のエネルギッシュさ、そして終結部のスペクタクル・サウンドは圧巻!
(尚、このアルバムには「屋根の上のバイオリン弾き」セレクションのコンサートでの演奏も収録。)


☆☆☆

杉本 幸一「ミュージカル三部作」はいずれもウインドギャラリーの出版。同ショップには、土気シビックウインドオーケストラに提供した杉本氏編曲のポップス譜もお取り扱いいただいております。

(Revised on 2008.8.16.)

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コメント

 どうも!。
 「身内」を誉めてはあきまへん・笑。

 NECさんとの3年間は楽しいものでした。
稲垣先生の暖かいお人柄と音楽にも助けられて,思う存分書かせていただけた,と。

 「ラ・マンチャの男」,原盤は紹介の通り,ボストン・ポップス盤でしたが,当然オーケストラ・スコアは存在しないわけで,構成・輪郭は追いながらも,結果としてかなりの部分を「作ってしまう」こととなりました。
 この依頼は僕が「コンクールにかめる」数少ないシチュエーション(笑),ですから当初は管弦楽曲のトランスクリプションのつもりで臨んだのですが,結局そうはなりませんでした。
 常々思ってきたことですが,トランスと
言いながらも,「吹奏楽の中でのサウンドの
完結」を考えて書かなければならないのではないか?,つまりオケを移しながらも,一定
の「加工」が絶対必要であろう,ということ。それにどう対処していくべきか?,というこのが実は僕の積年の課題でした。
 このことは,オケ譜に忠実?であろうとしながらその「完結感」のためにはオケ譜を離れる必要が,時に生ずることになる,ということ。
 …この3作は僕なりのその「回答」の一例です。このシチュエーションでしか成立しないことでしたが。

 普段,アホな曲ぱかりアレンジしていますが,こんなこともずっと考えて来たのですよ。というわけで!・笑。

投稿: 「すぎ」こと杉本幸一 | 2006年8月27日 (日) 00時13分

いえいえ、私が「いいっ!」と確信しているから本ブログで紹介しているのです。決して身内だからではありませんよ^^)
「あらすじ」も改訂してわかり易くしました。思い切って「原英文に忠実に」という観点は捨てて。こんな文章でも、読んでいただくと思えば「完結感」を求めるということでしょう。ぐっと適切なものになったと自分でも思いますが・・・。

投稿: 音源堂 | 2006年8月28日 (月) 23時38分

h-ongendo様。
某バンド定期の曲が決まりましたね。「何とか間奏曲」とか、全然知らないのですが、多分h様の知見が大いに活用されたのではないかと推察いたします。
M島さんの曲は、かつての課題曲でしょうか、それとも長い版でしょうか?課題曲の方はやったことありますが、その時は中学生でした。懐かしいです。その年は、自由曲は「海」がいいとか「絵のような風景」にすべしとか、アホな基準で選曲してました。
演奏会に合わせて帰りたいですが、難しそうです。良い演奏会になることを期待しております。

投稿: くっしぃ@サウジ | 2006年9月 1日 (金) 06時49分

「詩的間奏曲」は特に私が推したものではないんです。ただ、いつも牛丼に天丼にカツ丼に豚丼に鰻丼をずらっと並べ「好きなもんばかりだろ、食え!」みたいなプログラムになりがちなので「ほうれん草のおひたし」的なこの曲が入ってきたことは好ましいことです。(但し丼もの好きのS先生は「つまんねー」「音が合わねーんだからダメ」といつものように不満たらたらでしたが・・・。)

>かつての課題曲でしょうか、それとも長い版で
>しょうか?
長い版のようです。私、この改訂新版やったことあります。結構難しいんですよ、実は。Timp.ソロ大丈夫かな?

もうすぐ合宿。頑張って練習してきます。早くまた一緒に演奏できるといいですね!

投稿: 音源堂 | 2006年9月 1日 (金) 19時02分

牛丼に天丼にカツ丼に豚丼に鰻丼・・・
こっちでは食べられない物ばかりです。今なら一度に全部食べれるかも。
丼もの好きのS先生の学校、とおったみたいですね。おめでとうございます。祝勝記念にスタ丼はいかがでしょうか?

投稿: くっしぃ@サウジ | 2006年9月 4日 (月) 01時44分

スタ丼・・・学生時代は発祥店「サッポロ」のまさに圏内で過ごしましたので、よく行きました。
今は相当有名になり、見た目もやや品がありますが、当時のスタ丼は店も汚く、盛付けはもっとグロテスクな感じで・・・でも美味い!一緒に出てくるもやしの味噌汁も懐かしいです。

-S先生は大喜びです。復活!ですね、まさに。

投稿: 音源堂 | 2006年9月 5日 (火) 01時37分

こんばんは。
初めてコメントさせていただきます。
自分は高校3年生で吹奏楽をやっているものです。

以前から、このサイトを拝見させていただきました。
管理人さんの的確なレヴューの数々・・・本当に素晴らしいと思っております。

このラ・マンチャの男、自分が吹奏楽部に入部して初めて取り組んだコンクール曲でした。
吹奏楽コンクールには出場していませんが、吹コンとは別のコンクールで演奏をした思い出の曲です。
スペインの風のノリが演奏していても、聴いていても非常に熱く燃えます(笑)


この曲とは関係ありませんが、管理人さんがお書きになった「中世のフレスコ画」のレヴュー、あの記事を読むまではまったくモリセイという作曲家(というより、古典的な曲には全く興味がありませんでした)すら興味もなく知らなかったのですが、読ませていただいてから非常に関心を持つようになりました。

というますのも、母校の中学校に「中世のフレスコ画」の楽譜がありまして・・・。
最近の曲は全然ないのですが、他にも「エルシノア城序曲」や、「学園序曲」、「西部の人々」といった今では珍しい(?)古きよき時代の楽譜がいっぱいありました。

楽譜を見ると無駄のない簡潔なスコア・・・、やはり昔の曲はいろんな意味で飾らない、素朴な曲は多かった気がします。
古典的な作品には名曲が多いなか絶版の楽譜が多いのは悲しく思いますが。(ネリベルやオリヴァドーティなど)

「中世のフレスコ画」の記事を読まなければ、一生興味を持つことがなかった、作品たち。
あの記事を読んでよかった、と心から思っております。
どうぞ、これからも皆様に愛されるブログでありますように。


支離滅裂な文章で申し訳ありません。
またコメントさせていただきます!

投稿: kuro | 2011年10月15日 (土) 23時11分

kuroさん、暖かいメッセージを本当に有難うございます!

まず第一に「ラ・マンチャの男」を吹奏楽界に持ち込まれたNEC玉川さんのアイディアが素晴らしかったと思います。そしてその世界を吹奏楽で再現するために工夫を凝らした杉本幸一氏のアレンジが良かった。今でも、それこそコンクールでなくても愛奏されてほしい傑作となりました。

私は杉本氏の私設マネージャーも務めておりますが、氏はジャンルを問わず優れたアレンジを送り出し続けています。kuroさんも気の利いたポップス曲などお探しの際には杉本幸一アレンジ作品をぜひお試しいただきたいと思います。

♪♪♪

私の書いた記事によって、その楽曲に興味を持っていただき、聴いてみて、演奏してみていただける…。そんな「きっかけ」の役目こそが、このBlogの目指すところです。
kuroさんのように若い方の「きっかけ」となれたことが判りこの上なくうれしいです。これでまた書こうという思いを繫げることができます。重ねて有難うございました。

今後も少しでも付加価値のあるように、そして何よりも楽曲やその好演に対する愛情と敬意を持って、熱く書いて行きたいと思いますので、どうぞ宜しくお願い致します。コメントもお気軽にお寄せ下さいね☆

投稿: 音源堂 | 2011年10月16日 (日) 16時11分

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