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2016年7月11日 (月)

リボンの騎士 (手塚 治虫) -第3場 少女クラブ版

News_xlarge_ribbon_image3_2「作品概括」にて述べた通り、講談社が発行していた月刊誌「少女クラブ」1953年1月号から連載開始された「リボンの騎士」の原典である。「少女クラブ」はB5サイズの雑誌であり、また伝統的なコマ割りを基本としていたので、絵は細密という印象がある。
ストーリーの完成度でみると、実は「なかよし版」よりもこの「少女クラブ版」の方が卓越していると申し上げておきたい。

主人公サファイヤはストーリー冒頭では12才の設定で、後代のなかよし版に比べると子供っぽい、ユニセックスな絵柄に始まる。但し、設定はそうであったとしてもストーリーが流れ出すとほどなく紛れもない女性の美麗さを醸すようになっている。

    ※少女クラブ版ではサファイ”ヤ”である。なかよし版でも連載
      時点では”ヤ”であり、「双子の騎士」ならびになかよし版の
            単行本においてサファイ”ア”という表記に改められたようだ


【少女クラブ版 概要】
天使チンクの悪戯が原因で、男と女両方の心を持って生まれてきてしまったサファイヤ国の王女サファイヤ。この国には男しか王になれないという掟があり、悪評高いジュラルミン大公が次の世継に自分の息子プラスチックを据えようとしていた。ジュラルミン大公の支配を逃れ王位を守るため、サファイヤは表向きは王女でなく王子として育てられることとなったのである。かくしてサファイヤは12才となり、極めて美麗で優しい王女にして、正義感が強く勇猛果敢な剣の達人たる王子へと成長していた。

7_4復活祭の夜、亜麻色の髪の少女に変装したサファイヤは舞踏会で隣国シルバーランドのフランツ王子と踊り、二人は瞬時に強く惹かれあう。このサファイヤとフランツの恋がストーリーの中心である。
しかし王位を狙いサファイヤを殺そうとしたジュラルミン大公やナイロン卿の企みは父王の急逝を招き、フランツに誤解を与えサファイヤへの憎悪を抱かせることとなった。
自らの身の上を明かせないために、サファイヤ王子としてはフランツに激しく憎まれながら、一方で変装した亜麻色の髪の少女としてはフランツに熱く思慕されるという複雑な構図となり、二人の想いはなかなか通じ合わない。

7サファイヤの即位式の日、とうとうサファイヤが王女であることが露見して王位はジュラルミン公一派に奪われ、サファイヤはお妃(サファイヤの母)とともに棺桶塔で囚人の身となった。優しいサファイヤを慕うねずみたちから案内され抜け穴を知ったサファイヤは、密かに棺桶塔を抜け出しては、仮面をつけて”リボンの騎士”を名乗り、
ジュラルミン大公の悪政に苦しむ人々を救うため出没するのだった。

王位を奪還するため悪戦苦闘するサファイヤだが、ある時そ
の優しい女の心を奪って自分の娘に与えようと思い立った悪魔・メフィストに攫われてしまう。
魔法で白鳥に変えられてしまったり、誤解が解けずフランツに幽閉されたりとサファイヤの苦難は続くが、恋い焦がれる亜麻色の髪の少女が実はサファイヤの変装ではないかと感づき始めたフランツと、街の靴屋にて愉快な共同生活を送る微笑ましいエピソードも挿入される。

Photoしかしサファイヤには母(お妃)を救い、王位をジュラルミン大公から奪還する使命がある。自国に戻りジュラルミン大公と対峙すると、図らずも保身に走ったナイロン卿がジュラルミン大公を毒殺し逃走する事態となった。神の力により賢く生まれ変わったプラスチックの忠誠も得て、サファイヤは女王として改めて即位する。
ただ、サファイヤは自国に戻る途中でナイロン卿に襲撃された際、その危機を避けるため
已むなく悪魔メフィストに女の心を譲り渡す約束をしてしまっていた…。


天使チンクの助けを得て女の心を守ろうとしたサファイヤだが、メフィストの計略に嵌り、遂に悪魔の山で女の心を奪われてしまう。フランツがサファイヤを救出して想いを告白するも男になってしまったサファイヤには全く通じず、フランツは激しく混乱する。
女の心を奪われたサファイヤはドレスを捨て、愛着のあるリボンをも捨て、ひたすら武芸に熱中する。そんなサファイヤの許に悪魔から女の心を取り戻したチンクが訪れる。意を決したチンクは強引にサファイヤの男の心を女の心へと入替えた。遂に今や、サファイヤは完全に女になったのである。


-その頃フランツのおじにしてシルバーランド国王のシャルネ殿下は、逃亡してきたナイロン卿に唆されていた。そして反対するフランツ王子を軟禁し封じ込め、サファイア国への侵略を開始してしまう。
Photo_2内情や城の秘密に通じたナイロン卿の手引きにより、夜間のうちにサファイア国の城は乗っ取られ、お妃を人質に迫られたサファイヤは降伏を余儀なくされた。捕虜となったサファイヤはほどなく山の空き家にてナイロン卿に殺されようとしていた。
しかし、そこはフランツが軟禁されている空き家であった!フランツは剣を奪ってサファイヤを守り、ナイロン卿を追い払う。サファイヤが女に戻ったことを察したフランツ。遂にフランツには愛する亜麻色の髪の少女がサファイヤと同一人物であると判り、サファイヤを抱き寄せ愛を誓う。愛する人に愛される喜びが二人の姿にあふれる。


8_3サファイヤはフランツと力を合わせ、まずサファイヤの母(お妃)の救出を図る。お妃はプラスチックとうらなり博士、うばやとともに人喰い海蛇のいる島に流されていたのだ。海蛇はプラスチックや博士の活躍で退治したものの、ナイロン卿が暗殺隊を追派してきたり、フランツを人魚姫の婿にしようと画策する海の女王が現れたり、フランツとサファイヤを恨み殺そうとするメフィストが追って来たりと苦難が続くが、フランツの機転と人魚姫の支援で乗り切り、全員無事脱出に成功する。

改心して頼りがいのある忠臣となっていた牢番ガマーたちと合流したフランツとサファイヤは次にシャルネ殿下を誘拐し、森の中でともに暮らし始める。逃走しようとしていたシャルネ殿下だが、日々ふれるサファイヤの優しさと心遣いに魅了されていく。フランツがサファイヤと結婚したいと打ち明けると、シャルネ
殿下はもちろん諸手を挙げて賛成だ。

6_2全てが調い、いよいよサファイヤはサファイヤ国王に収まっていたナイロン卿と最後の対決に臨む。悪政の限りを尽くしてきたナイロン卿だったが、今やさまざまな恨みが鼻の傷にたまり、瀕死の状態にあった。サファイヤの姿を見て慄くナイロン卿は、サファイヤに促され懺悔の言葉を述べる。すると不思議なことに大きく腫れ上がっていた鼻が元通りになり、ナイロン卿は命を取り留める。サファイヤは静かにナイロン卿へ追放を告げた。


晴れやかな笑顔のサファイヤに永遠の愛を誓うフランツ- 二人の盛大な結婚式は一つになった二つの国の繁栄と、二人の幸せを確信させるのだった。


♪♪♪

「少女クラブ」版ならではの見どころも多い。

■牢番ガマーが大活躍
Photo_3改心して忠臣となってからのガマーは実に頼もしい”用心棒”に…ガマーは「ノートルダム・ド・パリ」のカジモドに由来するキャラクターだと思うが、腕っぷしが強くて神出鬼没。お妃とサファイヤを守るため力を尽くし、なかなか機転も利く大活躍ぶり。「なかよし版」より遥かに存在感の大きいガマーにご注目!

■激しい荒っぽさ → 一途な恋に: ヘケート
Photo_4「娘」なのに心は完全に男、の少女クラブ版ヘケート(悪魔の娘)はミッキーマウス風の耳が特徴的で、とにかく暴れん坊。これがサファイヤの女の心を得た途端、フランツを一途に恋する乙女に…。亜麻色の髪の少女に化けてフランツの愛を得ようとしたが正体がばれ絶望したヘケートは自ら命を絶ってしまう。
(連載時ヴァージョンでは、自分に目もくれずサファイヤに夢中なフランツを見て落ち込んだり嫉妬したり、ストーカーまがいに後を追ったりと非常に人間臭い姿が見られる。遂には亜麻色の髪の少女に化けてでもフランツと結ばれようとするに至るエスカレートぶりが確り描かれているのである。)

■靴屋のルビ
1_2サファイヤが亜麻色の髪の少女なのではないか?と気づき始めたフランツは正体を探るため市井の靴屋ルビに扮し、サファイヤを匿うかたちで奇妙な共同生活を始める。ごく短い期間だったが、とても愉快で微笑ましい二人の姿を見ることができる。



■サファイヤとフランツの恋人時代!
「なかよし版」と決定的に違うのは、想いの通じ合った二人の恋人時代のエピソードが見られることである。
サファイヤが亜麻色の髪の少女と同一人物であることが判り、フランツが愛を誓うシーンでは、愛する人の腕に抱き寄せられた幸福感でうっとりとした表情のサファイヤが印象的である。
また食事の用意をしてフランツの帰りを待っていたサファイヤの姿や、二人で吟遊詩人に扮し力を合わせてお妃を救出に向かう姿、シャルネ殿下に二人の結婚を認めてもらうまでの森での生活なども、何とも心暖かくまた微笑ましいエピソードだ。
Andそして海蛇島のシーンでは「リボンの騎士」全バージョンを通じても唯一、極めてストレートにサファイヤがフランツに対して愛と想いをぶつける姿が見られる。「やっぱりいいよなー、サファイヤって…」 -そう思わずにはいられない。

■サファイヤの哀しい歌声
4母を救けに来た海蛇島…その母の姿が全く見当たらないために悲しみにくれるサファイヤが吟遊詩人の姿で歌うシーンは圧巻!フランツも海鳥たちも人魚たちも、それどころか海の波も、さらには空の月までも、海蛇島に響くその哀しい歌声にいたたまれず涙するのである。

♪♪♪

私の所有する「少女クラブ版」は以下の3バージョン。単行本化、全集化、別冊付録として発行、新版発行といった機会あるごとに改訂を重ねる手塚治虫の作品であるから、これ以外にもっとバージョンが存在する可能性は多分にある。

1. 現行電子書籍版
V0000168535_0001「手塚治虫文庫全集 リボンの騎士 -少女クラブ版-」の電子書籍版。
連載当時のものと比較すると、かなりの改訂がみられる。





2. 完全復刻版「リボンの騎士(少女クラブ版)」全3巻

Photo_3少女クラブ版初の単行本である「講談社の漫画文庫」を復刻したもの。
ハードカバーによる単行本であり、ラストシーンはサファイヤとフランツの花嫁&花婿姿で締めくくられている。

3. リボンの騎士 少女クラブ カラー完全版

214687nc少女クラブ連載当時のバージョンを、そのままの色彩で完全復刻。ジェネオン・エンタテイメントが2004年に限定発行したものを、2012年に復刊ドットコムが新装復刊、全1巻。





注目すべきは「3. リボンの騎士 少女クラブ カラー完全版」である。
手塚が「手塚治虫文庫全集版」のあとがきにて「『少女クラブ版』は三色刷りでしたから色彩の冒険が色々できたのですが…」と述べているように、少女クラブ連載当時のままというこのバージョンは非常にカラフルで絵画的な魅力も満載である。
Photo_2この華麗さが当時の少女たちの心をときめかせたであろうことは想像に難くない。

また手塚は、「もうお話が大団円に来てしまったのに、読者の要望でさらにのばさなければならなくなりました。しかたなく『人魚姫』のお話をくっつけたりしました。」ともコメントしている。
連載時バージョンでは、人魚姫はフランツに強い恋心を抱いており人間になる薬を飲んでサファイヤとフランツの森の生活にまで同行するというエピソードが最終盤にあり、これを指したコメントである。ストーリーとしてはフランツのサファイヤへの想いは全く揺らがず、人魚姫の運命はアンデルセンの原典と同じ結末に向かう。尚、シャルネ殿下は人魚姫に魅了され、彼女を追って海の底へと消えていくことになる。
-以上のくだりは単行本化された時点でばっさりカットされている。(おそらく現行バージョンのみ読まれた方は手塚のコメントに「?」と感じられたことであろう。)

この連載時バージョンには、その後手塚が実施した改訂において他にもたくさんカットされた部分が存在している。確かに最後の「人魚姫」のエピソードはカットするのが妥当と感じられるものだが、その他はカットすることでテンポは良くなったものの、繋がりがやや不自然なものもある。また、カットする前の方がストーリー展開の背景やキャラクターの心情描写がスムーズに伝わってくるものも少なくない。
(カットする前にはフランツがサファイヤに正式なプロポーズをする場面も…。)
私としては、現行バージョンと連載時バージョンの両方を読むことで、この「少女クラブ版」を、ひいては「なかよし版」を含めた「リボンの騎士」という作品全体をより一層楽しむことができるのではないか、と思う。

♪♪♪

ところで、”圧巻”と前述したサファイヤの哀しい歌声のシーンは、単行本化された際に何コマかカットし短縮されている。しかし、現行バージョンでは連載時の状態に戻された。(極めて妥当な判断と思う。)
作者・手塚治虫も悩むところだったのだろう。

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