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2016年7月11日 (月)

リボンの騎士 (手塚 治虫) -第2場 サファイア

2_2「リボンの騎士」は少女漫画らしく恋愛をストーリーの柱に据えながら、波瀾万丈かつ破綻のない物語構成、中世ヨーロッパの王国という舞台設定、男女の二面性を具備する主人公という”非日常”の上手い取込み、神様も悪魔も登場する(=魔法や呪い、神の奇跡が存在する)世界観の多様性、個性の立ったキャラクター、作品を貫く上品さ・美意識…と傑作にふさわしい美点に満ちている。

2_1_2しかし、この作品の魅力は何といってもヒロイン -即ちサファイアに尽きると言い切って良いだろう。
正義感が強く剣と乗馬の達人である勇猛な王子と、美麗で優しさと恥じらいにあふれる王女とを行き来する主人公サファイアは、その二面の”ギャップ”が読者を惹きつけ、愛すべきキャラクターとして、誰もがその幸せを願わずにはいられぬように作りこまれている。

1「リボンの騎士」は少女漫画として生まれた。
しかし、かくも男の保護本能をかき立てるキャラクターが登場するのだから、この作品は男性にとっても魅力に溢れているはずだ。従って”少女漫画の名作”を超越した、更に普遍的な傑作と捉えるのが適切である。



Photoサファイアの魅力の第一はもちろんその美麗さ-そして美貌やスラリとしたスタイル以上に手塚が作品中で強調しているのは、その瞳(め)の美しさと深遠さなのだ。
王女、という属性からして当然なのだが常に上品さを湛えた美しさが表現されていると同時に、サファイアはディズニーの影響を受けながらディズニーにはないセクシーさが微かに香ると謂われる手塚のタッチで描かれているのである。

※コージィ城倉「チェイサー」1巻p83-84参照

サファイアのヴィジュアル面でのアイドル化は、多彩なコマ割りやアップを多用しより一層映画的に変貌した「なかよし版」で顕著。そこにはサファイアの魅力が強く放射されたカットが溢れており、存分に堪能できよう。
(一方コマが小さくヴィジュアル面でのインパクトは「なかよし版」に及ばずも、最もロマンティックなシーンにサファイアを描きこんでいるのは最初の「少女クラブ版」である。それぞれが魅力を発している。)
82_3






























8_1_2サファイアの更なる魅力は、真っ直ぐな純粋さと実に分け隔てのない優しさ、一途だが決して嫉妬を抱かぬ心にある。そしてそれが実際の仕草や行動に現れる様子が「リボンの騎士」に描かれている。
高慢さを全く感じさせない気品と、慈愛に満ちた柔らかな気遣い、愛する人々への深く暖かくひたむきな想い、勤勉にして献身的な気性と湧きいずる活発さ、それでいて時に見せる可愛らしい恥じらい…魅力がこぼれんばかりに詰まった、文字通り愛すべきキャラクターなのである。

♪♪♪

7_1_2アニメ版はともかく、手塚の漫画作品「リボンの騎士」に現れたサファイアは徹頭徹尾”女性”である。フランツに対する愛に目覚める前からだ。ストーリー上、女の子の心を奪われてしまう場面は確かにあるけれど、そこでも描かれているのは”女の子の心を奪われてしまった女の子”だ。


9サファイアを(もちろん精神的にだが)男性・女性を行き来する具有者と捉えるむきがあるが、手塚は全くそのように描いてはいない。
チンクの悪戯で入ってしまった”男の子の心”は、男として振る舞わねばならなかったり、男としての資質を示さなければならなくなったサファイアという女の子を力強く後押ししたに過ぎない。
サファイアはあくまで自分は女性として生まれ育ち、その中で王子を演じてきたと自覚しているのだから。





4加えて前述のように王子としてのサファイアとのギャップが堪らなく訴求する。”亜麻色の髪の乙女”に扮する扮しないに拘らず、いつだって心の底から優しくて乙女らしく夢想したり、涙にくれたり、頬を染めて恥らったり、フランツに泣きすがったり-。
か弱くいじらしい姿が、いたく男心を衝くのである。

♪♪♪

Photo_2しかし、手塚治虫という漫画家はつくづく凄いと思う。
「少女クラブ版」の小さなコマのサファイアすら、細かい絵なのにいつ何時も美しさを感じさせずにはいないように描かれている。また、どのバージョンを見てもそれぞれの場面、それぞれの絵にキャラクターの心情も投影するニュアンスが表現されている。これが「漫画記号論」を口にした人の描くものだろうか。表現力は一般的な”漫画”のそれを遥かに超えている。

Happy_2左画像は「なかよし版」連載時の最終回で扉絵に使用されたものだが、漸く結ばれたサファイアとフランツの何とも云えない幸福感が伝わってくる。

フランツの穏やかで慈しみに満ちた様子も実に良いし、やっとフランツに甘えられまた安堵にあふれつつも「これが私の素敵な王子さまなの」という心の声まで聞こえてきそうな、サファイアの絶妙な表情を”漫画”で表現しているのが素晴らしい。



♪♪♪

-Appendix 手塚”スターシステム”とサファイア-

手塚治虫が採用していたスターシステムにより、サファイアは映画女優のごとく他作品に”出演”している。左画像にある通り、サファイアはこれもまた手塚の代表作である「ブラック・ジャック」に、6つの異なる役柄で登場しているのだ。
Bj登場作品の中に、保育士を演じるものがある。命を賭けて子供を守るという素晴らしい役柄ながら、炎に包まれ真っ黒に焼け死んでしまうサファイアの最期のシーンには、熱烈なファンとして居たたまれないものがあった。作品への感情移入が強い私には、”スターシステム”はやっぱりどうしてもしっくりこないのだ…。

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